<PCクエストノベル(5人)>


正義の味方ご一行様


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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1010/ 武田 裕乃/ 派遣会社員】
【 1011/ 松鷹 千代/ 派遣会社員】
【 1012/ 木南 まあみ/ 派遣会社員】
【 1013/ 窪寺 潤那/ 派遣会社員】
【 1014/ 南々見 花穂璃/ 派遣会社員】

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◆事件は起こってしまったのです

 ハルフ村。それはある日突然温泉が湧き出したことで有名となった村である。岩風呂、檜風呂、美人の湯など多種多様の風呂があり、観光客も多く訪れている。

 木南:「うわ〜、いろんな効果があるねんなあ。すごーい。」
 松鷹:「やっぱり美白の湯がいいわねぇ。」
 窪寺:「温泉といえばやっぱ宴会だろ! 飲むぜ〜!」
 南々見:「宴会がええんかい。なんちゃって。」

 はしゃぎまくる4人に、武田は拳を震わせた。

 武田:「いい加減にしろー! ボクたちは温泉に入りに来たんじゃない! プロモの撮影に来たんだろうが!」
 松鷹:「いや〜ん、裕乃ちゃん、怒っちゃいやん。」

 武田の言うとおり、この5人は所属する派遣会社「ヴィーナスガーデン」のプロモの一環として、「派遣戦隊ガーデンファイブ」の撮影にやってきたのである。

 南々見:「そうですわね。速く撮影を終わらせて、ゆっくり温泉に入るのがいいんじゃないでしょうか。」
 窪寺:「賛成! さっさとやっちまおうぜ。」

 わらわらと武田の元へ戻ってくる。視線が逸れた瞬間にそれは起こった。背後で悲鳴が上がる。振り返って、その状況に目を丸くした。

 武田:「まあみ、何やってんだ!!」
 南々見:「あらあら。大変なことになってますわね。」
 木南:「だって、コイツ悪い人やねんもん! ぶつかって謝ってんのに、いちゃもんつけてくんねんで? 正義の味方ガーデンピンクとしては許しておけへんわ。」

 蹲って震えている男の前で、反泣きになっている少女がいる。松鷹は急いで、彼女を保護した。

 窪寺:「本当か! それは許しておけねえな! ぼこぼこにしてやるか!」
 松鷹:「その言い方じゃ悪者よ。」
 武田:「でも、確かに許せないな。もうこんなことするなよ。」

 助け起こしてやろうと手を伸ばしたが、それを力いっぱい払われた。

 男:「俺に手を出すとは。どうなっても知らないからな!」
 南々見:「まあ。これぞまさしく負け犬の遠吠えですわね。」

 走り去ってしまった男に、周囲の人間がざわめき出す。

 木南:「どうしたん?」

 きょとんとして、身近な人に尋ねるが、答えもせずに逃げ去ってしまう。たくさんいた人が蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。

 武田:「一体どういうことだ?」
 松鷹:「まぁた、何かしたのね、まあみ。」
 木南:「まあみちゃんのせいかいな。信念に悖ることはしてへんで。」

 起こってしまったことはどうしようもない、と武田は溜息をついた。あのう、と助けられた少女が恐る恐る声をかけてくる。

 少女:「助けていただいてありがとうございます。」
 木南:「いえいえ〜。」
 武田:「あれは一体何なんだ?」
 少女:「最近多いんです。ガラの悪い連中が集団になっていて、機嫌を損ねると、後で大人数で襲ってくるんです。」

 これから起こることを思って、少女は怯えている。

 窪寺:「俺たちなら大丈夫だって!」
 松鷹:「あんたはただ暴れたいだけでしょ。」
 木南:「でもほんまに許せへんわ! 群れな何もできひんのかい!」
 南々見:「やっちゃいます?」
 武田:「……その言い方のほうが悪役っぽくないか?」

 5人はいつか襲撃されるかもしれないと心に留めておくことにした。



◆続いて事件が起こったのです

 どこかからか悲鳴が上がった。武田がそれに気付き、はっと顔を上げる。

 武田:「敵襲か?!」
 窪寺:「あっちから聞こえたぞ!」
 木南:「被害が広がったら大変や!」
 松鷹:「全く。面倒臭いわねえ。」
 南々見:「行ってみましょう。」

