<PCクエストノベル(1人)>


コイのトラップを抜けて 〜エルフ族の集落〜

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■冒険者一覧
■■番号 / 名前         / クラス
■■1139 / クリエムヒルト    / 魔法使い
■■???? / キャビィ・エグゼイン / 盗賊

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■序章

 聖獣界ソーン。
 それは36の聖獣によって守られた不思議な世界。どの世界に住んでいるどんな人でも、訪れることのできる不思議な世界。
 その中でも特に発展を遂げているのは、聖獣ユニコーンによって守られているユニコーン地域だ。
 その理由は、この世界において最も特異な都にして中心とも言える聖都エルザードが、そこに存在しているからである。
 今回の舞台は、エルザードの遥か南西にあるエルフ族の集落。
 普通の者ならばそれを囲む森に阻まれ、たどり着くことさえ難しいのだが、今回そこを目指すべきクリエムヒルトはそこの出身であった。
 彼女は秘中の薬草を手にするため向かう。キャビィ・エグゼインという盗賊を連れて。



■本章
■■1.森へ行きましょう

   キャビィ:「――え? エルフ族の集落に行くって?」
クリエムヒルト:「ええ、エルフ族に伝わる秘薬というものがあるのですけれど、その調合に必要な薬草の在庫が、なくなってしまったんです」

 ここはエルファリアの別荘・中央ロビー。その真ん中で立ち話をしているのは、エルフのクリエムヒルトと盗賊のキャビィだ。

   キャビィ:「……それで、なんであたし?」
クリエムヒルト:「エルフ族の集落を取り囲んでいる森には、たくさんの自然のトラップがありますから。盗賊のキャビィ様ならお手のものでしょう?」
   キャビィ:「ま、まあね……」

 間接的に褒められて嬉しかったようだ。キャビィはクリエムヒルトから目をそらして頭を掻いた。その手がふととまる。

   キャビィ:「でも待って。そこの森って、トラップだけじゃなく迷いの森みたいになってんじゃなかったっけ?」
クリエムヒルト:「ええ、そうです」

 にこりと微笑んで頷いたクリエムヒルトに、キャビィは頭を抱えた。

   キャビィ:「あたしはあんたと遭難なんてしたくないわよ!」
クリエムヒルト:「大丈夫ですわ。私は集落までの道を知っていますもの」
   キャビィ:「え?」

 驚いたように、キャビィはクリエムヒルトを見た。しかし見れば、すぐに気づく。

   キャビィ:「あ、そっか。その耳……」

 クリエムヒルトの耳は、長くスルリと伸びているのだ。

クリエムヒルト:「その集落は、私の故郷なんです」

 だから道に関しては心配がなかった。しかしトラップは自然のものであり、エルフ族のものだからといって作動させないなどということは不可能。クリエムヒルトがキャビィを誘ったのは、そういうわけだった。
 キャビィは改めて、大きく頷く。

   キャビィ:「それならいいよ。なんか面白そうだし、エルフ族の集落って一度行ってみたかったんだ♪」
クリエムヒルト:「キャビィ様は集落の中には入れないと思いますけど……」

 クリエムヒルトが口にすると、キャビィはその長い耳を両手でつまんで引っ張った。

   キャビィ:「あんたは一緒に行ってほしいんでしょ! 余計なこと言わないっ」
クリエムヒルト:「きゃーごめんなさい! やめて下さ〜い」

 少々先の思いやられる2人だった。


■■2.コイの予感

   キャビィ:「へぇ……なんか、ふつーの森と変わんないんだね」

 辺りをキョロキョロと見回しながら、キャビィは少し残念そうに告げた。一体何を期待していたのだろうか。
 エルフ族の集落を囲んでいる森は、見かけは確かに普通の森とは変わらない。辺りには似たような樹ばかりが生え、旅人の感覚を麻痺させる。しかしマイナスイオンは気持ちよく、旅人を陽気にさせるのも確かだった。

クリエムヒルト:「自然そのままの森ですからね」

 クリエムヒルトは嬉しそうに告げた。
 エルフのクリエムヒルトにとって、自然は普通の人間よりも身近であり大切なものだった。エルザードで生活しているのも楽しいけれど、やはり自然の中にいた方が落ち着くのだ。
 どこかピクニック気分で、2人は並んで歩いている。

