<PCクエストノベル(2人)>
パニック・ラッシュ! 〜貴石の谷〜
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■冒険者一覧
■■整理番号 / 名 前 / クラス
■■1348 / 螢惑の兇剣士・連十郎 / 狂剣士
■■1354 / 星祈師・叶 / 陰陽師
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■序章
聖獣界ソーン。
それは36の聖獣によって守られた不思議な世界。どの世界に住んでいるどんな人でも、訪れることのできる不思議な世界。
その中でも特に発展を遂げているのは、聖獣ユニコーンによって守られているユニコーン地域だ。
その理由は、この世界において最も特異な都にして中心とも言える聖都エルザードが、そこに存在しているからである。
今回の舞台は、このエルザードの東にある貴石の谷。そしてその”坑道”だ。
そこは昔貴重な宝石が豊富に採れ、そのため通路が縦横無尽に張り巡らされるほど賑わっていたのだが――いつ頃からか宝石(いし)喰いというモンスターが出るようになり、廃坑に追いやられてしまったのだった。
そんなわけで、今ではその谷に向かうのは坑夫ではなく冒険者が中心となっている。もちろん坑道の奥に秘められた貴石を求めて。
そして今日も……。
■本章
■■1.出逢いは突然やってくる
連十郎:「っあああぁぁぁぁーー?!」
昼下がりの天使の広場に、そんな男の声が響き渡った。噴水の前には男が2人立っていて、1人が1人を指差しワナワナと震えている。
連十郎:「なっ……なんでお前までこんなとこいるんだよ?!」
酷く驚いた顔をして、大声をあげているのは螢惑の兇剣士・連十郎(けいこくのきょうけんし・れんじゅうろう)。サムライの世界からソーンに流れこんできた狂剣士だ。
その連十郎に指を差されて、こちらも驚いた顔をしているのは星祈師・叶(ほしにいのりし・かない)という陰陽師。彼も連十郎と同じ世界から来たのだが……
叶:「……? 僕が天使の広場にいてはいけませんか?」
連十郎:「いや、そーゆーことじゃなくて……」
連十郎は「何故この世界にいるのか」という意味で問ったのだが、叶には通じなかったようだ。
連十郎:「――ま、いっか。こうしてまた出逢えたのも何かの縁だろう。こんな世界、1人でうろうろしててもつまらねぇしな。しばらくは付き合ってやるよ!」
(いつかこの世界から、帰る日まで……な)
そこは声に出さず、連十郎は噴水の縁にドカリと座りこんだ。
一方の叶は、今度は不思議そうな顔をして首を傾げていた。そしてトンデモナイことをさらりと口にする。
叶:「――すみません、どこかでお会いしましたっけ?」
連十郎:「…………………………はぁ?!」
連十郎があんぐりと口を開けたのは言うまでもない。
――そう。
実は叶は、守護聖獣・ガルーダの力で思念体を実体化する際に、失敗してソーンに来る以前の記憶をほとんど失っているのである。しかも実体化はまだ不完全で、気を抜くと思念体に戻ってしまうというおまけつきだ。
さすがの連十郎もその事実に気づいて。
連十郎:「もしか……しなくても、憶えてないのか……?」
叶:「少なくとも、あなたと逢ったことは」
(あなたみたいにインパクトのある人、一度でも逢っていたら忘れないはずだもの)
叶は心の中で付け足す。
しかし連十郎が嘘をついているようにも見えないのは事実だった。そして自分が以前の記憶を失くしているのも。
叶:「……すみません……」
叶は酷く申し訳ない気持ちになって、俯いた。それを見た連十郎は逆に俯いていた顔を上げる。
連十郎:「まあしゃーないさ。それならこれから俺のことを憶えてくれりゃあいい。それに一緒にいたら、いずれは思い出すかもしれねぇしな」
