<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
<Minstre-L>夏休み?
★オープニング
ソーンも夏になり、自然と街の人々の服装も薄着になる頃。
白山羊亭でも、いつも以上に暑く忙しい日々が連続していた。
「暑いですねぇ……私、ちょっとばててきましたぁ……」
ウェイトレスのバイト中のファリア・ウェヌスも、その暑さと忙しさに既にばてばてである。
「ファリアちゃん、大丈夫? ……確かに暑いけど、そんなだらけてちゃお客さんもだらけちゃうよ? さ、がんばろっ♪」
マスターの娘のルディアが励ましてみるが、もちろんファリア自身も暑さに参っていたりする。
その夜、ルディアはマスターに、それとなしに話しかけた。
「マスター、ねぇ、今度ファリアちゃんと一緒に湖に行きたいな♪ 暑いんだし、私たちも夏休み欲しいの♪」
「夏休みねぇ……確かに、今まで忙しかったし、もうそろそろこの忙しさもひと段落する頃だから別に構わないよ」
「え、本当にいいの? マスターありがと♪」
と言って上機嫌でルディアはファリアへとその話を伝える為に走る。
そんなルディアの姿を見ながら、マスターが君達を手招きをする。
「……さすがに店を開けるわけにはいかないから、皆にお願いするよ。ルディアとファリアに事故が起こらないように、一緒についていってくれないか?」
子供を心配する親の心境が、痛いほど伝わってくるマスターの依頼だった。
☆誘う者と誘われる者?
街を走る、一人の少女と一匹のウサギに似た生物。
「みるくっ! 早く早く〜っ!」
「みゅぅぅー」
みるくと呼ばれた、ぴょこんぴょこんと跳ねる、ウサギに似た生物……アゲハチョウのような羽が背中に生えている。
「今日こそは絶対にフィーリを誘うんだから〜っ!」
「みゅぅ〜」
恋に燃えている女の子、リース・エルーシアは、片思いの男性のフィーリ・メンフィスの所へと走っていく。
リースからは猛烈なアタックをしているけれども、鈍いフィーリはそれに気付いていなかったりする。
片道通行の恋は、なかなか先に進展しないもの……なのかもしれない。
そしてフィーリの家に到着するリース。
出てきたリースと子供の竜のジーク。
リースはフィーリの手をぎゅっと握って、目を見つめながら。
「フィーリ! ねぇねぇ、明日あさってと一緒に湖に泳ぎに行かないっ?」
と、リースは、フィーリを湖に誘う。
夏なのに暑苦しい格好をしている、幼馴染のフィーリを心配(?)するように装って。
対してのフィーリは、子竜のジークに食べ物を食べさせながら、少し面倒くさそうに。
「湖……? まぁ、明日明後日も特に予定は無いけれど……ちょっと面倒くさいよ」
「ファリアちゃんとルディアちゃんが行きたいんだって。 ね、皆で一緒に行こうよっ♪」
ファリアと聞いて、子竜のジークがぱたぱた羽ばたく。
ぱたぱた羽ばたき、フィーリの頭上をぐるぐるり、そしてフィーリの肩へと降りて、何やら「きぃきぃ」鳴き始めると。
「ジーク? ……ジークも、泳ぎに行きたいの?」
「きぃぃ〜」
頷くジーク。ジークとリースの二人に誘われたフィーリは、別に断る理由も見つからず。
「そう……分かった。 それじゃ、付き合うよ」
「わーい♪ フィーリありがとうっ!」
むぎゅっと抱きつくリースに、苦笑いを浮かべるフィーリ。
フィーリは未だに、リースが自分に好意を寄せているなどと思っていなかったのであった。
「この水着どうかな〜? それともこっちがいいかな〜?」
アルマ通りにある、水着を売る店へとやってきて水着を選ぶリース。
水着をとっかえひっかえ着替えて、自分に合うのを探し続ける。
「明日は、絶対にフィーリに自分を見てもらうんだからっ♪」