   キャビィ:「ねぇ、自然のトラップってのは、具体的にどんなの?」

 キャビィはあとから物凄く後悔してしまうことを知らず、のん気にクリエムヒルトに問いかける。
 クリエムヒルトは「そうですね……」と呟くと。

クリエムヒルト:「たとえばこんなのや――」

  ――ドンっ
 と近くの樹の幹を叩いた。
 途端に洒落にならないほどの数の大きな実が降ってくる。

   キャビィ:「うわうわうわうわうわうわぁぁぁーーー」

 さすが盗賊。キャビィはそれを器用に交わしながら、クリエムヒルトの手を引っ張ってそのゾーンから抜け出した。

   キャビィ:「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
クリエムヒルト:「他にはこんなのや――」

 次にクリエムヒルトは樹の上の方からぶら下がっている怪しげな蔦を引いた。

   キャビィ:「や、やめ……」

 キャビィの制止はもう遅かった。次に樹の上から落ちてきたのは――蛇の大群だ。

   キャビィ:「ぎゃーーー」

 どうやらキャビィは蛇が苦手らしい。涙を流しながら再びクリエムヒルトの手を引いて走った。そのままタイムジャンプできそうなほどの速さで。

   キャビィ:「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

 さっきよりも荒く息をしているキャビィに、クリエムヒルトは心配そうに問いかける。

クリエムヒルト:「大丈夫ですか……?」

 それが自分のせいであるということには、まったく気づいていない。

   キャビィ:「大…丈…夫……だけど…」
クリエムヒルト:「じゃあ次行きますね♪」
   キャビィ:「やめぃ!」

 また何かトラップを発動させようとしたクリエムヒルトを、今度こそキャビィはとめた。

   キャビィ:「もう十分わかったから、ね?」

(訊かなきゃよかった……)
 キャビィがそう思っていることは、言うまでもない。
 するとクリエムヒルトは残念そうな顔をして。

クリエムヒルト:「そうですか……?」
   キャビィ:「うんうんっ」

 コクコクと人形のように頷くキャビィ。しかしクリエムヒルトは納得するどころか。

クリエムヒルト:「でもこのトラップは、ぜひ見てほしいんです! 行っきまっすよ〜」
   キャビィ:「わーーーーっ」

  ――パキリ

 クリエムヒルトが何かを踏みつけた。
 キャビィは思わず頭を抑えてその場に座りこむ。また何か降ってくるのではと思ったのだ。

   キャビィ:「――あれ?」

 しかしいくら待っても、降ってくる気配がない。顔を上げたキャビィは、クリエムヒルトと目を合わせる。するとクリエムヒルトは、にこりと笑った。

クリエムヒルト:「……あ、来ましたわ」

 そらして遠くを見つめたクリエムヒルトの視線に、キャビィもついて行った。

   キャビィ:「な――っ、何よあれぇ?!」

 森の奥からライオンのようなものが、のそりのそりと歩いてきているのが見えたのだ。見えているというのに、クリエムヒルトは実に平然としていた。

   キャビィ:「あ、あんた……」
クリエムヒルト:「? どうしました? キャビィ様」
   キャビィ:「逃げるわよ!!!」
クリエムヒルト:「え……っ」

 これまでと同じように、キャビィはクリエムヒルトの手を引いて走った。走っているのだが――おかしい、先ほどまでより獣の足音が近づいたような気がする。
 走りながらチラリと後ろを見ると、さっきまではのそりのそりと歩いていた獣が、今は同じように走って2人を追ってきていた。

   キャビィ:「ぎゃーーーっ」
クリエムヒルト:「キャビィ様!」

 キャビィはさらにスピードを上げる。そうしてしばらく獣との追いかけごっこは続いた。


■■3.仲良し

   キャビィ:「ぜぃはぁぜぃはぁ……」

 さすがのキャビィも、疲れ果ててその場に倒れこんだ。

クリエムヒルト:「だ、大丈夫ですか?」
   キャビィ:「あんただけでも逃げなよ、クリエムヒルト。いくらあんたが魔法使えるっていっても……」
クリエムヒルト:「いえ、私なら大丈夫ですわ」

