<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
Trick or……?
■オープニング
白山羊亭。
そこには様々な依頼が張り出されているが、中には
招待状…もとい、案内チラシのようなものも掲示されていたりする。
以前の夏の祭とは変わり、今回はハロウィン。
お菓子もらって大騒ぎする、という件のお祭である。
「仮装、してもいいんだよね?」
「勿論、そうじゃなきゃお菓子あげないわよ?」
「折角のお茶会にそれは哀しいなあ……」
くすくす、響く声。
ティアと友人であるノエラはちくちくと何かを縫っている。
その顔はやたらと楽しそうだ。
10月某日。
ハロウィンにちなんでお茶会をします。
もし良ければどなたかお誘いあわせの上ご参加ください♪
■前夜祭当日―お茶会―
全ての夜は鎮めるために。
が、ひとつだけ鎮まらなくて良い夜がある。
祈りの前に歓声を。
全ての祭のために。
「――まあ、自分さえ楽しければよいんだがね」
お茶会の中で、奇妙に目立つ金の瞳をした人物が一人。万屋、兼、見世物屋のルカである。
どうにも、見たことのない単語があるから参加を決めたのだが……ふむ、様々な仮装があって面白いと言うべきなのか、「お菓子をくれなきゃ悪戯する」と言うものがルカ本人の「自分さえ面白ければそれで良し」――な思考と合い、見ている分には楽しめた。
……そう、見ている分には。
近くで、騒ぐ声がする。
嫌みったらしく嫌味の一つや二つや三つ言ってやろうかと思っているのだが、どうにも通じないほどに明るい人物。
こう、ルカに評されてしまった人物の名前は黒曜。
明るい表情と明るい髪が印象的な青年だ。
だが、そんな彼はきょろきょろと辺りを見回し、魔女の仮装をしていることから、ノエラから苦笑を貰っていた。
「……ぬぅ、嫁さん探しじゃない? 折角ナンパしやすいよう魔女選んで来たってのに」
だったらベタでも狼男にすればよかったかなあと思うが、逆にそれでもお嬢さん方から引かれてしまうような気がする。
「ええ、お嫁さん探しではなく、お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!のお祭りみたいなものなんです。…でも、お菓子くれなきゃお嫁に貰うぞ?と言うのも一つの手段かもしれませんよ?」
「おお、そうだな! んじゃ、ノエラ。菓子くれなくて良いから嫁に♪」
ノエラから手渡されたクッキーを食べながら、にっと笑い言う黒曜。
にこにこと微笑みノエラは言葉を返す。
「またまた…初対面の人物に嫁に来いだなんて♪」
「え、可愛いお嬢ちゃんにそう言うのは礼儀! しかも……っ??!」
全て言い終わらないうちに後ろから能面のように真っ白く塗りたくり所々に包帯を巻き黒いフードコートを被ったティアが黒曜を杖で殴りつけた。
じろり、と黒曜も負けじとにらみ付ける。
「な、何するか、ティア……いっくら、お前よりノエラの方が可愛いからって…い、痛い、痛い!」
きつめに耳を引っ張られ声も出なくなる、そこにティアの顔が近づき、
「…世の中には言っちゃいけない言葉があるのよ黒曜さん? と言うより何でノエラはお姫様の仮装なの!? 折角あたしがこんな奇妙な格好してるって言うのに!」
「え、だから…だったんだけど…ティアもこう言うのにすればよかったのよ、そうしたら」
色々な人と話できたかもなのに。
…とは流石に言えないまま、ちらりとティアの横に視線を動かした。
一人の少年がにこにこ、ノエラの微笑と同じようなにこやかさで小猿と一緒に立っている。
「ねえ、ティア? その子、誰?」
「ん? あ、ああ、そうよ紹介しようと思って連れてきたのに黒曜さんがあまりにお茶目なことしてるからつい暴力に訴えを」
わたわた、騒ぐティアへルカはちらと一瞥を投げ、さらりと一言をティアへ向けた。
「なあティア――忘れてたのを誰かの所為にするのは感心しないなぁ?」
「ぐっ。……ちょ、ちょっと、今はその一言が痛いから置いといて! ええと、この子はね……」
そして。
話は少し前へと遡る。
ティアが、この少年「メム・ユペト」と逢い、此処へ連れてくる前まで。
■色々な、準備?―お買い物へ―
「あれもいいなあ……でも、そっちも捨てがたいし……」
「おやおや、ユペト今日は何を買いに来たんだい?」
店主の声に、にっこり微笑むユペト。
