<PCクエストノベル(1人)>


失われたもの〜封魔剣の鞘

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【冒険者一覧】
【 1072 / 三月 あまね / エルザート王立魔法学院付属学園生徒 】

【助力探求者】
【 ヴァルス・ダラディオン / 剣闘士 】

【その他登場人物】
【 オウル / 村の男 】
【 老婆 / 村の住人 】
【 男 / 船頭 】
【 ザナト / オウルの兄 】
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 聖都エルザード・賢者の館。そこには、精霊界ソーンの多様な情報が集められている。
 しかし、所詮は人の為す業。常に限界はあり、だからこそ探求者が募られるのだ。――そして。
 三月が再びこの館を訪れたのは、この世界の数多の謎の1つ――『封魔剣ヴァングラム』に関わる謎を解き明かす、鍵を求めて。
 だが、ソーンの歴史書や風物誌には、封魔剣についての目ぼしい記述は無い。糸口は、己が見聞きした中にこそある。
 三月の見出した封魔剣には‥‥鞘がなかった。
 鞘を作ってはくれないだろうか。――そう、エルザードの王立魔法学院に協力を願った時、即時には承諾されなかった。あまりに難しい‥‥というのが理由だ。
 剣の寸法は、この際、さしたる問題ではないと言っておこう。詳細が知られておらず、『封魔』を冠した『使い手を求める』剣を収めるには、それなりの魔法を施さねばならない。だが、収める対象が強力なものであればあるほど、『ハズレ』た魔法を用いては意味が無くなる。
 三月は今一度、思い出せる限りの詳細の報告を要求された。そして、語り継がれてきた伝承と付き合わせられ、学院では議論が重ねられた。
 再び、三月が封魔剣の元へ行ける手はずが整ったのは、それから実にひと月半後の事である。

三月:「はぁ‥‥」
 溜息をついた三月の手には、丁寧に布で包まれたもの。ようやく作られた鞘だ。
 そして、彼女の隣りには、エルザード最強の剣闘士と謳われるヴァルス・ダラディオンがいた。
ヴァルス:「どうした? 溜息などついて」
三月:「いえ。長かったと思いましたら‥‥つい」
ヴァルス:「随分、早い方だろう。年単位で待たされても文句は言えぬ代物だと思うが?」
三月:「おそらく‥‥そうなのだろう」
 確かに。早い方‥‥いや、可能な限りの最速の仕上げだったろう。それでも、逸る三月の心は、この日を一日千秋の思いで待っていたのだ。
 時を、浪費してはいけないような気がした。
 あの日――以前、封魔剣に関わった時、森の中では時間すらも歪められていた。無為な時間が過ぎてゆくだけ、そこで壊れる何かがあるように思える。
 だから急ぎたいのだと言うと、ヴァルスは「ふむ‥‥」と考える仕草で頷いた。

 船着場に着くと、以前と同じ船頭の男が出迎えてくれる。
船頭:「また、あそこに出かけるのか? 嬢ちゃんも物好きだなぁ‥‥」
 年頃の娘が3日も帰ってこなかったのは、とても心配したらしかった。自分の娘でもないのに、どこか困ったように言う男に三月は苦笑する。
三月:「以前は大変世話になった」
 深々と頭を下げると、「いやいや‥‥」と首を振る。
三月:「今日はヴァルス様とご一緒する事になった。また、よろしくお願いする」
船頭:「剣士様が一緒か。まあ、少しは安心できようってもんさ」
 などと呟きながら、男は舟を進める。
 川の流れは緩やかに流れる。川面がきつい陽射しを反射して、三月たちは眩しさに目を細めた。白亜の塔を行き過ぎると、そろそろ目的地に近い岸が見える。
船頭:「気を付けて言って来い。剣士様、どうかよろしくな」
ヴァルス:「ああ」
 彼は気負う様子もなく頷く。安請け合いを、するだけの実力があるのは承知している。対して、自分が『嬢ちゃん』の評価から脱出できるのは、まだ先だろうか。



