<PCクエストノベル(4人)>


動く影〜強王の迷宮〜
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【冒険者一覧】

【 1112 / フィーリ・メンフィス / 魔導剣士 】
【 1181 / 雲翆 / 弓使い 】
【 1284 / エンテル・カンタータ / 女騎士 】
【 1285 / オズ・セオアド・コール / 騎士 】

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☆序章

 雑多な文化、人種、種族、あらゆるものが混沌の中で混ざり合い、融合と断絶を繰り返していつしか、一つ一つの粒子は明らかに個別の形を保ちながらも、数え切れない程のそれらが集まって新しい一個体を形成している、それが聖獣界ソーン。それらの粒子の下となったのは、各地に残る古の遺跡からの出土品、冒険談、或いはインスピレーションなのだと言う。
 だがしかし、それでも尚、ソーン創世の謎が解けた断言するには真実は程遠く、誰もが納得する真実を手に入れる事が出来たのなら、富と名声を一気に手に入れる事ができると言われている。
 それ故、今日も冒険者達・研究者達が名誉と財産を夢見て、仲間と、或いは一人でソーン各地の遺跡へと、果てなき冒険の旅に出る。ある時は危険な、そしてある時は不可思議な冒険に…。
 それがこの世界での言う冒険者たちの『ゴールデン・ドリーム』である。

 そうしてまた、今日も聖都エルザードから冒険の旅に出立する者達がいる。
 個人個人では成し得ぬ夢も、力強い仲間達との連携と知恵、技能が集まれば何かしらを選る事が出来るかもしれない。そんな想いを、それぞれの胸に抱えながら……。


☆本章
〜事前調査〜

 エルザードにはあらゆる店やあらゆる酒場があるが、ここは特に、冒険者達が集まる事で有名な酒場である。勿論、彼等が集うその目的は、己の自慢話であったり情報収集であったりするのだが、その店にエンテル達も同じ目的でやって来ていた。
エンテル:「迷宮って言っても、以前に他にもう誰か入っているんだよね?」
オズ:「ああ、『強王』ガルフレッドが倒されてからは、ガルフレッドが築いた地下三階の最後の部屋手前までは既に人の行き来も多く、内部構造も把握されていると聞くが」
雲翆:「最後の部屋手前までは、って事はその先は?手前って言う事はその先にも部屋がある事は判ってるって事だろ?」
 酒場の四人掛けテーブルに腰掛け、それぞれ出立前の食事を取りながらでの会話である。夕飯には少し遅い時間帯故か、他の客達は食事をすると言うよりは酒を楽しむ方向にあり、店内は笑い声と常よりは少し大きな声で賑やかな雰囲気だった。
フィーリ:「今、把握されてる部分ってのはそのガルフレッドが造ったものなんだけど、その先ってのは元々あった迷宮で、まだ探索中だから良くは分かっていないみたいだね」
雲翆:「元々あった…ってー事は、ガルフレッドの時代よりももっと古い時代のもの、って事だよな。それ、もう遺跡に近いような存在なんじゃねーの?…探索、したいな」
エンテル:「でしょうねー。何が出るか分からない…って所が冒険の醍醐味よね! もしかしたら、今まで分からなかったものが判明されるかもしんないし、凄いお宝とか…」
オズ:「エンテル、今回の目的はヴァンパイアの討伐じゃなかったのか」
 何やら目を輝かせるエンテルに、オズが少々苦笑い気味に声を掛ける。
フィーリ:「ま、そうだけど、そのついでに…って言うにはあまりに荷は重いかもしれないけど、そう言う目的があっても励みになっていいかもよ?」
エンテル:「そうよ、それに今回は四人で行くんだし、一人や二人では出来ない事も、四人でなら出来るかもしれないわ。それに、お宝や秘密は魅力的だけど、その前に、その封じられていたヴァンパイアってのは…」
オズ:「多分、とても強い。その前に、そいつに出会えるかどうかも分からないな。行き着く前に、手下共で手一杯になる可能性もある」
 オズの言葉に、神妙な顔でエンテルも頷き、同意した。
雲翆:「その為の、事前情報収集だろ?さっき聞いたけど、しっかりした地図は無いけど、あの迷宮に行った冒険者達が手分けして書いた簡易地図はあるみたいだよ。それを借りて行こう」
フィーリ:「…ジークも連れてっていいかな……?役に立つかどうかは分からないけど、ヒトリ置いて行くと拗ねて五月蝿いだろうし……」
 フィーリの苦笑混じりの言葉に、足元から抗議するようにギャギャ!と鳴き声がした。テーブルの下で塩漬け肉を焙った物を貰って食べていた、子ドラドンのジークが、『連れてって当たり前!』と言わんばかりに鳴いたのだ。
オズ:「大丈夫だろう。旅は大人数の方が楽しいさ」
 他の皆も、その通りだと頷き、遅い夕食の続きを再開した。


