<PCクエストノベル(2人)>


沼と宝と商人と〜底なしのヴォー沼〜
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【冒険者一覧】

【1217/ケイシス・パール/退魔師見習い】
【1112/フィーリ・メンフィス/魔導剣士】
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◇宝探しの始まり◇

フィーリ「宝探し?」

宿で朝食をとっていると、突然ケイシスの口から発せられたのは、宝探しの話だった。
全く宝には興味のないフィーリは、ほとんど聞き流していたのだが、このままでは
付き合わされそうな雰囲気になってきている。

ケイシス「どうせ暇なんだろ?たまには付き合えよ!」
 
確かに用事もなく、暇ではある。予想通りの展開になりつつあるのにため息をつきながら、
フィーリは少し投げやりに答えた。

フィーリ「・・・行き先は?」
ケイシス「底なしのヴォー沼」
フィーリ「俺は絶対もぐらないからね」
ケイシス「何だよ、やる気ねぇなぁ。まあ、いいや。底なしって話だからな、命綱でも
持っててくれりゃいいけどよ」
フィーリ「見つからなくても俺は夕暮れ時には帰るからね。ジークだって嫌だろうし」
ジーク「ボクは嫌じゃないよ。楽しそうだもん」

同意を求めたのに、好奇心旺盛なジークは面白がっている。少し裏切られた気分になって、
フィーリはまたため息をついた。

ケイシス「お、ジークは話が分かるな。よし、飯食ったらすぐ行くぞ!」

やたら盛り上がっているケイシスとジークを横目に見ながら、まぁ、暇つぶしには丁度良いかな?とフィーリも思い始めていた。
が、盛り上がっているケイシスの傍らでは、焔が自分も潜らなければならないのだろうか、と悩んででもいるように、首を傾げて考え込んでいる様子なのに、誰も気付いていない。

◇出発◇

本当に朝食が済んだらすぐに出発しようとしたケイシスだったが、フィーリに命綱も持たずにどうするんだ、といさめられて支度をしているうちに、出発は昼前になってしまった。底なしというくらいだから、綱は長いほうがいい、という判断から丁度良さそうなものを見つけるのに時間がかかったのだ。勿論、一本だけでは長さが足りるはずもなく、何本か繋げているので重さは相当なものになっている。

ケイシス「おい、フィーリ・・・。何で俺が一人でこんなもん持ってんだ?」
フィーリ「キミの宝探しだよ?当然じゃない」
ケイシス「う・・・。そりゃそうだけどよ、重いって、これ・・・。せめて手伝って・・・」
フィーリ「嫌」

にこにこしながら拒否するフィーリを見て、焔はケイシスを気遣ってこん、と鳴いた。

ケイシス「・・・おまえが持ってくれるのか?」

勿論、子狐である焔には持てるものではない。

ケイシス「あ゛〜、今日もついてねぇー!」
フィーリ「自分で言い出したんじゃないか。頑張れよ」

またも、にこにこしながら言ってはいるが、手伝う気など全く感じられないフィーリだった。

◇捜索開始!◇

そんなこんなで、途中何回か休憩しながら、ついでに昼食も宿の主人に頼んだ弁当で済ませながらだったので、目的地であるヴォー沼についたのは、昼を少し過ぎていた。意外にも、周辺には露店なども出ていて、思ったより人がいる。