水着を手にして、リースは更に燃え上がっていた。
という訳で、陽は落ちてまた登る。
白山羊亭に集まった面々。
「それじゃ、行ってくるね〜♪」
手を振るルディアとファリア。
心配そうに送り出すマスターの顔が印象的であった。
★煌めく湖
「フィーリ、ほら、見てみて♪ 新しい水着、どうかな〜?」
昨日新調した、赤いワンピースの水着を見せるリース。
「明るい色だね……リースに似合ってて、いいと思うよ」
「ね、ね、そうでしょ? フィーリの為に買って来たんだよっ♪」
リースの片思いの相手、フィーリにそう言われてとても舞い上がるリース。
一緒に泳ごうとするリースを適当にあしらい、木陰に座って、皆の様子を眺めるフィーリ。
そんなフィーリを、子竜のジークがつんつんつつく。
「ジーク? ……ファリアさんの所に行きたいの? うん、いいよ。行ってきな」
フィーリの言葉に、ジークはテント等を準備しているファリアの所へと飛んでいく。
「……ジーク、ファリアさんを気に入ったみたいだね」
飛んでいくジークの後姿を見ながら、フィーリはちょっとだけ呟いた。
「ルディアさん、行って来ていいですよぉ? 準備は私がしておきますからぁ」
「本当? わーい、ファリアちゃんありがとうっ♪ それじゃ泳いでくるね〜♪」
テントの準備をするファリアにそう言われて、いそいそと水着に着替えて湖に遊びにいくルディア。
でも、テント張りはさすがに女の子一人じゃ大変。
「ファリアさん、僕も手伝いますから」
「私も手伝いますよ」
レアル・メイフォードと、セリア・パーシスの二人がファリアを手伝い始めた。
そこにファリアと一緒に遊びたい子竜のジークがやって来て、大変そうなファリアを見ると、道具を運んで着たりする。
ジークなりにファリアのお手伝いをしたかったようで、ファリアもジークの頭を撫でてあげたりして微笑んでいた。
少し時間は掛かったものの、無事にテントを張り終えると。
「皆さんありがとうござ……ぁぅ」
既に水着になっていたセリアとレアル。
セリアの薄い緑色の水着と、レアルの逞しい身体が目に入って、顔を赤くしてしまうファリア。
「ほら、ファリアちゃんも水着に着替えましょうか」
セリアがそれを察して、ファリアを着替えに連れて行った。
勿論、ファリアが着替えてるときに、セリアは何かとファリアの耳に触ろうとしていた……らしい。
「……本当に、気持ちいいですね」
エンテル・カンタータは、ルディアと一緒に泳いだり水に浮かんだりして楽しんでいた。
「うん? 何だかエンテルさん、元気が無いけどどうしたの〜?」
「え? ……ちょっとだけ、その……なんでもないですっ」
ルディア自身なんとなく分かっていたし、深く聞こうとも思わず。
「せっかくここまで泳ぎに着たんだから、目一杯楽しもうよっ♪ ねっ?」
とルディアはエンテルを励まし、水着を着たファリア達の所へと泳いでいく。
子竜のジークは、ファリアから離れないように、と犬掻きで泳いできていた。
飛べばいいのだが、ジークはファリアと遊びたいから、という事で泳げもしないけれども必死に犬掻きでファリアについてきていた。
そんな危なっかしいジークの泳ぎ方を見ていたのはみずね。
ファリア達のお守りをマスターから言われ、ついてきた彼女が、はらはらしながらジークの姿を見つめる。
「……いつでも助けにいけるよう、準備しておいたほうがよいかもしれませんね」
と、いつでも泳げるように準備をするみずね。
でも、それ以上にはらはらしているのはフィーリ。
泳いでは沈み、泳いでは沈むジークの姿を見ながらも。
「……泳げないのに、無理をしなくてもいいのに……」
と呟かざるをえなかった。
そして、あっという間に時間は経ち、そろそろ夕方という頃。
空が暗くなり、眠くなった羽ウサギのみるくを、リースは寝かせようと自分のテントへと連れて行く。
