<PCクエストノベル(3人)>


湖の宝 〜落ちた空中都市〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1106 / 秋刃(秋刃) / ヒルコ】
【1070 / 虎王丸(虎王丸) / 炎剣士】
【1075 / セレネ・ヒュペリオン(セレネ) / 元王宮魔導師】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 様々な世界から、様々な異訪者や色々なものが集まる国。そして、雑多な知識や技術、文化が入り混じり共存する国。
 そして、聖都エルザード。
 聖獣界ソーンにおいて、最も特異な都にして世界の中心。36の聖獣によって守護されている地域の中の一つ、ユニコーン地域の中に、エルザードはあった。
 そのエルザードから東の山を登り、山岳の真ん中に落ち込んだ湖に行くと、『落ちた空中都市』がある。
 古に、巨大な魔力によって空に築かれた都市があった。だが、その魔力の暴発によって湖の中に沈んでしまった。
 水底にその残骸を横たわらせた古都。その、沈んだ都に財宝があると噂されている。しかし、湖には魔物が棲みついており、調査が困難となっていた。

秋刃:「やっと、ついたねっ」
セレネ:「ほんと、やっとねえ。山登りは疲れるから嫌いよ」

 眼下に広がる、湖を眺め、二人は山登りの疲れを取る為、休もうとする。水は、晴れた空を映し出し、美しい青を見せていた。
 絶対に届かない、遥かなる空の青。
 天上の青。
 それが、掴めそうな感じであった。

虎王丸:「‥‥ぜぃぜぃ‥‥はぁはぁ‥‥。おまぇら‥‥俺一人に荷物持たせ‥‥やがって‥‥何が‥‥疲れた、だぁ?」

 少し遅れて、二人の背後から虎王丸が姿を現した。
 身軽そうな二人とは対照的に、大きな重そうな荷物を背負っていた。下から見上げるような恨みがましい視線。
 だが、秋刃もセレネも、全然気にしてない様子であった。

セレネ:「いいじゃない。体力あるんだから」
虎王丸:「そういう問題かよっ!?」
秋刃:「‥‥まだ、元気じゃんか」

 ぎゃーぎゃー騒ぐ虎王丸にあしらう、セレネ。その様子を半眼であきれたように見る、秋刃。
 次第に切れたのか、セレネが一言、大声で言葉を放った。

セレネ:「トラ、お座りっ!」
虎王丸:「ぎゃぅんっ!」

 即座に地に伏せてしまう、虎王丸。以前にセレネによってかけられた呪いによって、とあるキーワードを発せられる事で、命令通りに身体が動いてしまうらしい。
 何だかんだと騒いでる二人をよそに、さっさと秋刃は、湖の方へと降りて行った。


●一章 深く湛えられし湖
 秋刃は湖の水を少し、掬ってみる。
 身体に染み渡るような冷たさが気持ちいい。

秋刃:「なぁ‥‥どうやって、この遺跡に入るんだ?」

 そういえばそうだ。宝があるという古の都は、湖の底に沈んでいる。揺ら揺らと揺れる水面に古い建物が見える事から、そんなに深いところにはなさそうだ。だが、潜らない事には探索は行えないだろう。よく見ると、更に深いところにも遺跡はありそうだった。

セレネ:「どうする、って。勿論決まってるじゃないかぃ。‥‥ねぇ、トラ」
虎王丸:「な、なんだよっ!?」
秋刃:「なるほど。頑張れ、虎王丸」
虎王丸:「もしかして、俺『だけ』潜らせるつもりかーっ!」