頭を掻きながら告げる連十郎。
そのあたたかい言葉に、叶はこぶしをつくって決心する。
叶:「がっ、頑張りますッ!」
■■2.情報収集
運命的な(?)出逢いを果たした2人は、エルザードの東にある坑夫の村に来ていた。と言っても”坑夫の村”と呼んでいるだけで、今現在坑夫はほとんど存在していない。
村人:「――貴石の谷の情報? まさか行くつもりなのかね?」
怪訝な顔をした村人に、2人は大きく頷いた。
連十郎:「どんな小さなことでもいいんだが」
叶:「何かご存知ありませんか?」
そう、2人は貴石の谷にある鎖された坑道へ行こうとしていた。その情報収集のために、かつてその坑道へ通っていた坑夫たちの村へとやってきたのである――。
◆ ◆ ◆
あの後互いに自己紹介をした2人――実際には連十郎が両方の紹介をした――は、そのまま噴水の縁に並んで座っていた。……のだが、そうしていたところで叶の記憶が戻るわけでもない。
連十郎:「――折角だし、どっか冒険行ってみっか」
叶:「そうですね……」
決めるやいなや、連十郎はその時ちょうど目の前を通りかかった旅人(の胸倉)を捕まえて、どこかいい冒険ポイントがないかと訊ねていた。
旅人:「東にある貴石の谷なんかイイかもねェ〜。ただそんな大きな刀じゃ大変だと思うよ」
旅人は連十郎の腰にさしてある兇刀・饕餮に目を向ける。
しかしその言葉が連十郎をやる気にさせたことは想像に難くない。
連十郎:「上等じゃねぇか……おい叶っ、そこに決めたぞ!」
旅人を解放して叶を振り返る。と、叶はまた不思議そうな顔をして首を傾げていた。
連十郎:「叶……?」
叶:「大きい刀じゃ大変ということは、まさか……僕がソレを白刃取りしなきゃいけないんですか?!」
連十郎:「なんでだよ!」
連十郎は思い切り脱力した。
叶:「あれ? 違うんですか?」
連十郎:「一体どっからそんな考えが……。単に坑道が狭いからコレ振り回すのはあぶねぇって意味だろーが。壁に当たったら坑道自体崩れちまう」
叶:「なるほど……」
納得の声を出した叶は、しかしまだ何か考えていた。やがてあごに当てていた手を離してポンと叩くと。
叶:「それは危険じゃないですか!」
連十郎:「だから最初からそうだって言ってんだろ?!」
叶:「ああ、そうでした」
(変わってない……中身はまったく変わってない!)
叶の妙な思考回路と天然は、どうやら先天的なものだったらしい。
(やっぱ放っておけないなコイツ……)
と連十郎が改めて思っている頃、叶は。
(でも魔法を使ったら、やれないこともないかなぁ)
そんなことを考えていた。
◆ ◆ ◆
村人1:「そうだなぁ……閉鎖されたのが結構前だからあまり詳しくはないのだが、有名な魔法石が2種類採れるはずだ」
村人2:「あ、オレそれ知ってるぞ。確か”永遠の炎”と”虹の雫”ってんだ。ただ大分深い場所にあるらしいから、採ってくるのは相当大変だと思うぞ」
村人3:「魔法石の効力? ……ああ、聞いたことあるな。”永遠の炎”が石の中に炎を閉じこめたヤツで、”虹の雫”は占いの道具だったような」
連十郎:「――”永遠の炎”に”虹の雫”か。どうやらこの2つが目的になりそうだな」
叶:「そうですね」
そろそろ出発しようかと、2人は村の出口の方へ向かって歩いていた。と、前から歩いてくる1人の老人と目が合った。
老人:「――命は1つしかないのじゃぞ」
すれ違いざまに、老人が呟く。とっさに2人は老人を振り返っていた。
連十郎:「何……?」
老人:「宝石喰いの情報は、なかったのじゃろう?」
叶:「ここの人たちは怖がって誰も坑道に近づいていませんから、仕方のないことです」
叶の答えに、老人は笑う。
老人:「ずいぶんな自信じゃな。わしが教えてやってもいいのじゃぞ? 宝石喰いの本当の性質は――」
