<PCクエストノベル(1人)>


天翔ける聖獣 楽園の歌姫 〜一角獣の窟〜

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【冒険者一覧】
【 1194 / ロイラ・レイラ・ルウ / 歌姫 】

【その他の登場人物】
【 ジェダ / 村人 】
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□■□ プロローグ
 その日は朝から快晴だった。
 聴く者がいなくとも歌い出したくなるような陽気だ。
 青い空の下、風の渡る草原に一人のこどもが横たわっている。
 少女の名はロイラ・レイラ・ルウ。
 琥珀色の髪に常磐の瞳、白い肌を持った十五歳の小さな歌姫だ。
 細身の体には色鮮やかな伝統衣装をまとっている。服の端々に散りばめられた細やかな刺繍が好きで、ロイラはいつも村の衣装を愛用していた。
 草の香りを胸一杯に吸い込みながら、ロイラはじっと流れる雲を見つめていた。
 ふと、呼ぶ声に体を起こす。
 通りがかりの馬車の上から、男が手を振っていた。
 ジェダという名の壮齢の男で、ロイラの村の知り合いだ。
 ロイラが御者台に登ると、男が手綱を引いてのんびりと馬を歩かせる。
 馬車がジェダの仕事場に着くまで、ロイラが御者台の上で話し相手になるのが二人の間での暗黙の了解だった。情報交換という名目の暇潰しだ。
 話すのは噂話や他愛ない世間話。

ジェダ:「昨日面白い話を聞いたよ。<一角獣の窟>でユニコーンを見たって奴が居るらしい」

 男の言葉にロイラは驚いて顔を上げる。
 ソーンに住む者は誰もが聖獣の恩恵を受けている。できることならロイラも聖獣に会ってみたい。

ロイラ:「<一角獣の窟>……。それ、どこにあるんですか?」
ジェダ:「エルフ族の集落がある場所を知ってるかい? その近くにある自然窟の地下には、湖があるんだ」
ロイラ:「洞窟の奥に湖があるんですか?」
ジェダ:「そうさ。ユニコーンはその湖に現れるそうだ。もっとも、今まで誰もその姿を確認した奴はいない。昨日言っていた奴もきっと酒に酔って……って、ロイラちゃん!」

 ジェダがセリフを言い終えるよりも早く、ロイラは御者台から飛び降りていた。

ロイラ:「おじさま、私ユニコーンに会いに行ってきます!」

 大きく手を振りながらロイラは馬車から遠ざかっていく。彼女が向かうのはエルフの集落があるという方角だ。
 ユニコーンに会いたいという想いだけを胸に、少女は草原を駆け抜けた。



□■□ Scene1:洞窟 〜闇と疑心〜
 目的の洞窟らしい場所を見つけたのは良いものの、衝動的に訪れていたロイラはランプさえ持っていない。
 ここまで馬に乗せてくれた旅人にも、備えなしで<一角獣の窟>に行くのは危ないからやめておけと言われた。
 しかし、ここまで来てしまったからには引き返すことはできない。
 洞窟内の空気はひんやりと冷たい。明かりも持たずに奥へ進むのは正直恐ろしかったが、一目でいいからユニコーンに会いたいと思う気持ちに変わりはない。
 どれくらい歩いただろうか。奥へ進むにつれて闇はどんどん深くなっていく。
 最初は目が慣れれば平気だろうと思っていたロイラだったが、さすがに先の見えない闇に不安を覚え始めた。

ロイラ:「でも、もう少し歩いたら湖に着くかもしれない」

 何度も思い直し、壁に手をつきながら奥へと進む。
 方向も、時間の感覚もなくなっていく中、ロイラはひたすらユニコーンの姿を求めて歩を進めた。

――本当にユニコーンはこの洞窟にいるのだろうか?

 その存在を疑った瞬間、ロイラの足下から地面が消えた。



□■□ Scene2:夢 〜光の呼び声〜
 最初、何が起こったのかロイラにはわからなかった。
 打ち付けた腰を押さえ体を起こす。
 少しして目をこらすと、そこが広がりのある空間で、段差のある場所から足場を失って落ちたことがわかった。
 落ちた時に足をくじいたのだろう。魔法を使って傷は治したが、もはや先に進む気力はない。どうやって帰ろうかという不安よりも、ユニコーンに会えないという現実の方がロイラには辛かった。

ロイラ:「旅人さんに言われた時、引き返しておけば良かった……」

 弱音と共に、ぽつりぽつりと歌を口ずさむ。
 何か歌っていないとこのまま気が滅入ってしまいそうだ。ロイラを包む暗闇が重くのしかかってくる。気のせいか何だか息苦しい。
 帰りのことを考えていなかった。このまま帰らなかったらきっと村の皆が心配する。
 そうして膝を抱え、目を閉じる。
 疲れが出たのだろう。ロイラの意識はそのまま闇に沈んだ。


――夢の中、ロイラの目の前に純白の馬が立っていた。
――それは明らかにユニコーンなのだが、ロイラは聖獣との出会いを喜ぶでもなく、不思議と心は落ち着いていた。

ユニコーン:(迷えし乙女よ)

――頭の中に直接声が響いた。ロイラにはそれがユニコーンの声なのだとわかる。

ユニコーン:(こちらへ……)

――歩き出すユニコーンを、ロイラが追う。
――明かりは持っていないはずだったが、洞窟の中は不思議と暗くなかった。
――ああ、ユニコーンがいるから光に満ちているのかと気付いた瞬間、ロイラは目を覚ました。


