<PCクエストノベル(2人)>
過去からの手紙
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1284/エンテル・カンタータ /女騎士】
【1285 /オズ・セオアド・コール /騎士】
【助力探求者】
【/】
【その他登場人物】
【/】
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36の聖獣が加護する地域がある。
その名は聖獣界ソーン。冒険者や多種の文化が入り乱れる国。
聖獣に護られし国は、今日も一人の女の子の明るい声を響かせていた・・・。
美しい金色の髪を揺らしながら、好奇心に染まった瞳は、
その青を一層煌かせている。
年の頃は17歳くらいだろうか。
白山羊亭のマスターと楽しげに話している。
その小柄な女の子はエンテル・カンタータという。
小柄な背中にはあまり似合わない剣を背負う女剣士。
その隣には、クールという言葉がしっくりくるジュカ族の青年騎士。
一見、なんら人と変わりないが、髪に花を咲かせて生まれてくる種族。
彼の藍色の髪には美しい白い花が咲く。琥珀色の瞳を少し細めながら、
エンテルの様子を窺っているようだ。
■白山羊亭にて・・・
エンテル:「ねぇ、マスター!面白い話があるんでしょ?もったいぶらないで教えてよ!」
白山羊亭のマスター:「いや、女の子はこんな話苦手だろうと思ってな・・・」
エンテル:「苦手じゃないよ!!だーいじょうぶ!」
マスターの目の前でガッツポーズをし、必死に大丈夫だとアピールする。
白山羊亭のマスター:「沈没船の話でもか?」
エンテル:「ち・・・沈没船?!」
白山羊亭のマスター:「ほら、大丈夫じゃないだろう?この話はやめ・・・」
マスターの言葉が終らぬうちにエンテルは身を乗り出すようにして、マスターに近寄った。
エンテル:「それってまだ誰にも言ってない?」
コソコソと耳うちする。
白山羊亭のマスター:「まだ、だれにも言っていないが・・・エンテル?」
てっきり怖がったとばかり思ったエンテルの様子がおかしい。
瞳は輝き、とても嬉しそうなのだ。
エンテル:「マスター!詳しく教えて?」
それはもう・・・興味津々という瞳を向けられたマスターは、
エンテルの好奇心に押されながら話し始めた。
白山羊亭のマスター:「つい、先日引き上げられたんだ。もう、20年くらい前に沈没した船が。
それもここだけの話、その頃は名を馳せた豪商の船・・・ということは?」
エンテルがその先を引き継ぐ。
エンテル:「た・か・ら・も・の?」
語尾にハートマークがつきそうだ。
白山羊亭の主人:「そう、残っているかは分からないがな」
エンテル:「へぇ〜。いいね。面白そう!」
今にも港へ走りだそうという勢いだ。
その様子をじっと眺めていたオズがやっと口を開いた。
オズ:「エンテル・・・」
エンテル:「何?オズ」
オズ:「まさか・・・」
その沈没船へ冒険に行くのか?という言葉を「・・・」の部分に含ませた。
エンテル:「もっちろんよ!オズも一緒だよね?」
エンテルもオズの言いたいことは分かるので、快く答える。
マスターはその様子を興味深げに見つめる。
下から見上げるように見つめる可愛い瞳に逆らえるはずもなく。
オズ:「あぁ、共に行こう」
オズが返事をしている間にエンテルはオズの手を引くように、
白山羊亭から出て行ってしまう。
エンテル:「ありがとう!マスター!!いいもの見つけてくるね!」
白山羊亭のマスター:「あぁ、期待しているよ」
小柄なエンテルの背中を見送りながら、少し不安が過った。
しかし、その後ろには頼もしいオズの背中があり、マスターは一息つき、
何事もなかったように、グラスを磨き始めた。
■沈没船と・・・
エンテル:「これね!沈没船!!」
オズ:「そうみたいだな」
二人の前にあるのは、巨大な船。
それは昔の美しさの名残を残すことなく、湿り気を帯び、
どんよりとした雰囲気を放っている。
まだ、潮を含み乾ききっていない船体は、人を寄り付けないというような様子だ。
船から垂れ下がったロープの強度を確かめると、エンテルが上りはじめた。
それにオズも続く。
甲板へ上がると、昔の美しさの名残が所々に見られた。
エンテル:「ねぇ、オズ、この柱!すごいね。綺麗に彫刻で装飾してある・・・」
昔の美しさを称えるようにエンテルがそっと柱に触れた。
オズ:「あぁ、さすが豪商の船といったところだな」
優しく撫でるように柱に触れているエンテルの手に重ねるようにオズの手が触れる。
