<PCクエストノベル(1人)>


眠る悪魔 〜落ちた空中都市〜

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■冒険者一覧
■■番号 / 名前  / クラス
■■0925 / みずね / 風来の巫女

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■序章

 聖獣界ソーン。
 それは36の聖獣によって守られた不思議な世界。どの世界に住んでいるどんな人でも、訪れることのできる不思議な世界。
 その中でも特に発展を遂げているのは、聖獣ユニコーンによって守られているユニコーン地域だ。
 その理由は、この世界において最も特異な都にして中心とも言える聖都エルザードが、そこに存在しているからである。
 そのエルザードの東にある湖に、落ちた空中都市があると言う噂を聞きつけたみずねは、その空中都市について調べていた。
 そして知ったのは、古代人が魔法を使用するために使っていた”モノ”の存在。それが何であるのかはさだかではないが、一部には悪魔そのものを飼っていたのではないかとも言われていた。
 さて、今回のみずねはどんな所からアプローチしていくのだろうか。



■本章
■■1.仮説

 今はまだ静かな水面を見つめて、みずねは湖畔に佇んでいた。
(実は)
 これから湖に入ろうと、している。
 以前エルファリアと調査した結果から、みずねは1つの仮説を立てたのだ。
(空中都市はかつて、空に浮かんでいた)
 それが何らかの理由でこの湖に落ちたが、都市自体の形はまだ残っている。
(どちらも同じ)
 魔法の力で保っていたはずなのに。
 片方は消え、片方は今もなおその力を持続させている。
(――それが”悪魔”)
 本当に悪魔かどうかはわからないが、とりあえずその存在をそう呼んでおくことにした(もしかしたら人工知能かもしれないし精霊かもしれない)。
 そして湖に住みついているという魔物の噂が、その存在を裏づけているようにも思える。
(魔物がガーディアンなら)
 きっとそれを守っているのだろうから。
(それならば――)
 みずねは考えた。
(私はそれに危害を加えるつもりはないと、わからせればいいのよね)
 事実みずねがそこへ行きたい理由は、何故落ちたのかを探るためだった。あわよくばお宝も……と思っているけれど、”それ”自体をほしいとは思わない。自分に過ぎた力は悲劇しか生まないことを、過去の事例からもよくわかっているからだ。

みずね:「――さてと。では行きますかぁ〜」

 独り言を呟いて、軽く準備運動をした。いくら人魚に変身できるといっても、急に飛びこんだのでは危険である。
 十分に身体をほぐしたみずねは、いよいよ冷たい水に足を踏み入れた。
(冷たい――でも、気持ちいい♪)
 腰まで水に浸かると、次に頭から水に飛びこんだ。
 潜るために。


■■2.接触

 例の魔物の噂を調べたのは、みずね自身だ。
”形の限定されない、流動的な黒い影”
 皆の話を総合すると、そういうことになる。
 そしてその魔物は、湖に入った者全員を攻撃するわけではなかった。
(そう、中には攻撃されない人もいたんだ)
 みずねがその統計をとってみたら、空中都市が沈んでいる場所の大体の位置を知ることができた。つまり魔物は、空中都市に近づこうとする者、たまたまその上を通ろうとした者を襲っていたのだ。
 みずねが”魔物はガーディアンだ”という仮説を立てた理由には、当然その情報も含まれていた。
(――それなら)
 水中に入りこんだみずねがすることは1つだ。空中都市に近づきさえすれば、魔物は自分からみずねのもとにやってくるだろう。

みずね:「さあ……おいで」

(私と話をしよう?)
 ゆっくりと水中を進むみずね。そろそろその視界に、都市をぐるりと囲む白い壁が揺れ始めようとしている、その時。

みずね:「! 来たわね」

 黒く禍々しい気配を持った影が、みずねを取り囲んだ。みずねは泳ぐのをやめてとまる。

 魔物:『コノ先ニハ進ムナ。戻レ』

 頭の中に声が響いた。それはこの魔物の意思だと、当然のように理解する。
 みずねはしかしその言葉には応えず、用意してきたシナリオをスタートさせた。

みずね:「――あなたは何を守っているんですか?」
 魔物:『何……?』
みずね:「都市ですか? 財宝ですか? それとも――この都市を支えている、”何か”ですか?」
 魔物:『!? ……ヤハリオ前モソレガ狙イカ!』