〜強王の迷宮まで〜

 ヴァンパイア相手の戦いに、夜に挑んでは余りにこちらが不利と言うもの。それで四人は夜中にこちらを出立して、朝方例の迷宮に辿り着けるようにする事にした。夜になれば、それはそれで出没するモンスターも多いから、旅の道のりとしては危険になるだろうが、それよりはヴァンパイアに支点を合わせておいた方がいいのだろう。綺麗な月が天空に浮かぶ中、四人は聖都エルザードから川を渡って西、然程遠くはない迷宮を目指して、夜の街道を歩いていた。
 その先頭を行くのはフィーリのペット(?)、ジークである。尻尾を立てて意気揚々と、何やら鼻歌のような鳴き声を立てながら歩いて行く。
フィーリ:「…ジーク……ご機嫌なのは分かるけど、余り目立つ事はしてくれるなよ。この街道沿いだって、充分もんすたーの奴らの活動範囲内なんだからな?」
オズ:「まぁ、これだけ人数が揃っていれば、多少知恵のあるモンスターなら襲っては来ないだろうが…出来れば、迷宮に付く前には無駄な運動は避けたいからな」
エンテル:「そう言えば、さっきの酒場で聞いたんだけど、やっぱりボスのヴァンパイアに作り出されたり呼ばれたりして、ガルフレッドが造った階層部分にも小物のヴァンパイアは居るみたいね。大抵は、魔法やアイテムなんかで一掃、或いは避ける事ができる程度の奴らだけど、たまーに強いのもいるみたい」
 月明かりで、酒場で貰って来た迷宮内の簡易地図の写しを見ながらエンテルが言う。
雲翆:「探索する以前に、そいつらを片付けないと駄目、って事か」
オズ:「数が問題だな…一応、予備の剣も用意はして来たが、消耗戦になるようなら少しは戦い方を考えないと。…できれば、それは避けたいがな」
フィーリ:「どう言う展開になるかは、実際に遭遇してみないと分からないだろうね。どれぐらいの数のモンスターが出てくるかも予想つかないし」
雲翆:「もしかしたら、出て来ない可能性だってある訳だろ?さっき借りた地図にもあったけど、何処かに通り道みたいなのがあって、そこからやって来ているみたいだ、とも書いてあったし」
 雲翆の言葉に応えて、地図を眺めていたエンテルも頷く。
エンテル:「幾つか、それらしい疑いのある場所のチェックはしてあるけど、どれも確かではないみたい。或いは、その全てが通り道で、その時に寄って利用する通路が違う、とかね」
フィーリ:「撹乱する目的かな。だとすると、結構、敵さんは賢いって事だね」
オズ:「ヴァンパイアの、しかも上級クラスがいて、そいつがザコを操っているのならそうだろう。油断しないに越した事はない」
エンテル:「問題があるとすれば…使い慣れてない銀製の武器の使い心地かなぁ……」
 ふと、地図から視線を空の銀盤へと移してエンテルが呟いた。それは、エンテルに限らずそこに居る全員に共通する話だったので、しばらくそれぞれが己の戦い方を模索するよう、言葉が途切れて静かな道中となった。