「うん、あのね! 今日のお茶会に使うお菓子を買いに来たんだ!」
どういうのがいいかなあ?と言うユペトに自然と店主の顔もほころぶ。
何と言ってもハロウィンは楽しむための祭だ。
厳かに来る次の日の祭の前の騒乱の一夜。
「なるほどな、じゃあこれはどうだ?」
「…何、これ?」
差し出されたものを見て瞳を丸くする。所々をくりぬかれたそれは、まるでおかしくてたまらないというように笑っていた。
「ジャックオーランタンだ…まあ、パンで作ってあるからフェイクだが、本当はこういう感じのかぼちゃだな」
「あ、これ可愛い♪ これ、買ってっちゃ駄目?」
「構わんぞ? んじゃあ、菓子は違うのだな…ここいらのがお勧めだ」
と、言われ見たのは不気味なお菓子ばかり。
「うわ、何だこの血まみれの手とか目玉とか…は? ハロウィン用お菓子?? ああ、よく見ると食べられそう…かな? じゃあ、これちょうだい?」
「おう、毎度。楽しんで来いよ?」
「うん♪」
共にいた小猿と相談しながらお菓子を買い――さて次は仮装だよなあ、と思いながらユペトは店を後にした。
「やっぱさあ、オーソドックスに吸血鬼だよな☆ あ、無論お前はコウモリで♪」
コウモリという言葉に小猿は少しばかり不満の声をあげる。
私は見ての通りの種族なんですよっ?と言いたいのかもしれない。
不満の声をなだめるようにユペトの手が小猿の頭を、撫でた。
「まあまあ。さて、じゃあ服も変えて、いざお茶会へ行くとしようね」
そして。
再び時間はお茶会場所へと戻る――お菓子を買い、仮装をしたユペトと小猿がやってきた場所へ。
■会場―そこから色々ありまして―
「…で? そこからどうして、ティアが連れてきたんだかがな?」
解らんのだが、と言う問いを向けながらも表情を見せることはせず、ルカはさらりと聞く。
ティアの顔が少しばかり、いいや、かなり曇りだした。
「あー……それはねえ、まあやっぱ色々あって」
驚かされたんだよねえ、とも上手く言えず―目玉のお菓子と小猿のコウモリが駆け出す姿に腰を抜かした―と言っていいのかどうか悩むと言うか……。
が、そう言う隠し事は常に隠されないと相場が決まっているもので。
ルカが、にっこり微笑み、黒曜がうんうん頷きだした。
「色々? ふん、どうせ驚かされて腰を抜かしたって言うところだろ?」
「あー、ルカ…そいつは言っちゃあ駄目だろ。幾ら、こんな格好しててもティアは一応女の子だし」
「あのさ、黒曜さん。一応つかなくても女の子なんだけど、私。…いいけどね、別にバレてるのなら」
「と言うよりもだ? そうじゃなきゃ納得できる理由がないからな。ユペトは方向音痴に見えないし?」
話を降られたユペトは再びにこにことルカへ向かって視線を向けた。
「でも僕も悪かったんです、会場のすぐ近くにこんな姿をしている女の子が居るなんて思わなくて。つい、悪戯心で……」
お菓子くれなきゃ驚かせちゃえ―!!と小猿と共に突撃してしまったんだし。
結果が腰抜かさせてしまって「ちょ、ちょっとまって、まだ歩けないから案内するまでもう少しまって!」と時間もかかったわけで。
ノエラの差し出したお茶を一口飲む。
「あ、美味しい」
「だろ!?」
黒曜が握りこぶしを固めて「美味しい」と言うユペトに同意を示した。
「うるさいのが、また始まったか……」と苦笑するルカ。
「え、え?」と戸惑いを示すノエラに「どーせ私なんてさ」と黄昏るティア。
「さっきから、嫁に来てくれと頼んでるのに本気にしてくんないんだ! こんなにお茶入れるのも上手ならさぞかし料理も出来るだろうと思うのにっ」
なのに、なのに!と黒曜がユペトを揺さぶろうとした、その時。
「……あ、あそこに可愛い魔女が」
ぽそ。
呟きに「何ぃっ」と疾走する黒曜。
もはやお菓子よりも「お嬢ちゃんもとい…未来のお嫁さんゲット♪」な勢いなのかもしれない。
全員でそれらを見送りながらノエラはルカに尋ねる。
どうも表情が中々読めずに楽しめているかどうかは解らなかったし、それでは申し訳が立たないと言うのも、無論あったからなのだが。
「……あの、ルカさん楽しめてます?」
「…まあまあだな……まあ? こういう風に仮装をした子供たちがお菓子をくれなきゃ悪戯するとテーブルを回るのは多少、疲れるがね?」
それでも「知りたい」好奇心は収まったのだから良しとすべしだろう、とまで言葉を続けずにルカは遠くを見た。