 村は、以前と同じようにひっそりとある。細々とした営みが、草木に埋もれてしまうのを辛うじて防いでいる在りようだった。
三月:「オウル様‥‥」
 竈の火の気配のある家。その裏庭に回ると、小さな菜園で夏野菜を収穫しているオウルの姿があった。
オウル:「‥‥っ?!」
 驚いた表情になるのは予測していた。
三月:「驚かせてしまったか?」
オウル:「どうして‥‥」
 来たのか、とまでは聞かなかった。目的が何なのか、彼にはもう分かっていたのだろう。彼の目が、つと、同行者のヴァルスを見やる。
三月:「封魔剣の、鞘の事を伺いたい」
オウル:「‥‥」
 ただ、野菜を収めた籠を握り締めるだけの彼を、三月はじっと見詰めた。
三月:「あのままで、良いとは思っていないのだろう? わらわとて同じ。魔のものごと、封じてしまうべきではないのかと‥‥考えている」
オウル:「出来ると思っているのか? 今まで誰も、為した者がいないのに」
三月:「それでも。誰かがやらねば剣はあのまま‥‥」
 封魔剣を抱えていた『彼』が魔物には見えなかった。それは単に勘でしかないけれど、そんな風には見えなかった。三月があの場に来た事を、目の前のオウルと同じく、どこか悲しんでいたようにすら見えた。
 とり憑かれて魔物になる事もなく、ただ、剣を抱えて。まるで、そこにある何かを何かを抑えようとするかのように――。
三月:「彼は、誰‥‥?」
オウル:「あれは‥‥俺の‥‥、兄貴だ。だから、婆さんはここを離れたがらねぇ‥‥」
三月:「兄上‥‥」
 驚きを隠せず呟く。どう見ても、オウルの方が20は年上に見えたから。
オウル:「どうしてあんな事になっちまったのか分からねぇ。兄貴はザナトと言って、俺と森に入ったんだ。あの剣の所為で村が寂れて行っちまったからな。‥‥兄貴は気の強さは人一倍だったが、かといって、あんたみたいにさ、魔法なんてモンは使えなかった。なのに‥‥」
 剣を手にして以後、話し方もおかしいのだ、とオウルは言った。そして自分だけが森を脱出できたものの、その時過ぎ去った日々は3日どころではない。5年の歳月が経っていた。そうして、オウルの身体に残された、人狼の深い爪痕を見せられた。
三月:「だから、『戻れただけでも幸運だ』と言ったのか‥‥」
 ただの感想ではなく、彼自身が深く思う言葉として。
オウル:「それでも、あんたは行くって言うんだろ?」
三月:「ええ。あれがオウル様の兄上だと言うのなら、助けられる可能性だってある。それを見過ごす事は出来ない」
 三月はキッパリと言った。
三月:「だから。もし鞘の事を知っているなら教えて頂けないだろうか?」
オウル:「‥‥鞘はもうない、と思う」
 ザナトとオウルは人狼達に追われ、惑い逃げる間に武器を取り落とし、封魔剣の元へ辿り着いたのだ。剣を抜いたのは、言うまでもなく兄のザナト。途端に鞘は鳥のような魔物に変じ、驚いたザナトがそれを叩き斬ってしまったのだという。
 実際には振り回した剣が、たまたま当たってしまったに過ぎないとしても。以後、鞘が影も形もなくなってしまったのは変わらない事実だった。
三月:「やはり、これが役に立つだろうか‥‥?」
 手の中にあるものを、彼女は今一度きゅっと握り締める。
オウル:「幸運を祈ってるよ‥‥」
 見つめてくる瞳に頷き返すと、三月は村の奥の森へと向かった。

 話し方が変わったというオウルの兄。彼は、魔物に『支配されかかっている』のが正しいのかもしれない。あの場所から――封魔剣から逃れる事も出来ず、魔と化す事も出来ず‥‥ただひたすらに、やって来る者達が人狼に変じる様を見つめるしかない。
 思いを馳せながら森を進んでいると、ヴァルスが鋭い声を上げた。
ヴァルス:「来るぞ!」
 剣の鞘走りの間に、三月は風の精霊を呼ぶ。紡ぐ言の葉に魔力を乗せて――。
三月:「ヴァルス様っ シルフィード‥‥頼みますっ」
 ザッと木の葉を切り裂くのは風の刃。
 振り下ろされる腕を潜り抜けた三月の後ろで、骨を絶つ鈍い音が響く。
ヴァルス:「行け! 三月。ここは私が引き受けるっ!!」
 彼の剣技を見つめる余裕はない。
三月:「はいっ!」
 彼女は駆け抜けた。しかし、目指す大岩と『彼』が見えた途端、あの重圧が襲ってくる。息苦しさが眩暈を呼んだ。
 2度、同じ失敗をするつもりはない。
 人狼はヴァルス達が何とかしてくれる。それを信じ、三月は目を閉じると精神力を高める。包みを開けた鞘が、手にヒヤリと馴染んだ。
 重圧の中での精神統一は、これまで経験した事のない苦役だった。緊張の糸を、ブチブチと無遠慮に断ち切ろうとする何かとの戦い。目には見えぬ苦痛が三月を苛む。
 けれど――。
 ある瞬間、それがふっと軽くなった。目の前に1本の道が通じたような、感覚。とても危うい均衡の上に成り立った『道』。
 その先に、封魔剣がある。
 目を閉じたまま、三月はゆっくりと近付いた。
ザナト:「我に、手を、伸べるか‥‥」
三月:「わらわはその為に再びやって来た。わらわがお主の主となり、わらわの生涯をお主の鞘としてお主を納めよう。それでは不服か?」
 瞼を上げると、翡翠の双眸が目の前にあった。
 その腕に抱かれた剣の柄を握り、思い切って引き抜く。止める手は伸ばされなかった。
 刹那。ザナトの双眸は歪み、形を失ってゆこうとする。止まった時間が、急速に彼の上に経るように――。
三月:「‥‥っ?!」
 驚いている訳にはいかなかった。三月には再び、いや前以上の重圧が押し寄せてきたのだ。
三月:「く‥‥っ させないっ!」
 何かが自分の中に『入ってくる』ような気がする。
 三月はカッと目を見開くと、鞘に封魔剣を収める。最後の、刃の閃きを収めきるまで、彼女は瞬きもしなかった。


オウル:「本当に、やっちまうとは‥‥」
 封魔剣の魔力が封じられたせいか、三月が村に戻ったのは丸1日後でしかなかった。
 目の前で崩れ去ったザナトの姿を、三月は語る事が出来ず、ただ『消えてしまった』とだけ報せた。
 もとより、助かる事はないと思っていたのだろう。オウルは小さく頷いて、婆さんに知らせて来ると呟いた。
三月:「助けられず、すまなかった」
オウル:「いや。『あれ』から解放されただけで‥‥十分だ。この村にも、人を呼び戻せる‥‥」
 失われた時間と人々の絆を、これから彼らは埋めてゆくのだ。
 三月の手には、封魔剣ヴァングラム。
 封じた魔物を御する苦労は、また別の物語となるだろう‥‥。


●ライターより
 大変、遅くなりました。申し訳ありません。
 話し方、セリフを参考に前回と変えてみました。どうでしたでしょう??