 …鼻歌交じりのジークを除いては。


 四人が強王の迷宮に辿り着いたのは、丁度夜が明けた頃だった。白々と明けていく空を背中に背負って、目の前の鬱蒼と蔦が繁る迷宮の入り口を見上げる。探索が定期的に入っているお陰で、一応獣道のような道路だけは確保されているようだが、それ以外の地面は膝辺りまで雑草が生い茂り、どこに何がいるか分からないような怪しさだ。
エンテル:「…なんか、如何にも何かいそうな雰囲気だよね」
オズ:「ああ、…場所が魔物を呼ぶと言う奴だな。……エンテル、怪我しないように気をつけろよ」
 隣のエンテルを見下ろしてオズが小声で囁く。うん、とエンテルも笑って頷いた。
雲翆:「で、どうする?他の冒険者もいないみたいだし、とっとと中に入るか?」
フィーリ:「もう夜も明けているし、どうせ迷宮内に太陽の光は入って来ないから、今入ろうが、太陽が昇り切ってから入ろうが、同じ事だと思うよ」
エンテル:「迷宮内は真っ暗でも、やっぱりヴァンパイアは昼間の時間帯は弱体化するんだよね」
 エンテルがそう言うと、隣のオズが頷いた。
オズ:「例え陽の光が届かない場所とは言え、どこかから漏れてくる可能性もある、その辺をちゃんと分かっていて、自主的に行動を制限しているのだと思う。そう言う意味では、昼間の時間帯に地下の上層部に上がってくる可能性も少ないかもな」
フィーリ:「じゃやっぱり早めの方がいいね。内部が暗いと時間の感覚が狂うだろうし、中での探索にもたついて、ついうっかり夜になったのを気が付かないでいると、後で困る事になりそうだ」
雲翆:「探索も、モンスターがごろごろいたら、ゆっくり出来ないしなー…出来れば、とっとと邪魔する相手は倒しておいて、じっくり探索したい所だけど」
オズ:「…そう上手く行けば、いいんだが」
エンテル:「大丈夫!だってこの四人がいるんだから!」
 エンテルが、昇りつつある太陽と同じ笑顔でそう言うと、『四人だけじゃない!』と言わんばかりに先頭のジークがギャー!と鳴いた。

 大きな石造りの扉を開けると、僅かに黴臭い空気が淀んでいる。定期的に人が入るお陰で空気の入れ替えも多少は行われるのだろうが、最近は探索も行われていないらしい。少し湿った冷たい空気の中、四人は平らな石を敷き詰めた広間を歩いて行く。ただ四人の靴音だけが響き、辺りにはそれ以外の何の気配も無い。…ないように思えた。
 四人が歩いて通り過ぎて行く傍から、脇の壁には何かの目が浮いては光り、そして消えて行く。それを見たのはジークただ一匹だが、ジークが鳴いて意思表示をしても、静かにしなさいと諌められるだけだったので、しばらくするとジークも鳴くのを止めた。その目だけの存在も、四人に何か仕掛ける訳ではなく、ただ行動を見送るだけのようだったが。
 コツ、とオズが曲がり角に小さな白い石を置く。それは、ほんの僅かにだが光を中に湛えて光る石で、それを目印代わりに、曲がった方の角に置いているのだ。中は迷宮と言うだけあって、やたらと通路が入り組んでおり、油断しているとさっき曲がったのと同じ角をもう一度曲がる羽目になっていた。それも、オズが置く石のお陰で、その過ちにすぐに気付けたのだが。
雲翆:「この中にはもしかして、方向感覚を狂わせる結界か何かが張ってあるのかもな。さっきみたいに、ちゃんとした直角の四つ辻を、右に四回曲がっても同じ場所には出なかったし、逆に緩やかなY字の分かれ道だったのに、いつの間にか同じ道に戻っていた時もある」
フィーリ:「結界か魔法か…でも、魔術の気配は殆ど感じないから、もっと単純な、『おまじない』と言う類いのものかもしれないね」
エンテル:「おまじない、でここまで強い効果が得られるものなの?」
 そう尋ねられ、フィーリは首だけ捻って背後にいるエンテルを見詰め返した。
フィーリ:「普通は無理だけど、例えばここの土地自体に、何らかの地的効果があって、魔力を増大させているかもしれないね。或いは、そのおまじないを掛けた相手が、とてつもなく凄い魔力を持っていた、とか」
オズ:「そう言えば、ここには魔法の利かないモンスター、物質的攻撃の利かないモンスター、両方に強いモンスターが生息すると聞いたな」
エンテル:「黒い恐怖、白い恐怖、灰色の恐怖、ね。私達は剣も魔法も使えるから大丈夫だと思うけど、ヴァンパイアに会う前には会いたくないわね。会った後でも厭だけど」
雲翆:「会いたくないって言ってると、会っちゃうもんなんだよな、世の中って……あ、あった」
 物騒な事を気軽に言いながら、雲翆が先程オズが置いた白い石を見付ける。じゃあ次は、と逆の方向に曲がる事にした。勿論、白い石はその角に置いて。
 そんな繰り返しで四人は、地下三階までの迷路をほぼ攻略し、ガルフレッドが造り上げた迷宮を抜けた。ここからは、まだ誰もはっきりとは確認し切っていない、未知の世界である。

