＜ＰＣクエストノベル（１人）＞
カクシンを求めて 〜落ちた空中都市〜
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■冒険者一覧
■■番号 / 名前 / クラス
■■0925 / みずね / 風来の巫女
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■序章
聖獣界ソーン。
それは３６の聖獣によって守られた不思議な世界。どの世界に住んでいるどんな人でも、訪れることのできる不思議な世界。
その中でも特に発展を遂げているのは、聖獣ユニコーンによって守られているユニコーン地域だ。
その理由は、この世界において最も特異な都にして中心とも言える聖都エルザードが、そこに存在しているからである。
そのエルザードの東にある湖。その中に今もなお存在する、落ちた空中都市。
その都市の中には”神”であり”悪魔”がいた。そうして自らの魔法でもって、都市を形作っていた。
その存在を守っていたガーディアンは語る。かつて自らも同じように力を使い、その都市を浮かび上がらせていたのだと。
その都市が落ちた理由は、彼らにしかかかることのない病気。彼は病魔におかされた彼女を守るため、彼女の時間をとめた。自らの身をかけて。
さて――。
ここにただ１人、その事実を知る者がいる。風来の巫女・みずねだ。
だが彼女はあることを疑っていた。そしてその疑いを晴らすために、もう一度落ちた空中都市へと向かう。
――”何か”の関与を、否定するために。
■本章
■■１．疑惑
あのガーディアンの話を聞いてから、みずねの頭は一つのことでいっぱいだった。
マスター：「どうしたんだい？ みずねちゃん。ぼーっとして」
みずね：「え？ あ……何でもありません」
マスター：「そうかい？ でも折角用意したホットココア、もう冷めてしまっただろう？ 温め直してあげよう」
みずね：「すみません。ありがとうございます」
白山羊亭に新しい仕事や情報を求めてやってきても、この有り様だ。
（やっぱり……ちゃんと決着をつけた方がいいよね）
もちろんガーディアンと戦おうとしているわけではない。
みずねは疑っていたのだ。いまだ、あの空中都市が落ちたわけを。
”自分たち特有の病気のため”
ガーディアンはそう説明していた。
実際もしあのガーディアンが、自分の身を捨ててまで彼女の時間をとめていなかったなら。いずれ空中都市は空中分解を起こし、今よりももっと酷いことになっていたかもしれない。少なくとも人間の犠牲の数においては。
（でも――それだけじゃないの）
みずねはもっと深いところを考えていた。
”じゃあその病気は、どこからきたの？”
みずね自身、考えたくない答えが浮かぶ。
みずね：「この世界を支配しているもの――”何か”……」
マスター：「ん？ 何か言ったかね？」
みずね：「いいえ、マスター。何でもありません……あの、やっぱりココアいいです。お代ここに置いておきますね」
マスター：「え？ みずねちゃん」
みずね：「また来ます。それじゃあ」
マスター：「あ、ああ」
思いたったらすぐ行動。それがみずねの信条だった。
（カクシンが欲しい）
その病気に”何か”の意思はないという核心。
”何か”は関係がないのだという確信。
みずねにとっては、それがいちばん大事なことだった。
■■２．探索
みずねがその落ちた空中都市へ近づいても、あのガーディアンが現れることはなかった。それはみずねがガーディアンから、都市へと降りる許可をもらっているからだ。
（でも、現れもしないなんて……）
ちょっと淋しいなと、みずねは思っていた。
海神に会いに行った時のように、防御用の装備などは一切していない。それはガーディアンがいるからこそ、都市の中は安全だろうと思ったからだった。
前に来た時はガーディアンについて行っただけだったので、都市の詳細な様子まではわからなかったが、案の定何も（誰も）存在していないようだった。
みずね：「それにしても――不思議だわ」
思わず口に出して呟く。