「おやすみなさいですぅ♪」
「みゅぅぅ……」
ファリアがみるくの頭を撫でると、みるくは羽を僅かにぱたぱたと羽ばたかせてそのまま眠りに着いた。
★夜の炎
「あの星座は……フェニックス座、そしてあそこにあるのが……パピヨン座なんですよ」
夜になり、星が瞬き始めた頃。
エンテルは、提案した小さいキャンプファイヤーの周りに皆を集めて、空に瞬く星座を一つ一つ指しながら、星座の名前を話していた。
燃える炎越しに見る星空。陽炎のようにゆらゆらゆれるその星空は、どことなくロマンティックな感じを出している。
「へぇ……いろいろな星があるんですねぇ」
「ええ。 ファリアさんの守護聖獣は何でしたっけ?」
「私ですかぁ? えっと……エンジェルですぅ」
「エンジェルですか。 えーっと……」
立ち上がって、空を見渡すエンテル。
地の端に、その星座を見つけると。
「あ、あれですよ。 ファリアさんの守護聖獣、エンジェル。 エンジェルの形をしているでしょう?」
エンテルが指差した先の星空をつなぐと、天使の頭の輪の形が現れる。
「わー、本当ですぅ♪ 面白いですねぇ、星座って……」
「今は地の端にありますから、街に居たらあの星、見ることは出来ませんね……よかったですね、自分の星座を見れて」
とエンテルがファリアに微笑む。
その時。
「バーベキューの準備、出来ましたよ〜、皆集まってください〜♪」
バーベキューの準備をしていたセリアとレアルが皆を集める。
「たくさんありますから、皆様も遠慮しないで食べてくださいね」
と、セリアの隣に山のように盛られた肉と野菜。
どうみても、10人分以上あるその量。
「もっとたくさんの人が来ると思って、一杯用意しすぎてしまいました、てへっ」
舌を出して照れてみせるセリアがそこにいた。
「ほら……ジーク、ちゃんと食べれる?」
「きぃぃ〜」
「大丈夫よ、私が食べさせてあげるからっ。ね、ジーク♪」
肉を取り、ジークに食べさせるリース。
その食べる仕草がどことなく可愛いくって、それを見たファリアも。
「本当にジークちゃんも可愛いですねぇ……私のも一枚、ジークちゃんにあげますぅ♪」
「きぃぃ〜〜♪」
嬉しそうに翼を広げるジーク。ファリアに食べさせてもらって、更に羽を広げる。
「ジーク、喜んでるみたい。 ファリアさんの事、ジーク気に入ったみたいだね」
とフィーリがにこやかに話す。
「そうですかぁ? 私もジークちゃんの事、大好きですよぉ♪」
ジークの頭を撫でるファリア。気持ちよさそうに目を閉じるジークを、更に可愛く感じる。
その後、ファリアはその場を立ち去る。その場には、リースとフィーリの二人きりになった。
けれど、まだリースの恋心に気づかないフィーリ。フィーリがリースに振り向くのは……まだ遠い事なのかもしれない。
その後も、キャンプファイヤーの下で色々と歓談をしながら、夜は更けていった。
「私が火を見張っておきますので、皆様はごゆっくりお休みくださいませ」
とみずねが微笑む。
「みずねさんは、休まなくて良いのですか?」
「ええ。 そんなに私、疲れておりませんので。 皆様は泳いで疲れたでしょう? だから、ここは私にお任せ下さいませ」
諭すような言葉には、レアルは何も言う事も出来なく、みずねを除く皆は各自のテントへと入っていく。
「ふぅ……でも、本当にいい星空ですね。 ……海の中に居る時には、ちゃんと見ることも出来ませんでしたし」
と、みずねは一人星空を眺めながら物思いに耽っていた。
★輝く小さな宝石達
朝。
小高い丘の上にある湖は、まだ朝もやがかかり、幻想的な雰囲気。
そんな中で、小鳥たちがちゅんちゅんと鳴き、寝ている者達を優しくその歌声で揺り起こしていた。
