<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


激突!

 街並みは賑わいを見せていた。
 そこに近代的なビルはなく、排気ガスを噴出す鉄の乗り物もない。人口的な光や、人口的な音もない。だがその賑わいは確かなものだった。
 露天商の客引きの声。子供のはしゃぎまわる声に、その子供を呼ぶ親の声。荷車の音、水撒きの音。真昼間から酔っ払いが織り成す喧嘩の物音。
 音、音、音。
 思えば喧騒とは人の生み出すものだったか。高町恭華(たかまちきょうか)は街並みを行きながらつくづくと思った。
 ほんの少し前まで生活していた場所の喧騒はもっと金臭いものだった。それを覚えているからこそ最初は戸惑いもしたが、なれて見るとこの喧騒はもと居た場所のそれをある意味では全く違わない。
 人が居て初めて、それは生み出される。
 そう居て初めて。出会い、というものもある。
 こんな、不可思議で面白い出会いも。
「え?」
 雑踏の先を見つめ、恭華は思わず声を上げた。

「これはまた中々……」
 斬馬刀使い・恭華(ざんばとうつかい・きょうか)はもの珍しげに周囲を見回した。
 異国より訪れたものはまず遭遇するカルチャーショックに『恭華』もまた例外なく出会っていた。
 何しろ街の雰囲気そのものが余りにも違いすぎる。
 賑わっている事は確かでも、『恭華』が嘗て居た国とはまず人々の服装からして違う。
 異国風、とでも言うべきだろうか。(実際のところこの場合異国の民なのは『恭華』で街行く人々ではありえないが)
 だがその異国風の雰囲気の中でもまた異質な服装もちらほらと見受けられる。なにも『恭華』に限った事ではなく。
「ん?」
 その人影もまた、その内の一人だった。

 雑踏の中、ただすれ違う事も出来ず、恭華と『恭華』は対峙した。

 何もかも行動に理由がつけられるわけではない。
 正しくそれはそうだったと後後になって恭華は思ったものだ。
 ただ今この時そんな余裕は一切なかった。
 打ち下ろされる斬馬刀での攻撃はそんな余裕を恭華に許さない。
 斬馬刀。全長6尺、刃渡り4尺2寸。一般には野太刀と言われる日本刀だ。少女の細腕が振り回すには余りに巨大な得物を、しかし『恭華』は容易く扱った。
 しかも、
「く……!」
 小太刀では振り下ろされる斬馬刀の勢いを殺しきれず、恭華は歯噛みして後方へと跳躍した。金物の擦れる焦げ臭い香りがつんと鼻につく。『恭華』もまた必殺であったはずの一撃を交わされ、大きく後方へと跳んだ。
 しかも、速い。
 間合いは恭華の小太刀より、『恭華』の斬馬刀のほうが確実に広い。しかしであればあるほど懐には隙が出来る。身の軽さと速さをもって懐にさえ飛び込めればあの厄介な武器を叩き落す事も容易かろうに、しかし『恭華』は恭華にそれを許さない。
 速いのだ。あの巨大な武器を振り回しているにも関わらず。
 闘気に煽られ砂塵が舞い上がる。石畳の間に入り込んできたかすかな砂粒が熱風と共に舞い上がり視界を煙らせた。
 一枚の葉が舞い上がる。
 視界の端から端へ。対峙する互いの間をゆっくりとその葉は落ちていく。それが視界から消え去る、その刹那、
「は!」
 唇から気合を吐き出し、恭華は石畳を踏んで跳躍した。顔と胸の前で構えた双の小太刀が風を切る。
 風ばかりでなく獲物を狙って。
 しかし、
「ふ!」
 ギン……っ!
 金属音と共に小太刀は止められる。飛来する恭華の体より早く、『恭華』の斬馬刀が突き出される。
「貰ったぁ!」
 恭華は叫んだ。
 止められるそんなことは分かっていた。正面から打ち込めば『恭華』は必ず正面で受け止めようとする。
 何故だかは分からない。だが恭華はそう確信していた。『恭華』は引かない、逃げないと。
 だからこそ、
「な!」
『恭華』の目が驚愕に見開かれる。
 恭華は受け止められた余勢を駆ってひらりと身を舞わせる。
 少女にしては大柄な体が、ふわりと『恭華』の頭上を通った。風を受けてなびく髪が一瞬だけ恭華の視界を遮る。
 だが確信していた、これで取った、と。
 しかし、
「まだだ!」
 恭華が落下する、ほんの少しの無防備な一瞬。『恭華』は躊躇わなかった。迷わず足を振り上げその胴体を蹴飛ばした。
「わああっ!」
 気を抜きかけていたためその蹴りはまともに恭華の腹へと入る。今だ着地していなかったその身体は『恭華』の背後から更に後方へと弾き飛ばされる。
 ざっと石畳の上を恭華の身体が転がる。即座に恭華が跳ね起きた時、既に『恭華』は得物を構え、大勢を立て直している。
「強い……」
 頬に出来た擦り傷を汗と共に拭い、恭華は思わず呟いた。
「あなたもな……」
『恭華』もまた感心したかのようにそう呟いた。

 呼気も荒く二人が膝をついたのは日も落ちかかってきた頃。
 天が茜色に染まるまで戦っていても、ついに決着がつくことはなかった。

「ところで何故私達は戦っていたんだ?」
 最も基本的な問題は『恭華』が口にした。ぜいぜいと荒い息を吐きながら、恭華もまた小首を傾げる。
「……さあ?」
 理由などはっきり言ってない。なんとなく強そうだなー手合わせしたいかなーとかその程度の理由が出前よろしくかち合っただけである。
 言葉で表すのは不可能な心理だ。
 恭華も『恭華』もそれは理解していた。ただ口に出さずにはいられなかったそれだけで。
 暫く顔を見合わせていた二人は、同時に噴出した。さてと『恭華』が切り出す。
「さすがに疲れた……風呂に入りたいな」
「それなら宿にお勧めのお風呂があるけど。行く?」
 理由はうやむやのまま、どうやらそれでこの一件は手打ちになるようだった。