連十郎:「俺たちは死に場所探しに行くんじゃねーの! 魔法石採りに行くんだぜ? 宝石喰いくらい自分たちでなんとかするさっ」
連十郎は老人の発言を遮ってそう告げると、さっさと歩き出した。
叶:「あ、待って下さい連十郎さん!」
残された老人を気にしながらも、叶は連十郎のあとを追う。すると後ろから――
叶:「! 念仏……?」
連十郎:「けっ。宝石喰いがなんだってんだ」
老人の念仏に見送られながら、2人は貴石の谷の坑道を目指し村を出発した。
■■3.トラップ・パニック
叶:「わっ」
何かがバタバタと羽ばたく音と気配に、叶は声をあげ頭をおさえた。
2人は既に坑道の中にいる。
連十郎は冷静に灯りをそちらに向けると。
連十郎:「すげぇ数のコウモリだな」
叶:「あ、なんだ……コウモリですか〜」
さっそく宝石喰いが出たのかと思った叶は、安心して顔を上げた。
叶:「吸血コウモリじゃなくて良かったですね」
連十郎:「確かにな。――ところで、もう結構奥に来たと思うんだが……何もないよなぁ」
叶:「そうで…うわっ?!」
連十郎:「うわ? …っておいっ?!」
突然叶に強く身体を引っ張られた連十郎は、地面に凄い勢いで尻餅をついてしまった。
連十郎:「いってぇ〜…何なんだよ叶ッ」
叶の方を見ると、何故か尻餅をついたままの連十郎より頭1つ低い。
叶:「だってこんな場所に穴があるなんて誰も思いませんよ〜っ」
なんてことはない。叶は穴に落ちて――はまっているのだ。
連十郎:「お前なー。足元にちゃんと気をつけろよ」
叶:「すみません……って、連十郎さん?! な、なんかコウモリが集まってきてるんですが……」
2人の間を”嫌な予感”が駆け抜けた。
連十郎:「まさか叶……今怪我した?」
叶:「ひ、膝から流血しています……」
叶の周りにどんどんコウモリが集まってくる。
連十郎:「思い切り吸血なんじゃねーか! 逃げるぞ叶っ」
叶:「はい!」
コウモリは小さくて飛んでいる上数が多い。刀を振り回していたのでは埒があかないだろう。
連十郎は素早く立ち上がって叶の腕を掴むと、乱暴に穴から引き出そうとした。
と。
――カチっ
連十郎:「……今なんか音がしなかったか?」
叶:「しましたね……僕の足元から」
穴から一歩だけ飛び出した叶の足元を照らす。怖々叶が足をよけると、何かのスイッチが見えた。
その瞬間。
連十郎:「! しゃがめッ!!」
叶がその声に反応するより早く、連十郎が叶を蹴り飛ばした。
叶:「何するんで……あ!」
叶が振り返ると、自分がさっきまで立っていた場所に残されたコウモリたちが、無数の小さな矢に貫かれて無残に死んでいた。
叶:「な、な、な、な、な……」
連十郎:「こんな時にリズムとってる場合じゃないぞ」
叶:「誰がですかっ」
連十郎:「冗談だ。――いや、冗談じゃないな。これじゃあ宝石喰いに遭う前にやられそうだ」
叶:「一体何なんですか?! このトラップは……」
コウモリの死骸から逃げるように、叶は一歩あとずさった。
――カチっ
叶:「ぎゃーーー」
連十郎:「落ち着け! 足を上げなきゃ大丈夫だ――多分」
叶:「そんなこと言ったら僕ここを動けないじゃないですか!」
連十郎:「それもそうだな」
叶:「か、代わりにコウモリの死骸を置いたんじゃ、重さ的に足りないですよね……?」
連十郎:「うーん……」
涙目の叶を横目に、連十郎は腕組みをして考える。刀で矢を振り払うのは簡単だが、ここは狭い坑道内だ。迂闊に五尺二寸もある刀を振り回すのは自殺行為というもの。
連十郎:「やっぱあれしかねぇかなぁ」
叶:「れ、連十郎さん……?」
叶は早くこの状況をなんとかして欲しいと、訴えるように連十郎の名を呼んだ。呼ばれた連十郎は叶と目を合わすと、にっこり――いや、ニヤリと笑った。
連十郎:「――逃げるぞ!」
叶:「え?!」
言うより早く連十郎は走り出していた。
