<PCクエストノベル(3人)>
護り神
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【 0812 / シグルマ / 戦士 】
【 1217 / ケイシス・パール / 退魔師見習い 】
【 1247 / 海之宮 光夜 / 退魔士 】
【助力探求者】
【 ヴァルス・ライオンハート / 剣闘士 】
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▼1.
いつの時代でも、またどんな場所に於いても、美しい建造物の基準の一つは“左右対称”であると云う。その他色々と条件はあるだろうが、そのことに限って云えばこの建物は完璧だった。
ソーンの外れに聳え立つウィンショーの双塔―――それはひっそりと、それでいて何者をも退ける雰囲気を漂わせてそこに建っていた。
光夜:「さっすが噂になるだけはあんなぁ!雰囲気バッチリや」
ケイシス:「見事に左右同じなんだな……」
明り取りのためか、ところどころに窓のような穴が開いていたが、それさえも見事なシンメトリーになっていた。
内部は八層になっているとの話通り、最上階の方を見上げると視界から空が遮られてほとんど見えなくなるくらいには大きい。
ヴァルス:「冒険でもなければ、あまり人も来ない場所にありますから」
光夜:「成る程なぁ。道理でまだこんな噂が流れてるわけや。ホンマ、ガーゴイルもいそうな感じやで」
シグルマ:「まあ、宝があるって話ならとっくに誰かが持ってっちまっててもおかしくはないしな」
ケイシス:「今回は宝ももちろだけど一番の目的は競争だからな。で、どっちがどっちに行く?」
シグルマ:「この分だと、中の罠なんかも全部一緒なんだろうな」
何しろ、最上階の通路を除いて云えば全く同じ塔が二棟並んで建ってるようなものだ。最上階までは同じ距離。当然、どちらの通路を選んでも結果的には変わらない。ここまで製作者の美的感覚が窺がえる建物ならば、中だけが著しく違うというわけはないだろう。最悪、罠や仕掛けは違えど間取りは一緒の筈だ。
光夜:「距離はおんなじなんやから、もし違うてても大して変わりあらへんやろ」
ケイシス:「じゃー適当で良いな。ここは公平に、じゃんけんで」
そのまま光夜とケイシスがじゃんけんをして、勝った光夜とヴァルスは何となくと云う理由で右を選んだ。ケイシスの運のなさはこんなところでも発揮されるらしい。
シグルマ:「じゃあ早速行くか」
光夜:「そうやな。じゃあ用意スタートの合図で出発ってコトで」
今四人が立っているのは、丁度二つの塔から同じ距離だけ離れた場所だ。四人が四人、無意識に己の武器を掴んだ。
ケイシス:「それじゃあ、運が良ければ上で会おうぜ」
光夜:「用意……スタート!」
四人は一気に各々が目指す塔の門へと走り出した。
斯くして、『ウィンショーの双塔・伝説の宝争奪戦』は始まったのである。
▼2.