 虎王丸の叫び虚しく、秋刃とセレネの二人は、即座にこくん、と、頷いた。

虎王丸:「なっ、なっ‥‥」
秋刃:「あきらめろよ。男は諦めのよさが肝心なんだからさ」
セレネ:「トラ、お脱ぎ」

 セレネの命令に逆らう事は許されず、自ら衣服装備を脱いで、褌一つ、といった姿になる、虎王丸。更にその褌までに手をかけようとする。

虎王丸:「うわぁぁぁっ!」
セレネ:「誰もそこまで脱げって‥‥っ。トラ、そこまでっ!」
秋刃:「‥‥命令はもっと正確に、ってか」

 とりあえず、潜る準備ができたところで、セレネの蹴り一閃で湖の真ん中から潜らされる、虎王丸。

虎王丸:「つっ、冷てぇっ!」
秋刃:「あぁ、さっき触ってみたら気持ちいいほど冷たかったけど‥‥確かに泳ぐには冷たいかもね」

 遠くで悲鳴を上げる虎王丸をのんびりと眺めながら、二人は呑気に水辺で休んでいた。
 と、思えども、そううまく事は進まず。
 湖の中から、魚のような顔、鱗ある身体つきのモンスターが現れた。

秋刃:「これが‥‥湖に現れると言う魔物‥‥?」
セレネ:「そうみたいだねえ‥‥。さっさとやっちまおうかねえ」

 速攻でセレネが魔法を半魚人に放った。
 真空の刃が、瞬く間に半魚人を切り刻む。血飛沫が血煙となりて、飛び散った。

秋刃:「こっちにも出た!」

 湖の魔物は一体だけではなく、次々と湖から姿を現す。
 秋刃は炎の矢を放って、幾度となく敵を撃つが、次から次へと絶え間なく湖から半魚人が現れてくる。

セレネ:「しっつこいねぇーっ!」

 一気に力を放ち、セレネは魔物を風の力で集団ごと吹き飛ばす。やっと一息ついたかと思えば、今度は湖から虎王丸の悲鳴があがった。

虎王丸:「う、うぁぁっ! 何なんだよ、こいつらっ!」

 半魚人に追いかけ回され、懸命に泳いで逃げる、虎王丸。
 死ぬ気で頑張ればどうにかなるものか、すぐ陸まで逃げ延びてきた。

虎王丸:「陸まで来れば、こっちのもんだぜ!」

 己の刀を拾い上げ、即座に魔物を一刀両断にする。どんなもんだ、と、自慢げにしていると、横から秋刃が冷たい視線で重大な事実を指摘する。

秋刃:「虎王丸‥‥外れてるぞ」
虎王丸:「ん? 何が‥‥のわぁぁっ!」

 最後の一枚が取れているのに気づき、大慌てで隠す。どうやら、泳いでる最中に水の抵抗で結んでいた箇所が緩くなってたようだ。丁度足元に白いものが落ちていた。

セレネ:「馬鹿だねぇ」


●二章 水の都
 とりあえず、暫くは魔物が出る気配はなかった。
 調査を困難にしている魔物にしては、弱すぎる。他にも何か潜んでいるのだろう。

秋刃:「まだ気を緩めないな‥‥」
セレネ:「出たら出ただけ、倒せばいいじゃない」
虎王丸:「ちょっと軽く見てやしねぇか?」

 その場を離れる事にし、湖の周りを回るように移動する、三人。
 今のところ、魔物は出る気配はなく、水面は穏やかなままだ。先程の事がなければ、単に三人でピクニックに来たようだった。
 のんびりと、ただ時間だけが過ぎていく。

セレネ:「眠い。疲れた」
秋刃+虎王丸:「「はやっ!!」」

 やがて、登った側と反対方向まで辿り着くと、今までと少し違った景色となった。
 水面から遺跡が浮き上がっているように見える。単にここだけが水底が浅いのだろう。
 静かな湖面に漂うように、遺跡の壁や柱が突出している。ところどころ、床も見えるので、移動はそう苦ではなさそうだ。
 叙情的な光景に、暫し眼を奪われてしまう。

セレネ:「どうせなら、いい男と来たかったねぇ‥‥」
虎王丸:「ここにいるじゃねぇか」
セレネ:「どこにいるんだぃ?」
虎王丸:「ほら、ここっ、ここっ!」
セレネ:「全然いないじゃない。いるのはトラやガキや鱗ばっか‥‥」
秋刃:「やれやれ‥‥全く‥‥って、鱗っ!?」
虎王丸:「また出やがったなっ!」