叶:「待って下さいよ、連十郎さ〜んっ」
叶は少し遅れてあとを追う。
――カチっ ぴゅ〜 ドスッ
――カチっ ぴゅ〜 ドスッ
――カチっ ぴゅ〜 ドスッ
叶:「うわーん」
叶の進む場所にはことごとくスイッチがあり、叶は駆け抜けることで飛んでくる矢をすんでのところでかわしていた。涙目を通り越して涙が後ろに流れている。
しかしおかげで、叶に集まっていたコウモリたちは一蹴できたのだった。
叶:「ぜいはぁぜいはぁ……」
やっとスイッチのない場所までやってきて、叶は大きく肩で息をしていた。そんな叶を連十郎はやや呆れ顔で眺めている。
連十郎:「叶……お前運悪すぎ」
叶:「うぅ」
連十郎:「てか、お前の術かなんかでどうにかならないもんだったのか?」
叶:「あ……」
連十郎の言葉に、叶は”思い出した”。
叶:「そうだ――僕使えたんだっけ」
連十郎:「おーまーえーなぁ〜」
叶:「だ、だって……」
連十郎:「まあ俺も先に言わなかったからな」
叶:「そうですよ! 走る前に言ってくれれば良かったのに」
連十郎:「叶がスイッチ踏まなきゃいちばん良かったんだよ」
叶:「あうー」
それを言われては仕方がない。と、叶は反論を諦めて足を踏み出した。途端に顔が凍る。
叶:「げ」
連十郎:「げ?」
叶:「連十郎さん……掴まってもいいですか?」
連十郎:「も、もしかして……?!」
叶:「その”もしか”ですよ〜(泣)」
連十郎:「やめっ……掴むな!」
連十郎の言葉はあっさりと無視された。
叶はまたも穴に落ちて、連十郎を道連れにする。しかも2人の予想に反して、今度の穴は――”底”がなかった。
連十郎:「冗談だろ〜〜〜っ?!」
叶:「(絶句)」
重力に引かれ凄い勢いで落ちながらも、連十郎は冷静に叫ぶ。
連十郎:「おい叶っ! 今度こそなんか力使え〜〜〜っ。俺の力は攻撃専門なんだよ!」
叶:「ひぇ〜〜〜〜」
どっちの返事なのかも謎な言葉を返した叶だったが、心の中では助かりたい一心で必死に祈っていた。
(雪の精霊さん、雪の精霊さんっ)
叶が使役できる水属性の下位精霊だ。
叶:「僕らを助けて下さ〜い!!」
叶が叫んだ瞬間、突然地面が現れた。
連十郎:「うおっ」
2人してそれに突っ込むが、思いのほか痛くない。――代わりに酷く冷たかった。
叶:「ゆ、雪だ……助かったぁ」
その雪の地面は、2人を乗せたままゆっくりと下降していき、やがて本物の地面へとたどり着いた。
叶:「ありがとう! 精霊さん」
叶の言葉を聞くと、雪は勝手に融けてなくなってしまった。
連十郎は小さく息を吐く。
連十郎:「お前にしちゃあ上出来だ」
叶:「ふふん、見直した?」
連十郎:「調子に乗るなっての」
叶:「そういう連十郎さんは、”いつもの”調子に乗ってるんじゃないですか?」
連十郎:「――まったくだな」
2人して声に出して笑う。狭い空間だけによく響き、笑い声が何重にもなって戻ってくる中――
叶:「……?! 今、奥の方から魔物の咆哮っぽい音聞こえませんでした?」
連十郎:「宝石喰いもイッチョ前に笑ってんのかもな。行ってみようぜ!」
叶:「はい!」
■■4.vs 宝石喰い
2人は狭い横穴を奥へ奥へと進んでゆく。トラップがあるのは上だけのようで、怖々足を進めている叶がスイッチを踏むことはなかった。
やがて穴の先に明かりが見え、2人は少し拓けた場所へ出る。
叶:「ここは……?」
連十郎:「おい、なんかいるぞ!」
大きな岩壁から何かが飛び出してきた。それはギラギラと目を光らせてこちらを見つめている。
叶:「何ですか?! あのカエルとサンショウウオとイモリを足して1で割ったような生き物はっ」
連十郎:「それ割ってないし!」
叶:「はっ、何て高度なダジャレ……さすが連十郎さん!」
連十郎:「ダジャレじゃねーっつの」
連十郎は思わずその場にしゃがみこんで頭を抱えた。