いつまでも名残惜しそうに触れているエンテルの手を柱から離した。
オズ:「冒険に行こうか」
エンテル:「うん!!行こう!」
二人は、重い木のドアを押し開けて中へ入って行った。
中に入った二人は呆然とする。
沈没して長い年月が経ったのを知らせるように、歩きだせば湿った木の匂いが一層際立つ。
エンテル:「オズ・・・なんか薄暗いね?」
オズ:「灯りがないからな。窓だったところから光が辛うじて入るだけみたいだ。怖いか?」
エンテル:「大丈夫!怖くないよ!オズが一緒だもんね!」
薄暗い船内を怖いと思わないはずもないが、
エンテルはオズが共にいるという安心感と恐怖より強い好奇心のおかげで前へ進んだ。
エンテルはオズより2〜3歩前を歩いている。
オズ:「エンテル、オレの隣を歩け」
エンテル:「なんで?」
オズ:「何か出てくるかもしれない。魔物とか」
エンテル:「大丈夫!ほら!これがあるし」
エンテルは背中の剣を示した。
オズ:「もしもの場合というのがあるだろう?エンテルが前にいるということは前方からの敵に
最初に攻撃を受けてしまう」
エンテル:「私だってちょっとくらい大丈夫だもん!騎士よ!」
オズ:「・・・別にエンテルの力量がどうの・・・と言ってるんじゃないだろう」
エンテル:「じゃぁ、どういう意味?!」
少々、むっときたエンテルはオズに言い返す。
オズ:「怪我をして欲しくないんだ・・・」
表情があまり出ないため、本当にそう思っている?と聞き返したくなるが、
エンテルにはオズの気持ちが伝わったようだ。
エンテル:「じゃぁ、しょうがないね!」
そういうとそっとオズの隣を並んで歩いた。
しばらく歩いていくと、ガタッと物音がした。
その方向を見ると・・・魔物がいた。
体は海水でできているのか、半透明で向こう側が透けて見える。
魔物は魔物なんだろうが、美しい女性の姿をしていた。
エンテル:「あなた・・・なんでこんなところに?」
泣いているような様子の魔物にエンテルはそっと近づく。
オズ:「エンテル近づくな!!」
オズが慌てて止める。
エンテル:「だって泣いてるよ?!」
オズ:「魔物だろう。どうみても」
エンテル:「でも、悪い魔物じゃなさそう・・・」
エンテルが悪い魔物ではない、そう言い募ろうとした時、炎の壁が魔物とエンテルを隔てた。
「きゃぁぁぁぁ」魔物の声がこだまする。
エンテル:「オズ!なんてことするの?!」
オズ:「よく見てみろ」
怒るエンテルを宥めながらグリフォンを召喚する。
エンテル:「姿が・・・」
オズ:「擬態だ。俺たちを油断させるための・・・な」
オズとエンテルはグリフォンに騎乗し、逃走した。
■宝物?!・・・
エンテル:「びっくりした・・・。追いかけてこないかな?」
オズ:「大丈夫だろう。水の魔物は炎に弱いからな」
肩を揺らして深呼吸をしているエンテルの背中をオズはそっと擦ってやった。
エンテル:「オズ・・・ごめんね」
オズ:「何がだ?」
エンテル:「擬態とも知らずに私・・・」
オズ:「気にするな」
擦っていた背中をポンポンッと軽く叩いてやる。そうするとエンテルは笑顔を見せた。
エンテルが視線を前へやると・・・。
エンテル:「ここだけ鉄の扉・・・」
オズ:「あぁ、本当だ」
二人は示し合わせるまでもなく、鉄の扉を押し開いた。
そこにあったのは、普通の部屋。
ベッド、机、クローゼット・・・どれも「だった」ものだけれど。
エンテル:「机の上に箱がある?なんだろ?」
オズ:「宝物じゃないだろう」
エンテル:「開けてみようっと!」
鍵は壊れていて、両手に収まる程の大きさの木箱は簡単に開いた。
エンテル:「ん?中に何か入ってる・・・」
オズ:「手紙じゃないか?」
木箱に護られていた手紙は風化はしているものの読めそうだった。
エンテル:「読んじゃ・・・だめかな?」
オズ:「・・・エンテルが判断しろ」
エンテルが好奇心に勝てず、そうっと手紙を開いた。
エンテル:「これって・・・」
オズ:「・・・恋人への手紙・・・だな」
ここには、こう記してあった。
「君は、僕がいない間、元気にしているだろうか?僕は今、青い海の上。
早く帰って君の顔が見たくてしかたがないよ。
実は、僕がいない間、ちょっとしたいたずらを仕掛けたんだ。
春に白い花が咲く、花畑を覚えているだろうか?
そこに大きく枝を伸ばし、葉を繁らせている木の下にあるものを隠して置いた。
是非、探し出して欲しい。君への気持ちの印だ。
もう、僕の指にその片割れはしっかり嵌められているよ?何か分かったかい?
