<PCクエストノベル(2人)>


アクアーネの多忙なる一日

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1075 /セレネ・ヒュペリオン /元王宮魔導士】
【1099/レン・ブラッドベリ/賞金稼ぎ】
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●水の都アクアーネ

 そこは観光都市としても有名な村、アクアーネ。
 村の中には運河が幾重にも作られ、その中をゴンドラで渡っていく商人達の姿も有名だ。
 人通りも多くとても賑やかなその街で、颯爽と歩いていく金髪に青い目の美しい女性が一人。
 手も足も長く、豊満なバストにくびれたウエスト、美しいラインの下半身を持つ抜群のスタイルに、目鼻だちの整った、意思の強そうな美人。
 誰もが振り返らずにいられないその美貌の彼女は、何故か苛立ちを浮かべた表情で、道の脇に並ぶ屋台にも目もくれず、歩き続けていた。

セレネ「……まだついてきてるね」

 この村に入るか入らないかのところから、ずっと彼女をつけてきた影。
 気づかないわけがなかった。しかも、人の多い市場近くに近づいてからというもの、その追っ手は確実に数を増やしているような気もする。
 狙いは……やっぱりこれか。
 服の上から胸元に手を当て、そこに隠してある何かに触れるセレネ。
 その先から妙な視線を感じ、前方を睨みつける。
 そこにも不審な男達が数人、セレネの方を見ていた。

セレネ「あっちもかい? ……キリがないねぇ」

 呟くと同時に、ひらりと舞うように身をわき道にすべらせるセレネ。
 彼女をはさみ撃ちにしようとしていた男達は一斉に駆け出す。しかし、彼らがわき道を覗いた時には、もう彼女の姿はその先の通りへと消えていた。

 息を切らしながら走り続けるセレネ。
 その姿は水路の脇の細い道にあった。
 ここならばあまり人目につくこともあるまい。彼女は息を吐きながら、回りを見渡した。
 市場からは何筋か離れた裏通り。すっかり住宅街である。人気も少なく、歩いているのはこの辺りの地元の人ばかりだろう。
 だが。
 水路の先にかかる大きな石橋のところに人の囲みができているのが見えた。

セレネ「何……だい? ありゃ」

 彼らは熱心に橋の上からその下を覗き込んでいる。
 そしてやんややんやと騒いでいた。首を傾げつつ、ゆっくりと立ち止まるセレネ。
 人の多い場所は避けたいという思いはあったが、野次馬根性も彼女が持ち合わせて生まれたものの一つだ。
 よく見ると、橋の下では、その橋げたの台のところに子猫が何故か取り残されて、声を上げて鳴いてるのだった。
 どうも木組みをつたって遊んで降りたのか、それとも心ない人が船からそこに放ったのか、もしくは捨て猫として上流から流されたのがその橋ゲタに引っかかったか。
 自力では既に陸に戻ることも出来ず、子猫は水におびえながら頼りなく鳴き声を上げるしかない。
 そして人々はそれを心配して、橋の上でオロオロとするばかり。

セレネ「平和なもんだねぇ……」

 頭をかいてセレネは素直な感想を述べる。
 子猫のことであれだけの人々が足を止められる。この村の人々は揃ってお人よしなのかもしれない。
 誰かが水に飛び降りたのか、水音と共に大きな歓声が上がる。
 セレネはなんとなく立ち止まり、もう一度見やった。そして、深い水路の中をざぶざぶと泳ぐ男の姿を半分呆れ顔で見やる。
 どこかで見たことのあるような……。
 子猫の元にたどり着く男。濡れた鶯色の髪が見えた。
 がっしりとしたスマートな腕の中に子猫を濡れないように抱えながら、再び陸を目指してざぶりざぶり。
 やはり、どこかで見たことがあるような気がする。

セレネ「……まさか、レン・ブラッドベリ?」

 茫然としたままセレネは、彼の名を口にした。
 

●酒場にて

 レン・ブラッドベリは、その日、村人達から熱い歓待を受けた。
 村の英雄!と、酒場のマスターは上等な酒を「奢りだぜ、飲め」といって、レンのカップに注いだ。

レン「いや……そんなことは……。俺はただ困ってる猫を救いたかっただけで……」
子猫「にゃおーん♪」

 その猫は彼の膝の上で丸くなっている。すっかり懐かれてしまったようだ。
「今日び、なかなか出来ることじゃないさ、兄さんよ」
 橋の上からついてきた男の一人が酔った赤い顔で、レンに言う。
 そうかなあ、とまんざら悪い気分ではないが、ちょっと大げさかも、と心配になってきた。