実は叶の説明は、あまり間違ってはいない。それは両生類のような外見をしており、大きな口には鋭い牙が並んでいる。
叶:「やっぱり訂正します。6割方サンショウウオですね」
連十郎:「何の話なんだよ」
叶:「あれ、やっぱり宝石喰いなんでしょうか?」
連十郎:「さあな。――お、口を開けたぜ。ご丁寧に威嚇してんのか」
一応戦闘態勢に入りながら、2人はその生き物を観察した。そして気づく。
叶:「……口の中に石が見えますね。間違いないようです」
連十郎:「思ったよりも小さいんだな」
体長は連十郎の身長よりも低いくらいだ。
連十郎:「叶、サポート頼むぞ」
叶:「わかりました」
顔を見合わせて、頷く。
戦闘なら任せろと言わんばかりに、連十郎は宝石喰いに飛び掛った。
いくら場所が拓けていると言っても、壁に振動を与えるのはやはりよくない。連十郎は宝石喰いを斬るのではなく突き刺そうと、勢いよく腕をひいた。
一方叶は、万が一に備えて周りの壁に雪の膜をはる。ウィンドスラッシュ(真空破による攻撃魔法)も使えるのだが、それが外れた時にはこちらにとって危険すぎるので、おとなしくサポートに徹していた。
連十郎が、引いた腕を強く突き出す。
と。
――ガンッ
なんとも鈍い音がした。
叶:「連十郎さんっ」
連十郎:「く……生意気に表皮はカタイのかよっ」
連十郎はつめた間合いを取り直した。
連十郎:「こういうヤツって、大概口の中が弱いんだよなぁ」
叶:「さっきみたいに、口を開けてくれれば……」
連十郎:「そうだな」
叶と宝石喰いのちょうど真ん中あたりにいる連十郎は、宝石喰いに注意を払いながらもチラリと叶の方を見た。
叶:「……?」
連十郎:「やってみるか」
何か考えがあるらしい。
連十郎はそのまま、叶の所へ戻ると、叶の手を引いて今度は宝石喰いに突っ込んでいく。
叶:「わぁぁぁぁぁ〜〜」
そしてポイっと、宝石喰いのまん前に叶を投げた。
連十郎:「ほら、美味しそうなポーズをとってみろ」
叶:「無茶言わないで下さいよ!」
叶は連十郎の方へ戻ろうとしたのだが、恐怖で足がうまく動かない。至近距離で、宝石喰いと見つめあっていた。
連十郎:「めっちゃ見てるぞ〜」
楽しそうな声が聞こえる。
叶:「うー」
連十郎:「あ、ヨダレ。もう少しだ叶っ。最後の一押し! ラストにポーズ!!」
叶:「くそぅ」
叶はスペシャルなポーズをした! ▼
連十郎:「おぉっ、開いたぜ!」
叶がピクピクと震えながらポーズをとり続けている上を飛び越えて、連十郎は大きく開いた宝石喰いの口に兇刀・饕餮を突き刺した。
連十郎:「これはオマケだ! 炎の剣っ!!」
ボオゥと、一瞬にして刀から炎があがる。宝石喰いは耳をつんざくような鋭い悲鳴をあげながら、胴体を地面に投げ出した。
しばらく反応を待つ。
連十郎:「――どうだ? 死んだか?」
叶:「みたいですね」
連十郎:「で、お前はいつまでそのポーズでいる気だ?」
叶はまだスペシャルなポーズをとっている! ▼
叶:「あ、そうでした」
言われてからやっと、叶は恥ずかしそうに居住まいを正したのだった。
連十郎:「よくやったな! 叶。また出た時は頼むぞ」
叶:「え〜……もう2度とやりませんよっ」
そんな会話をしながら、2人が宝石喰いの死体から宝石を取り出していると――
――ドシンっ
何故か地面が大きく揺れ、それを受けて上から土などがぱらぱらと落ちてくる。
叶:「?! な、何でしょう?」
連十郎:「まさか崩れてきたのか……?」
――ドシンっ ドシンっ
また何度か揺れてから、文字では到底表現できないような不思議な咆哮が響きわたった。
そしてついに、巨体を揺らしながらそれは現れる。
連十郎:「HAHAHA……さっきのは子供だったのかよ!」
叶:「なんて大きさだ……」
連十郎:「おい叶! その宝石をヤツの足元に投げろ」
叶:「え?」
