<PCクエストノベル(1人)>
龍の爪 〜ヤーカラの隠れ里〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【0556 / スパイク・ブルースカイズ(スパイク) / 便利屋】
【その他登場人物】
【里長 / ヤーカラの隠れ里の長】
【ジャイロ / ヤーカラの隠れ里の住人】
【リュカス / ヤーカラの隠れ里の住人】
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●序章
聖獣界ソーン。
様々な世界から、様々な異訪者や色々なものが集まる国。そして、雑多な知識や技術、文化が入り混じり共存する国。
そして、聖都エルザード。
聖獣界ソーンにおいて、最も特異な都にして世界の中心。36の聖獣によって守護されている地域の中の一つ、ユニコーン地域の中に、エルザードはあった。
そのエルザードから北東に向かい、海沿いに連なる尾根を伝っていくと、ヤーカラの隠れ里があると、噂されていた。
スパイク:「本当にあったんだな‥‥」
ヤーカラの隠れ里は龍人の村。龍に変身できる者達が隠れ住む、村。彼ら龍人の血を飲んだ者は強大なる力を得ると言われている。
人の欲とは尽きぬもの。容易く力が手に入るのならば、どのような残虐な手段を以ってでも、目的を達するだろう。
彼らを狙う者が絶える事はなく、龍人達は山奥にて外部からの交流を遮断していた。それが、隠れ里と言われ、存在の真偽が確信されなかった所以(ゆえん)。
●一章 龍人文化
スパイクが里の中に入ると、村人達は家々に引き篭もって、遠巻きに彼を監視する。久々の異邦人だ。警戒するのも仕方がない。
スパイク:「別に俺はあんたらをどうしよう、とか、そういう目的で来たんじゃない!」
そう大声で説明すると、一人の老人が姿をスパイクの前に現した。
龍人の村、というので龍のような外見をもった者かと思っていたのだが、どう見ても普通の人々とは変わりない姿。
ゆっくりと老人はスパイクの傍まで来ると、口を開いた。
老人:「そうは言っても、人間とは貪欲なもの。易々と信用できんものじゃ。客人よ、立ち去るがいい」
スパイク:「待ってくれ! 俺は‥‥あんた達の、龍人の文化を学びに来たんだ」
老人:「ほぅ‥‥珍しいものじゃな」
スパイクの真摯な態度と、心からの訴えに目を細める、老人。
老人:「それならば、儂らが不安がる必要はないじゃろ。儂はこのヤーカラの村長じゃ」
スパイク:「俺はスパイク。スパイク・ブルースカイズだ」
村長:「ところで、お主は儂らの文化の何を学びたいんじゃね?」
スパイク:「剣術や格闘戦闘の技‥‥戦いの技を学びたいんだ」
村長:「戦の為の技かのぅ‥‥」
スパイク:「違うっ! 俺は‥‥俺は、自分の剣道をより高めたいんだ。その為なら、俺はどんな努力だって惜しまない」
村長:「そうか‥‥。若いもんは、力だけを求め、その力に溺れやすいが、お主はちと違うようじゃの」
そう言うと、村長は、遠巻きに様子を見ていた村人達に向かって、名を呼ぶ。
村長:「ジャイロ、リュカス」
頬傷のある男:「はい、村長様」
逞しい体躯の男:「なんだよ、じじぃ」
速攻で村長の持っていた杖が、逞しい体躯の男の頭に飛んだ。
逞しい体躯の男:「‥‥いってぇ‥‥。何すんだよっ、くたばり損ない!」
村長:「相変わらず口が悪い奴じゃのぅ‥‥リュカス」
リュカス:「うっせーなーっ!」
頬傷のある男:「まぁまぁ、その辺にして――客人が呆れていますよ」
村長:「ぜぇぜぇ‥‥そうじゃな」
リュカス:「はぁはぁ‥‥」
頬傷のある男:「私の名はジャイロと申します」
スパイク:「あ‥‥あぁ。俺はスパイクだ」
ジャイロ:「で、村長。どういったご用件で?」
村長:「その者にジャイロは剣術を、リュカスは格闘術を教えてやって欲しいんじゃ」
スパイク:「よろしく頼む」
優しく微笑んで、ジャイロは「こちらこそ」と、スパイクに握手の手を差し出した。
リュカスの方はと言うと、面白くなさげに「けっ」と、そっぽを向いていたが、村長にまたしても杖で殴られ、渋々とぶっきらぼうに握手した。
●二章 レッスン
まずは、格闘術から教えてもらう事にした。何事も体力がものを言う為、基礎体力の特訓を行う。
リュカス:「ほらほら、もう息があがってるぞ」
スパイク:「まっ‥‥まだまだっ!」
どこから持ち出してきたのか、鉛が詰まった重い装備をさせられた、スパイク。そして、そのままヤーカラの周辺の険しい山道を走らされる。
やっとの事で里に戻った時には日が暮れかけ、全身に疲労感が襲う。身体中から流れた汗で衣服が、重くなったような気がするが、元々重い装備をさせられている為、正確にはわからない。
リュカス:「じゃぁ、まだ動けるな。これから格闘術をやるぞ」
