<PCクエストノベル(2人)>


闇に潜む財宝〜貴石の谷・永遠の炎〜
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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【0812/シグルマ/戦士】
【0557/エルスィー・カレイド/駆け出し新聞記者】
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 聖獣界ソーンの東に、『貴石の谷』と呼ばれる場所がある。
 そこは常日頃から所々で有毒なガスを噴出し、地崩れが起きている危険な場所である。
 少しでも油断をすれば、命に関わる場所だ。
 その危険に溢れかえっている貴石の谷の最深部には、『永遠の炎』と呼ばれるその場所でしか取ることが出来ない魔法石が眠っている。その永遠の炎と呼ばれる赤い石は、長い時間をかけて太古の炎が凝縮した物で、その石の中心には炎が灯っていると言う。
 そして、その貴石の谷には永遠の炎以外にも、『宝石食い』と呼ばれる魔物が住み着いている。
 永遠の炎を手に入れるべく貴石の谷に向かった者は、その宝石食いの牙にかかって死ぬと言う。噂によっては屋根ほどの高さもある宝石喰いに喰われた、という話だ。
 
 
ソーンの城下を、小麦色の肌をした大柄な体つきの多腕族のシグルマはその永遠の炎がある貴石の谷に向かうために、その場所に必要な情報をかき集めている。特に宝石食いの情報には力を入れているようだ。
 だが、どの人に聞いても同じような情報ばかりが堂堂巡りを繰り返し、半ばイライラし始めているようだ。顔は自然と険しくなっている。
シグルマ:「どいつもこいつも同じような情報ばかりで、ちっとも集まる様子がねぇ。誰かもっと有力な情報を持ってる奴はいねぇのか…?」
エルスィー:「お――いッ!」
 人ごみを掻き分けるように走ってきたのは、今回シグルマと共に貴石の谷に向かうことになっている新米新聞記者のエルスィー・カレイド。眼鏡をかけた関西弁で話す16歳のエマーン人だ。
エルスィー:「いや〜、ここってホンマ凄い人ですなぁ。ま、それだけ情報も入りやすいっちゅうことなるんやろけどな」
 エルスィーは息を切らし、自分がやってきた方向を見つめながら独り言のように呟き、一呼吸入れてシグルマを見上げる。ずれた眼鏡を直し、目を見開いた。
 シグルマのその険しい表情に、心底驚いたようだ。
エルスィー:「何や? そんな怖い顔して…。何やおもろい情報手に入ったのとちゃいますの?」
シグルマ:「いや、まったくだ。同じ情報ばかりでちっとも集まらねぇ」
 シグルマはイライラしながらため息を一つ吐く。四本ある腕を器用に組み、考え込んでいるようだ。エルスィーはそんなシグルマを見て、パチンと指を弾いてみせる。
 これは、彼女の癖だ。
エルスィー:「そんなキミに朗報やで! さっき元工夫言う人に偶然会うたんですわ。ほしたら、色々有力な情報教えてくれましたで。中の構造のこと、宝石喰いのこと、そらもうたんまり収集できましたわ〜!」
 エルスィーは集めてきた情報を話し出す。
 貴石の谷は常にガスが噴出し、地形は脆く崩れやすい。魔物との戦闘やただ歩いているだけでも、天井の岩などが突然崩れて下敷きになって死んでしまう者も少なくはないと言う。命からがら生き延びて偶然外に出られた者も少なからずいるようだ。
当時の工夫は、貴重な石を探しながら掘り進んだ為に、中はまるで迷路のようになっていると言う。よほどマッピングに優れた者か方向感覚の優れた者が一緒でなければ、道に迷って力尽きるか、もしくは宝石喰いの牙に掛かって死ぬかだ。
宝石喰いの魔物は顔はまるで両生類のような顔をしており、大きな口には鋭く尖った牙が生え揃い、永遠の炎を捜し求めてくる者達を狙っては襲いに来るようだ。その分、深部に向かえば向かうほど貴重な石が見つかると言う事も否定できないという事だ。