君が探し出して嵌めてくれることを願うよ。
こんな大事なものをいたずらに使うなんて・・・と怒るかもしれないね。
でも、僕は少し臆病者だった。直接渡す勇気がなかったんだ。
この航海の間、どんどん君への気持ちが膨らみ続けるよ。
指輪を嵌めてくれたなら君に言いたいことがある。
その言葉は、航海が終り、帰って君に直接言うよ。それまで、待っていて欲しい。
・・・じゃぁ、元気で」
宛名と差出人のところのインクが霞んでしまって読み取れなかった。
エンテル:「この隠したものって・・・婚約指輪?」
オズ:「たぶん・・・この文面からするとそうだろうな。しかし・・・」
エンテル:「この手紙は20年以上も彼女に届けられることがなかったんだ・・・」
エンテルの青い瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
オズが優しくエンテルの肩を抱いた。
オズ:「まだ、彼女は待ち続けているかもしれない。彼が生きていることを信じて」
エンテル:「じゃぁ、何か手がかりになるものを探そう!オズ!」
エンテルはそっと木箱に手紙を戻すと走り出した。オズもその後に続く。
手当たり次第、部屋のドアを開ける。
そこには、ものしかなく・・・衣類も手がかりにはならなかった。
エンテルたちは、忘れているだろう宝物も・・・。
何時間経っただろう・・・。
何も手がかりを見つけることができずに、部屋に二人は戻ってきた。
二人が、他の部屋で見たのは、ボロボロになった調度品の数々だけだった。
エンテル:「何も見つからなかったね」
オズ:「しかたがない。20年以上海の底だったんだから」
エンテル:「この木箱・・・ここから出してあげていいかな?」
オズ:「探すのか?彼女を・・・指輪を・・・」
エンテル:「わからない。何も手がかりがない。でも・・・ここで静かに眠るより、
より彼女の近くへ・・・と思って。もし、彼女に出会うことがあったら渡したいの」
オズ:「・・・そうか。大切にしろよ」
エンテル:「もちろんよ!」
オズ:「もう、日が沈む・・・帰ろうか」
エンテル:「そうだね・・・」
二人は船を降りた。
■冒険を終えて・・・
船から降りた二人は帰路についた。
オズ:「見つからなかったな」
エンテル:「何が?」
オズ:「宝物」
エンテル:「いいのよ。別に宝物が欲しくて行ったわけじゃないし。
何か新しい発見があるかな?と思って。でも、宝物よりすごいもの見つけたじゃないの」
オズ:「人の想い?」
エンテル:「そう人の想い。大事な・・・大事な・・・」
オズ:「そうだな」
そう返事するとオズはクシャクシャとエンテルの頭を撫でた。
エンテル:「どうしたの?」
オズ:「いや、なんでもない」
二人の間には暖かい雰囲気が漂っていた。
エンテル:「あ!白山羊亭のマスターに報告しなくっちゃ!」
オズ:「手紙を見つけたと?」
エンテル:「ううん。何も見つかりませんでしたって!安易に見せていいものではないし、
見ていいものではないもの・・・この手紙」
オズ:「じゃぁ、報告しに行こうか・・・何もなかったと」
エンテル:「うん!」
白山羊亭についた二人はマスターに報告した。
報告をしたのは、主にエンテルだったけれど・・・。
エンテル:「マスター!なぁんにもなかったよ!」
白山羊亭のマスター:「あぁ、そうだろうなぁ」
エンテル:「なんで分かったの?」
白山羊亭のマスター:「エンテルたちが行った後に聞いたんだよ。
その豪商、主に絹なんかを扱ってたんだと。
そんなの、20年も海の中にあったら風化してしまうからな」
エンテル:「そっかー。そうだったんだ」
白山羊亭のマスター:「ん?エンテル、なんでもっと早くにその情報を仕入れなかったんだ!
とか言わないのか?」
エンテル:「別に言わないよ?宝物があれば嬉しいけど、冒険したいだけだったからね!」
白山羊亭のマスター:「エンテルらしいな」
夕闇が迫った白山羊亭で、楽しげな声が響いた。
エンテルの腰に掛かった袋の中には、大事にしまった木箱が一つ。
オズは楽しそうなエンテルの様子を見て、微かに微笑んでいた。
END
○ライターより。
初めまして。ご注文ありがとうございます。
今回、沈没船ということでこういう締めくくりになりましたが、
いかがでしょうか?
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
書いている私は非情に楽しかったです。二人のプレイングなど楽しく読ませていただきました。
このお二人とは、もう少し冒険ができるので次回も頑張らせていただきます。
ありがとうございました!
古楼トキ
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