<PCクエストノベル(1人)>


冬支度〜アロマ・ネイヨット〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス / 種族】

【0812/ シグルマ / 戦士 / 多腕族】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【アロマ・ネイヨット / 孤児院職員】
【アズール / 孤児院に住む子供】

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〜序章〜

世界の起源を知る者は居ない。ある時、既に世界はあった。
そして、最初は無人の世界だったソーンに、他の世界から夢という形で人々が訪れる。
その中から、ソーンに定住する者が現れ、世界に人間の領域を広げていった。
だが、そんな事は平穏に今を生きているソーンの人々にとってはどうでも良いことであり、特にこの世界にもいる可哀想な孤児達を養う為に日々暮らしている者にとっては考えたこともないのかもしれない。
今日もそんな人物は子供たちの為に過ごしている。


〜本章〜

エルザードの西部街外れには孤児院がある。
そこに住み込みで働く銀髪長髪の女性、アロマ・ネイヨットは孤児院の子供たちのことを第一に考えて行動している人物。
器量良しで子供たちに優しく、笑顔はまるで春に咲き誇る花のようだと人々は言う。
そんな彼女の気を引こうと近づく者は少なくない。
彼もそんな者たちの一人かどうかは知らないが、シグルマは孤児院へと向かっていた。
ソーンにもうすぐ冬が来る。
冷たくなった吹き付ける風に少し眉を寄せる。
冬に備えての準備の手伝いをしに、シグルマは孤児院へと歩みを進めていた。
緩やかな傾斜を登ると目指す孤児院が見えた。
建物のまわりに取られた広めのスペースで木枯らしに吹かれながらも子供たちが遊んでいる姿が見える。
シグルマはゆっくりした足取りで近づいていくと、遊んでいた子供のうち一人が彼を見た。
すると連鎖反応のように外にいた子供たちの視線が全て彼に集まる。
自然と顔が綻ぶのを感じながら、シグルマは孤児院の門を押した。

アズール:「何をしに来た、悪の戦士め!この正義の使者、アズールさまが成敗してくれる〜!」

ちゃんばらゴッコをしていたらしいこの孤児院でも一番のわんぱく小僧、アズールはシグルマに刀代わりの木の枝を突きつけた。

シグルマ:「貴様にこの俺が倒せるかな?はっはっは」
アズール:「何を〜?俺の必殺技を受けてみろー!」
アロマ:「こら、アズール!止めなさい」

ちゃんばらを始めようとしたアズールにアロマの声が飛んだ。
すぐに建物の中から出てくると頭を下げた。

アロマ:「すみません、シグルマさん」
シグルマ:「いや。男はこれ位元気がねーと、な」
アズール:「おう!」
アロマ:「こらっ」

怒った顔でアズールを叱ったアロマだが、アズールを見る目は優しい。
アロマは微笑みをシグルマへ向けた。

アロマ:「今日は有難うございます。シグルマさん」
シグルマ:「いや、礼を言われる事じゃねーよ。力仕事は女子供じゃ難しいだろ?それに、子供たちが巣立った後はここは老人ホームにでもなって俺が使うかもしれねーしな」

歯をみせて見るものを安心させるような笑みを浮かべたシグルマ。
アロマも笑みを浮かべるとお辞儀をした。

アロマ:「では、お願いします」
シグルマ:「おうよ。よっしゃ、じゃやるか!」
アズール:「俺も手伝う!」

子犬のようにシグルマの周りをちょろちょろと動き回るアズールをつれ、シグルマは孤児院の裏へと回る。
建物の裏には小さな物置小屋と洗濯物を干す台。
孤児院の壁には小さな屋根が張り出し、その下には割られた薪が積まれていたが、その数は少ない。
物置小屋からシグルマは割る前の薪の束と斧を取り出すと薪割り台へと置いた。

アズール:「シグルマ、俺もやる!」
シグルマ:「あぁ、ちょっと待てよ……俺があらかたやってからな」

言いながら結んでいた紐を外し、台の上に木を二つ乗せる。
四本ある手のひとつに自分の武器である斧。もう一方に薪割り用の斧を持ち、構えた。

シグルマ:「ふんっ!」

気合ひとつ。
シグルマが振り下ろした二つの斧は綺麗に芯を捕らえ、真っ二つに薪が割れた。
更に半分に割れた薪を割り、四等分にし、これで出来上がり。
シグルマは二本の腕で斧を振るい、もう二本の腕で木を台に置く。
その作業をテンポ良くこなして行くシグルマの横には出来上がった薪が積み上がっていった。
ほとんどの薪を割り終わったところで、アズールを見た。