 音を立てて水面から飛び出してきた半魚人達。
 即座に三人は臨戦態勢を取り、魔物を出迎え撃つ。

セレネ:「汚い手で触るんじゃないよっ!」

 蹴り一発で遠くまで蹴飛ばされる、魔物。

虎王丸:「ったくっ、しつけぇぜっ!」

 焔纏いし刃を一閃させる、虎王丸。

秋刃:「消えろっ」

 荒れ狂う炎の壁に囲まれ、苦悶する魔物達。
 澄み切った湖が、鮮血に染まる。
 それでも尚、絶え間なく半魚人らは一行を襲う。

虎王丸:「このままじゃ、埒あかねぇぜっ」

 焦る。
 無限にも出てくる敵を相手に三人では、消耗しきって倒れてしまうのが目に見える。
 今は術を駆使して軽くあしらっているが、使い果たせば逆に一気に襲われてしまうだろう。

セレネ:「しつこい男は嫌われるって、知らないのかねぇっ!」

 大気を切り裂く真空の刃が、一気に魔物の集団を蹴散らした。

秋刃:「‥‥ここを一気に駆け抜けよう!」

 セレネの一撃でぽっかりと開いた包囲網の穴を見て、秋刃は二人に呼びかけた。
 湖の奥へと続く、水上に出た遺跡で連なられた、道。
 陸へと戻る道は魔物によって塞がれている。今、ここしか逃げ道はない。だが――。

虎王丸:「そっち行っても逃げ道はねぇんじゃないか!?」

 攻め寄る魔物を相手取りながら、虎王丸が異論を言った。確かに正論ではある。

セレネ:「じゃぁ、いつまでもこいつらとここで戦うのかぃ?」

 鋭い蹴りで己に触れる範囲まで近寄らせないセレネが言った。
 延々と戦い続けても、この場から確実に逃げれるとは限らない。例え、この包囲網を突破したとしても、陸であろうと魔物は追ってくる。湖から無数に姿を現して。

秋刃:「とにかく、この奥に何かがいる!」

 だからこそ、半魚人らは、己らが近づいたからこそ現れたのだろう。
 三人は走り出した。


●三章 湖の主
 一体どれだけの数の魔物が、この湖に潜んでいるのだろう。
 走っても、打ち倒しても、いつまでも魔物は三人を追いかける。

セレネ:「どれだけ走らせれば気が済むのさっ」
虎王丸:「いいダイエットになるじゃねぇかっ」
セレネ:「私にダイエットは必要ないのっ!」
秋刃:「‥‥まだまだ元気じゃん」

 水面に突き出た遺跡を走り、飛び越え、いつしか広い場所へと出た。恐らく、元は演劇場かアリーナだったのであろう。取り巻く観客席の中央に、広い水溜りがあった。
 湖の中の湖。
 簡単に言えば、そうなるであろう。

秋刃:「あいつらが追って来なくなったな」
セレネ:「おや。本当だねぇ」

 先程まで騒がしく三人を追っていた半魚人の姿は、今は全くない。
 ただ、静けさだけが近辺を取り巻いていた。

虎王丸:「何か‥‥いるぜ」

 殺気を感じ、警戒する。
 感じた場所は――中央。水の中から敵意を感じる。

セレネ:「おやおや、ここの主のお出まし‥‥みたいだねぇ」

 轟音と共に、水の中から水飛沫を上げて巨大な何かが三人の前に姿を現した。

秋刃:「‥‥水竜‥‥っ!」

 巨大な蛇を思わせるそれは、水の中に棲む、竜。ウォータードラゴンとも呼ばれる、怪物。そして、この湖の主――。

虎王丸:「こいつを倒せば、あの魔物もおとなしくなるか?」
セレネ:「それどころか、宝物も出てきそうだねぇ‥‥いや、なければ、私は切れるよ」
秋刃:「‥‥来るっ!」