シグルマ:「そうか。よし。それだけ有力な情報があれば問題ないだろう。エルスィー、お前はマッピングに強いだろうし、地盤の弱い部分とガスの噴出口の危険は感知できるな?」
エルスィー:「任しといて下さい! あたしにかかれば何も問題あらしまへんで! 何やスリリングな展開になりそうやなぁ〜。ワクワクするわ!」
 エルスィーはにんまり微笑んだ。心底喜んでいるようだ。
 シグルマもまた、顔にこそ出さないものの楽しんでいるように見える。
シグルマ:「目的は極上にデカイ上等の永遠の炎だ。ついでに魔物どもの首も引っ下げて凱旋してやろう!!」


ソーンの東。高い山がそびえるその一角に、石で入り口を作り固められた小さな人口洞窟がある。中からは冷たい風が吹きつけ、真っ暗闇が広がっている。
ここが、シグルマ達の目的とする貴石の谷の入り口だ。
 シグルマはランプを取り出し、それに灯りを点けエルスィーを振り返る。
シグルマ:「魔物は俺が何とかするから、エルスィーはマッピングと探知を頼む」
エルスィー「了解! 分かってますって。コトが終わったらキミの事もバッチリ新聞に書かせてもらうで!」
 二人はこの洞窟の入り口を覗き込んで恐怖心を感じるどころか、むしろとても嬉しそうだ。
 始めにシグルマが足を踏み入れた。ランプであたりを照らすと、今にも崩れ落ちてきそうなボコボコした土の天井が目に入る。ぼんやりと灯りに映し出された壁は水分を含んでいるようだ。触るとしっとりした感触が伝わってくる。
 入ってすぐに下に降りる為の人工的な階段がある。風はその奥から吹いてくるようだ。
 時折風が強く吹くと「オオオォォ…」と言う獣のような悲鳴のような音が聞こえてくる。
 シグルマがゆっくり歩みを進めて階段を降り始める。その後ろからエルスィーは取り出したメモ帳に鉛筆でチョコチョコとマッピングを始めた。
エルスィー:「入ってすぐに降りる階段有り…っと」
 階段を降り切ると、すぐに三方に分かれる道がある。シグルマは一通りランプを照らして確認する。
シグルマ:「エルスィー、どう思う?」
エルスィー:「そうやなぁ…」
 エルスィーはそれぞれの入り口に立ってじっと奥を見つめ、少し考え込む。そして顔を上げて指を弾く。
エルスィー:「真中や。真中の道が一番正しいと思うで。右はあかん。何やガスの臭いがする。左は奥の方からバラバラ音が聞こえてくるから、それもちゃうと思います」
 シグルマはエルスィーの指し示した道を慎重に歩く。
 工夫が言っていた通り、複雑に入り組んだ構造だ。
 時々、遠くでガラガラと音がするのはどこかで壁が崩れている音のようだ。ブシューっとガスを吐き出す音と微かに臭いが鼻を掠める。
 時々ランプを借りては自分たちの進んでいる場所を丁寧に分かりやすくマッピングしているエルスィーの顔も、次第に真剣な表情に変わっていく。
シグルマ:「大丈夫なのか?こんなに入り組んだ坑道のマッピングは」
エルスィー:「結構苦労するで。あ、でもまだ大丈夫やさかい、安心してや」
 二人が再び歩みを進めると少し開けた場所に出る。
 赤くチラチラ光る物が空洞の隅の方に見える。
 シグルマが近寄ってみると、指先に乗るほどの大きさの赤い石だ。よくよく見ると、石の中心に小さい灯りがユラユラと揺らめいている。
シグルマ:「永遠の炎の子供のような物だな。こんな小さいんじゃ意味がねぇ。ここまできたんだ。とびきりデカイやつを持って帰らない事には俺の気が済まん」
 シグルマがその石を元の場所に戻した時、生暖かい風が頬を掠めた。
エルスィー:「魔物や!」
 エルスィーがそう叫ぶと同時に闇の中からゾロゾロと魔物が現れる。
 シグルマはすかさず剣を抜き、身構えた。
 得体の知れないさまざまな魔物が現れる。
シグルマ:「エルスィー! 俺がこの魔物どもを食い止めている間に出口を探せ!」
エルスィー:「分かった! 任しとき!」
 エルスィーとシグルマは二手に分かれる。同時に魔物たちの動きが変わった。シグルマたちを敵と見なしたようだ。魔物たちもまた二手に分かれ始める。
シグルマ:「うおおぉぉっ!! お前らの相手はこの俺だ――っ!」