 しっかりと意識を呼び戻し、自分のいる場所を確認する。
 眠る前と寸分違わない。一条の光さえ届かない闇の中だ。
 夢から覚め、なおも声は聞こえてくる。
 最初は幻聴かと思っていたが、その声はロイラに向かってはっきり呼びかけていた。
 ロイラは立ち上がった。
 明かりはない。しかし行くべき方向はわかる。声が教えてくれる。
 足の痛みも忘れ、ロイラは走り出していた。
 やがて、行く手に光が見え始める。
 この先に夢で見た白馬がいるのだと、ロイラは信じて疑わなかった。



□■□ Scene3:地底湖 〜地下の楽園〜
 道の先には信じられない景色が広がっていた。
 洞窟の中だというのに湖の周りは光と色彩に溢れている。
 天井を覆っている根はここまで届くほどだ。相当に立派な木のものに違いない。根と根の間から、奇跡のように幾筋かの光が差しこんでいる。その光が水と植物によって増殖され、空間全体に柔らかく満ちていた。
 何かの拍子で運ばれた種が根付き、わずかな光を糧に生きているのだろう。草や木はもちろん、たくさんの花々が地底に彩りを添えている。鳥がさえずり、蝶が舞うそこは、さながら地下に隠された楽園のようだった。
 その水辺に、純白の馬が佇んでいる。夢で見た姿そのものだ。
 ソーンを守るという三十六聖獣の一体。ユニコーン。
 神々しいまでに美しい純白のたてがみに、ロイラは思わず目を奪われていた。
 ロイラの姿を認め、ユニコーンが近づく。
 恐る恐る手を伸ばすと、聖獣は目を閉じてロイラの頬に顔をすり寄せた。
 たとえようもない感動がロイラの胸に溢れてくる。
 このユニコーンがソーンを守っている聖獣かどうかはわからない。
 だが、人の前には滅多に姿を現さないとされるユニコーンが、今自分の側にこうしている。
 ふいに、ロイラの口から自然と歌がこぼれた。わずかに響く水音や鳥の羽音以外に、ロイラの歌声を妨げるものは何もない。
 歌姫はただ切々と想いを歌に託していた。言葉にできない感情も、ロイラは歌うことで表現することができる。
 ユニコーンはロイラの側に膝を折り、その歌に耳を傾けた。
 少女の細い声は小さいながらも良く響いた。
 そうして、ロイラの歌は大気に溶けて楽園の動植物を癒す。

ユニコーン:(心地良い響きだ)

 ロイラが歌い終わると、ユニコーンは満足そうに頭をもたげた。
 光の注ぐ天井を見上げて目を細める。
 楽園に注いでいた光は、いつの間にか月明かりに変わっていた。
 夢中になって何曲も歌い続けていたようだ。

ユニコーン:(地上は既に闇が跳梁する頃合い。住処まで送ろう)

 ロイラはユニコーンにうながされ、その背にまたがる。
 聖獣は落ちないようにしっかりたてがみを掴んでいろと言うと、力強く地面を蹴って宙へと舞い上がった。
 そのまま天井の根にぶつかるのではと思うロイラの心配をよそに、ユニコーンは首をまっすぐに伸ばして勢いを上げた。
 根の隙間を縫って地上へ踊り出し、<一角獣の窟>上にある森を更に上へと駆け上る。
 洞窟を離れ、昼間旅人に乗せてもらった道を逆行する。冷たい空気はロイラの頬を切り裂かんばかりだ。眼下の景色がとてつもない勢いで流れていく。
 ユニコーンの背から見下ろす月明かりの世界は、地下の楽園と同じくらいに幻想的なものだった。
 ロイラはぎこちない手つきで自分の頬をつねる。

ロイラ:「ちゃんと痛い……」

 村の上空に着くまで気が気ではなかった。目が覚めて、「実は今までのことは全部夢でした」なんて、まっぴらごめんだ。
 ロイラには、ちかちかと瞬く星がそんな自分を笑っているように思えてならなかった。



□■□ エピローグ
 村へ至る道の途中、ロイラはジェダの姿を見つけた。
 ユニコーンに地上へ降ろしてくれるよう頼む。

ロイラ:「おじさま!」

 ジェダは聖獣の背から飛び降りるロイラを見つけ、駆け寄ってくる。

ジェダ:「良かった、無事だったのか……!」

 傍らに佇む聖獣とロイラを見比べた後、ジェダは少女を抱きしめた。
 日が暮れてからずっとロイラを探していたと言う。
 歌姫が戻らないとあって、村ではちょっとした騒ぎになっているらしい。

ジェダ:「さぁ一緒に村へ戻ろう。ただし、<一角獣の窟>まで行ったってことは内緒でね。あんな所へ女の子一人で行かせただなんて知れたら、俺まで一緒になって説教くらっちまう」

 ユニコーンは二人の様子を見届けると、出会った時のようにロイラに頬をすり寄せた。

ユニコーン:(乙女。次は窟の入り口で歌うがいい。迷わぬよう迎えに行こう)

 そうしてひと声いななくと、来た時と同じように大地を蹴って宙へ舞った。

ジェダ:「本当にユニコーンがいたのか……」

 感慨深げに呟く男に向かって、ロイラは人差し指を口に当てた。

ロイラ:「今日のことは二人だけのヒミツですよ」
ジェダ:「酒に酔っても誰にも喋らないと誓うよ」

 星空を切り裂くように駆けていく白い聖獣を見送りながら、ロイラはジェダと微笑みを交わした。


 Fin.


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 夢と幻を往く少女に聖獣の加護がありますように。

 西荻悠 拝