連十郎:「宝石喰いってくらいだから、それなら食べようとして口を開けるだろ」
叶:「あ、そうですね! 僕が囮になるよりマシでしょう」
連十郎:「一応言っておくが、やりたいならとめないぞ?」
叶:「まだ生きていたいので遠慮しておきます。――えいっと」
叶は自分たちの何倍もあるサイズの宝石喰いの前に、うまく宝石を落とした。
――しかし。
――ドシンっ ドシンっ
宝石食いはその宝石を無視して、どんどん2人の方に近づいてくる。
叶:「え? ちょ、ちょっと〜〜〜」
連十郎:「なんだ? 子供殺されて怒ってんのか?!」
間合いはどんどん詰められる。
実は宝石喰いは、最初から宝石よりもそれを採りに来る人間たちを好物としていた。坑夫の村で老人が2人に教えようとしていたのはそのことだったのだ。
連十郎:「ヤバイな……刀を思い切り振れないなんて言ってる場合じゃなさそうだぞ」
叶:「でも連十郎さん。このサイズの宝石喰いがずっとこの中で生活していたことを考えると、ある程度の振動は大丈夫なんじゃないでしょうか?」
叶の言葉は的を射ていた。
連十郎:「! 確かにな……さっきからこいつが歩いただけで相当揺れてるもんなぁ。――そうとわかれば、手加減無用だぜ!」
叶:「僕も戦闘に参加しますっ」
そうして2度目の戦闘が始まった。
まずは連十郎が身体ごと大きく踏みこんでスラッシング(斬り攻撃)をくり出す。しかしさすがに大人の宝石喰いの表皮は子供のものより厚く、大きな音を立てて刀を弾いた。
連十郎:「く……っ」
そして宝石喰いは大きく身体を振る。スラリと長い尾をよけるように2人は跳躍する。
叶:「ウィンドスラッシュ!!」
空中で、叶が真空破をくり出してみる。しかし驚いたことに、それは宝石喰いの表皮に反射して……戻ってきた!
叶:「うわわっ」
連十郎:「叶!」
地面に着地してから思わず目を瞑った叶だったが、何故か痛みが叶を襲うことはなかった。
叶がおそるおそる目を開けると。
叶:「――?! キミは……?」
誰かが叶を庇っていた。その誰かは、叶を振り返り呆れたように告げる。
???:「いつ喚んで下さるのかと、ずっとお待ちしていたのですよ叶様」
連十郎:「大丈夫か叶? お……叶の式神か」
叶:「式神……?」
式神:「まだお忘れですか」
連十郎:「あぶねっ、跳べ!」
間一髪で3人(?)、宝石喰いの攻撃をよけた。
連十郎:「あいつ、自分の弱点をよくわかってんのか、全然口を開けやがらねぇ!」
ずっとチャンスを狙っていた連十郎がぼやく。
叶:「や、やっぱり僕が……」
式神:「いえ、それよりも有効な方法がありますよ」
連&叶:「え?」
式神:「お2人の魔法を組み合わせればいいのです。どんなにカタい金属でも、急激な温度変化には弱いのですよ」
連十郎:「! そうか……叶っ、あいつを雪で包んじまえ!」
叶:「はいっ。――雪の精霊よ!」
叶がそれをやっている間、連十郎は宝石喰いの攻撃が叶の方へいかないよう囮になっていた。式神はいざという時のために叶の傍に控えている。
しばらくするとやがて、巨大な宝石喰いの形をした雪像ができ上がった。もちろん中には宝石喰いが入っている。雪は結構厚いようで、宝石喰いは身動きが取れなくなっていた。
連十郎:「これで終わりだ! ――炎の剣っ!!」
そこへ刀に炎を宿した連十郎が飛び掛る。
――ザシュ〜〜〜〜ッ
頭から尾まで、見事に真っ二つに切れた。宝石喰いの身体は左右に倒れ、間には1つの宝石が残る。
式神:「やりましたね」
連十郎:「おう!」
ガッツポーズを見せる連十郎の横で、宝石を拾いあげた叶が大きな声をあげた。
叶:「あぁぁぁ〜〜〜〜!」
叶は既に涙目だ。
連十郎:「なんだどうしたわきのした」
叶:「ほ、宝石まで真っ二つですよ〜……」
一同:「……………………」
沈黙が3人を包んだ。
ふと、式神が何かに気づき歩いてゆく。