シグルマ:「こりゃあまた……」
ケイシス:「入り組んでるどころのハナシじゃねぇだろ、コレは」
勢い勇んで荘厳で頑丈な扉を押し開ける。―――それまでは良かった。
その先にあったのは、噂通りの枝分かれした道と、暗闇。先で折れているのか、どの通路を選んでも扉からの光は先に続く通路には届いていないようだ。
ケイシス:「ううーん……そうだな。とりあえず真ん中に進もう」
シグルマ:「こりゃもうケイシスの勘を頼るしかねぇな。おい、気を付けろよ」
ケイシス:「……っと」
さすがはただの迷宮ではない、ということか。早速と云うか何と云うか、足元に細い鋼線が張られていた。それを躱すと、今度は鉈のような刃物が降ってくる。シグルマの注意で両方とも上手く避けたケイシスは、楽しそうに口元を歪ませた。
ケイシス:「始めがちょーっとセコイけど。なかなか楽しめそうじゃん」
シグルマ:「単なる噂じゃねぇってコトだな」
シグルマもそれに乗って笑い、二人同時に駆け出した。
とにかく作戦通りにケイシスが勘を頼りに通路を選び、シグルマが襲い来る罠やら何処かに潜んでいたらしい小型のモンスターやらをぶっ倒しながらとにかく進む。時折出会う明かり取りの窓から外を見るに、着実に上へは登っているらしい。
ケイシス:「さすがにここまで来ると……」
シグルマ:「ああ、罠もハンパじゃねぇ」
始めはケイシスの称した通り“セコイ”罠ばかりであったが、ここまで来ると壁ごと動いたり通路も更に複雑になったり、仕掛けも手が込んでいる。もとから方向感覚などは当てにしてはいなかったから、壁が動いて道を見失っても特に困ることはない。困りはしないが、始め来た道の後ろで壁が動いて退路を塞がれたときはさすがに狼狽えた。
ケイシス:「コレって何で出来てんだろうなー……」
シグルマ:「確かに……まあ、こうまでして守りたいほどすごい宝なんだろうさ」
単なる噂ではなく、確かに『伝説の宝』はあるという確信とともに、二人の足取りは速くなった。
▼3.
光夜:「さーて。あっちも張り切っとるんやろうなぁ。ま、頑張りましょーや、ヴァルスさん」
ヴァルス:「そうですね。とりあえずは急ぎましょうか」
光夜とヴァルスの二人も、罠や仕掛け自体には大して煩わされることはなかったが、文字通り迷路のように入り組む通路にだけはさすがに辟易気味だった。何しろ、暗闇の中なので景色も何もない。窓がなければ、本当に進んでいるのかさえも判らなかっただろう。
光夜:「あっちはケイシスさんが居てはるからなぁ」
ヴァルス:「勘が鋭いのでしたね、彼は」
光夜:「そうそう!でもヴァルスさんは冒険とか俺よりは慣れてそうやし」
ヴァルス:「まあ、経験はそれなりにありますが……俺はあくまでも剣闘士なんで、シグルマさんの方がずっと慣れてそうですけどね」
光夜:「そやなぁ。でも、俺は充分ヴァルスさんのことも頼りにしてまっせ」
ヴァルス:「それは光栄です。期待に添えられるよう、頑張ります」
光夜:「おう!」
横からはコウモリにも似た小型のモンスターが大量に押し寄せてくる。光夜はとにかく阿祇羅【あぎら】を振るってその大群から逃れようとした。狙っている暇はない。どれだけ居るか見極めもつかないほどの量なのだから、適当に振るっても何羽かには当たってくれる。とにかく薙ぎ倒しながら、光夜はある事に思い至った。
光夜:「……そう云えば……」
ヴァルス:「何か?」
光夜:「噂のガーゴイルってのも、見かけはコウモリみたいやって聞いたことがあるような……」
ヴァルス:「ああ、そうですね。羽がコウモリに似てるそうですよ」
光夜:「へぇ。でもこんなコウモリが居るなら、ガーゴイルが居るってのもホンマのハナシやったんやろうな」
ヴァルス:「逆にただのコウモリだった、ってコトもあり得るでしょう」
光夜:「あ……」
ちょっとお宝に近づけた気がして期待してしまった光夜だったが、ヴァルスの云う事も尤もだと思い今度は肩を落とした。
ヴァルス:「そう気を落とさないでください。ガーゴイルは元は豊穣の神で、水を司る存在だったとも聞きますから」
その証拠にほら、さっきから水が流れる仕掛けが多いでしょう。
ヴァルスは、一筋の滝のように天井から流れる水で剣についたモンスターの血を流れ落としながらそう続けた。
途端に光夜はご機嫌になる。
光夜:「よう知ってますなぁ、ヴァルスさん!それだけで俺充分やる気出たわ」
ヴァルス:「それは良かった」
会話をしながらも、足と武器を振るう腕の動きは忘れない。ここは全て同じ構造だと云う噂のウィンショーの双塔だ。ならば、どんなにケイシスの勘が働いても、相手チームもこの迷路には苦戦している筈。そう信じて、とにかく前へと進む二人だった。
▼4.