???「なかなか素敵だったねぇ、とくと見物させていただいたよ」


 艶っぽい声が、レンの隣の席にグラスを置いた。
 白い透き通るような手が、続けてカウンターに乗せられる。

レン「いや、当たり前のことをしただけだから……って、セレネ!!」
セレネ「あら、気づいちゃったかい?」

 口元に手のひらを当て、セレネはクスクスと笑った。
 レンとセレネ。それほど付き合いが長いわけではないが、顔見知りの間柄である。
 つまらない者に出会ってしまったというような、渋い顔でレンは彼女を見やった。
 揉め事を呼ぶ女。
 レンの中でのセレネの位置である。
 この女と共に歩けば、予想もしていなかった小競り合いといくらでも仲良くできる。

セレネ「いやだねぇ。何よ、その顔は」
レン「……できれば見なかったことにしたい」
セレネ「もう……、ね、あんたに頼みがあるんだけどさ」
レン「断る」
セレネ「……」

 けんもほろろ、とはこういう事だろうか。
 しかし、セレネには秘策があった。
 耳元に口を近づけ、手のひらで隠しながら、そっと告げる。

セレネ「実はすごいお宝手に入れたんだよ。おかげで、いろんな奴らに狙われてさ。頼むよ、ボディガードとして付き合ってもらえないかい? 報酬はこのお宝の半分。悪くないだろう?」
レン「……お宝?」
セレネ「詳しくは上で話すよ。この酒場に宿をとったから」
レン「……」

 レンは苦い顔で彼女を見上げた。
 なんだかすごく嫌な予感がした。だけど、関わらずにはいられない女でもあった。


●宿屋にて

 酒場の上にある部屋。
 ちなみにレンは酒場の主の手配で、いちばん上等の羽根布団の部屋を用意されていた……、が、そこはセレネがとったこじんまりとはしているがそんなに悪くない部屋の中。

セレネ「……アクアーネの西にある最近発見された遺跡……知ってるかい?」
レン「ああ。……こないだ調査隊が引き上げたばかりの……」
セレネ「それだよ、それ」

 セレネは胸元に手を突っ込むと、何かを探すようにもぞもぞと弄った。
 その様子に一瞬頬を赤らめてみたりするレンだが、彼女が胸元から取り出した紅玉の指輪を見て目を丸くする。
 セレネはゆっくりとその宝石を手に入れたいきさつを話し始めた。

 新しい遺跡が発見されたという報は、ソーンにも行き届いていた。
 またこの遺跡を探索して欲しいという冒険者への依頼もいくつも届くはずだった。
 それを期待して、セレネはこの村を訪れたのだった。レンも多分同じ理由だったろう。
 村は賑やかで、冒険者の数もけして少なくない様子であった。仕事用の登録を済ませようかと村をぶらついていた時、彼女はたまたま、それを『拾った』。

レン「……拾った? 本当だろうな」
セレネ「本当だよ、変なところで人の話の骨を折らないでくれよ」
レン「いや……そこはかなり重要だと思うぞ?」
 
 話を続けると、彼女はそれをまず、鑑定に出すことにした。
 鑑定に出した結果で「これは○○番地の奥様のものですな」とか言われると困ってしまうので、指輪の台座は変えておく。
 すると。

セレネ「鑑定士が言うにはね、この紅玉石には魔法がかかっているそうなんだ。この魔法は、この村の西の遺跡に関わるものじゃ。多分そこでこの石は大きな意味を持つ、ですって」
レン「……ほぅ」
セレネ「……信じるかい?」

 青い美しい瞳に至近距離から見上げられ、いささか表情を赤らめつつも、レンは「んー」と顎をかいた。

レン「いろいろと無理のある話だな。……というか罠だな」
セレネ「やっぱりそう思うかい? そしてね、この石を手に入れてからというもの、毎日、追っ手がついてくるようになっちまって」
レン「……追っ手?」
 
 レンの表情が変わった。
 セレネはああ、と瞬きをしつつ頷く。

セレネ「狙いはこの紅玉以外には無いと思うんだけどね……、もう寝る間も惜しんでつけてきやがって」
レン「……なるほどな」

 軽く息を吐き、レンは立ち上がった。
 そして、部屋の入り口の扉の前に立つと、一気に背中に抱えた蛮刀を扉ごと振り下ろした。
 破裂するように破壊される扉。そして折れ曲がった扉の向うに二、三人の若者がひっくり返ってる。