式神:「これがありますよ」
叶:「あ!」
式神が拾って戻ってきたのは、初めに子供の宝石喰いからとった宝石だった。連十郎はそれを受け取ると、宝石の中を覗きこんでみる。
連十郎:「中に炎が見えないってことは、”虹の雫”の方だな」
叶:「そうみたいですね」
連十郎:「……じゃあこれは、お前が持ってろ」
叶:「え?」
連十郎:「陰陽師は術を使ったり式神を使役したりするだけじゃない。吉凶を占ったりもするんだろ?」
叶:「……そうでしたっけ」
連十郎:「そうなんだよ! ――コレ、占いの道具に使えるって話だったから、お前が持ってた方いいだろ」
叶:「じゃあ……貰っておきます。ありがとうございます」
連十郎は”虹の雫”を叶に渡した。
2人のそんなやりとりを微笑ましく見ていた式神が、実に言いにくそうに口を開く。
式神:「話がまとまったところで申しますが……」
連十郎:「ん?」
式神:「崩れそうですよ、ここ」
叶:「――――――えぇっ?!」
耳を澄ましてみる。と、あまり聞きたくない、地鳴りのような深い音が聞こえてくるのがわかった。それは徐々に大きくなり、やがて地面も小さく震え始める。
連十郎:「ヤバイな……走れ!!」
叶:「うわーーーっ」
壁や天井にひびが入り始めて、3人は走り出した。走りながら。
式神:「じゃ、私はこれで」
連十郎:「おいズルいぞ!」
式神:「本当は喚ばれていませんから(微笑)」
式神はそう告げると、走る2人をおいてパッと消え去った。後ろから、どんどん崩れてきている。
叶:「こんなんばっかりだぁぁああ」
崩壊の音の中、そんな叶の声が響き渡ったのだった……。
■終章
後日。
叶:「――あ、連十郎さん!」
連十郎:「よ。こないだはお疲れさん」
叶:「本当に疲れましたよ。なんか1日で1年分走ったような気がします……」
連十郎:「そんな苦労して取ってきた石なんだ、ちゃんと使ってるんだろうな?」
叶:「もちろんですよ! おかげで美味しい漬け物ができたんです。ぜひ食べて下さい!」
連十郎:「おう! ――って、ちょっと待てッ。今”漬け物”って言ったか……?」
叶:「ええ、言いましたよ。ちょっと待ってて下さいね」
叶が楽しそうに部屋を出て行くと、代わりに式神が現れた。しかもその式神は――
式神:「連十郎様……」
連十郎:「……なんで泣いてるんだ?」
式神:「叶様が、占いの仕方がわからないからと言って……あの石を漬け物石にしてしまったのです!!」
連十郎:「え……」
叶:「――お待たせ!」
叶が戻ってきた瞬間、漂う独特の香り……
連十郎:「お、おま、おまえ……その臭いは……」
叶:「臭いじゃなくて香りって言って下さい! いいでしょ〜香りに負けないくらい美味しいんですよ、この漬け物!」
連十郎:「い、石は……?」
叶:「持ってきましたよ?」
叶が差し出した石を、連十郎は受け取れずに落とす。
連十郎:「うぐ……っ(く、くさっ)」
叶:「あー酷いなぁ。ちゃんと受け取って下さいよ。大事な石なんですから〜」
式神:「叶様ぁ……(よよよ……)」
こうして2人が苦労して手に入れた石は、叶の所業により、2度と持ち歩くことのできない魔のアイテムとなってしまったのだった……。
■終
■ライター通信
初めまして、こんにちは。伊塚和水です。
ぎりぎりまでお待たせしてしまってすみません。クエストノベル、できましたのでお届けいたします。
コメディはあまり書き慣れないもので不安な点もありましたが、私自身はとても楽しんで書かせていただきました。少しでも気に入って下されば嬉しく思います^^ ご意見ご感想等ありましたらお気軽にお寄せ下さいませ。
それでは、またお会いできることを願って……。
伊塚和水 拝
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