<PCクエストノベル(1人)>


群青珊瑚 〜海人の村フェデラ〜

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■冒険者一覧■
□1181 / 雲翆(うんすい) / 男 / 16 / 弓使い

■助力探検者■
□なし

■その他の登場人物■
□キリア・ウィル / 海人の娘(地上観光担当)
□コナコナ / 浮かれイルカ(キリアの友人)
□ドーン・シュタイツ / フェデラ村長

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 冒険に溢れ、人々は歓喜と美酒と平和な世の中に感謝して過ごすユニコーンの地。36の聖獣に守られて、今日もまた穏やかな時間が誰の上にも平等に流れている。
 様々な人種の暮らす大地において、特別驚かされるのは「海人」と呼ばれる海に住む種族だろうか。なんら地上に暮らす者と変わらないが、海でも同様の暮らしが出来る――空気の中でしか生きられない人種にとって非常に興味深い。世界がさらにもうひとつあると言っても過言ではないのだ。だからなのか、ここ海人の村フェデラは観光地として繁栄しているのであった。

キリア:「これから初仕事だわ……って、こんな季節外れにお客なんているのかしら!」
ドーン:「何を言っておる。たったひとりでも心地よく観光してもらうのが、我村の基本姿勢じゃ。心得て行って来い」
キリア:「はーい。行くよ、コナコナ!」

 地上担当になったばかりのキリア・ウィルは、友人のコナコナに乗って太陽の光がきらめく水面へと向かった。
 湾に長く張り出した水先案内用の小屋。そこで待っているのは、時期違いでたったひとりの観光となった雲翆だった。フェデラ観光は初めてである。なのに、一緒に行く予定だった友人が行けなくなってしまった。彼は不安に駆られている最中であった。

キリア:「水中呼吸薬をお飲みください。錠剤となっておりまして、3日間効果が持続しますので安心です」
雲翆:「あのさ……その営業口調やめてくれないかな?」
キリア:「あら、どうしてですか?」
雲翆:「気が休まらないっていうか、もっと楽しい気分で村に行きたいんだけどな」

 キリアは嬉しそうに笑うと、次の言葉からはすっかり歯に衣を着せぬ口ブリになったのだった。
 体に貝殻に入った軟膏を隅々まで塗り、雲翆はキリアからベルトを手渡された。重しだという。海人は体重のコントロールができるようになっているが、地上生活者はそうではない。当然海に入れば体が浮かんでしまう――その為の重し。
 すべての用意を整えて、雲翆はコナコナに乗った。

 初めて潜った海は想像以上。様々な色彩が雲翆を迎えてくれた。
 どこまでも透き通る海の中、見上げれば太陽の光が円形を崩しながら揺れている。見たこともない魚が群れを成し、ふたりの乗るイルカを避けて泳ぐ。下をのぞめば、一面に広がった珊瑚礁が階段のように連なっていた。地上ではお目にかかることのできない風景に、雲翆は絶句してしまったのだった。
 コナコナのひれに手を添えてキリアが泳いでいる。海人は地上でも生活できるため、他人種と区別がつきにくい。特徴として体の一部に鱗があるらしい。雲翆は興味深く彼女を見つめた。青い長髪と深い濃紺の瞳が印象的。しなやかに白い肌にはどこにも鱗は見当たらない。

キリア:「何か知りたいことはない?」
雲翆:「知りたいことっていうか……どうしてこの時期は観光するヤツが少ないんだ?」
キリア:「破境期なのよ。潮の流れに変動をきたして水が澱むの。乱流って言って――ほら、砂漠の砂嵐みたいなものよ」
雲翆:「ふーん、今は綺麗に見えるけどな……」
キリア:「滅多に発生するものじゃないわ。だけど、もう少し日が経つと海雪が降ったり、貝類の採取許可時期にも入るからね」
雲翆:「わざわざ、水が澱むかもしれない時期には来ないってことか」

 だから来てくれて嬉しいのだと、キリアは雲翆に言った。満面の笑みで女性に喜ばれたことなど久しい。雲翆はこそばゆい感覚に視線を下に見えてきた美しい珊瑚礁に向けた。
 その時、水が揺らいだ。
 一気に体が流されていく。視界に入っていた村が遠ざかり、立ち昇る空気の泡で前が見えくなってしまう。これがキリアの言っていた乱流なのだ。ふたりの前に岩棚が近づく。キリアが必死に方向転換しようとしている。
 もう少しで岩棚に叩きつけられる――!!
 雲翆がキリアの手首を取る。イルカから放り出された。耳の奥でコナコナの高い警告音が響く。
 もうダメか……!
 瞬間的に少女の体を抱きしめた。息が出来ない。背後に岩棚が迫っているのを感じた。

 ――え!?

 水の揺らぎが突然だったように、激しい流れもまた唐突に失われた。雲翆は緩く背中を打った。取り戻した視力で見た岩棚は、凹凸や貼り付いている貝で鋭利な刃物のよう。ここにあの勢いでぶつかっていたなら、命すら危なかったかもしれない。今回は辛うじて大きな傷を負うのだけは避けられたが――。
 身震いした腕の中でキリアが身じろいだ。彼女を庇って抱きしめていたことに気づく。慌てて体を離し叫んだ。

雲翆:「キリア! 大丈夫か!?」
キリア:「ご、ごめんなさい……私が新米だから、予測できなかった」
雲翆:「いや、いいよ。それより大丈夫なのか?」

 キリアが青ざめた頬で頷くのを見て、雲翆はようやく胸を撫で下ろした。
 かなり流されたらしく海底に村らしい影は見えない。戻ってきたコナコナが少女の頬に鼻を摺り寄せている。海水で背中が痛む。雲翆は思わず顔をしかめた。

キリア:「背中……痛そうだよ――来なきゃよかったと思われちゃったかな」
雲翆:「そんなことないさ。さぁ、村に案内してくれよ」
キリア:「でも――私がし…」
雲翆:「おい!! あれ、なんだ!?」

 キリアの言葉を遮って、雲翆が海底を指さす。キリアも釣られて見下ろした。
 そこに広がっていたのは、群青色の小さな球体の群れだった。まるで天雲からたくさんの雨粒のよう。潮の流れにユラユラと漂っている。

キリア:「群青雨だわ。珊瑚の産卵よ!!」
雲翆:「えっ!? あの粒々が全部卵なのか!?」

 流れに沿って、粒子がふたりを包み始める。青い雨の中を散歩している気分。
 手の平に青い小さな卵を乗せたキリア。暗かった表情に明るさが戻る。

キリア:「群青珊瑚の産卵はとても珍しいの。周期が不順で、私たち海人でも予測できないから」
雲翆:「苦労はしてみるもんだぜ」
キリア:「……ええ。そうね、ありがとう」

 キリアの微笑み。返すように緩む口元。
 視界を埋める卵たちに囲まれて、雲翆はしばらくフェデラ観光することを決めたのだった。


□END□

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 初めましてvv ライターの杜野天音です。
 自由度の高いプレイングでしたので、初めての観光をデートっぽく仕上げました。
 如何でしたでしょうか?
 フェデラは私の想像した設定なので、書くことができてとても嬉しかったです。
 ご参加ありがとうございました!