セレネ「……!!」
レン「……寝る間も惜しんで、ついてきてたのさ。……後は任せた」

 そのまま呆れたように自分の部屋へと戻っていこうとするレンをセレネは慌てて呼び止めた。

セレネ「このドアの弁償代、どうしろっていうんだい!!」


●ゴンドラの上で

 翌日。
 セレネとレンは、遺跡に向かう道にいた。
 といっても、ゴンドラの上なのだが。
 街道を通っても行けないことはないのだが、敵に細かく付きまとわれるのはやはり厄介だ。
 水路の上であれば、見張るのも楽である。
 さらについてくる敵があれば、こちらも気づくことが容易だった。
 しかし。

レン「……なんで漕ぎ手は俺なんだ?」
セレネ「もしゴンドラの上で攻撃を仕掛けられたら危険って言ったのはあんたじゃないの? 漕ぎ手の人を巻き込むわけにはいかないだろう?」
 
 平然と言い返すセレネ。
 そう言う無表情な頬を掠めて、ビュンと矢が飛び、船のヘリに突き立った。

セレネ「早速来たようだね」
レン「ふう……全く」

 二人はゴンドラの上でそれぞれの武器を取った。
 『飛翔』を唱え、ふわりと浮かび上がるセレネ。降り注ぐ弓矢を器用に避けながら、手元でウィンドスラッシュを作り、姿の見えた敵を一掃して払い飛ばす。
 追跡のゴンドラはそれで簡単に転覆した。
 転覆した船の勢いで水路は波打つ。片方の岸に寄れた船の上から、レンは岸に飛び移ると、一斉にその辺りにいた敵をなぎ倒していく。
 スラッシングという斬り攻撃だが、相手は町のチンビラ程度。峰打ちだ。
 縦一列に並んだそいつらをことごとく弾き飛ばし、レンは「ふん」と鼻息を吐きながら、再びゴンドラに飛び移る。
 その衝撃で、セレネの体が船から飛び上がった。無事に着地はしたものの、しばらくはご機嫌斜めである。

セレネ「レディが乗ってるってこと忘れちまったんじゃないかい?」
レン「そんな場合じゃないだろ。ほら、次の敵っ!」

 反対側の岸辺から放たれる矢の嵐。
 マントを盾にして、レンはセレネを庇いつつ身を守る。
 しかし、たかが布きれ。鍛えてあるとはいっても長くは持ちこたえられるはずも無い。

レン「セレネ! 息を思いっきり吸え!」
セレネ「えっ?」
 
 聞き返した直後にセレネは大きく息を吸った。
 刹那。
 レンの腕が、ゴンドラの縁に力を入れた。強く押すと同時に、船はくるりと舳先を上に上げる。
 同時に視界は急旋回。大きな水音と共に二人は水路の中に飲み込まれていった。

●地下水路

 暗い。湿っぽい。なんか陰気。
 ひたひた、と全身から水をたらしながら、レンを前に歩かせ、セレネは恐る恐るその薄暗い通路を歩いていた。
 そこは、アリアーネ村の地下水路。
 美しい水の都は、洪水に備えてなのか、人々が住まう土地の地下の部分にも、地下水路が築かれていた。
 とはいっても、半分は天然のものらしく、土をくりぬいただけの不安定なものではあるが。それでも、見かけによらずなかなか発展した村である。

セレネ「ちょ、ちょっと……どこまで行くんだいっ」
レン「知るか……道に聞いてくれ」
 
 ゴンドラがひっくり返って、水辺に顔を出さぬまま、二人は地下水路の横道へと逃げ込んだ。しばらく泳ぐと、空気を吐き出せる場所があり、また歩けるような浅い水の流れへと変じていたのだ。

セレネ「ひっ!」
レン「背中にいきなり引っ付くな!驚くじゃないかっ」
セレネ「だって!鼠の死骸が流れてきたんだよぉ?」
レン「……黙ってついてこい」
 
 ため息一つ。
 いつ終わるやとも知れない暗い水路を歩き続ける二人。
 前方に灯りが見え始めたのはしばらく先のことだった。
 
レン「そろそろ……ゴールらしいぞ?」
セレネ「そ、そ、そうかい……」
レン「だからそろそろ背中にくっつくのはやめ……ん?」
セレネ「きゃああっ」

 ぎゅ、とレンの背中に抱きつくセレネ。
 そのふくよかな胸元が、押し当てられる感触にさすがのレンも一瞬クラクラとする。
 しかし慌てて理性を取り戻し、不機嫌そうな声で問うた。

