<PCクエストノベル(2人)>


 海底探検ツアー〜海人の村フェデラ観光〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 /   名前    /  クラス  】
【1265 /  キルシュ   /ドールマスター】
【1054 /フィロ・ラトゥール/  武闘家  】

【その他登場人物】
【案内の青年/観光ガイドのバイト】
【イルカ  /観光ガイドのバイト】
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 聖都エルザードより北西に広がる海の比較的浅い場所に、フェデラと呼ばれる村が存在するという。フェデラは海上の都市との交流が盛んであり、観光名所として注目されつつある。
 キルシュとフィロ・ラトゥールが知ったのも観光ガイドブックからだ。旅館に置いてあった「エルザード観光ガイド」をパーティに見せ、行きたいというものの、男性陣は首を縦に振ろうとはしなかった。
 その理由が「半漁人になるのは嫌だ」というのにあまりなっとくがいかなかったが、2人は腰抜けの男どもをおいて、フェデラへ観光に行くことにした。
 フェデラ行きの船は港にでなく、街のはずれにある灯台下の砂浜が待ち合わせらしい。これは恐らく観光客が船をのり間違えないようにするための配慮だろう。

キルシュ「わぉ、きれいな海―っ♪」
フィロ 「ずいぶんと向こうまで見えるもんだねぇ。お? 何かな、これ」
 
 傍にあった水たまりの中をはっていたカラフルな生き物を拾い上げるフィロ。とたん、生き物はぬるりとフィロの手から逃げだし、水たまりへと戻っていった。粘液と海水を手で拭いながら、フィロはまゆをひそめて呟く。

フィロ 「うわっ! ぬるぬるして何か気持ち悪いなぁ、これ」
キルシュ「姐様……それ、もしかして『ウミウシ』ってやつじゃ……?」
フィロ 「ウミ……? 『ウシ』なら食べると美味いかもね」
キルシュ「でもその色おいしそうには見えないよ……」

 などと会話をしていると、手漕ぎボートに乗った麦藁帽(むぎわらぼう)の青年がやってきた。

案内の青年「フェデラ村に行きたいのはあんた達だね? 村へはこの船に乗ってしか行けないよ。さあさ、乗った乗った」

 言われるまま、2人は船に乗り、簡易テントの中で水着へと着替える。用意されていた「水中呼吸薬」と「ふやけ防止塗り薬」を全身に塗りたくり、後は船が素もぐり地点に到着するのを待つばかりだ。「人間」の案内人はこの船で村にもっとも近いところにまで案内するのが役目で、そこから先は魚人達が観光めぐりの手伝いをしてくれる手はずになっている。

キルシュ「わー、すごい。お魚が一杯だぁー!」

 キルシュは船から身を乗り出すように海の中を覗き込む。いつの間にか、船の下には小さな魚達が集まってきていた。髪をまとめあげながら、フィロも楽しげに海を覗き込んだ。

フィロ 「へぇ……ずいぶんと集まってくるもんだね」
案内の青年「この辺りの魚は観光用に餌付けされてるからな。あんた達も餌をやってあげるといいよ。ほら、そこのたるの中に入ってるやつを放りこんでごらん」
キルシュ「この小魚?」

 たるの中には小さなエビがたくさん泳いでいた。ひしゃくですくい辺りに振り
まくと、小魚達が一斉に集まり、奪い合うように餌に飛びついてきた。

キルシュ「うわっ……すご……」
フィロ 「……まさに弱肉強食ってやつだね……」
キルシュ「えいっ、もう1回っ」
フィロ 「……今なら釣竿いれたら入食い状態だろうね」
キルシュ「……姐様、釣るの?」
フィロ 「残念ながら道具を持ってきてないんだよ」
キルシュ「そっか。よかったね、お魚さん達。釣竿あったら全部姐様につられてたところだよ」
フィロ 「こらこら、私でもそこまでは釣れないよ」

 しばらくして、船は海の真ん中にぽつんと浮かぶ像の隣に泊められた。つなぎ目が何処にも見当たらなく、どうやら自然の岩から掘り出したもののようだ。恐らく、村へ入る目印として掘り出されたのだろう。

案内の青年「この像の足元に村への入り口がある。そんなに深くないからすぐに着くとおもうよ。気をつけていってきな」

 案内人の言うとおり、像のある岩にそってもぐるとすぐに村の入り口が見えた。色とりどりの魚達が彼女達を出迎えるかのように泳ぎ回る。久しぶりのお客に魚達は興奮ぎみになのか、キルシュの肌をつつき、岩陰の向うへと導いていく。

