<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


謎のメモを解読せよ

0・発端
夕暮れ時にルディア・カナーズは1枚の紙を拾った。
落とし主らしき人物は見当たらず、ルディアはその紙を広げてみた。
そこに書かれていたのは『ごはんかう(おそらく夕飯買出し用?)』と見出しのついた謎の暗号だった。
以下、その文をそのまま記す。

「おおきなさんかくやねのついたあしなが ・ くろしろまだらのちち ・ しろいこな ・ ほそながいえんとつ ・ きいろっぽいべたつくながいしかく」

ここにメモがあるということはその落とし主は夕飯の買出しが出来なくて困っているはず。
ルディアは夕飯の時間まで間もないことを考慮し、メモに記されているものを手の空いているものに買いに行ってもらうことにした。
だが、このメモは一体何を買って来いと示しているのだろうか?

1・相談
集まった有志3人、メイ・アンジェリカ・露 阿龍(ルゥ アロン)とルディア・カナーズはメモを囲み頭を抱えた。
3人が連想した品を書き出し、検討中である。

 さんかくやねのあしなが・・・イカ?スルメ?きのこ?
 くろしろまだらのちち・・・牛乳?牛肉?
 しろいこな・・・薄力粉?小麦粉?
 ほそながいえんとつ・・・ちくわ?ねぎ?マカロニ?
 きいろっぽいながしかく・・・お餅?バター?

「シチュー・・・かしら?」
アンジェリカが自信なさげに呟いた。
「それなら、グラタンという手もありそうですね。」
阿龍はそう言ったが「しかし、それではイカだけが具というのはあまりにも寂しい気がします・・・」と付け足した。
「露様もアンジェリカ様もすごいです。あたし、お好み焼きかと思っておりました。」
てへっと恥ずかしげに笑った。
「お好み焼きかぁ。おいしそう。」
とルディアが言うと、メイは「そうですよねー」とニコニコと笑った。
「・・・このメモからではちょっと難しいかもしれませんね。でも、お好み焼きは美味しいですね。」
阿龍はそういうとササッとメモした。

 さんかくやねのあしなが・・・イカ
 くろしろまだらのちち・・・牛乳
 しろいこな・・・小麦粉
 ほそながいえんとつ・・・マカロニ
 きいろっぽいながしかく・・・バター

「シチューかグラタンか、どちらが正解か分かりませんが時間がありませんので手分けして買い物をしましょう。」
「はい!アンジェリカは牛乳とバター買いに行きます!」
「あたしはマカロニを買いに行きます。」
「では、残りはの小麦粉とイカは私が。」
それぞれが席を立ち、買い物へと出かける。
「いってらっしゃーい!」とルディアは出かけて行く3人を見送った。

2・それぞれの買出し
アンジェリカはアルマ通りのはずれにある酪農家直営のミルク工房へと足を向けた。
「牛乳とバターをくださいなぁ。」
アンジェリカがそういうと店の奥から店主が出てきてイソイソとアンジェリカに牛乳とバターを渡した。
「よかったねぇ。あんた、今日の分はそれでおしまいだよ。」
「え、うわぁ。アンジェリカったらラッキーですねぇ!」
店主とアンジェリカはにこやかに笑いあった。・・・と。
「えー!この人が買ったので最後なのー!?」と悲壮な声がした。
アンジェリカが振り返ると5歳くらいの少年が今にも泣き出しそうな顔をしてアンジェリカと店主を睨みつけていた。
「そ、そうなんだよ。悪いねぇ。坊や。」
少年のあまりの迫力に店主は気圧されたのか、イソイソと店仕舞いの支度を始めた。
「ねぇちゃん!それ俺に売ってよ!どうしてもそれが必要なんだよ!」
アンジェリカは碧の瞳に困惑の色を見せた。
いつものアンジェリカなら、すぐにでも少年にバターと牛乳を渡していただろう。
だが、これはルディアに頼まれた大切な物だ。
「うぅ。アンジェリカもこれは必要なんです・・・ごめんね。」
その言葉を聞いた少年はついに涙をあふれさせ泣き出した。
「うわーん!これじゃママが可哀想だよー!」
わんわんと泣く少年にアンジェリカはさらに困惑した。
子供にこんなに泣かれると昔の自分がフラッシュバックしそうだった。
アンジェリカは、少年にこう提案した。
「これからアンジェリカは白山羊亭に帰るんだけど、もしどうしても必要なら一緒に来て皆に分けてもらえるように頼んであげる。それでいいかなぁ?」
少年は泣き止み、鼻をすすり上げるとコクンと頷いた。
「じゃ、いこっかぁ。」
アンジェリカは微笑んで少年と手を繋いで白山羊亭へと歩き出した。