レン「だからどうした?」
セレネ「虫だよぉ……流石に虫は嫌なんだよ、虫は!!」
レン「虫?」
 
 言われて周りを見渡すと、土の天井のところにいたいた。真っ黒い塊が。
 サク。
 蛮刀の先っちょでそれを串刺しにすると、レンはセレネを振り返る。

レン「さあ退治したぞ、それじゃ行くぞ」
セレネ「ああああっ! その刀で虫を刺したの!? あんたとはしばらく離れて歩くからねっ!!」
レン「なんでそうなる……」

 肩を落とすレンであった。

●光の向うには

 暗い水路を抜け、二人が顔を出した時。
 彼らは、「あっ」と言うしか他に言葉がなかった。
 そこは白い遺跡の地帯。
 朽ち果ててはいるが、白大理石で作られた柱の跡が無数に並び、古い宮殿が建てられていたらしい痕跡をあらわしている。

セレネ「まるでお約束みたいな……」
レン「出来すぎだな……」

 口々に文句を言いつつ、二人はしかし辺りをくまなく見渡した。
 とはいえ、こんなに目立つ遺跡だ。辺りはすっかり人の手が入り、探検というよりは観光コースといった方が近い。
 実際、見物客として来ているらしい人影もちらほらとある。

レン「……遺跡は遺跡でも、イメージとは違う感じだな……。もしかして幾つかあるっていうんじゃ」
セレネ「そうかもしれないねぇ……でも」

 セレネはレンの肘を軽く小突いて、背後にちらりと視線を投げた。
 そこに追跡者の姿があった。
 彼らは目立たぬように二人の動きに注目しているようだ。
 二人は目配せで合図をすると一斉に走り出した。
 彼らが走り出すと、追跡者達も駆け出した。さらに、わらわらと違う方向からも不審な連中が駆け出してくる。
 まともに相手をしては笑えない人数だろうと予想した二人は、敵のいない方に駆けつづけるしかなかった。
 
 息が上がる。
 ハァハァどころか、ヒィヒィと悲鳴を上げる口と胸元を押さえ、二人が倒れこんだ先は、遺跡の端も端。
 そこから先は荒涼とした大地が広がるような場所であった。

セレネ「……さ、さすがに撒けたみたいね……」
レン「……だな……しかし、すぐに追いついてくるかもしれんが」
セレネ「それは無いかも……」
 
 セレネは深くため息をついた。

セレネ「多分、私達、この場所に追い込まれたんだよ……」
レン「ん……」

 レンは額の汗を拭いながら、身を起こした。
 荒涼とした大地が続くその奥に。
 小さな白い祠が立っていた。

セレネ「……呼んでるみたいだ」

 セレネは胸元から紅玉石を取り出した。
 何かに反応するように紅玉石は小さく光っていた。
 それにかけられた魔法は、その祠と共鳴する為のものか。

レン「行くのか……?」
セレネ「……本当の罠はこれからかもしれないけどねぇ……」

 苦笑するセレネ。
 そして二人はゆっくりと立ち上がると、祠に向かって歩き始めた。
 西に傾いた太陽が、オレンジ色に染まりかけている。二人の影は長く地面に伸び、揺らめいていた。

 白大理石で作られた祠の中央に、台座のような板が納められ、その板には奇妙な窪みがあった。
 何かをはめ込むようになっているのだと、セレネはすぐに気づく。
 そして指輪をそこに近づけてみた。
 その時。

??「そこまでだ!」

 二人に向かって背後から声が響いた。
 振り返ると10人前後の屈強な鎧を着た男達が立ち並んでいる。その先頭に立つ、騎士のような格好をした中年男が叫んでいたのだった。

セレネ「何だい? あんたらは」
レン「人の後をつけてきてうさん臭い……この村のそれが流行りか?」

???「お前らこそ、人の宝物をネコババしやがって!」

 騎士が叫んだ。

セレネ「……ネコババだなんて、人聞きの悪い……」
レン「うむ。間違ってはいないな」
セレネ「……レン……」

騎士「その指輪は、我が主君たるとある身分高きご夫人が、アクアーネ村の観光の際に落とされたものである。……申し訳ないが返してもらえるだろうか」

セレネ「いまさら、その説明では納得した、ってわけにはいかないねぇ……」
騎士「……うむ、そうか。それであるならば仕方がない。ものども、行けっ!」

レン「ものどもって!時代劇かよっ」

 唇に苦い笑みを浮かべながら、掛かってくる敵を一斉になぎ払うレン。
 蛮刀の一振りで起こる疾風に巻き込まれるかのように、兵は蹴散らされていく。
 セレネも負けじとキックで応戦する。ものの数分もしないうちに、決着はついていた。
 一人残るは、命令を下した騎士ひとり。
 彼は見る見る青ざめ、そこに突っ立っていた。