ケイシス「やっと着いた・・・。くそ、潜る前から疲れててどうすんだ?」

ケイシスはフィーリを横目で見ながら毒づいたが、フィーリは気付かないふりをしている。

フィーリ「さあ、早く潜らないともう昼過ぎてるんだからね。頑張って行っておいで」
ケイシス「分かってるよ。ほら、焔、行くぞ」

その言葉に、焔は驚いた様子で目を見開いている。焔はどうやら潜りたくないようだ。

ケイシス「何だよ、お前まで俺を裏切るのか?」

そこまで言われて、しぶしぶ、と言った様子でケイシスに従う。

フィーリ「あぁ、ちょっと待って。焔とケイシスもこれで繋いでおかないと」

そう言うと、フィーリは懐から細めでケイシスの身長と同じくらいの長さの縄を取り出した。

フィーリ「沼の中ではぐれたら困るからね」
ケイシス「おまえ、準備いいなぁ」

焔と繋がれながら、ケイシスが言うと、にこにこしながらフィーリが言った。

フィーリ「キミと一緒にしないでくれるかな?」
ケイシス「けっ。悪かったな」

そうして、準備も整い、ようやく宝探しが始まることになった。

ケイシス「よーし、絶対見つけてやるぞ」
フィーリ「まあ、無理はしないようにね。底なしなんだから、命綱は一応そこの木に結び付けてあるけど、何かあったら困るからね。ちゃんと見ててあげるけど、何かに引っかかってしまうこともないとは言えない。あまり引っ張ると切れることもありえる。沼の中では手を貸せないんだから、気をつけて」
ケイシス「おう、分かってるよ。焔もいるし、少しは役に立ってくれるだろ」

当の焔は、いきなり自分の名前が出て、きょとんとしている。

ケイシス「おまえ、わかってんのか・・・?まあ、いいや。とにかく行ってくらぁ。夕暮れまでには帰るようにするから、戻らなかったら引き上げてくれ」
フィーリ「分かった」

フィーリの返事を聞くと、ケイシスは準備運動らしき動きをしてから、大きく息を吸って、沼に飛び込んだ。

フィーリ「・・・魔法で中でも息できるはずなのに、わざわざ息を吸うのは何でだろうね、ジーク」
ジーク「きぃ?何となくじゃない?」
フィーリ「それに、今思ったんだけど、底なし沼のどこに宝があるんだろうね?本当に底がないんだったら、沈んでたとしても、見つけられない気がするよ。見つかるとしたら、運良く沼の中で浮いてる場合だと思うんだけど、ケイシスって運悪かったよね」
ジーク「・・・それ、もう少し早く気付いてたらよかったね」

フィーリの言葉に、ケイシスの消えた沼を見つめていたジークは、首だけフィーリの方に向けて答えた。待っている間、暇になりそうだと、一人と一匹は思い始めていた。
一方、自分がいなくなってから、そんな会話が交わされているとは、ケイシスは思ってもいなかった。

◇沼の中での捜索◇

ケイシス(何だ・・・何にもないじゃないか)

勇んで飛び込んだはいいものの、沼の中には藻と魚以外、目に付く物は何もなかった。

ケイシス(まあ、まだそなんに潜ってないし、もっと下の方に行けば何かあんだろ)

沼自体はそんなに広いものではないので、ケイシスは一周しては更に深いところへ潜り、また一周しては潜り、を繰り返して探すつもりだった。

ケイシス(しかし、命綱ってのは結構邪魔だな・・・。からまらないように気をつけて泳がなくちゃならないからなぁ。だからってなくても困るか・・・)

焔は、あまり泳ぎが得意でないのか、ケイシスについていくので精一杯なようだ。元々九尾の狐なのだから、泳ぎが不得手でも仕方ないのだが、さすがに見かねたのか、ケイシスは自分の背中に乗せて泳ぐことにした。

ケイシス(ちゃんと捕まってろよ。っつっても分かんねぇだろうけど。水の中ってのは不便だな)

