<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
ピクニックへ行こう♪
■〜Prologue〜
白山羊亭の客が少なくなってきたこの頃。連日続く陽気な暑さに誘われて、ふらりと旅に出るものが増えているらしい。今白山羊亭を埋めている客のほとんどが、旅帰りの者だ。
その中に少しだけ、これから旅に出る者が情報収集に来ている。地図がそこかしこに広げられていた。自分の目的地の場所を聞く者も多い。周りの冒険者達でもわからない場合は、店員に聞く。――案の定、大体分かっていない。
そこで商魂溢れる白山羊亭の店員・レイシィは考えた。
こういう時期こそ、日帰り旅行――すなわちピクニックはあたる!
「マぁスター、1日休みもらって、ピクニックに行きたいと思うんですけど、イイですかぁ〜?」
レイシィは承諾を得ると店内でポスターを作成し、参加者を募った。
こうして、行き当たりばったりのピクニック計画は始動した。
■〜Good morning〜
「うーんっ、ピクニックびよりっ!!」
身支度を終えて部屋の窓を開けると、日の出直後の日差しと空気が部屋に入り込む。思いっきり背伸びをし、深呼吸をするとさわやかな空気が肺に入り、なんだかすがすがしい。
まだ起きないペットのみるくをじっと見つめながら、そのアゲハチョウのような羽をついとつまむ。
「み゛ゅっ〜〜〜」
起きたのか、みるくがじっとリースをにらみつけた。いきなり羽をつまれて不機嫌らしく、ウサギに似た身体の毛を逆立てて、飼い主を威嚇する。
リースは口元だけ笑みを浮かべると、みるく専用と化したリュックに毛を逆立てたままのみるくを突っ込み、背負った。
「んじゃ、いってきますっ」
リースは、普段よりもいくらか軽装で部屋を出た。
集合場所は天使の広場。
朝早くの人通りの少ない中では、金髪蒼眼でとんがった耳を持つエルフは異様に目立った。まだレイシィの姿はなく、先日一度顔をあわせただけのセリア・パーシスに、リース・エルーシアはおずおずと近付いた。
「セリア! ……さん、おはよう……ございます」
「無理なさらなくてもいいんですよ? おはようございます、リースさん」
「なんっかむず痒いんだよ……さん付けが」
「すみません、こればかりは……」
お互いに会って間もないせいか、ぎこちなさが続いている。2人をつなぐレイシィの存在がほしいところががその時、レイシィは完全な寝坊をしていた。ただじっとレイシィを待つのもつまらないので、リースが沈黙を破った。
「――っ、セリアさん、やっぱり言いにくいからセリアって呼び捨ていい!? あたしは様付けでもなんでもかまわない!!」
「……っ??」
突然の話に、驚いたように目を見開いたセリアは、しかし口元を緩めた。
「ええ、いいですよ。リースさん」
一気に場が和み、リースはセリアが持っているバスケットに目をとめた。
「それは?」
「ああ、お弁当です。たいしたものは作れなかったのですが……」
「わぁっ、女の子っぽい! 楽しみだなっ」
リースがそういうと、1つテンポを遅らせたようにレイシィが登場した。普段よりもいくらか軽装の2人とおなじように、こちらも軽装だ。リースと同じようにリュックを背負い、手には地図を持っていた。
「遅れましたぁ〜〜ッ すみません!!」
「いいですよ、お気になさらず」
「うんうん、あたしたちも、ちょっと来るのが早かったんだ」
リースとセリアのフォローに、レイシィは胸をなでおろし、仕切りなおした。
「じゃ、行きましょうかっ」
ピクニックの始まりである。
■〜With a journey〜
レイシィによると、今回のピクニックはさほど冒険味を帯びたものではない。少し聖都エルザードから歩いたところに行くのだという。
「えーっとぉ、地図によるとこっち……かなっ、ついてきてくださぁ〜い」
レイシィのあとを追い、レイシィ・セリア・リースの順で、一行は洞窟の中へと入っていった。低い感じもする洞窟だが、中はさほど暗くなく、足元は明るい。3人とも標準的な身長なので、少しかがめば頭はぶつからずにすんだ。
「ひゃっ……」
リースが突然小さく叫び声をあげたと思うと、続いて頭をぶつけたらしい大きな音がした。岩に頭をぶつけたらしく、その場でうずくまった。
「どうされたのですか?」
「っ、頭に、……水、がっ、首筋にっ……」
「驚いたんですね。そういえばさっきから水の音がしますよね、ぴしゃんぴしゃんって」
長い耳をそばだてて、セリアはあたりを見回した。どうやら明るいのは足元だけなのか、頭上にはさほど光が届かない。
「大丈夫ですかぁ? 立てます?」
レイシィが手を差し出すと、リースは手を取って立ち上がった。セリアは今も耳を凝らし、周囲の音に気を配っていた。