 キャビィの言葉を遮って、クリエムヒルトはにこりと笑った。それから立ち上がり、獣が追ってくるであろう方向を見つめる。
  ――ガサガサっ ザザーーーっ

      獣:「ガウゥゥゥーーーっ」
   キャビィ:「クリエムヒルトっ?!」

 飛び出してきた獣はクリエムヒルトに襲い掛かり、クリエムヒルトを押し倒してその顔に――舐めついた。

クリエムヒルト:「きゃーーっ、お久しぶりですわ!」
   キャビィ:「――え?」
クリエムヒルト:「あん、そんなに舐めないで下さい」

 獣はどうみても、クリエムヒルトにじゃれついている。

   キャビィ:「あの……ちょっと、クリエムヒルト?」
クリエムヒルト:「はい?」
   キャビィ:「はい? じゃなくてさ……。その獣、あんたの何?」

 訊かれたクリエムヒルトは、きょとんとした顔をつくってから。

クリエムヒルト:「何って……友だち、ですけど?」
   キャビィ:「友だちー?! 友だちが何で追いかけてくるのよっ」
クリエムヒルト:「それはキャビィ様が逃げたからですわ。この子、逃げる者を追う習性があるんですの」
   キャビィ:「なんつーはた迷惑な習性……」

 キャビィは大の字になったまま、脱力した。クリエムヒルトはのん気に獣と戯れている。

クリエムヒルト:「そうですわ、キャビィ様。この子の背中にお乗り下さいな」
   キャビィ:「え?!」
クリエムヒルト:「キャビィ様がテキトウに走ってしまったせいで、私にはもう道がわからなくなってしまって。この子に案内してもらいましょう?」
   キャビィ:「ぐ……」

 自分のせいであるのなら仕方がない、と、キャビィはおとなしく背中に乗ることにした。もとはといえば先に説明をしておかなかったクリエムヒルトが悪いのかもしれないが、クリエムヒルトが天然だということは嫌というほどわかったので、キャビィは言わないことにした。
(またとんでもない目に遭いたくないもんね……)

   キャビィ:「だ、大丈夫なの? こいつ」
クリエムヒルト:「ええ。気に食わない人間しか食べませんから」
   キャビィ:「ぎゃーー」

 クリエムヒルトは楽しそうに告げた。
 クリエムヒルトと獣、そして獣の上のキャビィ。2人と1匹の周りには、徐々に鳥たちが集まってくる。

クリエムヒルト:「まぁ、鳥さんたちも案内して下さるって」

 嬉しそうに微笑むクリエムヒルトを、キャビィは嫌いになれそうにないなと、思っていた。



■終章

 その後もいくつかのトラップを越え、無事にエルフ族の集落へとたどり着いた2人。
 クリエムヒルトはキャビィを集落の入り口に残して、1人中へと入っていった。
 ハーフエルフならまだしも、まったく血の混じっていない者を入れるべからず。集落にはそういう掟があったのだった。

クリエムヒルト:「長老! お久しぶりですっ」
     長老:「おお、クリエムヒルトか。遠い所ご苦労じゃったな。――して、今回はどうした?」

 早速長老の家に出向くと、長老は歓迎してくれたが、そのやけに不思議そうな表情が気になる。

クリエムヒルト:「ええ、エルフェルフ草がなくなってしまって、採りに来たのです」

 それが必要な薬草の名前だった。エルフにのみ扱うことのできる秘中の薬草。
 すると長老は、何故か思い切り頭を抱えた。

クリエムヒルト:「……長老?」
     長老:「まったくお前は、相変わらずじゃのう。前に来た時話しておったじゃろう?」
クリエムヒルト:「え?」
     長老:「薬がなくなりそうな頃にちゃんと届けると。今朝エルザードに向けて薬草を携えた者が向かって行ったばかりじゃぞ」

 不思議そうな顔をしていた原因は、これだったのだ。

クリエムヒルト:「えぇぇぇ〜〜〜っ」

 クリエムヒルトの天然も極まれり。つまりここへやってきたのは完全に無駄足だったのだ。
(キャビィに何て言い訳しようかしら……)
 集落の入り口へと戻りながら、クリエムヒルトは必死にそれを考えていた。



■終



■ライター通信

 初めまして、伊塚和水です。
 この度は発注ありがとうございました。そしてギリギリになってしまって申し訳ありません_(_^_)_
 天然ボケのクリエムヒルトさん、とても楽しませて書かせていただきました。名前が長いので略称で呼ばせていただこうかと思ったのですが、可愛い感じに略せず結局そのままになっております。何か可愛い呼び方などあったらぜひ教えて下さると嬉しいです^^
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