 走り出す5人。ある程度駆け抜けると、背後から声が掛かった。

 「はーい、カットー!」

 やれやれと5人は衣装を整え、次のシーンの撮影に向かう。
 着々とプロモーションビデオの撮影が進んでいた。

 「次は温泉の中で撮るから。」

 監督の指示に従い、5人はバスタオルを巻いた姿で、温泉へと入った。
 寛いだ様子を見せていると、壁際で大きな音がする。

 松鷹:「何かしら? 覗き?」

 からかうように呟いて、壁の近くによって見た。
 メキっと嫌な音がして、目の前の壁が崩壊する。

 武田:「危ない!」

 松鷹は素早い身のこなしで、その場から飛び退いていた。無事を確認してほっと息をつく。

 窪寺:「くそっ。こんなときに敵か!」
 木南:「多いで!」
 南々見:「変身しましょう。」

 身体からさっとバスタオルを剥ぎ取った。

 武田:「ガーデンレッド!」
 南々見:「ガーデンブルー。」
 窪寺:「ガーデンイエロー!!」
 松鷹:「ガーデングリーン〜。」
 木南:「ガーデンピンク〜!」 

 それぞれの色のレオタードに、腰に巻かれた布がアクセントになっている。

 5人:「派遣戦隊ガーデンファイブ!」

 それぞれにポーズを取ってカットが掛かるはずだった。否、カットは掛かったが、敵役のほうが止まらなかったのだ。そのまま、5人に襲い掛かってくる。

 木南:「ほえ〜? なんでこっち来るん? カットかかったやん。」

 何が起こったのか分からず、呆然とする木南。

 窪寺:「撮影続行なんじゃないのか?」
 松鷹:「ええっ。もー、話違うじゃないの、それ。心積もりが違うんだから、ちゃんとして欲しいわ。」
 武田:「来るぞ! とにかく戦うことにしよう!」

 軽く当てるだけにしようと思っていた。それなのに、敵役の様子がおかしい。相手には手加減しようとする気配が見られないのだ。窪寺は思わずそのまま拳を叩き込んでしまった。

 窪寺:「ああ、悪いっ!」
 木南:「でも、何か変やでー。」
 松鷹:「どうなってるの? 撮影でしょ?」
 武田:「分からん! 監督?!」

 振り返るが、監督は真面目な顔で撮影を続けている。

 武田:「花穂璃、なんでさっきから何も言わないんだ?」
 南々見:「ダジャレを考えていたものですから。」
 木南:「花穂璃ちゃん花穂璃ちゃん、今そんな時とちゃうから!」
 南々見:「というのは冗談で。多分、この敵さんってきっとさっきのガラの悪い連中の一味かと思うんですよ。」
 松鷹:「あっ。そっかぁ〜。すっかり忘れてたわ。」
 窪寺:「だったら、思いっきりやっちゃっていいんだな!」
 武田:「よし。やれ。殲滅だ!」
 南々見:「あらあら。やっぱり悪役は私たちかしら。」

 武田は近くにあったモップを手にした。棒だけを抜き、しゅっしゅっと数回振り回し、手に馴染ませる。剣術には自信がある。どぉぉぉお、と襲ってきた男の腹を切り付けた。
 パワー馬鹿の窪寺は手当たりしだいに殴りつけ、あまつさえ、敵を壁に放り投げていた。
 木南は小さい身体を利用して、こそこそと逃げ回り、温泉の中にある石鹸などの小道具を使って、逆襲している。
 ひらりひらりと身をかわし、松鷹と南々見は軽いジャブを放つ。

 松鷹:「ああ、爪が割れちゃうわ。せっかく綺麗に手入れしているのにぃ。」
 南々見:「爪を詰めてしまいました。」
 松鷹:「面白くないから、それ。」

 あっさりと5人は敵を全滅させた。

 「はーい、カットー!」

 監督は何事もなかったように、撮影を止めた。

 「いやー、いいのが撮れたよ。編集が楽しみだ。」

 笑顔で監督はカメラ類を回収させた。

 武田:「こいつらはどうするんだ?」
 松鷹:「放っておけば? 自業自得だし。」
 窪寺:「よっしゃー! 終わったー! 飯だ飯!!」
 木南:「ほんまお腹空いたわー。」
 南々見:「ようやくこのコスチュームも脱げますわね。」

 それぞれの色に塗られている衣装を見下ろし、やれやれと溜息をついた。どうやら彼女は人知れずこの衣装が気に入らなかったらしい。

 南々見:「でも、みなさんのはちゃんとデジカメに撮っておきましょう。」

 さりげなくデジカメを取り出し、しっかりとカメラに収めたのだった。



◆事件は収縮するはずもないのです

 食事を終え、5人は仕事の疲れを癒すために温泉に入りに行くことにした。5人とも部屋に置いてあった浴衣を着て、和やかに渡り廊下を歩いて行く。

 窪寺:「温泉あがったら宴会だよな? 飲むぞ〜!」
 南々見:「それにしても今日はいろいろとよく分からない日でしたね。」
 木南:「せやけど、ええプロモできそうやし。よかったやん。」
 武田:「疲れたなー。」
 松鷹:「いい男が全然いなくてあたしはつまらなかったわ。」

 ふと前方が騒がしいことに気付く。

 木南:「なんやろ〜?」

 好奇心に負けて、木南は先に駆け寄ってみた。「いたぞ!」「あそこだ!」と男たちが口々に何か言っているようだ。木南を見つけて、1人が目の色を変えた。

 木南:「ほへ?」

 いきなり飛び掛ってこられ、素っ頓狂な声を上げながら、思わず手を出してしまった。倒されたのを見て、他の男たちがいきり立つ。

 松鷹:「何やってるのよ!」
 窪寺:「やられたらやりかえすのは基本だろうが。」
 南々見:「こっちにも来ますわ。」
 武田:「し、仕方ない。とりあえず身の安全が第一だ!」
 松鷹:「これって撮影じゃないから、力使ってもいいのよね?」
 窪寺:「よっしゃー! 暴れるぜー!」
 南々見:「ほどほどにお願いしますね。」
 木南:「だから、何でこんな何回も襲われなあかんねん! おかしいやろ!」
 武田:「キミがいらんことしたからだろうが!」
 木南:「えー! まあみちゃん悪いことしてへんもん。」
 南々見:「まあ、とりあえず、今は現状を打破しましょう。」