セレネ「さあ、あんたの番よ?」
騎士「……うむむむむむ。頼む、その祠にだけは近づかんでくれ」

 騎士は後ずさりしながらうめくように言った。
 セレネは指輪を睨む。
 少し考えた後に、さっと素早く、祠の窪みの中に指輪を叩きこんだ。

騎士「あああああっっ!!」
 
 祠は大きな音をたてた。ゴゴゴゴ。と地響きのような音をたてて、振動を始めた。
 刹那。
 祠の奥にあった丸い球がゴキリと動いた。

セレネ「……何?」
レン「……?」
騎士「あわわわわわ」

 セレネが丸い球に手を伸ばすと、それは簡単に動いた。持ち上げるとそこには何枚かの紙片。
 手にとってみると、紙片に書かれた文字が見えた。

『若く美しく逞しいアファラフィーン。
 私は貴方に再び合間見える日を楽しみにしています。貴方のことを思うとこの胸は痛み、熱く燃え上がります。
 あの夜のことは今も一瞬たりとも忘れません。逞しいそなたの腕に抱かれ、私はまたあの夢を見たいと望んでいます』
『月の女神のように美しい奥方様。いえ、ラフィリアローズ様。
 貴方様からのお手紙拝見いたしました。
 なんということでしょう。私は星や月に告白されたのと同じ位の驚きと感動と、この自分に与えられた光栄さにうち震えています。
 あの夜のこと、私も今でも瞼の裏にくっきりと浮かんでいます。ラファリアローズ様の白くたおやかな肌に触れ、熱い汗ばむ一夜を共にしたこと。
 今でも魔法にかけられたような痺れと共に……今ひとたびの出会いが二人の上に導かれますように。祈り続けてすごしております』

セレネ「……なに」
レン「……こいぶみ、か?」

騎士「ああああああああ、読むではない! 読むではない! お前らにはこの価値がわかるはずもないだろう! 早く指輪を返しなさい、ほらっ!」


●そして……。

 とっぷりと日も暮れた頃。
 疲れ果てた二人は同じ宿屋の部屋の中にいた。

セレネ「……それにしても疲れたね……。いちいち不倫の手紙の隠し場所を、魔法仕掛けまでして厳重にする必要があるっていうのかねぇ……」
レン「まあ人それぞれなんだろう……」

 指輪は本当にただの落し物。
 鑑定人の老人の言ったことも言葉通りのものだった。
 そして騎士は何故かとても大切そうに祠を元に戻し、紅玉の指輪をセレネから受け取る代わりとして、袋いっぱいの金貨を与えてくれたのだった。
 
セレネ「……お宝というにはちょっと味気ないけど、まあ充分かね」
レン「口止め料も込みだそうだからな」
セレネ「三月は遊んで暮らせそうだね」
レン「……半分は俺の物だぞ?」

 ふと心配そうに呟くレンに、セレネは「もちろんだよ〜」と明るく笑う。
 そして、「二人のものだから、ここに大事に入れておくさね」とベッドの脇の物入れの引き出しにそれをしまいこんだ。
 
セレネ「それじゃ、今日はもう疲れちゃったから休むさね〜」
レン「ああ、そうだな……」
セレネ「……おやすみぃ〜」

 パチリ。
 ランプの火を吹き消して、長い一日は終わりを告げた。

 ……告げるはずだった。
 
 闇の中、セレネの寝息を聞きながら、ぼうとレンは天井を見上げていた。
 やがて、とろとろと眠気がやってきて、彼が瞼を閉じた時。
 セレネのいつもにない穏やかな声が響いた……気がした。

セレネ「……今日はありがとよ?」

 ちゅ。
 頬に当たる暖かい吐息と柔らかい感触。
 レンは驚き瞼を開いた。

レン「……セレネ?」

 返事はない。
 代わりにパタパタと階段を下りていく足音。

レン「……?」

 レンは一瞬呆けて、それからガバリと身を起こした。枕もとのランプに慌てて火を入れる。
 
 セレネの寝ていたはずのベッドはもぬけの空だった。
 そして案の定……、引き出しの中の金貨袋は……。

レン「……くそっ。覚えてやがれ……」
 
 何故か頬に手を置いたまま、レンは拳を握った。
 夜闇を駆け抜ける、あのしなやかな体を想像し、レンは深くため息をついた。

                                        了