 早とちりした魔物がみずねを取り囲む輪を狭めてくる。

みずね:「ちゃんと最後まで話を聞いて!」

 みずねは都市とは逆の方向へ泳いでそれをかわすと、水の中でも構わずに。

みずね:「おいでシルフィード! 私が導く……だからあの闇を、吹き飛ばしてっ」

 真っ直ぐに指を伸ばした。その指先から発せられた波動が、水中に大きな揺らぎを生む。それは固まっていた影に直撃し、影は霧散した。

 魔物:『ナ、何ヲスル……?!』

 霧散と言っても消えたわけではなく、ただあまりに細かく分散されすぎため目に見えなくなったのだ。
 みずねは魔物がまた影を形作ろうとしている間に、話を進めた。

みずね:「――あなたはさっき”お前も”と言いましたけど、それは勘違いなんです。地上の多くの人は、その魔法の力を持った”何か”のことを知りません」
 魔物:『デハ何故アソコヘ近ヅコウトスル?!』
みずね:「近づきたくて近づく人ばかりではありません! この湖には観光で来る人も多いですし……。近づこうとする人だって、珍しいから見たいという人や、都市に眠っているという財宝を探したいという人がほとんどで、誰もあなたが守っているものを冒そうとは思っていないのです!」

 やっと再び黒い姿を現した魔物は、みずねと都市の間に揺れている。

 魔物:『――ツマリソレハ、私ガ人々ヲ襲ウノハ筋違イダトイウコトカ?』
みずね:「そうです。ですからどうかあの落ちた空中都市へ行くことを、許して下さい」
 魔物:『…………』

 魔物はまだ、揺れている。
(どうやら通してもらえそうだわ)
 みずねがそう思った時だった。魔物が意外な言葉を返してきたのは。

 魔物:『……オ前ハ?』
みずね:「え?」
 魔物:『私ガ必死ニ守ロウトシテイル存在ノ”力”ヲ知ッテイルオ前ハ、何ノタメニ都市ヘト向カウ? 奪ウタメデハナイノカ?!』
みずね:「!」

 魔物が再び襲い掛かってくる。今度のみずねは、風を前へ放つのではなく、自分を囲むようにして壁をつくった。

みずね:「私は知りたいだけです! 何故この都市が落ちてしまったのか――もしそこに人間の非があるのなら、直したいと思うからっ」
 魔物:『?! 本気デ、言ッテイルノカ……?』

 魔物の動きがとまる。でもみずねは攻撃を返したりはしなかった。

みずね:「最初はただの興味でした。でも調べていくうちに、落ちたのは人間のせいかも知れないって思うようになって……それなら私はちゃんと真実を知って、同じ哀しみが起きないよう、少なくとも自分がそんな哀しみを与えないように、したいと思ったんです」
 魔物:『…………』

 魔物はもう一度、無言を返した。
 そしてやがてみずねから離れると、ゆっくりと一列になって都市の方へと移動して行く。

みずね:「あの……っ」
 魔物:『ツイテ来ルトイイ。落チタノハ――人間ノセイデハナイ』
みずね:「!」
 魔物:『時トシテ世界ハ、人ヨリモ残酷ナノダ――』


■■3.落ちたわけは

 都市の中を、魔物について泳いでいく。魔物はどんどんと奥の方へ向かっていた。落ちたあともまだ都市の形を取り続ける世界の上を、みずねは飛んでいく。
(”世界”がこの都市を落とした?)
 まるで謎掛けのような、言葉の意味を考えながら。
 やがてたどり着いたのは、小さな神殿の一室。そこにはガラスケースの中で眠っている”何か”がいた。