 仕切られた、後造りの扉を開き、四人は更に濃い闇の中へと足を踏み入れる…。


〜ヴァンパイアとの遭遇〜

雲翆:「…変わった材質の壁だね」
 雲翆が片手をすぐ脇の壁に添わせながら呟く。先程までの、ガルフレッドが造ったと言う迷宮の壁は、酒場で得た情報にもあったが、近くの山から切り出した、特に硬い花崗岩で出来ていたが、ここの壁は、確かに石造りなのだが、余り見た事の無いような種類の石で作られているのだ。ただ、何しろ内部が暗いので、はっきりと見て取る事ができないのが残念らしい。
フィーリ:「今、各種ギルドが共同で探索を行なっている最中だからね、きっとこの石の事も話題にはなってるだろうね。ただ、切り出して調べる…って事は難しいかもだ」
エンテル:「かと言って、中で研究をするにはちょっと危険だしね。だからかな、探索の進み具合が芳しくないのは」
 先頭で、明かりを持って歩くエンテルの背後を守るよう、後に続くオズも、雲翆と同じように傍らの壁に手を伸ばした。…と、その時。壁の中に何かが光ったような気がした。ほんの一瞬だったがそれはオズには何かの目のように思えた。それはまさしく、先程からジークが見ていたものと同じものだったのだが、ただ四人を観察していただけの『目』が、不意を突かれてオズと対面してしまったらしい。
オズ:「…研究が遅れる訳、と言うのも分かる気がするな……そろそろ来るかもしれないぞ」
 いつも冷静なオズの声が、更に警戒を孕む。それだけで、他のメンバーもより一層、周囲に気を配る。目には見えないが、緊張の空気がその辺りに蔓延するような気がした。
 少し先に行くと、これまでよりは多少開けた場所に出た。ふと、エンテルが道すがらずっと眺めて来た、迷宮の地図を思い出し、歩みの速度を遅くする。
エンテル:「…確かこの辺に……例の、ヴァンパイアやモンスターが出没する壁の亀裂があった筈よ。気をつけて」
雲翆:「……もう遅いかもな」
 ぽつりと呟いた雲翆の言葉を合図にしたかのよう、何処からともなくギャギャギャ!とけたたましい鳴き声を響かせながら、背中にコウモリの羽根を生やしたゴブリンのようなモンスターが現われた。恐らく、元はただのゴブリンだったのだろうが、ヴァンパイア化されてボスの配下の下に置かれているのだろう。エンテルが明かりを足元の壁際に置く、鼓しにつけた、いつもの愛用の剣ではなく、この為に用意した銀製の剣を抜き去り、その刃身の光を見せ付けた。
フィーリ:「一瞬だけ、目を瞑って!」
 フィーリの鋭い声が飛ぶ。それに答えて他の三人が目を閉じた瞬間に、フィーリの右手から光の珠が飛び出、頭上の壁に当たってそこで激しく弾けた。閃光弾のようにそれは周囲を眩く照らし、最初の光の爆発の後は、その粒子が周辺に飛んで撒き散らされ、石の壁に付着したようになって、周囲を動き回るのに困らない程度の明るさに染め上げた。
 それに寄って確認出来たのは、モンスターは全部で四匹。そのうちの三匹は、最初に襲い掛かって来たゴブリン調のヴァンパイアだが、もう一匹はそれよりも人間に近い形状と遥かに大きく逞しい体躯をした、やはりヴァンパイアの一種であった。
 剣を構えたエンテルがダッシュでその吸血鬼の背後へと回り込む。残りの三人は同じく銀の剣を構えたオズを前にして、その斜め後ろにフィーリ、その背後に弓を構えた雲翆を呈して戦闘体勢は整ったようだ。
 ヒュ!と風を切る音がして雲翆の矢が飛ぶ。フェイントを使った雲翆の矢――勿論、矢尻は銀製――が、ゴブリンヴァンパイアの眉間を貫いた。そこから真っ白い、蒸気のような激しい煙を吹き出しながら、ヴァンパイアは乾き切った砂で出来た人形のように、その場に崩れ落ちて行く。
 ギャギャ!ヴァンパイア達の叫び声に、警戒の響きが混ざったようだった。ゴブリンヴァンパイアは、その小柄で軽快な身体を活かし、周囲の硬い石壁を蹴って三次元の動きで攻撃を仕掛けてくる。その早い動きに、雲翆の弓も狙いが付け難い。エンテルとオズも、飛び掛かってくるモンスターを銀の剣で薙ぎ払うが、その光に警戒をしているのか、彼等の身体を、その切っ先さえも捉える事ができない。
エンテル:「何よ、もう!この激しい動き、何とかならないの!」
オズ:「先回りするしかないな。動きを良く見て、奴らは壁を蹴った後は、一定方向にしか飛ばない筈だ!」
 馴れない剣とは言え、騎士の二人は瞬く間に新しい銀製の剣の扱いにも慣れ、少しずつその動きには無駄が無くなっていく。オズの剣に怯んで後ずさりするモンスターを、ソの後ろで控えるエンテルが剣の錆びにする、その逆も然り。同じく、銀の剣を掲げたフィーリが、顔の前に真っ直ぐ立てた剣の背に手の平を宛って敵へと向け、口の中で何かの呪文を唱えた。次の瞬間、剣の切っ先から白銀に近い色の炎が吹き上がり、モンスターの目を眩ませると同時に、燃え盛る炎で威嚇する、怯んだその隙に、フィーリが巻き上げた炎を切り裂いて銀の矢が飛び、飛び回るヴァンパイアの赤く濁った目を貫いた。
フィーリ:「…なにか…おかしくないか?モンスターの数が減らないどころか、増えてるぞ?!」
雲翆:「俺もさっきから捜してんだけどさ…見つからないんだよ、例の亀裂って奴が。どうも、裂け目ってのは自由自在に動き回れる、それ自体が生き物のような存在じゃないかと思ってんだけどさ」
オズ:「それは例えば、時空の歪みを操れて、別の場所にいる者を一瞬にして違う場所に移動出来る能力を持っている、とか?」
 斜めに薙いだ剣で、モンスターの眉間を切り裂いたオズが、後ろに飛びすさって合流する。そう、と雲翆が弓を構え、片目を眇めたままで頷いた。
エンテル:「それじゃ、キリがないじゃない!」
 挟み撃ちで戦っていたエンテルが、さっきと同じ勢いで敵の合間をすり抜け、三人の傍へと戻って来た。怪我は追っていないようだが、さすがに途切れない敵の応酬に多少の疲れが見えているようだ。それは、他の三人も同じ事であったが。
フィーリ:「日光に当てるのが一番なんだろうけど…ここじゃ無理だしな……」
オズ:「…ここでは、な。だが、上層部までこいつらを誘導出来れば……!」
雲翆:「さっき、オズがずっと置いてきた石、あれがあれば、今度は真っ直ぐに入り口付近まで戻る事が出来る筈だ」
エンテル:「……そこまで、誘導すればいいって事ね?」
 四人は頷き合うと、変わらずモンスター達に武器を向けながら、さり気無くじりじりと後退し始める。相手と同じ距離を保とうとしていたヴァンパイア達は、当然釣られて四人の後を追う形になった。このまま、迷宮の上層部まで引き摺り出す事ができれば、天井に穴を開けて彼等が尤も嫌う太陽の恵みに存分に晒してやろう、それがオズの計画だったのだが。

