<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


ピクニックへ行こう♪
■〜Prologue〜
 白山羊亭の客が少なくなってきたこの頃。連日続く陽気な暑さに誘われて、ふらりと旅に出るものが増えているらしい。今白山羊亭を埋めている客のほとんどが、旅帰りの者だ。
 その中に少しだけ、これから旅に出る者が情報収集に来ている。地図がそこかしこに広げられていた。自分の目的地の場所を聞く者も多い。周りの冒険者達でもわからない場合は、店員に聞く。――案の定、大体分かっていない。
 そこで商魂溢れる白山羊亭の店員・レイシィは考えた。
 こういう時期こそ、日帰り旅行――すなわちピクニックはあたる!

「マぁスター、1日休みもらって、ピクニックに行きたいと思うんですけど、イイですかぁ〜?」

 レイシィは承諾を得ると店内でポスターを作成し、参加者を募った。
 こうして、行き当たりばったりのピクニック計画は始動した。



■〜Good morning〜
 窓から吹く風が、カーテンを揺らす。きちんとたたまれたベッドのシーツ。白いシーツの下に、くっきりと灰色の影がつく。
 部屋の住人はパジャマの上にエプロンをし、キッチンに立っていた。時々危うさを見せる手つきではあるものの、バンドエイドをしていない手は、鮮やかなまでに白い。
 キッチンの横にあるテーブルに置かれたバスケットには、エビフライとポテトフライ、から揚げが綺麗に並んでいる。そのわきには、バスケットよりも低めの水筒が2つ。
 セリアは大きめに切ったのサンドウィッチをその中に入れ、ふたをしめる。お弁当の完成である。
「早起きはやっぱり苦手だな、けがしなくってよかった……」
 じっと手を見つめながら言い終わるのと同時に、小さくあくびをする。パジャマから着替え、髪を結び、身支度を整えると、またバスケットの中を確認する。
「卵のサンドウィッチとハムのサンドウィッチ、エビとポテトとから揚げ。――煮物も入れればよかったかしら? 水筒の中には水とお茶を入れた……しっ」
 気がついたように棚へと歩き、その中から紙製の皿とプラスチック製のフォーク、ウェットティッシュを出す。ビニールの袋の中にひとまとめにし、バスケットのすみに入れる。これで忘れ物はない。
 セリアは家を出た。


 集合場所は天使の広場。
 朝早くの人通りの少ない中では、金髪蒼眼でとんがった耳を持つエルフは異様に目立った。まだレイシィともう1人の同行者の姿はなく、奇異な視線が浴びせられる。普段よりも軽い心と服装。
 本日2度目のあくびをしようかという瞬間、同行者のリース・エルーシアが姿を見せた。
「セリア! ……さん、おはよう……ございます」
 緊張によるものなのか、ギクシャクとした口調のリースに、セリアは言った。
「無理なさらなくてもいいんですよ? おはようございます、リースさん」
「なんっかむず痒いんだよ……さん付けが」
「すみません、こればかりは……」
 お互いに会って間もないせいか、ぎこちなさが続いた。2人をつなぐレイシィの存在がほしいところががその時、レイシィは完全な寝坊をしていた。ただじっとレイシィを待つのもつまらないので、リースが沈黙を破った。
「――っ、セリアさん、やっぱり言いにくいからセリアって呼び捨ていい!? あたしは様付けでもなんでもかまわない!!」
「……っ??」
 突然の話に、驚いたように目を見開いたセリアは、しかし口元を緩めた。
「ええ、いいですよ。リースさん」
 一気に場が和み、リースはセリアが持っているバスケットに目をとめた。
「それは?」
「ああ、お弁当です。たいしたものは作れなかったのですが……」
「わぁっ、女の子っぽい! 楽しみだなっ」
 リースがそういうと、1つテンポを遅らせたようにレイシィが登場した。普段よりもいくらか軽装の2人とおなじように、こちらも軽装だ。リースと同じリュックを背負い、手には地図を持っていた。
「遅れましたぁ〜〜ッ すみません!!」
「いいですよ、お気になさらず」
「うんうん、あたしたちも、ちょっと来るのが早かったんだ」
 リースとセリアのフォローに、レイシィは胸をなでおろし、仕切りなおした。
「じゃ、行きましょうかっ」
 ピクニックの始まりである。