楽しそうに遊ぶ彼等を揶揄うにしろ、どうにも遊びと言うより祭、というもの故なのか。
見ているだけ、お茶を飲みつつ何かを食べているだけに留まってしまう。
暴れるのも無論いいのだろうが和やかな会場で「嫁〜♪」とナンパに精出す黒曜と一緒にやれば騒々しさ更に倍増で。
困った、というような微苦笑を浮かべてしまう。
くるくると、回り続ける光景は。
さながら、ありえない風景を見ているような気分をルカに思い起こさせた。
■お茶会閉会―全ては輪に―
全ての花は全ての祭のために。
そして。
全ての魔物は、全ての聖者のために。
声はさざめきの中に隠れ、さざめきはやがて様々な言葉へと変ずる。
のんびりと、やっていたお茶会もそろそろ終了の時刻。
ユペトが持ってきたジャックオーランタンの置物がゆらゆらとテーブルの上で所在無く揺れた。
「…そろそろ閉会だね、ノエラ」
「そうね……ところで、ティア?」
「んー?」
「ユペトさんに驚かされたとき、何であんなに驚いてしまったの?」
「――いきなりだったんだもん」
「嘘ばっかり」
くすくすくすくす、と。
さやさやとした衣擦れのようなノエラの声にティアは顔をしかめた。
別に声が似てたから、とかではないけれど、びっくりしてしまったのは確かなことで。
ルカが面白そうなものを見つけたなと微笑む。
黒曜は、ナンパに疲れたのか少しばかりうとうとと。
ユペトは持ってきたお菓子を時折やってくる子供たちと一緒に食べながら「なになに?」と耳をダンボにしている。
「嘘じゃない、うん。ノエラが期待している答えはないよ」
「期待、ねえ…ふふ、良いわ。ティアがそう言うのなら」
だって今日は――と、メレンゲを一口口に入れながらノエラはこの場に居る全員に聞こえる声でのみ呟いた。
「ハロウィンですもの。全ての嘘が本当に、本当が嘘になる日」
"Trick or Treat!!"
子供たちの盛大な声が、何処からともなく聞こえてきた。
まるで、鳴り止まない音のように、全ての妖精たちが降りてきた、声のように。
悪戯か、お菓子か?と問い掛ける、声が。
この日ばかりは、誰もが子供へと戻る。
楽しむことを思い出すために、ジャックオーランタンの微笑と一緒に。
―End―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1206 / メム・ユペト / 男 / 12 / 旅芸人】
【1470 / 黒曜 / 男 / 18 / 召喚士】
【1490 / ルカ / 男 / 24 / 万屋 兼 見世物屋】
【NPC / ティア / 女 / 15 / 学院生】
【NPC / ノエラ / 女 / 15 / 学院生】
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■ ライター通信 ■
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初めまして! ライターの秋月 奏です。
今回はこちらの依頼にご参加、誠に有難うございました(^^)
戦闘なし、のんびりまったりが推奨のハロウィンものでしたが
如何でしたでしょうか。
今回は全てのPCさんが男性PCさんで、初めてお会いする方ばかり。
色々な意味で楽しく、書くことが出来ました。有難うございます♪
ここからは個人の方へのそれぞれの私信になります。
・メム・ユペトさん
楽しいプレイング本当に有難うございました♪
「驚かす」と言うことでしたのでティアに腰を抜かしてもらいつつ
お茶会に来ていただきましたが、楽しんで頂けたら良いなあと思います。
・黒曜さん
初ソーンと言うことで、プレイングを読ませて頂いて
このようにしたのですが、だ、大丈夫でしたでしょうか?
初めての世界、少しでも楽しんでいただけたならいいのですが♪
・ルカさん
知識系でもない、のんびりまったり推奨な依頼で本当に申し訳ありませんっ。
お茶会がほぼメインでしたので知識と言うものは無い依頼でしたが……
それでも、何処かで息抜きしてくだされば幸いだと思います。(><)
それでは、この辺で失礼いたします。
また、何処かの世界で逢えることを願いつつ。
もし、何かあるようでしたらテラコンからお知らせくだされば幸いです。
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