疲れた身体を鞭打って、スパイクは軽くリュカスと組み手を取る。
相変わらずぶっきらぼうな物言いだが、相手の攻撃の流し方、視線によるフェイントなど、様々な事を正確にわかりやすく説明してくれた。
スパイク:「なるほど‥‥。こうすればいいんだな?」
リュカス:「そうそう。あんた、飲み込みいいなっ」
スパイク:「いや、それほどでもないぜ」
照れて頭を掻く、スパイク。
そこへ、タオルを持ったジャイロが二人の前に姿を現した。
ジャイロ:「終わりましたか? とりあえずはこれで汗を拭くといいですよ」
清潔なタオルをスパイクに手渡す、ジャイロ。
自分を指差して「俺には?」と尋ねるリュカスには「あなたはいつも不潔そうだからいいでしょう?」と、言うと、ジャイロは微笑を浮かべてスパイクに言う。
ジャイロ:「それよりも驚きましたよ。てっきり早々と根を上げるかと。絶対無理だと思ってました」
スパイク:「無理なんかじゃない。こういうのが好みなんだよ、俺は」
ぶすっ、とした表情を見せる、スパイク。
ジャイロ:「では、次の私のレッスンも耐えれますか?」
からかうような物言いに、スパイクは挑戦するような目つきで答える。
だが、剣を抜き構えようとするスパイクの腕を、リュカスが押さえた。
スパイク:「何するんだ!?」
リュカス:「やめとけ。今は身体の方が疲れてもたんぞ。そのやる気は認めるがな」
ニヤッと笑うと、スパイクの肩を軽く叩く。
確かに、ハードな基礎体力の訓練の後、格闘術の訓練をしたので身体の感覚が何となく鈍い。格闘術の訓練は派手な動きをしなかったものの、神経を集中して取り組んでいたので、疲れていない、と言えば、嘘になる。
これが本当の戦いなどであれば、気にせず真っ向から組みかかるのだが、自分はこのヤーカラに住む者達に技術を教えて貰う為に来たのだ。
無理をしすぎて、肝心の訓練ができなくて身につかなければ意味がない。
スパイク:「‥‥じゃぁ、明日、だな」
ジャイロ:「そうですね。でも、今晩は身体を使った訓練ではなく、剣術の論理をしましょう。それなら大丈夫ですよね?」
スパイク:「あぁ、頼む」
ジャイロ:「まずは、その汗を湯につかって流すといいですよ」
既に風呂は沸かしていると言う。
早速と向かう、スパイク。
●三章 蒼玉の爪を持つ者・リュオン
風呂から出て、夕食を摂った後にジャイロと向かい合って剣術の事について学ぶ。
授業が一段落したところで、スパイクは心に秘めていた事を思い切って尋ねてみた。同じ剣の道を歩む者。ジャイロなら何か知ってるだろうと踏んで。
スパイク:「なぁ‥‥蒼玉の爪を持つ者・リュオンって知っているか?」
ジャイロ:「リュオン‥‥? 何故、彼の事を尋ねるのですか?」
スパイク:「‥‥俺は、リュオンに逢ってみたいんだ」
ジャイロ:「そうですか。‥‥そんなに彼に逢いたいのであれば、己の腕をもっと磨く事ですね」
思わせぶりな彼の様子に、ハッ、と、顔を凝視する、スパイク。
スパイク:「どういう事なんだっ!?」
ジャイロ:「噂で聞いた事ですが‥‥。強い者と戦う事を心待ちにしている、と、聞きましたので」
スパイク:「そうか‥‥」
ジャイロ:「まぁ、とりあえず、今日はここまでにしておきましょう。夜もかなり更けてきましたしね」
ジャイロ:「もぅ、こんな時間か」
今まで熱心に取り組んでいたが、少しでも気を緩めると眠気が襲ってくる。
スパイクは用意された寝床につくと、即座に眠りの世界へと誘われた。
●終章
幾数日が経って。
己が満足いく程に技術を教えてもらい、聖都へ戻る日が来た。
スパイク:「じゃぁ、俺は戻るな」
リュカス:「おぅ、気をつけて帰れよ。道に迷わないようにな」
スパイク:「俺はそんな子供じゃないっ」
笑い合いながら、別れを惜しんでいると、スパイクはジャイロの方に向き直った。
スパイク:「ジャイロも‥‥ありがとう」
ジャイロ:「いえいえ、どういたしまして」
スパイク:「なぁ、これ、もらっていいかな?」
取り出したのは、ペーパーナイフ。
質素な感じがするが、見事な龍の装飾がある。刃にあたる光の反射が綺麗で、何となく気に入って手の上で転がしていると、つい、ここまで持って来てしまった。
ジャイロ:「あぁ、別に構わないですよ。そんなのでいいのですか」
スパイク:「何となく、これが気に入ったんだ」
里の者が見送るのに手を振って応え、スパイクは来た道を引き返した。来た時と同じように険しい山道であったが、その時と比べると、幾分か足が弾んでいるように思えた。
後日、スパイクの胸元にはペーパーナイフを鎖に繋げたお守りが、太陽の光に眩く反射していた。
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