普通空中から、水の中にとはいえ都市が丸ごと落下したならば、ある程度建物や道路が崩壊していなければおかしいだろう。けれどその都市は、まったくそのままだったのだ。どこも欠けている所のない、完璧な都市。
当然みずねは、それが魔法により保たれているからだということを知っている。
（知っていてもなお）
不思議だと思ってしまうのだ。
（もしまだその”力”を持った人がいたら）
そのまま空中都市は復活するのだろうか。
考えると、どこかしっくりこないものを感じた。過去の文明の方が高度だったと、言われるのはどこの世界でも同じだというけれど。それをこのようにリアルに想像してしまうと、少し哀しい。
（私たち未来人のせいで）
きっとそれらは、滅んでしまったのだろうから。
みずねは一軒の家に入ってみることにした。自分でも何を探しているのか、何を見たらいいのかわからないみずねは、とりあえず色々なものを見てみようと思ったのだ。
その家は数人の家族で住んでいたらしく、外見も内側も現在ソーンに存在する建物と大して変わりがなかった。
（すでに構造が、完成されていたのね）
だからこれまで、変わる必要がなかったのだろう。それも文明の高さを示しているように思えた。
家の中は妙に片付いていて、”人間を先に避難させたのだ”というガーディアンの言葉を思い出した。
（そうよね。死体なんか、どこにもないもの）
とても優しい彼ら。
その彼らを蝕む病気。
みずね：「一体何が引き金なのかしら……」
その後も様々な所を見て回ったが、よく片付けられている点、今の建築物とあまり変わらない点、そして死体など存在しない点において、どれも一致していた。
そしてそのどれもに、みずねの探している答えはなかった。
（やっぱり、直接訊いた方が早いのかな……？）
みずねが最初からそうしなかったのは、辛かったからだ。みずねにとっても――彼にとっても。
■■３．原因
みずねは都市の外壁の所まで、戻ってきた。それはここにガーディアンを呼ぶためだ。
みずね：「ガーディアンさん！ 聴こえてるんでしょ?! ちょっと出て来てくれませんか！」
ガーディアン：『ソンナニ叫バズトモ、聴コエテイル』
みずね：「！」
不思議とみずねのすぐ近くに、いるような気がした。頭に直接訴えてくるような感じなのは同じだったけれど。
みずね：「？ どこに……いるんですか？」
辺りを見回しても、黒い影は見えない。するとその声が、初めてクスクスと笑った。
ガーディアン：『バラバラニナッテイルカラナ。アノ時オ前ガ私ヲソウシタヨウニ』
みずね：「あ、そっか」
つまり一つ一つの点がバラバラに存在しているため、まったく目には見えないのだ。
ガーディアン：『モトニ戻ルニハ多少時間ガカカル。コノママデ許セ』
みずね：「ええ、お話ができるのであれば、私は全然構いません」
ガーディアン：『ソレデ？ 何故私ヲ呼ンダノダ？ 頼マレテモ、アノ神殿ニハ２度ト入レンゾ』
みずねは大急ぎで首を振った。
みずね：「違います！ 神殿に入りたいんじゃないんです。そりゃあ……少しは関係があることですけど」
そのみずねの言葉から、ガーディアンはみずねが何を探しに来たのか悟ったようだった。
ガーディアン：『アノ――病気ノコトカ？』
みずね：「そうです！ ……訊いてもいいですか？」
両手を合わせ、みずねは祈るようなポーズをしていた。それはみずね自身気づかぬまま、自然にとっていたものだった。
ガーディアンはおそらく、揺れていた。しばらくは何の反応も示さない。存在が目に見えない分、感情も読み取れないのだった。
みずね：「あの……？」
ガーディアン：『――イイダロウ。オ前ガ私ノモトヘスグ直接来ルヨウナ人間デアッタナラ、教エル必要モナイコトダガ』
みずね：「！ ありがとうございますっ」
ガーディアンはみずねの優しさに、気づいていた。
★
ガーディアン：『アノ病気ハ――人間デイウ癌ト同ジヨウナモノナノダ』
みずね：「癌と……?!」
それはまた、衝撃的な告白だった。
ガーディアン：『我々ハ人間ヨリモ身体ガ小サク、少々不思議ナ力ヲ持ッテイルトイウダケデ、根本ハアマリ変ワラナイノダ』
（それだけ違えば十分変わっていると思うけど……）
みずねは口には出さずに思った。
ガーディアン：『――聴コエテイルゾ』
