<PCクエストノベル(1人)>


闇の中に潜む闇 〜チルカカ洞窟〜
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1112 / フィーリ・メンフィス / 魔道剣士】
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チルカカ洞窟…。それはユニコーン地方の東北にある、遙か太古に作られたと言われている人工の洞窟だ。
 その洞窟の奥には、強大な魔物が住み着いているといわれており、その為に最深部まで潜った者は誰一人としていないようだ。しかしその反面、最深部まで潜った者は誰一人として戻ってこない…とも囁かれている。
 どちらにしても、戻って来れた者がいないと言うことに変わりはないようだ。

■きっかけ■

街人1:「聞いた? 前に来ていた冒険者の人、チルカカ洞窟に向かったんだけどあれから全然戻ってこないんですって」
街人2:「本当? やだわ…。やっぱりあそこは何かあるのよ。昔から地下深く潜った人は誰一人として戻ってきた事がないって言われているもの」
 聖獣界ソーンの城下町の街角で囁くように話す二人の街人がいる。少し前にチルカカ洞窟を訪れた怖い物知らずの冒険者がいたようだ。その冒険者が今だに戻って来ていないらしい。
 ちょうどその傍を通り過ぎた一人の青年がそれを聞きつけて小さく微笑んでいる。
 彼の名はフィーリ・メンフィス。18歳。クラスは魔道剣士。
 一見普通の青年のように見えるが、実は幻翼人である。移動する際にその背に翼を現し飛行する事ができるのだ。
 長い髪は黒く、瞳は赤い。そしてその肩には好奇心旺盛でお喋りな子供のドラゴンのジークを連れている。
ジーク:「きぃ」
 目をクリクリさせながらフィーリの肩からひょっこりと顔を出したジークは、先ほどの街人の話に興味を示しているようだ。通り過ぎた街人たちを興味津々に見つめている。
 立ち止まったフィーリもまた、にっこりと微笑んだ。ジークと同じように先ほどの話に興味を示しているようだ。
フィーリ:「地下深く潜った者は誰一人として帰っていない…か。面白そうだね」
 こうしてフィーリは軽い気持ちでチルカカ洞窟の調査をしてみる事にした。

■潜入・戦闘■

大昔に作られたと思しきチルカカ洞窟の入口に、フィーリは立っている。
高々と積み上げられた石の入口を眩しそうに見上げた。
フィーリ:「ふぅん…。他にも色々聞いてみたけど、最深部には強大な魔物がいるのか。いかにもって感じだね」
 フィーリは微笑んだ。これから踏み込むこの洞窟の中にいる強大な魔物の存在をイメージしているのだろう。どこかしら楽しんでいるようだ。
 ジークはこの意味ありげな造りの洞窟に興味を大いに示し、喜びを隠せないでいるようだ。嬉しそうにブンブンと尻尾を振っている。早く中に入ろうと言っているのだろう。
 ジークに急かされるままフィーリは中に足を踏み入れる。
フィーリ:「地図を描きながら行こう。迷ったら大変だしね」
 フィーリはジークにランプを持たせる。フィーリはそのランプの灯りを頼りに地図を描きながら道を進み始めた。