ケイシス:「よっしゃー!これが最後だ!」
光夜:「あと少しやで!」
最後の扉、つまり八つの層ごとに一つづつ付いていたのだから九つ目のドアを開けると、そこはもう通路の先に宝の部屋が待ってる筈だ。
奇しくも、そのドアを開けたのは二組同時だった。
シグルマ:「こりゃーもう完全に競争だな」
シグルマが心底楽しそうに笑い、四人がそれぞれ通路の中央に向かって走り出した。不思議と、その通路には何も仕掛けはないようだ。部屋の扉の前に立ったのも同時、だが其処で四人は一度立ち止まった。シグルマ・ケイシスと光夜・ヴァルスのコンビで、お互いに目を合わせる。
シグルマ:「ま、どっちが取っても何も文句はないってコトで」
光夜:「そらもちろんや。白山羊亭で賭けてる連中やあるまいし」
シグルマ:「まったくだ」
しかし、それから四人はどんなに経ってもなかなか動き出そうとしなかった。タイミングを計っていたのもあるが、最後の扉にとんでもない仕掛けでもされていないかと疑っていたのだ。
こうなっては埒があかない。どうしようもなく、ここだけは共同作業とばかりに「せーの」で扉に向かい、あまりに力を入れすぎた結果ただ開けるだけでは飽き足らず壊して中に進もうとした。
そこには、一応想像はしていたガーゴイルが、しかし想像図とは全く違う様を見せて黒い羽をばさばさと動かし、空中に佇んでいた。
皆が皆一度は息を呑んだが、一番早く動いたのは一人この事態に早く気付きこういったことにも慣れているシグルマだった。何とか鉄球を飛ばして動きを封じる。いくら羽があるとは云え、恐らくこの部屋で宝を護り続けたガーゴイルよりも、冒険者として名を馳せることを野望とする多腕族のシグルマの方が上手であった。
シグルマ:「ケイシス!」
ケイシス:「おっ……おお!」
一時は呆然とその様子を見ていたケイシスだったが、シグルマに名を呼ばれると弾かれたようにはっと我に返って槍に手をかけ、そのまま狙う。見事、胸の辺りを突き刺されたガーゴイルはこの世のものとは思えない叫び声を上げて、あれだけ緊迫した割にはあっけなく霧散してしまった。
ケイシス:「や……やった、か?」
シグルマ:「手ごたえがないな……ホントに宝護ってんのか?」
ケイシス:「うーん……まあ一応倒したんだからまあ良いや。とにかく宝探そうぜ」
シグルマ:「それもそうだな」
あまりのあっけなさに他にも何か仕掛けが有りはしないかと少し疑ってはみるものの、ケイシスとシグルマは早くも気を取り直して宝を探し出した。
ヴァルス:「……あっさりと見せ場を取られてしまいましたね」
光夜:「誰への見せ場や。ま、仕方ないな。一番に向かってったのがシグルマさんなんやから」
ヴァルス:「ここは彼らに譲りますか?」
光夜:「云ってみればお遊びやしな。でも、後から宝を掻っ攫うような卑怯な真似はわいはせぇへんで」
ヴァルス:「私もそう思います。とりあえずは見守っていますか」
ヴァルスと光夜の二人は、部屋をひっくり返すような勢いで捜索をするシグルマとケイシスを見ていた。しかし、どんなに探しても宝は見つからないらしい。どんな宝なのかも知らないのだから当然といえば当然なのかも知れないが。一応金品は何点が転がっていたものの、とても噂になるまでの宝だとは思えない。
シグルマ:「……ハズレか?」
ケイシス:「マジかよ……。ガーゴイルは居たのになー」
どんなに探しても宝らしきものが見当たらない事態に、二人はがっくりと肩を落とした。それは此処まで奮闘してきた光夜とヴァルスとっても同様である。
光夜:「……何だかなぁ」
ケイシス:「ホントに何だかだよ、ったく」
光夜:「でもまあ、勝負で云えばお二人さんの勝ちやで。俺らは見てただけやし」
シグルマ:「……それだけが救いと云えば救いか……」