 襲い来る男たちを見据え、それぞれ自分の能力を解放する。

 南々見:「フリーズ。」
 窪寺:「おら! ライトビート!」

 飛び掛ってきた男の動きを南々見が止め、動けない相手に、窪寺が肘鉄を食らわせた。見事なコンビネーションである。

 木南:「炎の壁!」
 武田:「ウィンドフラッシュ!」

 炎と風の波状攻撃に、ばたばたと男たちが倒れていく。

 松鷹:「ミラーイメージ。」

 自分の分身を作り出し、松鷹は攻撃を避ける。

 武田:「さあ、言え! 何が目的だ!」

 気絶しきれなかった1人の胸倉を掴み上げ、武田が詰め寄る。目を回しながらも、男は武田の揺れている胸元に視線を落とした。

 男:「……胸が……。」
 武田:「巨乳って言うなあっ!!」

 がんっと顔面に拳を叩き込んでしまった。

 松鷹:「……まだ何も言ってなかったわよ?」

 武田のコンプレックスは理解しているが、違うことを言おうとしていたのかもしれない男がほんの少し哀れでもある。

 南々見:「本当に何が目的か教えていただけません?」

 怯えたように、小首を傾げ、恐る恐る尋ねる。まん丸眼鏡がさらに気弱さを引き立てていた。男ががしっと南々見の手を掴んだところを、窪寺に後頭部を叩き倒された。

 男:「……子供か。」
 木南:「まあみちゃんは子供ちゃうわ! れっきとした25歳やで!」
 男:「マジで?!」
 木南:「失礼なやっちゃなあ! 炎の矢!」

 男の服が燃え、悲鳴を上げて逃げていった。

 木南:「まあみちゃん、ほんまは暴力とか争いごと、めっちゃ嫌いやのに……。」
 松鷹:「力なき正義は無力なのよ。この場では仕方がないわ。大丈夫よ、気にしないで。」

 思い出したかのようにさめざめと泣き出した木南を、松鷹は必至で慰めた。元々、彼女が争いごとに首を突っ込まなければこんなことにはならなかったと思うのだが。

 武田:「ちょっと謝らなかったことを咎めたくらいで、ここまで怒るものなのか?」

 心底不思議そうに武田は呟いた。



◆事件の結果はこうなのです

 「大丈夫ですか?!」と宿の従業員がやってきたときにはすでに、男たちはほうほうの体で逃げていた。

 松鷹:「もう、大変な目にあったのよ? どうしてくれるわけ?」
 従業員:「彼ら、チンピラに見えますが、覗きの集団なんです。結構被害が広がってるみたいで、でも、注意すると暴れるし……で、困っていたんですよ。」
 武田:「…………覗きの集団?」
 南々見:「まあ。それは大変ですね。」

 5人は呆然と目を丸くした。

 木南:「でも、初めは通行人にぶつかって、因縁つけたのを咎めただけやで?」
 従業員:「だから成りはチンピラなんですよ。」
 松鷹:「つまり、怖がらせて、被害届を出せないようにしてるわけね?」
 木南:「なんやねんそれ! 許せへんわ! 正義の味方として!!」
 松鷹:「……なんだかあんたの性格って羨ましいかも。」
 従業員:「それにしても撃退してくださって、ありがとうございます。」
 窪寺:「じゃあ、宴会すっか!」
 南々見:「その前に汗を流すために温泉に入りましょうね。」
 松鷹:「今覗きの話を聞いたばかりなのに、よくそんな気分になるわね。」
 南々見:「あら。だって、撃退しましたし。汗が気持ち悪くないですか? そっちの方が信じられませんわ。」
 武田:「ケンカするな! とりあえず、敵とその目的ははっきりしたからよしとしよう。温泉に行くぞ。」

 武田の提案に、4人は賛同した。
 ゆったりと温泉に浸かり、本日の疲れを癒す。派手な戦闘が多かったが、その内容は実にくだらなかった。
 その後、従業員たちが見回ったところ、覗きの集団がすっかりいなくなっていたらしい。町中に触れ回られ、ありがたがられているとはまだ知らない5人はめいめい寛いでいる。


 ハルフ村の覗きチンピラ騒動は、本人たちが気付かない内に始まり、知らない間に終焉を迎えていたのであった。平和になったことを喜び、宿側の計らいとして、「正義の味方ご一行様」と予約席に改名されていた。5人はうっかりしていて、翌日になるまでそのことに気付かなかった。


 また、「派遣戦隊ガーデンファイブ」のプロモはその話が付加され、いつにない大盛況を収めたのであるが、それはまた別の話。



 *END*