<PCクエストノベル(2人)>


釣った魚は大きい? 〜ルナザームの村〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1348 / 螢惑の兇剣士・連十郎(連十郎) / 狂剣士】
【1354 / 星祈師・叶(叶) / 陰陽師】

【その他登場人物】
【サカーナ / ルナザーム漁協の組合員】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 様々な世界から、様々な異訪者や色々なものが集まる国。そして、雑多な知識や技術、文化が入り混じり共存する国。
 そして、聖都エルザード。
 聖獣界ソーンにおいて、最も特異な都にして世界の中心。36の聖獣によって守護されている地域の中の一つ、ユニコーン地域の中に、エルザードはあった。
 そのエルザードから延々と南に下り、海まで辿り着くと、ルナザームの村がある。
 ルナザームの村は、港村だけあって、漁業が盛んな村だ。この村で揚げられた魚がエルザードの食卓に並ぶ事が多い。いわば、エルザードの魚専用台所と言ってもおかしくはない。魚専用があるのなら、肉専用とか野菜専用の台所があるのか? だなんて聞いてはいけない。多分。まぁ、この広い世の中、何処かにあるであろう。きっと。

 この村の市場を歩き回る冒険者が二人、いた。
 螢惑の兇剣士・連十郎と、星祈師・叶。
 のんびりと辺りの様子を眺めながら、散歩がてらに来た様子だ。興味津々と市場に並べられた魚を見て回る、二人。

叶:「あ、この蛸、まだ生きてるんですね‥‥うわぁっ」
連十郎:「おっと、危ねぇぞ。墨を吐かれて‥‥って、遅かったか」

 蛸に墨を吐かれ、顔を真っ黒にした叶を見て、連十郎は苦笑いを浮かべた。


●一章 海の幸
 二人が、このルナザームにわざわざ来たのは、とある噂を聞いたからだ。
 エルザードの市場で聞いた、噂話。『ルナザームでとんでもない化物魚が暴れ回ってる』‥‥その噂を聞いて、連十郎の魂が揺さぶられたのだ。
 釣りバカ魂――釣りに生涯と命と持て余した暇を注ぎこむ、漢の魂。何処にンなもんがあったかは、秘密らしい。
 まぁ、ともかく叶を引き摺って遠路遥遥と、このルナザームまで来たのだ。取り敢えずは観光と昼食を兼ねて、市場を回る。
 漁業が盛んな村だけあって、海の幸がてんてこもり。市場の片隅に、商人達がよく利用している食堂を見つけ、そこに入る事に決めた。

連十郎:「俺、いくら丼なっ」
叶:「僕、親子丼で」
連十郎:「ちょっとまてぇぇっ!」
叶:「え? おかしいですか?」
連十郎:「ここまで来て、どーして海の幸を頼まねぇっ!?」
叶:「何となくです」

 そうこうしているうちに、注文した食事が二人の座っているテーブルに届けられる。
 食について討論していた二人だったが、目の前の食い物の誘惑には勝てない。決して勝つ事ができないだろうなー、と、思える程の食いっぷりだ。
 すぐさま食べ終わり、食後の茶を飲んで一息しながら、どうやって化物魚を退治しようか、と、相談する。
 その二人の会話を聞いて、一人の男が声をかけてきた。

でっぷりと太った男:「一つお尋ねするが‥‥お二人は、この村に現れた化物魚を退治されるつもりですか?」
連十郎:「おう、そうだぜ」
でっぷりと太った男:「おぉぅ、それは大変有り難い。私、ルナザーム漁業組合のサカーナと言う者ですが――」

 この、サカーナというルナザーム漁協の男は、退治に出る二人に協力してくれると言った。化物魚が暴れていて、漁に出る事が難しくなってしまった。

サカーナ:「そこで、冒険者に退治する依頼を出そうかと迷っていたのですよ‥‥」
連十郎:「なるほど、なるほど‥‥その化物魚、俺達に任しなっ!」
叶:「ルナザーム漁協の協力があれば、退治しやすいですね♪」
サカーナ:「えぇ、私達が全面的にバックアップしますんで――低予算ですが(小声)」
叶:「ほえ‥‥? 低予算って‥‥何だか嫌な予感がするんですけどー」
連十郎:「よっしゃっ、やるぜぇーっ!」

 釣りバカ魂が更にヒートアップした連十郎に、叶の心配する声が耳に入っていない。
 何だか不安を感じてしまう、叶であった。
 ‥‥その前に、ある重要な事を彼は忘れていた。それが、後々凄まじい結果を及ぼそうとは思ってもいなかった。


●二章 化物魚
 その重要で、凄まじい結果を及ぼしそうな事は、すぐに判明した。

連十郎:「叶、船酔いすんじゃねぇぞ?」
叶:「ておくれです‥‥うぇ」

 船に弱かったのだ。
 あれから、サカーナに船と釣り道具を用意してもらい、戦闘準備を抜かりなく行ってから船出したのだが、早速と船酔いしてしまう、叶。
 化物魚が暴れている為か、海は荒れ狂っている。

連十郎:「大丈夫か? ‥‥吐くなよ? 吐くなよっ!?」
叶:「ごめんなさい、れんじゅーこさん‥‥ぼくは、もう、だめ、かも‥‥」
連十郎:「おっ、おぃっ!? つか、咄嗟に紛れてふざけた事言いやがったなっ! ボケェっ!!」
叶:「かふっ。それはきっと、気のせいですよ‥‥『れんじゅーろー』さんと、言おうとしただけですから」
連十郎:「‥‥案外元気だろ、おまえ」