キルシュ「やっ、くすぐった……! え、何々?  あっちに何かあるの?」
フィロ 「あんまり遠くにいっちゃだめだよ」
キルシュ「大丈夫、すぐ戻ってくるよー」

 魚達に連れられてキルシュは岩陰の向こうへと泳いでいった。程なくして、村の案内係のイルカが2人を迎えにくるが、キルシュの姿が見えず不思議そうに行方を尋ねてきた。

フィロ「ああ、もう少ししたら戻ってくるよ。あっちに面白いものがあるんだとさ」
キルシュ「ただいまー♪ 姐様みてみてっ、向こう側すごくきれいだよ!」

 丁度フィロの言葉が終わるや否や、キルシュが小さなサンゴを抱えて戻ってきた。まばゆいばかりの桃色に輝く珊瑚には、きれいな貝もついている。

フィロ「へえ、綺麗じゃないか。ひとつもらうよ」

 ひょいと受け取り、フィロは何気なく頭にサンゴを飾りつける。黒髪に映える赤い珊瑚にキルシュは思わず感嘆の息をもらした。

フィロ「ん? どうしたんだい?」
キルシュ「えっ……ううん、なんだかそうしてると人魚姫みたいだなぁって」
フィロ「ははっ! お世辞にも程があるよ。それより、早く行こうじゃないか。さっきから案内人が待ちわびてるようだしね」
キルシュ「はいっ♪」

 初めてのフェデラ訪問とあってか、当初はもう少し深いところまで行く予定だったツアーも、村を出てすぐの海底神殿跡の散歩へと変更されていた。と、いうのも、いくら薬の保護を受けていたとしても深い海では水圧や水の精霊の力によって、いわゆる潜水病に近い状態になるらしい。
 イルカの背に乗り、2人はのんびりと海底神殿を見て回った。すっかり観光スポットとなったここも、昔は荒れ果てたただの遺跡跡だったらしい。今は補修工事もされ、昔の栄華を目で楽しむことが出来るまでに復元されている。

キルシュ「海に沈んだ神殿か……ね、中は覗いちゃだめなの?」
イルカ 「キュイキュイ(危ないから入っちゃだめだと言われてます)」
キルシュ「そこをなんとかっ! だめ?」
イルカ 「……キュ(だ、め)」

 海底神殿の中心部に人魚の像がある小さな舞台があった。海底に沈む前、海の恵みを感謝する舞がここで披露されていたらしい。その証拠に、今もなお水の精霊達が風の精霊達とまじって満月の夜に舞を踊りに来ている。丁度満月の日であったため、こっそりと神殿の陰から覗き込むと、水の低級精霊達が海水を氷結させて海に淡い雪を降らせているのが見られた。
 藍色に近い暗い海に、ぼんやりと降り積もる雪はまるで幻影をみているかのようだった。
 
フィロ「いつもああして集まっているのかい?」
イルカ「キュイキュキュ(どうです。ああやって海の平和を祈っているそうですよ)」
フィロ「私達も参加出来ると面白いんだけどねぇ……」
イルカ「キュキュ!(それは駄目です! 神聖な舞台に人は上がったら精霊達がこられなくなります!)」
フィロ「そんなものかい? 大丈夫だと思うけどねぇ」
イルカ「……キュ、キュキュイ(……じゃあ、あの中に飛び込んでみますか?)」
フィロ「……寒そうだし、遠慮しておくよ」

 その後、しばらく神殿周りや珊瑚礁をみてまわった。海上で星が輝きはじめる頃、薬の効果も切れ始め少し息苦しくなったため、ツアーはそこで終了となった。
 海上で待っていた船に上がると、どっと疲れが2人に襲いかかる。

フィロ「こ、れが……噂にきいてた薬の副作用ってやつかね……」
案内係の男性「いえいえ、普段使わない筋肉を使った疲れだよ、水中では全身の筋肉を使うからね。明日一日はゆっくりと宿で身体を休めるのをおすすめするよ」
キルシュ「はーい……」

 いつの間にか空は美しい星々で満ちていた。雲ひとつない美しい星々の中、2人を乗せた船はゆっくりと港町へと進んでいく。

 後日、少々誇張させてメンバーに土産話を話したところ、次は男だけの遺跡探検ツアーに行くとの声が上がった。

フィロ「やれやれ、所詮は物欲ってところかね」
キルシュ「でも、またあの綺麗な景色を楽しめるならいいかな」
フィロ「それもそうだね」

 にっこりと互いに微笑みあうキルシュとフィロ。 
 2人の胸元には珊瑚と真珠で作ったペンダントが小さく揺れていた。

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文章執筆:谷口舞