■〜With a journey〜
 レイシィによると、今回のピクニックはさほど冒険味を帯びたものではない。少し聖都エルザードから歩いたところに行くのだという。
「えーっとぉ、地図によるとこっち……かなっ、ついてきてくださぁ〜い」
 レイシィのあとを追い、レイシィ・セリア・リースの順で、一行は洞窟の中へと入っていった。低い感じもする洞窟だが、中はさほど暗くなく、足元は明るい。3人とも標準的な身長なので、少しかがめば頭はぶつからずにすんだ。
「ひゃっ……」
 リースが後ろで突然小さく叫び声をあげたと思うと、続いて頭をぶつけたらしい大きな音がした。岩に頭をぶつけたらしく、その場でうずくまった。
「どうされたのですか?」
「っ、頭に、……水、がっ、首筋にっ……」
「驚いたんですね。そういえばさっきから水の音がしますよね、ぴしゃんぴしゃんって」
 長い耳をそばだてて、セリアはあたりを見回した。どうやら明るいのは足元だけなのか、頭上にはさほど光が届かない。
 光の来る方向へと意識を集中させると、動物の鳴き声がきこえる。途端、セリアの胸は沸き躍り、いてもたってもいられなくなった。
「なんか、あったのかな?」
 自分への問いかけのようなリースの声に、気付いたようにセリアは振り返り、何もないですよ、と答えた。さっき以上に緩んだ頬は、声も自然に明るくさせた。
「さっ、行きましょう」
 セリアが先頭を切って歩き始めた。しかも早い。リースとレイシィはおいていかれないようにセリアについていった。ゴールは、近かった。



■〜In the place〜
 洞窟から抜けると、真っ先に聞こえたのは鳥のさえずりだった。目の前に広がるのは小さな澄んだ湖。それだけみるとセリアはバスケットを置いて森の中へとその場を走り去った。あとに残された2人がどう思ったのかは知らなかったが、鳥が呼んでいる――その一心で、森へと、草の上を駆けた。


「暮らしていた森に、似ている……」
 足元で割れた小枝に、木の枝がかすかに揺れる。口笛を吹くと、肩に1匹の鳥が止まった。それを合図に、腕や手の甲にも次々と来る。聖都には似た種の鳥しかいなかったのに、今セリアに止まっている鳥たちは全て違った種の鳥だった。
 近くに見つけた『穴場』に、セリアは微笑んだ。
 と、鳥が一気に浮上し、風が巻き起こる。上を見上げると、羽を広げたリースが浮かんでいた。
 そういえば、と、酒場で聞いた話を思い出した。翼でもって空を飛ぶ種族――幻翼人――がいるらしい。希少の上普段は翼がなく、人間と変わりない容姿であるゆえ、見かけることは少ないらしいが……身近なところにいるものだと、セリアは頷いた。
 さがしにきたんだ、という体裁のリースに、セリアはちょっと言い訳してみた。
「……暮らしていた森から離れて久しいですから……思わず。鳥のさえずりや森の静けさは、どこでも一緒なんですね……」
 呟くセリアをじっと見つめ、リースは言った。
「一緒にお弁当食べよう?」
「――ええ」


「こちらが卵のサンドウィッチで、そちらがハムのサンドウィッチ。エビフライにポテトフライ、それとから揚げ。飲み物は水とお茶と両方持ってきましたから、どちらか好きなほうを……」
「いい奥さんになるって、セリア」
「えっ、ええっ……」
 リースの言葉にセリアが戸惑っていると、レイシィがから揚げを手づかみでとり、口の中にほおばる。
「ふんっ、おいひいでふよっ」
「ほんと!? じゃ、あたしもっ……」
「ああっ、ココにフォークががありますからっ」
 レイシィにつられて手づかみで食べ始めたリースに、セリアがフォークと紙製の皿を差し出す。一応受け取ったものの、リースにそれを使う気はないらしい。レイシィも同じだ。
 苦笑いを浮かべながら、セリアもお弁当に手を付け始めた。
 食事であるためか、会話も弾む。リースは思い出したようにリュックの中からペットのみるくを出し、自分が使わなかった紙製の皿に、みるくの食事をもった。最初はご機嫌ナナメで口をつけなかったみるくも、においをかぐとから揚げを1口かじった。
「みゅっ」
「みるくもおいしいって」



■〜Epilogue〜
 日が傾き始めたのを合図に帰路へつくと、聖都に到着した頃はもう空が朱色へと変わっていた。集合のときと同じように天使の広場に集まると、一行は満足そうに円になった。
「はぁ〜たのしかった!」
「またいきたいですね」
「あそこ、カップルのデートスポットなんですけどね」
 デートスポットに女3人でピクニック。なんともいえないな、と3人は笑いあった。
 円の真ん中にレイシィが手を出すと、リースとセリアがその上に手を乗せた。3人で目配せすると、人通りの多い中で互いに渇を入れあう。明日からまた日常がはじまる。
「明日から、がんばりましょう!」



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■    この物語に登場した人物の一覧     ■
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< リース・エルーシア >
整理番号:1125 性別:女 年齢:17 クラス:言霊師

< セリア・パーシス >
整理番号:1087 性別:女 年齢:117 クラス:精霊使い



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■        ライター通信         ■
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はじめまして。天霧(あまぎり)です。
礼儀正しい元気なお姉さんというインプットで書いたのですが、
いかがでしたでしょうか?
なにかありましたら、気軽に言ってください(^^


ではでは、これからもよろしくお願いします。
天霧 拝