<PCクエストノベル(1人)>


わたしのふるさと
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【冒険者一覧】

【 1194 / ロイラ・レイラ・ルウ / 歌姫 】

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☆序章

 一つの冒険はそこで終わらない。例え何かの証を見つけたとしても、すぐに新しい探求心が生まれ、人々は再び、冒険の渦中へと身を投じて行く。それは途切れなく、例え誰かが力尽きても、次の誰かがまた立ち上がり、人の、何かを求める欲求は消えてしまう事はない。先細る事もない。希望や欲求や夢で膨らみ、道筋を増やして行く事はあっても…。

 今ここにも、ひとつの礎を手にした少女が、また新たな冒険へと旅立とうとしていた。


☆本章
〜村にて〜

 ロイラが一角獣の窟から戻ったのは、村をこっそり旅立ってから結局三日ばかり過ぎてからであった。帰り着いたのは夕暮れ近くで空が茜色に染まった頃、一時の団欒へと皆が帰ろうとざわめく中、村の人々が村の入り口に立つロイラの姿を見た途端、慌ただしく彼女の方へと駆け寄って来たのだ。
村人:「ロイラちゃん!無事に帰って来れたんだね!ああ、もう、皆どれだけ心配した事か!」
 そんな言葉が方々から飛び交う、村人にもみくちゃにされてロイラは、改めて自分が皆に愛されている事を知った。嬉しげに笑顔を浮べるも、何かを捜す視線が目的のものを見つけられなくて一瞬不安そうに眉を潜める。それに気付いた村人の一人が、早く家に帰ってあげなよ、とロイラの肩を押した。
 心配してたんだよ、あんたの父さんと母さん。口には出さなかったけどね。
 そう村人から聞かされて、ロイラはその場にいた人々に簡単に挨拶をすると、そのまま自分の家へと走っていった。

 家では、既に誰かが知らせてくれたのか、或いは広場の騒ぎに気付いたか、ロイラの両親は扉が開くと同時に、ロイラの方へと歩み寄って娘を出迎えてくれた。置き手紙は置いておいたし、恐らく一人だけ事情を知っていた村人からも話を聞いていただろう、信じていたとしても、やはり大事な一人娘の無事な姿を見るまでは気が気でなかったのだろう。心底ほっとしたような表情を浮べつつも、父も母も、ロイラを叱ろうとはしなかった。
ロイラ:「…ごめんなさい、黙って出て行ってしまって。…でも」
 ロイラの言葉を、母が立てた人差し指で遮る。にこりと笑って彼女をキッチンの方へと導いた。
母親:「さ、おなか空いたでしょ。ロイラの好きなスープ、作っておいたわ」
父親:「食事にしよう。話を聞かせておくれ、ロイラ。お前が、何を見て何を経験し、そして何を得て来たのか」
 両親は、帰宅したロイラから感じる、何か自信のようなものに気付いたようだ。そんな両親の心の広さに感謝しつつ、その日は、ロイラも話のネタが尽きず、夜遅くまで土産話に花が咲いたと言う…。


〜情報を求めて・王立魔法学院〜

 次の日、早速ロイラは行動に移した。自分の中で沸き上がる探求心が、逸る心を抑え切れなかったと言うのが正解だろう。自分が得た知識を育てたい、そして新たな知識を得たいと思う気持ちが、ワクワクする期待に変わって、昨夜は疲れている筈なのに、すぐに眠ることは出来なかった。尤も、久し振りの自宅のベッドはやはり落ち着けるのか、いつしか深い眠りに落ち、そのお蔭で旅の疲れも一掃したのだが。

 ロイラが向かったのは聖都エルザードにある、王立魔法学院である。エルザードの王『聖獣王』が自ら創立し、ソーンの世界を探求する為に存在する情報の宝庫。ここに来れば何かの情報が得られるのではないかと思い、やってきたのである。
 正面に大きな時計のある、白い外装の王立魔法学院は、見た目は重厚で荘厳な雰囲気を漂わせていたが、その門戸は呆気ないほどに広く、そして容易く開かれていた。内部では立ち入りの制限される箇所もあったが、大方は全ての人物に閲覧が許され、情報の遣り取りも盛んであるようだ。魔法学院の制服を着た生徒達が楽しげに行き交うのを、眩しそうに見詰めながらロイラは受付の案内に従って、まずは図書室の方へと向かったのであった。

 王立魔法学院の図書室は、知識の探求の聖地と言われるだけあって蔵書も多く、その種類も豊富なようであった。一歩足を踏み入れたロイラは、その高い天井近くにまでなる巨大な書架に、これまたぎっしりと詰め込まれた本の多さに呆気に取られた。この中から、目的の書物を捜すのは容易ではないような気もしたが、逆に、これだけ充実していれば、ロイラが求める情報も、絶対あるような気がして、既に鼓動が期待からか、どきどきと跳ね上がり始めた。