みずね:「これは……人、なの……?」

 姿かたちはそうだが、明らかにサイズが違う。非常に小さいのだ。

 魔物:『人トハ違ウ存在。人ハスガルヨウニ神ト呼ンダリ、”力”ヲ恐レテ悪魔ト呼ンダリスル』
みずね:「…………」

(なんて勝手なのだろう、私たちは)
 みずねは何も言えなくなって、ガラスケースの中の少女を見つめた。

 魔物:『今コノ都市ガコノ形ヲ保ッテイルノハ、コイツノ”力”ノセイダ』
みずね:「……眠ったまま?」
 魔物:『モウ2度ト起キハシナイ。私ガ彼女ノ時間ヲトメタカラ。――コノ、”力”ゴト』
みずね「?!」

 それは哀しい、告白だった。

     ★

 この魔物――彼もかつて、このガラスケースの中にいたのだという。2人は対の存在であり、人間でいえば双子のようなものだった。彼女がこの都市を形成する”力”を使い、彼がこの都市を浮かばせる”力”を使うことで、空中都市は保たれていたのだ。
 では何故彼らは、空中都市を造ることに協力したのだろう。当然そういう疑問がわいてくる。みずねがそれを訊ねると。

 魔物:『協力シタノハ私タチデハナイ。人間ノ方ダ』

 みずねはその答えに、酷く驚いた。それは最初に、彼らは脅されていてそれに怒って都市を落としたのではないかという仮説を立てていたからだ。
 彼の話によると、彼らが地上にいた頃――つまり空中都市ができる前、彼らの持つ特殊な力ゆえ、多くの人間とはうまく付き合うことができなかったのだという。それこそ恐れられたり崇められたり……人間の汚い部分もたくさん見てきた。
 そんな中で生きているのが嫌で、彼らは空中に都市を造ろうと思いたったのだ。
 それに協力してくれたのが、彼らを特別視しない一部の人間だった。
 そうして造られた空中都市での生活は、本当に幸せなものだったという。”力”を使い続けなければならないため行動に色々な制約はつくが、それでも心から楽しいと思えた。
 ――しかし、そんな日々にもやがて終焉が訪れる。

 魔物:『コイツガ……病気ニナッテシマッタノダ……』
みずね:「!」

 それは彼らのような存在にのみ訪れる、死に至る病。だが彼は彼女を失いたくなかった。彼女を失うくらいなら自分が――
 そうして計画は、実行に移された。
 まず彼は、空中都市に住んでいた人々を全員地上に降ろしたのだという。それからこのガラスケースに2人きりになって――彼は彼女に呪いをかけた。

 魔物:『時間ヲトメル呪イ――』

 自らの命と、引き換えに。
 そうして、空中に浮かばせる”力”を失った都市は湖へと落ちた。湖を選んだのは、人間に対する少しの配慮。落ちてからも、時をとめられた彼女の力は働き続け、まだこうして、”都市”の姿をとどめている。

 魔物:『コノ都市ガ好キダト、言ッテイタカラ』

 そのままにしておきたかったのだと。
 そして意識だけになった彼は、彼女を守り続けている。誰にも利用されないように。誰も触れないように。



■終章

 魔物:『オ前ニスベテヲ明カシタノハ、オ前ガ感ジル必要ノない罪悪感ヲ抱イテイタカラダ』

 魔物はそう告げた。

 魔物:『オ前ノ言ウコトヲ信ジヨウ。コノ都市モ、自由ニ探索シテ構ワナイ。タダシ――』

 魔物の意識が強くなる。

 魔物:『アノ神殿ニハ、2度ト入ラナイデホシイ』

 みずねは深く頷いた――。


■終(都市探索許可入手)



■ライター通信

 こんにちは^^ いつもお申し込みありがとうございます。
 そして土曜日お届けの予定が火曜になってしまって申し訳ありません。今後このようなことがないよう気をつけます_(_^_)_
 毎回毎回人間の哀しい部分を書いているような気がするので、今回は違う方向から攻めてみましたがいかがでしょうか(笑)。少しでも気に入っていただける部分があれば嬉しく思います。
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