セリアとファリアの準備した朝食を食べながら、皆はお別れする湖を眺める。
きらきらと輝く湖。
「夏も、これで終わりですねぇ……たった一日だけでしたけど、本当に楽しかったですぅ。また来年もここに来たいですねぇ……」
「そうね、リフレッシュしたんだし、帰ったらパパの為にもがんばって働こっ♪ そして来年も皆で来ようね♪」
ルディアとファリアがそんな話をしていると。
「ん……?」
ジークが湖の方向を向いて、そっちを凝視する。
「どうしたんでしょうか? ジークくんは」
と言って、みずねもそっちの方を見る。
その時。
<バシャァァァン!>
盛大な音と共に水面を跳ねる、たくさんの小魚達。
朝もやの中、銀色の身体が陽の光に映える。
「うわぁ……本当に綺麗……」
跳ねる小魚達は、ファリア達の帰りを惜しむかのように、朝もやが消えるまでずっとずっと飛び続けていた。
白山羊亭に戻ってくるファリアとルディアの御一行。
ルディアがマスターに向けて駆けていき、マスターへの第一声。
「マスター、ただいまーっ♪ お休みありがとう♪ 本当に楽しかった〜♪」
むぎゅっとマスターに抱きつくルディア。それを微笑みながら抱きとめて降ろす。
二人の顔がとっても明るくなっているのを見て、マスターは。
「みんなリフレッシュ出来たみたいだね、本当に良かった。 さ、今日の夜からまた頑張ろう。 二人居ないだけでも、結構大変なのが良く分かったし、さ」
頬をぽりぽりと掻くマスター。ウェイトレス二人が居ないだけでも、結構大変だったらしい。
「そうだったんだぁ……マスター、ごめんね。今日からは頑張って働くから♪」
「うん、宜しく頼むよ……」
そう言って、奥へと消えていく二人を見送りながら、マスターはみずねの所へ向かう。
「ご心配なく。 ファリアくんも、ルディアくんも怪我無く、トラブルも起こることも無かったですよ」
「良かった。 ……まぁ、リフレッシュしてくれたんだから、僕自身も頑張らないとね。 みんなお疲れ様。ルディア達の事、これからも宜しく頼むよ」
とマスターは頭を下げた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
〜MT13・竜創騎兵ドラグーン現代編〜
【1119 / レアル・メイフォード / 男 / 19歳 / グライダーパイロット】
〜SN01・聖獣界ソーン〜
【1112 / フィーリ・メンフィス / 男 / 18歳 / 幻翼人】
【1125 / リース・エルーシア / 女 / 17歳 / 言霊師】
【0925 / みずね / 性別 / 女 / 風来の巫女】
【1087 / セリア・パーシス / 女 / 117歳 / 精霊使い】
【1284 / エンテル・カンタータ / 女 / 17歳 / 女騎士】
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■ ライター通信 ■
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どうも皆様お待たせいたしました、燕です。<Minstre-L>夏休み? お届けいたします。
暦の上では既に秋になってしまいました。(汗)
夏は夏であまり暑くなる事も無く、むしろ寒い夏でしたが、皆様身体を壊さぬよう……。
私自身も気をつけます。(汗)
それでは、また次回もソーンの世界で会えることを……。
>リース・エルーシア様
片道通行の恋愛、書かせていただきました。それと共にみるくちゃんも、思いっきりかわいく書かせて頂きました。
今後、片道通行の恋愛が両想いになれるよう、隠れて応援させていただきます♪
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