雲翆:「……奴ら、歩みを止めたぞ。あの動き、あそこからこちらへは来れないような感じだな」
オズ:「ああ、立ち往生している。見えない壁か何かに阻まれているような感じだ」
エンテル:「…もしかしてさ、奴らは元々行動範囲を限定されていて、さっきの時空を操る動く亀裂、あれが無いと、他の場所には出て来れないんじゃないかしら?」
フィーレ:「出現ポイントがある程度限定されているって事だね。それなら、例えばこの迷宮内でモンスターに遭遇しても、ダッシュでその場を逃げ去れば、ある程度の距離からは奴らは追ってこれないって事だね」
雲翆:「その先で、別の亀裂からモンスターが運ばれて来てなければ、な」


☆終章

 結局、大元のヴァンパイアには出会う事ができなかったが、そこからの帰りの迷宮内で、オズとジークが目撃した目だけの存在を他の三人も目の当たりにし、彼等が最初から見張られていた事を知ったのだ。
エンテル:「あの、見張りみたいなのが、私達の動きを報告し、それに寄って戦闘部隊が派遣された…そんな感じね」
雲翆:「ああ、だから、もしあの見張りから逃れる術があれば、もっと深くまで探索出来るかもしれない」
フィーリ:「見張りから逃れる術か…透明になるか、擬態でもするか…そんな感じか」
オズ:「取り敢えず、その辺はギルドにも報告しといてやるか。酒場にも情報を流して置けば、また違う情報が手に入るかもしれん」
 ようやく地上に出た時には、既に日が暮れようとしていた。強王の迷宮の向こう側に沈む夕日を眺めながら、四人は不意に凄く疲れている事に気が付くのであった。


おわり。


☆ライターより☆
皆様、初めまして!ライターの碧川桜です。大変お待たせしまして申し訳ありません。
四人でのクエストノベルに挑戦するのは初めてでしたので、何かと不手際等ありそうで少々ビビってますが、如何だったでしょうか?四人のPC様の、それぞれの個性が活かせるように頑張ったつもりですが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。
それでは、またお会い出来る事をお祈りしつつ……。