3・大団円
アンジェリカは一番に帰りついた。白山羊亭のドアを開けるとルディアが迎えてくれた。
ルディアはアンジェリカたちを開いた席に案内し、気を利かせて飲み物を持ってきてくれた。
アンジェリカがまず椅子に腰をかけ、その隣に少年は座った。
「早く帰ってこないかなぁ?」
アンジェリカは一口飲み物を飲むとふぅっと溜息をついた。
「ねぇちゃん、皆っての帰ってきてないの?」
少年がきょろきょろと店の中を見ながら聞いた。
「うん、まだみたいです。」
ボケボケと店内を見回しているうちに、店の外が騒がしくなった。
「なにかしら?ちょっと見てくるね。」
アンジェリカは白山羊亭のドアを開けた。
「なにかあったんですか?」
「アンジェリカさん、帰っておられましたか。」
阿龍がそう言ってアンジェリカに事の説明をした。
「・・・感動ですね・・・」
アンジェリカはウルウルと抱き合う親子を見つめた。
「ねぇちゃん、なにしてんのー?」
白山羊亭の中から少年が出てきた。
「あ、ごめんね。皆が戻ってきた・・・」
と、アンジェリカが言葉を続けようとした時。
「お母さん!」と少年が親子に駆け寄って行った。
「お兄ちゃん!」「坊や!!」
親子3人はひしと抱き合った。
少しの時間が経ち、親子は立ち上がりメイ、アンジェリカ、阿龍に深く礼をした。
「この度はご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ありませんでした。」
母親は深々と再度頭を下げた。
「今日はこの子達の誕生日でした。本当はこの子たちの好きなきのこのグラタンを作る約束をしていたのですが・・・。」
「お母さんは無理しちゃいけないんだ。だから、俺たち自分で料理する事にしたんだ。お母さんの料理のメモを分かりやすく書いて買い物にきたんだ。だけど、ねぇちゃんたちに迷惑かけて・・・。」
母親をかばってか、少年は母の言葉を遮るようにそういった。
「そうでしたか・・・。」
と阿龍が呟いた。
アンジェリカは、『さんかくのあしなが』が『きのこ』だという自分の考えが、実は当たっていたのだと知った。
「では折角ですのでお祝いの料理、私がお作りしましょう。私が買った食材も使えば豪華な料理になるでしょう。それに、私の珈琲も食後にお出ししましょう。」
阿龍がそういうと、アンジェリカとメイは顔を明るくした。
「それはとってもいいアイデアです!あたしも露様のお手伝いします!」
「アンジェリカも手伝いますぅ!」
それを聞いた男の子と少年は顔を輝かせた。
「ホント!?天使様!!」
「はい、ホントです。露様とアンジェリカ様と美味しい物作ります!」
「そうですよぅ。アンジェリカも頑張ります!」
「うわーい!」
阿龍はポツリと付け足した。
「でも、きのこではなく魚介類のグラタンになりますけどね・・・。」
「僕、お魚大好きだよ。」
男の子が阿龍にニコニコと笑いかけた。
その笑いに阿龍もニコリと笑い返した。
アンジェリカは昔を思い出していた。
温かな家族がいること、それがとてもうらやましくもあり嬉しかった。
歩き出した6人は足取りも軽く歩いていく。
きっと少年たちにとって思い出に残る誕生日となるだろう。
心からのお祝いと心を込めて作る料理。
でも、アンジェリカは少年たちにとって何より嬉しいのは家族といられる誕生日なのだろうと微笑んだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【1063 /  メイ  / 女性 / 13 / 戦天使見習い】
【1170 / アンジェリカ / 女性 / 18 / 旅人】
【1310 / 露 阿龍(ルゥ アロン) / 男性 / 24 / エキスパート】

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■         ライター通信          ■
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初めまして。とーいと申します。
この度は私の調査依頼を受けていただきありがとうございます。
聖獣界ソーンでの私の初仕事となります。
非常に緊張いたしました。
なお、『2・それぞれの買出し』と『3・大団円』が個々の皆様に対してのお話となっております。
お暇がありましたら他の登場していただいた方のシナリオを読んで見られるのも面白いかと思います。

アンジェリカ 様
料理上手ということで、いい推理をしていただきありがとうございました。
実はシチューとグラタン、作り方ほぼ一緒なので推理を頂いた時点で「そ、そうか。これもありだよねぇ。」と悩みました。
実際マカロニ入りのグラタンも存在しますし。
私は料理が苦手ですのでそこまで頭が回らず不愉快な思いをさせてしまいましたことを申し訳なく思います。
また、行動を一任していただいたことで、とても自由に書いてしまいました。
ですが、とても楽しく書かせていただきました。

優しい皆様に集まっていただいて本当に嬉しく思います。
またお会いできる日を楽しみにしております。
それでは、とーいでした。