◇待ちぼうけ◇

ケイシスが沼の中で宝探しを始めてから、フィーリとジークは十分もたたないうちから暇になってきた。

フィーリ「これじゃ、暇つぶしにもならないね・・・。むしろ、逆に暇だよ」
ジーク「そうだね・・・。あ、ねえ、露店探検しようよ!」

いいことを思いついた、という様子で言うジークに、フィーリは即効でダメだしをする。

フィーリ「ダメだよ。命綱見てないと。もし、何かあったら俺達が何とかしないといけないんだからね。何かあったら、って言ってもないと思うけどね。こんな沼じゃそうそう変な生き物もいないだろうし」
ジーク「うーん、そっか・・・。あ、じゃあさ、しりとりしよう!」
フィーリ「しりとり?何だい、それ?」
ジーク「異世界の言葉遊びなんだって」
フィーリ「ふーん。まあ、暇つぶしにはちょうどいいかもね・・・。で、どうやるの?」

フィーリとジークがしりとりをしている間も、ケイシスは潜り続けていた。

ケイシス(もうどんくらい潜ったんだ?日の光が届かなくなってきたぞ・・・)

ケイシスの背に乗りながら、焔はずっと不安そうにしている。水の中に慣れていないせいだろう。

ケイシス(命綱が届く範囲になかったら、諦めるしかないかな・・・)

◇呆気ない終わり◇

ジーク「ん?フィーリ、もう綱があんまりないよ」
フィーリ「ほんとだね」

しりとりを始めたのは良かったが、ジークがすぐに終わらせてしまうので、フィーリはそろそろ飽きてきたところだった。

フィーリ「随分頑張るね、ケイシスも」
ジーク「でも、ずっと潜ってるってことは、見つかってないんだね」
フィーリ「やっぱり無理なんじゃない?」

自分が必死で潜り続けているのに、外ではこんな会話が交わされているとは、ケイシスは勿論思っていない。

話し相手もなく、延々と泳いでいるだけで、何の変化もないこの宝探しに、ケイシス自身も飽きてきていた。せめて、景色の変化や、宝の番人を名乗る妙な生き物でもいれば、もう少しましだったのだろうか、そのようなものも全くない。それでもめげずに、更に潜ろうとしたが、潜れない。命綱が張り切っていた。

ケイシス(げ、もうなくなったのかよ・・・。あんなに重かったのに、意外と使えねぇな)

仕方なく、収穫も何もないままに、戻ることになった。焔は、戻ることになったと気付いて、とてもほっとした様子だが、ケイシスには見えない。

フィーリとジークが、退屈の極みに達して、我慢できなくなる寸前、沼からケイシスが上って来た。命綱を解くのが面倒になったのか、剣で切っている。

フィーリ「お帰り。その様子だと、何も見つけられなかったようだね」
ケイシス「あー、そうだよ。もっと命綱長くすりゃ良かった」
フィーリ「まあ、底なしっていうほどの沼だからね。これじゃ足りないとは思ってたよ」
ケイシス「じゃあ何で長くしなかったんだよ?」
フィーリ「持てないだろ?この長さでも精いっぱいだったじゃない」

フィーリとケイシスが言い合っていると、露店の主人らしき人物が割って入った。

主人「何だ、あんたらわざわざ命綱持って来たのかい。ここで売ってたのに」
フィーリ・ケイシス『は?』

フィーリとケイシスの声が見事にはもった。

主人「皆ここで準備してから潜ってくよ。わざわざ持ってくるんじゃ大変だからねぇ。あたしら商人は稼がせてもらってるよ。まあ、戻ってこない連中も多いがね」

それだけ言うと、主人はご苦労さん、と言い残して店をたたみに行った。そろそろ夕暮れなのだ。

フィーリ「・・・まあ、こういうこともあるよね。いい暇つぶしだったよ」

遠い目をして言うフィーリだったが、ケイシスはおさまらない。

ケイシス「冗談じゃねえ!!馬鹿にしてんのか!?」
フィーリ「知らないよ、情報収集を怠った自分が悪いんじゃない」

焔とジークが哀れみのこもりまくった目でケイシスを見つめている。

ケイシス「あ゛〜、今日もついてねぇー!!」

夕暮れの静かな沼に、ケイシスの悲痛な叫びが響き渡った。


おわり