 シグルマは、手にした剣を振りかざし、手当たり次第薙ぎ払っていく。魔物たちは一瞬シグルマの腕っ節の凄さに一瞬怯んだ。シグルマも気圧される様子はないようだ。気合を込めて剣を振りかざし、次から次へ一撃で仕留める。
シグルマ:「オラオラオラオラ―――っ!」
 シグルマの周りにはどんどん魔物の亡骸が積み重なっていく。見事な剣捌きだ。
 エルスィーはシグルマを背に壁を探っている。少々慌てているのだろうか、なかなか集中して探せないようだ。
 その時、エルスィーは背後に気配を感じた。出口を探すのに必死で、近づいてくる魔物に気づかなかった。
エルスィー:「!」
 魔物が腕を振りかぶる。エルスィーは無意識に体を低くして少し横へずれた。
 とっさにとったその行動が良かったようだ。振り下ろされた魔物の腕を、寸でのところでかわすことが出来た。頬にわずかに赤い線が走る。
エルスィー:「あたしを嘗めたらあかんで!」
 エルスィーは敵が腕を振り下ろした瞬間に攻撃をしかける。見事決まったようだ。魔物の体は弾かれるように身を翻し地面に倒れこんだ。
 その瞬間、「ガラリ…」と言う奇妙な音を聞きつける。
エルスィー:「あかん! 壁が崩れるで!」
シグルマ:「うおおぉっ!」
 とっさにシグルマはその場を退いた。その瞬間に壁が崩れ落ち、そこら中にいた魔物たちは下敷きになる。シグルマは間一髪難を逃れた。
シグルマ:「…危なかったな」
シグルマ偶然とはいえ壁が崩れたことで魔物たちを一斉排除出来た事に複雑な思いなのか、少し残念そうだ。
エルスィー:「……。凄い! 凄いで!」
 シグルマはエルスィーのその言葉に、振り返る。
 シグルマは目を見開いた。目の前の情景に驚いたようだ。
 壁が崩れたことでほかの通路と繋がり、最深部と思われる場所が幅広く広がっている。
 あたり一面、洞窟の中だと言うのにも関わらず眩しいほどに光っているのは、シグルマの目標として探していた永遠の炎のせいだ。
 先ほど見た小ぶりの石とは数段格が違うようだ。シグルマたちの目の前にある永遠の炎は、一番大きい物で男性の握りこぶしほどの大きさの物がある。
シグルマ:「永遠の炎か…」
エルスィー:「凄い! 初めてこんな大きな永遠の炎見たで! これはいい記事書けそうや!」
 エルスィーは喜び勇んでいるようだ。シグルマが近くにあった一番大きな永遠の炎を手に取った瞬間、ズンッ! と体に大きな衝撃を感じた。
シグルマ・エルスィー:「!」
 二人が同時に振り返ると、“屋敷ほどの大きさに成長した宝石喰い”がこちらを睨みつけている。噂通り、両生類のような顔をしていた。
シグルマたちと視線が合った宝石喰いは、大きな口を開いて襲い掛かってくる。
シグルマ:「うおっ!」
エルスィー:「ひゃあっ!」
 シグルマとエルスィーは二手に分かれて攻撃をかわす。宝石喰いがいるせいであまり逃げられる場所はない。
 シグルマは鞘に収めた剣を抜き、宝石喰いの頭部まで駆け上り、目をめがけて剣を突き立てる。
 宝石喰いは突然の痛みに大きな悲鳴をあげて暴れだした。身悶える度に洞窟全体が揺れ、ガラガラと壁が崩れ落ちはじめる。
エルスィー:「このままやったら、生き埋めになるでー!」
 エルスィーが出口を目掛けて走り出したのを見て、シグルマは宝石喰いの上から飛び降りエルスィーの後を追いかけた。


シグルマとエルスィーが難を逃れて貴石の谷を無事に脱出出来てから数日が経つ。
 シグルマは白山羊亭で酒を飲んでいる。腰にぶら下げている袋には貴石の谷で手に入れたこぶしほどの大きさもある永遠の炎が入っているようだ。時折光を放つ。
エルスィー:「あ、こんなところにおったんかいな。新聞出来ましたで! 見ました?」
 エルスィーは片手に新聞紙を握り締めて、白山羊亭にやってくる。
 大きな新聞の一面に、貴石の谷で起こった事件、宝石喰いの話、そして脱出までのいきさつを事細やかに書かれていた。
 その後、その新聞を見た者たちが、シグルマ自身から話を聞きたいと訪ねてくる事が増えたようだ。