シグルマが先に部屋を出て、それにケイシスが続く。光夜とヴァルスも少し部屋を入った辺りに居たので、二人の後に続く形となった。
ケイシス:「あ゛〜、今日もついてねぇー!」
ケイシスがいつものお決まりのセリフをやけくそになって槍を振り回しながら云ったとき、それは起こった。
部屋と通路を繋ぐ扉、その部屋側の上にあるほんの少しの突起をその槍が触った。するとゴゴゴ……と云う、大きな壁の動くような音がした。四人はキョロキョロを辺りを見回すが、その音以外に特に変わったことは何もない。
ただ、何かが真上から降ってきた光夜は、反射的にそれを受け止めた。大きさは約20cmほど、大して大きくはないが上から振ってくるには些か危険な大きさの黒光りするそれ―――
光夜:「ガーゴイル!?」
シグルマ:「はぁ?」
光夜の叫びに、三人がばっとそちらへ目を向ける。
光夜が抱えていたのは、なるほどガーゴイルだった。ただし、今度は本物ではなく、置物のような彫刻の。それは、何かを大事そうに抱えていた。
シグルマ:「……ダイヤ、か?」
光夜:「みたいやな……」
ケイシス:「でけー……」
ケイシスの言葉通り、それは優に100カラットはありそうな大きさと輝きだった。
ヴァルス:「……成る程……」
未だ戸惑い気味の三人と比べて、ヴァルスは何かに気付いたように気がついた。視線で、何かと三人は問い掛ける。
ヴァルス:「ガーゴイルが護ってるって、このことだったんですよ。大事に抱きかかえているでしょう。きっとさっきの本物のガーゴイルはフェイクで、こっちが本当の噂話のガーゴイルと宝です」
少々釈然としないものはあるが、ヴァルスの説明で一応は納得した。さすがは一筋縄ではいかないウィンショーの双塔だ。まさか、最後の最後でこのような引っ掛けがあるとは思わなかった。
これで、勝負に関しては納得の結果がいくように終えられる。しかし、それには一つ問題があった。
ケイシス:「これってさー……どっちが勝ち?」
シグルマ:「それは俺もちょっと思った。宝受け止めたのは海之宮だからな……」
光夜:「え、でもケイシスさんが何や槍振り回したお蔭で見つかったんやで」
ヴァルス:「……引き分け……ですかね」
四人:「…………」
それはそれで肩透かしくらったようなものだ。伝説の宝が見つかったとあればもちろん嬉しいが、しかし一番の目的は勝負である。四人が四人、複雑そうな顔をした。
ケイシス:「あ゛〜、やっぱり今日もついてねぇー!」
シグルマ:「まあ、良いか……。ありのままを話して、白山羊亭で賭けしてるヤツらに勝手に勝敗は決めてもらおうぜ」
光夜:「それが一番良いと思うわ。少なくとも、俺はそれで異論ナシやで」
ケイシス:「まあ、俺も異論はないけど……何か、釈然としないよな」
光夜:「それはまあ、確かにな」
シグルマ:「なら海之宮、その宝四人で分ける気はないか?」
光夜:「お、飲みますか?」
シグルマ:「ああ、でもしないとやってらんねぇ」
光夜:「そら大賛成ですわ。俺はもともと面白そうだから参加しただけやし」
シグルマ:「よし、決定だ。そうと決まれば白山羊亭へ向かうぞ」
ケイシス:「なら今日はちょっとはついてる……かもな」
四人は一応納得、と云う形で帰路につくことにした。何だかんだ云っても、楽しめたからそれで満足だ、とでも云うように。
その時までは、ヴァルスでさえも、仕掛けのある塔をまた戻らなければならないことを忘れていたのである。伝説の宝のある小部屋を出た瞬間、そのことに思い至った四人は愕然とはしないまでも少しげっそりとしたことは、云うまでもない。
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