 そうやって漫才しながらも、海は荒れ狂ったまま。このままでは、船が横転してしまうだろう。事態は結構深刻だったりする。
 その時。
 目の前の波が、一際高く噴き上がった。
 そして、怪物魚が姿を現す。全長は、連十郎と叶を足して二倍にした感じで、頭に目が十数個程あった。もはや、『魚』という領域を超えた生物と言っても、過言ではない。

連十郎:「――でけぇ」
叶:「調理したら、何食分になるんでしょうかね?」
連十郎:「いや、食っても腹壊しそうだぞ‥‥」
叶:「じゃぁ、釣っても食べれませんよね。残念です」
連十郎:「いや、食べる事から離れろ。って、もう大丈夫なのか?」
叶:「えぇ。なんとなく」

 ニヤリ、と、邪笑を浮かべる、連十郎。釣竿を手に取り、釣り針を叶の衣服にかける。

叶:「何だかとっても嫌な予感がするんですけど‥‥気のせいですよね? 気のせいと言ってくれますよね!?」
連十郎:「叶‥‥この尊い犠牲は忘れないぞ」
叶:「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
連十郎:「いっけぇーっ!」
叶:「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 その技の名は、『提灯アンコウ攻撃with叶』――。
 叶を餌にして、尚且つ体当たりさせる、という漢気溢れる荒業、かつ、釣り技。
 厳しい世間の荒波を体現する、容赦ない特攻技だ。

叶:「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
連十郎:「頑張れっ、叶っ! 『!』が、次第に増えてってるぞ!」

 豪快に釣竿を振り回し、化物魚に攻撃を仕かける、連十郎。そして、振り回されながら、真空破の術を乱射する、叶。
 この二人の絶妙なコンビネーション(?)で、化物魚の身体に傷が見る見る増えていく。

連十郎:「更にぃっ!」
叶:「え? 何するつもり‥‥ひょわぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」

 カッ、と、目を見開いた、連十郎。何時の間にか釣竿の先端に取り付けた刀の刃にて、鋭く化物魚を斬り刻む。
 激しい動きで振り回され、叶はとってもアンニュイな気分。というか、完全に目を回してる。

連十郎:「尚且つぅっ!」
叶:「‥‥今度は何ですかぁ‥‥? ――にょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅっ!!!!」

 取りつけた刃が、燃え上がる。会心の一撃で炎纏いし刃は、怪物魚の息の根を、止めた。
 そして、波はおさまった。
 残ったのは無残な骸を海上に晒している、化物魚。そして、釣竿の先で「きゅぅっ」と、意識なくしかけている、叶だけであった。


●終章 美味しく召し上がれ?
 原型を留めていない化物魚の骸(何だか意味合い的に微妙)をお持ち帰りし、砂浜で調理を始める、叶。

連十郎:「てか、まじで食うのか?」
叶:「勿論ですよっ」

 如何にも毒々しそうな外見の怪物魚を、叶は喜んびながら調理する。その瞳には邪悪さがちらちらと見えるのは気のせいではなかっただろう。

連十郎:「意外に美味」
叶:「ちっ」

 そんな思惑はおいといて。
 ルナザーム漁協に化物魚の退治の報告と、証拠の骨(全部食った)を見せる。

サカーナ:「おぉっ! よくぞ化物魚を倒してくださった!」
連十郎:「何かくれんのか?」
叶:「何でしょう‥‥ドキドキ」
サカーナ:「はい、これ」
連十郎:「魚か‥‥」
叶:「海の幸ですね‥‥」

 謝礼として手渡されたのは、新鮮な魚介類。先程、化物魚を食ったので腹いっぱいに近かったが、美味しいものはやはり美味しいので、素直に受け取る。
 持ったのは、叶。
 ルナザーム漁協を後にし、もらった魚介類を美味しく頂こうとまた砂浜に向かう、二人。
 その時、事件は起きた。

叶:「助けてくださーいっ」

 道端でたむろってた野良にゃんこ軍団に取り囲まれる、叶。新鮮な魚介類の匂いを嗅いで、おねだり攻撃をエンドレスで喰らっていた。
 涙目で助けを請う叶を、何となく連十郎は眺めたまま。

叶:「はやくぅ〜」
連十郎:「ふーむ。何だか面白い生き物みたいだぞ」
叶:「観察されてるっ!?」

 まぁ、餌の為にならば非情になろう。それが、サムライというものだ。

連十郎:「シャァァーッ!」

 威嚇の声を上げ、野良にゃんこを追い散らす、連十郎。その姿は、まるで野良猫のボスのようだったと、叶は後程語った。
 浜辺に到着すると、魚介類を磯鍋にして、美味しく頂く――予定だったのだが、何ともデンジャラスで、とってもワンダーワールドな鍋になっていた。
 元々の新鮮な魚介類は何処へと姿を消したのだろうか?
 そういえば、これだけじゃ足りないかも、と、叶が他の具を突っ込んで、ぐつぐつと作っていたような気がする。
 恐る恐る、連十郎は尋ねてみる。

連十郎:「‥‥その珍妙な具は何処から拾ってきたっ!?」
叶:「浜辺〜」

 ふに〜、と、笑って答えた、叶。
 何だか頭痛がしてきたような気がする。これは食わない方が命の為であろう。
 だが、楽しそうに調理をした叶の姿を思い起こすと、悪い気がする。しかも、化物魚を退治する時に、酷い目にあわせたかもしんない、と、心が少し痛んでいるし。
 潔く、食ってみる。

連十郎:「‥‥意外に美味」
叶:「ちっ」