 水竜がその巨大な身体を三人に向けて突進する。三人は素早く飛び跳ねると、水竜の攻撃を避けた。つい先程までいた場所は、水竜によって破壊され、瓦礫が激しく飛び散った。

虎王丸:「おらぁっ!」
セレネ:「‥‥お遊びはここまでだよっ!」

 虎王丸が刀を大きく振り上げ突進すると共に、セレネが真空の刃を放つ。
 撃音が周囲に木霊する。

虎王丸:「あぶねぇだろっ!」
セレネ:「おや、無事だったんだ‥‥ちぇっ」
虎王丸:「何だ、その『ちぇ』はっ!?」
秋刃:「まだ生きてるっ。油断するな!」

 怒りのままに突進してくる水竜に対し、炎の矢を放って牽制する、秋刃。
 その巨躯に似合わず敏捷に避けると、水竜は大きく口を開いた。

秋刃:「ブレスかっ!?」

 ドラゴンのブレス(息吹)。
 ドラゴンの口腔内から吐き出される息は、火や氷なども共に出てくる事が多く、有名である。この竜は水竜。
 だという事は‥‥大量の水が水撃として放たれる。
 高速に打ち出される水はかなりの水圧を持ち、堅固な城壁といえども、容易く穴を穿つ。
 三人は咄嗟に四方に展開して回避するが、間に合わない。

セレネ:「空に逃げるよっ」
秋刃:「‥‥天駆ける翼を我にっ」

 秋刃とセレネの二人は、空を自由に飛翔できる魔法を使って、空中へと脱出する。そして、足元を見ると、大きな水飛沫を上げながら砕け落ちていく遺跡の姿があった。

秋刃:「危なかったなぁ‥‥」
セレネ:「最初っから、コレを使えば良かったのかもねぇ」
秋刃:「そういえば、虎王丸は?」
セレネ:「さぁ? トラに空が飛べるとは思えないし」

 そうやって、姿が見当たらない虎王丸の心配をしていないと、下の水竜が二人目がけて飛びかかってきた。
 慌てて更に上空へと逃げる、二人。

セレネ:「生きがいいのも困りものだねぇ‥‥」
秋刃:「魚じゃないんだから‥‥」
セレネ:「まぁ‥‥やっちまおうかねぇ。‥‥おや?」

 上空から二人が一気に攻撃を仕かけようとしたところで、水竜が苦しそうによがった。苦悶の声を上げ、左右に身体をよじらせる、水竜。
 よく見ると、水際で水竜に刀を突き刺している虎王丸の姿があった。

虎王丸:「思い知ったかっ!」

 虎王丸は得意そうな笑みを浮かべるが、次の瞬間、水竜に大きく振るい落とされてしまった。
 そして、水竜は水の底へと逃げて行った。

セレネ:「ふーん、あれでも役に立つんだねぇ」
秋刃:「ともかく、虎王丸を拾いに行こう!」


●終章 湖の宝
 水面にぷかぁっと、意識なく浮いていた虎王丸を回収し、秋刃とセレネは周囲を探索する。
 湖の主は姿を消したまま現れる様子はない。

セレネ:「うーん、ここ、怪しくないかぃ?」
秋刃:「位置的に貴賓席だね‥‥何か隠した跡がある‥‥」

 石造りの椅子の下をまさぐると、小さな箱が出てきた。
 罠に注意して蓋を開けると、この湖のように澄み切った蒼の宝石が出てきた。

虎王丸:「おっ。宝が見つかったか?」
セレネ:「こんな時だけ目ざといんだねぇ」
秋刃:「どうやらこれだけのようだね」
虎王丸:「何だ‥‥ちゃちいなぁ」
秋刃:「あるだけマシってもんだよ。でも――綺麗だ」

 キラキラと輝く、宝石。
 空に掲げて太陽の光にかざすと、周囲が湖の底にいるかのように、深い青色の世界に包まれたような感じがした。