みずね：「え?! あ……ごめんなさい！」
どうやら筒抜けのようだ。
ガーディアン：『マアイイダロウ。ダタ似タヨウナ病気ニカカルコトモ当然アルノダト、ワカッテクレレバソレデイイ』
みずね：「でも、癌だったら治るものだってありますよね……？」
少なくとも人間であればそうだ。昔ほど、癌＝不治の病ではない。
ガーディアン：『シカシタダ放置シテオイテ、治ルワケデハナカロウ？ ソレ相応ノ治療ガ必要ナハズダ』
みずね：「それはそうですけど……」
ガーディアンは少しの間をとった。
ガーディアン：『――人ト我々、モウ１ツ絶対的ニ違ウモノガアッタ。ソレハ存在ノ数ダ』
みずね：「！」
ガーディアン：『オ前ガ思ッテイルヨリハ、タクサンノ者ガ存在シテイタ。ダガソレハ人間ニ比ベレバ微々タルモノダッタ』
みずね：「だから……医学の発達が遅れていたというの？ でも似たものなら、応用もできたはず――」
ガーディアン：『誰ガ”悪魔”ニ手ヲ出ソウトスル？ ”神”ニ、手ヲ出ソウトスル？』
みずね：「…………」
（そうだわ）
彼らはそう扱われるのが嫌で、空へと逃げたのだ。
ガーディアン：『我々ニ協力シテクレタ人間ノ中ニハ、試シテミヨウト言ッテクレタ者モイタ』
みずね：「じゃあ……っ」
ガーディアン：『ダガ私タチハ断ッタノダ』
みずね：「どうして?!」
ガーディアン：『人間ノ医療ハ、アル程度実践・実験サレタモノデナケレバ実用化サレナイ。シカシソノ時ノ我々ハ、実験対象デシカナカッタノダ』
みずね：「あ……」
ガーディアン：『ソンナ危ナイ目ニ、アイツヲアワセルワケニハイカナカッタ。タトエ成功スル確率ガアッタトシテモ。私ハコノ道ヲ選ンダノダ』
みずねはもう、何も言えなかった。
ガーディアン：『オ前ガ知リタイノハ、コノ病気ニナル原因カ？ ソレナラバソレコソ、癌ト同ジデ多岐ニワタッテイルゾ』
ガーディアンはみずねが口に出さずとも、細かく説明してくれた。
（人間と同じように）
それはストレスであったり、生活習慣であったり、様々な原因から発症するのだという。
”彼女”の場合はおそらく力の使いすぎだろうと、ガーディアンは言った。
ガーディアン：『都市ヲ形作ルコトト、都市ヲ浮カビ上ガラセルコト。ドチラガ大変カトイエバ前者ダ。スベテノパーツニ”力”ヲコメナケレバナラナイ。一方私ハ、タダコノ場所ヲ持チ上ゲヨウトスレバヨカッタ。アイツノ”力”ニヨッテ、コノ場所ハ完全ニ固定サレテイタカラ』
しかしそちらを選んだのも、空中へ行くことを選んだのも、すべて彼女なのだという。だからそれはある意味――自業自得と呼べるものであったのだと。
（それでも彼は、彼女を失いたくなかった）
その病気が、ある種必然的に起こったものだとしても。彼は彼女を生かしておきたかったのだ。
■終章
みずねはまるで、これから潜る人のように、湖畔に佇んでいた。佇んで、空を見上げていた。
（彼の優しさを、より深く感じたの）
たとえ彼女自身のせいであっても、助けたいという想い。それは偶然にもたらされる病気への嘆きより、強いものではなかろうか。
（そして私は、確信した）
核心を突いた。
あの病気は、”何か”のせいじゃない。
原因は彼女自身に、あったのだから。
彼女はそれをも覚悟で、望んでいたのだから。
みずね：「もしかしたら……いちばん哀しんでいるのは彼女なの……？」
みずねは呟いた。
彼女が自分の意思で、いつかそうなることもいとわずにすべてを行なっていたのなら。
そのために身を犠牲にした彼を、彼の優しすぎる気持ちを、嘆いたのではなかろうか。
（哀しいな……）
不意にあふれてきた涙は、静かに湖へと溶けていった――。
■終
■ライター通信
こんにちは、伊塚和水です。
落ちた空中都市完結編（かな？）、いかがだったでしょうか。これで今回は”何か”のせいではなかったと、確信できたと思うのですが。毎度毎度こちらの方がみずねさんの思考の深さにびっくりしてしまいます。また自由な発想で驚かせて下さると嬉しいです＾＾
それでは、またお会いできることを願って……。
伊塚和水 拝
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