長い道を一つ一つマッピングしながらフィーリは歩いている。
ジークはそんなフィーリに気を使ってランプを見やすいようにその都度動かしている。
ある程度奥まで来たころ、フィーリは不意に立ち止まった。
 何かを感じているようだ。
フィーリ:「ふぅん。思ったより巧妙な造りになっているんだなぁ」
 チルカカ洞窟の造りにフィーリは感心したようだ。壁の一つ一つに触れては、どこか楽しそうに微笑んでいる。
ジーク:「きぃ…」
 不意にジークが小さく鳴く。フィーリはジークを不思議そうに見た。
 何か嗅ぎ付けたようだ。しきりに首を巡らしては周囲の様子を伺っている。
 ジークは目を光らせて辺りを見る。
 こういう時は何か魔物が側に来ている証拠だ。
 じっと二人が暗闇の奥を見つめていると、ジュルジュル…と言う奇妙な音が聞こえてくる。
 近くに何かいる事は確かなようだ。
 奇妙な音は次第にこちらに近づいてくる。それは、とても大きな物なのだろう。“ソレ”が動く度にパラパラと天井から砂が落ちてくる。
フィーリ:「まさか、そんなに奥まで来ていないから、皆が噂しているような“強大な魔物”じゃあないよね」
 フィーリはその顔に笑みを浮かべたまま呟く。
 次第に迫り来る“ソレ”はランプの明かりに浮かび上がる。
 蛇のような長い胴体に、体にまとわり付く粘液が艶々と怪しげに光る大きな魔物だ。
 重たそうに持ち上げた顔には大きな目が一つあり、瞳孔を細くしてこちらを睨みつけている。さしずめ、砂漠に住むバジリスクに良く似た魔物とでも言ったほうがいいだろう。
 口元からはチロチロと長い舌を出し入れしている。
 フィーリはその魔物を見上げて、小さく呟く。
フィーリ:「“強大な魔物”って言うより、“巨大な魔物”…って感じか。ま、そろそろ洞窟を歩き回るにも飽き始めた頃だし、暇つぶしには丁度いいかな」
 フィーリはスラリと剣を抜く。それと同時にジークはフィーリの肩から飛び降りた。
 フィーリは抜いた剣を構えて魔物を睨みつけ、ジリッと足場をにじる。
 魔物はそんなフィーリを見据えると、大きく仰け反り物凄いスピードで攻撃を仕掛けてきた。
 ひらりと攻撃を避けたフィーリは、一太刀魔物に浴びせる。
 しかしその体の周りにある粘液が邪魔でうまく攻撃が当たらないようだ。
 フィーリは素早く魔物の側を離れ、再び剣を構える。
フィーリ:「体にまとわりついているあの粘液のせいで上手く当たらないな…」
 ジークは小さく頷きながらフィーリを見ている。
 フィーリは剣を構えたまま小さく呪文を唱え始めた。
 しばらくすると、剣の柄から赤い炎がゆっくりと立ち上り始め、次第に剣を覆った。フィーリの持つ技能の一つである炎の剣だ。
フィーリ:「体の粘液がどうにかなればいいんだろ? 簡単さ」
 フィーリはそう言うと、魔物めがけて再び飛び掛る。
 不意を付かれた魔物はその太刀を体に受け止める。
魔物:「ギエエエエエエエエエエエッ!!!!!」
 耳に障るほど大きな悲鳴を上げる魔物の体は炎に包まれる。
 苦しそうに身悶える魔物があちらこちらの壁に突進し続けている。その度にバラバラと天井が崩れ落ちてくる。
 ジークがそれにうろたえたように鳴く。フィーリも身の危険を感じているようだ。
 瞳を閉じて大きく息を吸い込み、少し上半身を前に屈みこませると背中から翼が大きく広がる。
 フィーリはそのまま空中に舞い上がり、魔物を見た。魔物は何とか自分の体に燃え移ったフィーリの炎を消し止めると、狂ったようにフィーリの姿を探し始めた。
フィーリ:「こいつの相手もあんまり面白くないね」
 そう呟くと、フィーリは剣を真横に構え魔物を睨み付けた。
 少し力を溜め込むと、大きくその剣をなぎ払う。
フィーリ:「ウインドスラッシュッッ!!」
 なぎ払われた剣から空気の鋼が無数に飛び出し、魔物の体を容赦なく切りつける。あっという間にも、魔物の体は沢山の切り傷が付き、ズシンと頭が地面に落ちる。
 しばらく蠢(うごめ)いていた体も次第に動きが止まり、フィーリは魔物の息の根を止めた。
フィーリ:「以外に呆気なかったな。ジーク、もう帰ろうか」
 剣を鞘に戻しながら、退屈そうにフィーリは呟いた。ジークもフィーリの顔を見上げながら大きく頷く。

■終日■

 昼近くに洞窟内に入り込んでから半日時間が経っていたようだ。外に出てみると空はだいぶ日が傾いていた。
 山の上から一望するユニコーン地方の眺めは絶景だ。遠く地平線の彼方に沈む赤に近いオレンジの光がまっすぐ横に伸びている。夜の到来だ。
 ジークは小さくため息を吐いてフィーリの肩で小さく鳴いた。
フィーリ:「何だ? ジーク。腹でも空いたのか?」
 フィーリはそう言うと再び翼を広げ、空へ舞い上がった。
 気持ちよさそうに風を切りながら、ジークとフィーリは夜が近い空に溶け込むように街に戻っていった。