<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
その代償は
今日の買い物はお肉と野菜とそれから日用品が少々。
「うーん、今日の夕飯はなにかなあ♪」
ジュディ・マクドガルは、買い物メモを見ながらご機嫌に通りを歩いていた。
姉――と言っても実の姉ではなく幼馴染の女性だ――八俣智実におつかいを頼まれるのはいつものことで、そのメモを見ながら姉の作る食事に想いを馳せるのもよくあること。
お肉屋さんで鶏肉を買って。八百屋さんでピーマンと人参を買って。
「よしよし。順調、順調」
もう何度も買い物を頼まれているのに、姉はいつでも心配そうに言うのだ。
『一人で大丈夫? 知らない人についていっちゃダメだからね。それから・・・』
放っておいたら延々続きそうな注意事項に少し苛つきはするものの、本人を目の前にして文句など言えるはずがない。
「まーったく、お姉ちゃんってば心配しすぎだよ。もう十五歳なんだから、買い物くらい・・・」
普段はとても優しいお姉ちゃんで、怒ると恐いが、だが理不尽な叱り方はしない。それを言ったとてそれで叱られるということはないだろうけれど。
もう十五歳。子供扱いされるのは嫌なのだが、でも大好きな姉が心配してくれるのはやっぱり少し嬉しいのだ。
だから、文句を言って腹を立てているくせに表情はたいして不機嫌でもない。
「えーと・・・あとは文房具屋さんに行って終わりかな」
メモを見ながら、買った物を確認していく。
その時。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジュディは、漂う美味しそうな匂いに足を止めた。
ちょうど焼きたてが出てきたところらしい、パン屋さん。
現在時刻は、四時ちょっと過ぎ。
おやつの時間はもう終わってしまったし、夕飯まではまだ長い。
でも。
買い食いなんてしたら怒られるのは間違いない。
でも、だけど・・・・・・・・・・・。
「美味しそう」
すでに足は完全に止まってしまっている。
早く買い物を終えて帰らないとお姉ちゃんに心配をかけてしまう。
それはわかっているんだけど・・・・・・・・・。
悩みに悩んだジュディは、預かったお金としばらく睨めっこをして。それから、早足に歩き出した。
時計の針が指しているのはちょうど四時。ジュディが出かけていってから十分ほど経っている。
「大丈夫かなあ」
おつかいを頼むのはいつものことだし、十五歳といえば自分のことは自分でできる年齢だ。
理性では大丈夫だとわかっているのだが、だが十五歳はといえばまだ子供。
外見だけで言えば智美とジュディは大差ない年齢であるが、実は智美は普通の人間とはちょっと違う。
『神』と呼ばれるその存在の中でも、世界を八巻するほどの大きな身体と蛇の姿を持つ『とても大きな白い蛇』の百八十の分身の一つ。
まあ、現在の姿と遺伝子は人間そのもので、智美本人も極々一般的な十六歳の人間の少女としての生活をエンジョイしているが、だからといって年齢が変わるものではない。
外見がどうであれ、智美はジュディよりずっと長く生きており、そしてその分人生経験も多い。長い時を生きてきた智美からすれば十五歳などまだまだ小さな子供も同然で。
だから、理性ではわかっていても感情ではどうしても心配になってしまうのだ。
一分ごとに時計を見上げては、頼んだ品を指折り数え、ジュディが出かけてから経った時間を計算する。
「そろそろ帰ってきても良い時間だと思うんだけどなあ・・・・」
ジュディが出かけてから三十分。
時計を見ていなかったらきっともっとずっと長く感じていただろう。
いや。時計を見ながらだって、もしかしたら時計が遅れてるんじゃないかとか考えてしまったほどだった。
迎えに行ったほうがいいかと考え始めたその時、
「ただいまー」
玄関のほうから、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おかえり、ジュディ。ちゃんとお買い物できた?」
部屋に入ってきたジュディに、智美はにっこりとおかえりなさいの笑顔を浮かべた。
「うん」
だが何故か。
ジュディはぎこちない笑みで買い物袋を差し出した。
本人はきちんと笑っているつもりらしいが、付き合いは長い。微妙な雰囲気の違いだってすぐにわかるのだ。
「何かあったの?」
聞くと、
「うううんっ。なにもないよ」
ジュディはぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
・・・・・・・・・・・・怪しい。
ぜーったい、何かを隠している態度だ。
基本的に単純な性格をしているジュディは、隠し事はあまり得意ではないのだ。
「ふーん・・・・本当に?」
言いつつ、買ってもらった物とおつりを確認する。
智美の問いに、ジュディは首が取れそうな勢いで思いきり首を縦に振った。
だが。
その必死さがかえって余計に怪しい。
そして智美はそれに気付いた。
妙におつりが少ない。
「あれ?」
何でもないふうを装って釣銭を眺めると、ジュディがビクリと身体を震わせた。
確信。
「なぁんか、おつりが少ないような気がするんだけど。お姉ちゃんの気のせいかなあ?」
冷たい視線で尋ねてみれば、ジュディは涙目で智美を上目使いに見つめた。
「ジュディっ!」
「はいいっ!」
「正直に言いなさい」
きぱり。
短くそう言うと、ジュディは俯いてぼそぼそと告げた。
「えと、あの・・・・ごめんなさい。その・・・買い食い、しました」
「じゃあ何を言うべきかはわかってるよね?」
お仕置きの時にはジュディからお願いすることになっている。その代わり、普段からジュディのことをよく見ている智美は、理不尽な理由で怒ることなど絶対にない。
ジュディもそれはわかっているから、素直に告げる。
「・・・悪い事しちゃったから・・・ちゃんと良い子になれるようお仕置きしてください」
「はい、よろしい」
手招きされて智美の前に立つ。
智美のお仕置はお尻叩き。下着を全部下ろしてから、お尻が真っ赤になるまで叩かれるのだ。
これから始まるお仕置きに涙を浮かべつつ。ジュディは履いていたジーンズを下ろした。
バチィーーンッ!!
盛大な音が部屋に響いて、ジュディはぐっと声を飲みこんだ。
しばらくして、智美の手が止まった。
お仕置きが終わったのかと思ったジュディは、ほっとしたような表情で顔をあげる。
だが。
「いーい? 買い食いもいけないことだけど、それよりももっといけないのはそれを誤魔化そうとしたことなんだよ」
ジュディが再度俯いた。
「今までのは買い食いの分ね」
告げると、ジュディが再び体を硬くした。
ジュディ本人用の革鞭、満を持しての登場であった。
「・・・ありがとうございました」
涙が浮かぶ――どころか本気で泣きたいほどの痛いお仕置きが済んだあと、ジュディはいつもと同じようにお礼の言葉を告げて頭を下げた。
これを言わなければ本当の意味ではお仕置は終わらないのだ。
「これに懲りたらもうこんなことはしちゃダメだよ」
言われずとも、もう二度とこんなお仕置は受けたくない。
嘘吐き娘はお尻を赤く腫れさせて、深く反省させられたのだった。
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