「なんか、あったのかな?」
リースの声に、気付いたようにセリアは振り返り、何もないですよ、と答えた。その声は心なしか明るい。
「さっ、行きましょう」
セリアが先頭を切って歩き始めた。しかも早い。リースとレイシィはおいていかれないようにセリアについていった。ゴールは、近かった。
■〜In the place〜
洞窟から抜けると、真っ先に聞こえたのは鳥のさえずりだった。目の前に広がるのは小さな澄んだ湖。それだけみるとセリアはバスケットを置いて森の中へと走り去り、リースとレイシィだけが残った。
「……どうしたんだろ、セリア」
「本当に、ですよねぇ……お弁当、食べて良いってことでしょうか?」
「んーっ、ちょっと待ってよ? セリアならすぐ帰ってきそうだし。あたしもちょっと、この辺飛んでていい?」
言い終わるが早いか、リースは背中から羽を広げ、空中に身体を浮かべた。突然現れた翼に目を白黒させながら、レイシィは尋ねた。
「幻翼人、なんですか?」
真正面から肯定するのがなんとも言えず気恥ずかしく、ただ首を縦に振り、更に高いところへと身体を飛ばし、リースは森へと向かった。
湖近くの草原に1人残ったレイシィは呟き、ビニールシートをリュックから取り出した。あたりにそよそよと吹く風は人工物なのか、自然物なのか。
「……すごいなぁ……」
「どこにいるんだ? セリア……あっ」
緑の森の中で金色のそれを見つけたリースは、羽をしぼめながら降下し、セリアの前に着地した。
突然現れたリースに一瞬セリアは顔をこわばらせたものの、リースの足元に落ちる羽を見つけると、合点したように頷いた。
「……暮らしていた森から離れて久しいですから……思わず。鳥のさえずりや森の静けさは、どこでも一緒なんですね……」
呆然と呟くセリアをじっと見つめ、リースはいった。
「一緒にお弁当食べよう?」
「――ええ」
「こちらが卵のサンドウィッチで、そちらがハムのサンドウィッチ。エビフライにポテトフライ、それとから揚げ。飲み物は水とお茶と両方持ってきましたから、どちらか好きなほうを……」
「いい奥さんになるって、セリア」
「えっ、ええっ……」
リースの言葉にセリアが戸惑っていると、レイシィがから揚げを手づかみでとり、口の中に入れた。
「ふんっ、おいひいでふよっ」
「ほんと!? じゃ、あたしもっ……」
「ああっ、ココにフォークががありますからっ」
レイシィにつられて手づかみで食べ始めたリースに、セリアがフォークと紙製の皿を差し出す。一応受け取ったものの、リースにそれを使う気はないらしい。レイシィも同じだ。
苦笑いを浮かべながら、セリアもお弁当に手を付け始めた。
食事であるためか、会話も弾む。リースは思い出したようにリュックの中からペットのみるくを出し、自分が使わなかった紙製の皿に、みるくの食事をもった。最初はご機嫌ナナメで口をつけなかったみるくも、においをかぐとから揚げを1口かじった。
「みゅっ」
「みるくもおいしいって」
■〜Epilogue〜
日が傾き始めたのを合図に帰路へつくと、聖都についた頃はもう空が朱色へと変わっていた。集合のときと同じように天使の広場に集まると、一行は満足そうに円になった。
「はぁ〜たのしかった!」
「またいきたいですね」
「あそこ、カップルのデートスポットなんですけどね」
デートスポットに女3人でピクニック。なんともいえないな、と3人は笑いあった。
円の真ん中にレイシィが手を出すと、リースとセリアがその上に手を乗せた。3人で目配せすると、人通りの多い中で互いに渇を入れあう。明日からまた日常がはじまる。
「明日から、がんばりましょう!」
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■ この物語に登場した人物の一覧 ■
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< リース・エルーシア >
整理番号:1125 性別:女 年齢:17 クラス:言霊師
< セリア・パーシス >
整理番号:1087 性別:女 年齢:117 クラス:精霊使い
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。天霧です。
なかなか思うように筆が進まず苦労したのですが、
楽しんでいただければ幸いです。
リースちゃん……いっそのこと男の子扱いにした方が
いいのかそれでも女の子扱いした方がいいのか……
結局こんな感じになりましたが如何でしたでしょうか(^^;
ではでは、これからもよろしくお願いします。
天霧 拝
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