<PCクエストノベル(1人)>


言の葉の間 〜揺らぎの風〜

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■冒険者一覧■
□1125 / リース・エルーシア / 女 / 17 / 言霊師

■助力探検者■
□なし

■その他の登場人物■
□みるく / 羽ウサギ(ちいさな友人)
□レグ・サイモン / 鍵言葉の伝承者
□ネフシカ / アイテム屋「魔と謎」の店主

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 ――36の聖獣に見守られし大地。数多の生き物も植物も、皆平等に平穏なる世界を生きている。
 大陸一元気者(言い過ぎかもしれないが…)のリースは、鍵言葉の伝承者であるレグ・サイモンと共に、アイテム屋「魔と謎」の店先にいた。

 リース:「ねぇ、揺らぎの風は海の上に現われるんでしょ?」
 ネフシカ:「そんなこたぁ、あんたが一番知ってるんじゃないか?」
 リース:「ケチねぇ……」
 レグ:「まぁまぁ、ふたりとも。僕はリースと一緒に行くから」

 膨れっ面を元に戻して、リースはふわふわ飛んでいるみるくを抱き寄せた。『揺らぎの風』を得るためにはアイテムが必要なのは分かっている――けど、まずは求める魔法が存在するとされる海上を、見てみたいと思った。
 風と波と潮の香り。
 レグの与えてくれた鍵となる言葉、『風渡る時、水面金に輝き銀に沈む。憂いなき紋章の描かれし、青く赤い実りの果実』――この意味を知るヒントが見つかるような気がするのだ。

 リース:「知り合った馴染みで、船を紹介してもらえると嬉しいンだけどなぁ〜」
 ネフシカ:「うぐ…そんな甘えた声で言ったって、こっちは商売なんだ。自分で探せ」
 リース:「……。やっぱり、ケチねぇ」

 少女の横目で慰み者になってしまい、ネフシカは渋面した。レグは、年端もいかない少女にやり込められている数少ない友人を、苦笑しつつ眺めている。
 小悪魔的な囁きに絶えられなったのか、ネフシカは天井へと逃げ出した。蝙蝠族である威厳はどこへ行ってしまったのか――。

 リース:「あ、ずるい! ちゃんと交渉してるんだから、降りてきなさいよ」
 レグ:「リース。もう許してあげてよ。僕が案内するからさ」
 ネフシカ:「おい、レグ! あの船はイカンぞ、断じてイカン!」
 レグ:「諦めて貸してやりなよ。今使ってないんだから……。リース、ついておいで」

 リースの肩を抱いて店を出ようとするレグに、ネフシカは慌てて「やめてくれ」と叫んだ。余程、船が大事らしい。
 そんな店主に伝承者は大きな釘を刺した。
 
 レグ:「今まで僕の記憶で稼いだ分――返してもらってもいいのかなぁ?」
 ネフシカ:「うっ! ……、あ、そりゃ…その……あ〜ぅ――」

 リースは満面の笑みを浮かべたレグに付き添われて店を後にした。足は埠頭へと向かっている。ずいぶんと遠ざかってから、ネフシカの声にならない叫び声が、タワンブラ中に響いたという。

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 波は緩やかで、凪いでいるのか風はリースの頬をわずかにそよぐだけ。船に乗ることは初めてではなかった。でも、こんなにも気持ちのいいものだとは思わなかった。急ぎ――という事情で慌しく乗ったことしかないからだろう。
 今回、冒険しているという感覚に乏しい。
 リースは舵を取るレグを見ながら思案していた。
 ――もしかしたら、彼の存在があたしの気持ちを和ませてくれているのかな?
 誰かに何かしてあげたいと思うのは、珍しいことではなかった。けれど、こんなにも強く感じることはない。ずいぶん歳は上だが、レグが放っておけない存在となりつつある証拠なのかもしれない。

 リース:「海がこんなにも素敵だって知らなかったな」
 レグ:「今は波も穏やかだからね……。嵐の海を知らない?」
 リース:「あたしの行動範囲って、内陸部が多かったから。そんなにすごいものなの?」
 レグ:「そうだよ。特に季節の変わり目が波が荒い――あ、本当は今その季節なんだ。こんなに凪いだ海は珍しいよ」

 リースは鼻を鳴らした。陽射しを受けて眩しく光る波。手が届きそうな水面は揺れてはいるが、うねりは感じられない。もうかなり沖合いに来ているらしく、すでに港は見えずボンヤリとした山の輪郭だけが青く浮かんでいる。
 鍵となる言葉をメモした手帳を眺めた。文字が軽やかに踊りだす。
 『風渡る時、水面金に輝き銀に沈む。憂いなき紋章の描かれし、青く赤い実りの果実』

 リース:「ねぇ、レグはこの言葉どう思う? 私はこの『風渡る時』って言うのは魔法のことだと思うんだけど」
 レグ:「……。ああ、確かにそうだね。文字の中にきっと条件が散りばめられているに違いない」
 リース:「言葉と言葉は意味もなく羅列されることはないって言うのがあたしの持論なの。その言葉がどんなにひどい罠であっても、意図したことを伝えられなければ、それを伝えていく意味も意義もないはずだよね」

 伝える――レグの伝承者としての役目はコレ…なのかな?
 それにしては誰も彼の存在を知らない。冒険者がこんなに便利な人物を放っておくはずがない。

 リース:「この文章の構成だと、『魔法が現われる時、水面は金色に輝いてる』って感じかな。銀に沈むっていうのがわかんないけど……」
 レグ:「水を金色や銀色に変えるものって何か思いつくかい?」
 リース:「うーん……金色、金色――そうか! レグ、太陽だよ、太陽! ほらあんなに水面が光ってるもん」

 視線の先には、太陽が映り込んで眩しい金色の波が揺らいでいる。
 じゃあ、銀色はなんだろう――言葉が並んでいるという事は、対を成す意味を持つ言葉のはず……。

 リース:「あ!! 金が太陽なら、銀は月じゃない!?」
 レグ:「確かに…銀が月なら言葉の意味が通るよ」
 リース:「『水面は金色に輝き、銀色の月は沈む』――夜明けだ!!」

 ひとつの言葉がほどけた。きつく縛られた結び目も工夫次第で、あっと言う間にとけることもある。リースは嬉々とした顔で、水面を見つめた。この海のどこか、夜明けとともに求める魔法が現われる――胸が熱くなるのを感じた。
 ――しかし、今日の成果はここまで。
  これ以上言葉の意味を知ることはできなかったのだ。もしかしたら、夜明けの海でないと分からないことなのかもしれない。

 リース:「そろそろ日が落ちるね……帰ろうか」
 レグ:「もう少し別の角度から、意味を考えてみる方がいいね」

 ふたりはネフシカの待つ港へと戻ることにした。
 彼はきっと青スジを立てて、仁王立ちしているに違いない。
 大丈夫、傷つけてなんかいないから。
 ネフシカの怒鳴り声が聞こえてくる気がした。


□END□

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 ライター杜野です。また続いてしまいましたが、ひとつ謎が解けましたねvv
 リースは元気なだけじゃないだぞぉ〜というところが書けていればいい
かなと思っています。如何でしたでしょうか?
 彼女が魔法を手に入れられる日を楽しみにしています♪