 ロイラが求める情報とは、エルフ族についてであった。今も昔も謎の多い種族であるが、人との交流が全くない訳ではない。彼等の人となりを多少なりとも知れば、彼等が綿密に敷いたトラップの数々、その法則性や何かに関しての情報を得る事ができるのではないか、と思ったのだ。
 幾ら、エルフ族が、人との無闇矢鱈な交流を望まないからと言っても、闇雲にトラップを仕掛けて侵入を拒んでいる訳ではないだろう。恐らく、あれは、集落へと足を踏み入れる権利を有するだけの知識や人格を持った者を選別する為の試練みたいなものだろう、とロイラは考えたのである。で、あれば、こちらのそれなりの知識や準備をしてから出掛ければ、開く扉の幅は少しなりとも広くなるだろう。とにかく時間と手間を掛けて、一角獣の窟で迷路の順路を解けば何とかなるかもしれないが、それでは例えエルフ族の集落に辿り着いたとしても、そこから先へは迎え入れられないのではないか、そうロイラは思った。

ロイラ:『それだと、偶然にでも迷路を抜けてしまう人もいるかもしれないもの。何の知識も志も持たない人では、きっとエルフ族の人々は相手にもしてくれなさそうだわ。彼等の深い知識に触れる為には、私自身の成長も必要だと思うから…まだまだ、勉強することは多いでしょうね…』
 それは先の見えない目標なのだが、ひとつ、一角獣の窟でやり遂げたと言う誇りと自信のある今のロイラにとっては、高い壁ほど、乗り越え甲斐があるのだった。

 図書室の案内人に場所を聞いて、ロイラはエルフ族について書かれた本のある書架の辺りを歩いていた。確かに目の前にある本の背表紙には、それらしきタイトルが書かれている。が、そのような本の列が、しばらく歩いているにも係わらず、未だに途切れないのだ。つまり、エルフ族について書かれた本は、それだけ膨大にあると言う事だ。さすがにこれにはロイラも溜め息を漏らさざるを得ない。それだけ人々の、エルフ族への関心が高いと言う事なのだろうが、それにしても…。
ロイラ:「…こ、こんなに多いとは思わなかったわ……」
 ついうっかり漏らしてしまった独り言だが、隣でくすりと笑いを漏らす声がした。ロイラがそちらを向くと、咎められたかと思ったか、その人物は笑みを浮べて頭を一つ下げた。
?:「ごめんなさいね。私もあなたと同じ事を考えていたから、つい…」
 そう言って笑う、その女性の耳は、長くそして先が尖っていた。


〜ロビーにて〜

 静寂が求められる図書館では、それ以上の会話は許されないような気がして、ロイラと女性はそこから出て、ロビーに置いてあるソファに並んで腰を下ろした。
女性:「あなたも、エルフ族の事について調べていたのかしら?」
ロイラ:「ええ、そうです。…あの、失礼ですがあなたは…エルフ族の方ですよね?」
 ロイラの問い掛けに、女性はにこりと優雅に微笑んで頷く。
女性:「そうよ。でも私は人の世界で生まれて育ったエルフなの。だから、エルフ族の事はきっとあなたと同じ程度にしか分からないと思うわ、ごめんなさいね」
 そう言って謝罪する女性は、分からないと言った時のロイラの落胆に気付いたのであろう。慌ててロイラは顔の前で手を振った。
ロイラ:「いいえ!そんな謝らないでください」
女性:「いいのよ、私自身、自分の種族の事が分からない事って歯痒いのよ」
 その言葉は、ロイラ自身にも通じる気持ちでもあった。同意を示して頷くロイラに、女性は優しく微笑んだ。
女性:「私は、自分の種族の事がまだ良くは分からないけど、ただ、エルフ族はただ人々との交流を拒否しているのではないと思ってはいるわ。ちゃんと礼節を弁え、それなりの知識等をもって臨めば、その扉は開かれると思ってるの。それは、血筋がエルフだろうが人間だろうが関係なくね。私でも、生半可な気持ちで訪れても、きっと門前払いを食らわされるわ」
ロイラ:「それでは、私でも、頑張れば、きっとエルフ族の集落に辿り着けますね?」
女性:「ええ、きっと。自然を愛する気持ちや学ぼうとする努力、困難に打ち勝とうとする勇気や周囲に対する思い遣り…そう言う心があればきっと」
ロイラ:「道は遠く、険しくとも…ですね」
女性:「例え、想像もつかないような困難の先にある場所であっても、エルフ族の集落は私にとってはまだ見ぬ故郷なのですもの。自分の故郷が、悪い場所だなんて、思いたくもないでしょう?」
 ロイラに向け、女性はそう言ってにこりと笑った。さて、と呟いてソファから立ち上がる。
女性:「私はそろそろ行くわね。人と約束をしているの。話をしてくれてありがとう。お互いに頑張りましょうね」
ロイラ:「はい!」
 ロイラの明るい返事に、女性も思わず笑みが零れる。軽く手を振って、ロイラは立ち去る彼女の背中を見送った。


☆終章

 何かを学んだり経験を増やしたり、そう言う事が大切な事は分かったロイラだが、次なる冒険へのヒントとなるようなものは得る事ができなかった。誰か、参考になるような話を聞かせてくれる人との交流や、或いはそう言った情報が手に入り易い場所…そして、自分の知識や経験に厚みを増す事のできるような場所…それはどこだろうと考えながら、ロイラはその日は帰路へとついた。
 ロイラにとっては、育った村が故郷。だが、もう一つあるとすれば、それはロイラが生まれた場所。ロイラの、血の繋がった両親の住む場所。自分が生まれ育った村がいい場所である事は既に承知の事だが、あのエルフの女性が言うように、自分のまだ見ぬ故郷が、厭な場所であるとは、やはりロイラも思いたくはなかったのであった。


おわり。