シグルマ:「さて、お前の番だ」

アズールは神妙な顔でひとつ頷くと薪割り用の斧を受け取った。
アズールの後ろに回りこみ、シグルマはよし、と言った。

シグルマ:「やってみろ」
アズール:「でいっ!」

掛け声ひとつあげ、振り下ろした斧は薪の端を掠め薪割り台に突き刺さる。
もう一度構えなおし振り下ろす。
しかし、これも外れる。
何度やっても斧は薪の端を削るだけで割れなかった。

シグルマ:「そうじゃねぇ。こう、脇を締めて、ちゃんと柄を握る。目標をちゃんと見ろ」
アズール:「うん」

深呼吸をし言われたとおりに斧を振り下ろした。
真っ直ぐ振り下ろされた斧は薪の中ほどで止まってしまったが、何度か叩きつけるように振ると割れた。

アズール:「やった!割れたよ、シグルマ」
シグルマ:「良くやった!でかしたぞ」

嬉しさを体全体で表すアズールの頭を大きく撫でたシグルマに裏口から顔を覗かせたアロマが声を掛ける。

アロマ:「シグルマさん。すみませんが、終わったら屋根の方もお願いできますか?」
シグルマ:「おうよ。任せとけ」

二つ返事で返したシグルマは残りの薪も割ると物置小屋から梯子と工具箱を取り出す。
梯子を立て掛け、屋根へと上がる。
一通り屋根を見て、修繕すべき箇所を探す。
東側の雨樋が腐れて穴が開いている場所と、煙突近くの屋根が脆くなっているのをシグルマは見つけた。

アズール:「シグルマ〜俺も手伝うぞー」

下から聞こえた声にシグルマは屋根から顔だけ下に覗かせる。

シグルマ:「物置から板を持ってきてくれ」
アズール:「わかった」

言われたアズールは嬉しそうに踵を返し、物置小屋へと走っていく。
それの背を目を細めて見送り、シグルマは工具箱から使いそうな道具を取り出す。
木材の腐れ具合や強度を確かめていると、梯子を上がってくる音がした。

アズール:「持って来たよ、シグルマ」
シグルマ:「おーありがとう」

屋根の縁から半身を出し、今にもずり落ちそうな板を抱えているアズールに手を伸ばす。
アズールも板を渡そうと身を乗り出した。

アズール:「っあ!」

ぐらりとバランスを崩したアズールが右に傾く。
梯子ごと横倒しになりそうになる前にシグルマの逞しい腕がアズールを掴んでいた。

シグルマ:「おい!大丈夫か?」
アズール:「だ、大丈夫だけど……くるしい」
シグルマ:「悪ぃ、悪ぃ」

襟を締め上げるように掴まれたアズールの言葉に苦笑しながら、シグルマは残った三つの腕も使い屋根の上に引き上げる。

アズール:「へっへ〜俺屋根にのぼるの初めてだ」

笑うアズールの髪を掻き回し、道具と板を取り上げた。

シグルマ:「さて、じゃさっさと終わらしちまうか」
アズール:「おうっ!」

二人は木枯らしの中作業を進めて行った。
作業が終わる頃にはすっかり二人の体は冷えてしまっていた。

アロマ:「お疲れ様、二人とも。さっ、入って下さい」

部屋の中へ二人を招きいれ、アロマはキッチンへと下がる。
作っていたスープを入れた皿を二つ持ち、戻って来るとシグルマとアズールの前に置いた。

アロマ:「さ、これを飲んであったまって下さい」
アズール:「いっただきまーす」
シグルマ:「悪いな。じゃ、頂くぜ」
アロマ:「はい。どうぞ」

スープをすする二人を見ながら、アロマは優しく微笑む。

子供たち:「アロマ〜お腹空いた〜」
アロマ:「はいはい。先に手を洗ってらっしゃい」
子供たち:「はーい」

スープの匂いを嗅ぎつけた子供たちが外から戻ってくると、途端に部屋の中は賑やかになる。
子供たちの高い声と明るい笑い声。
またも自然と笑みがこぼれる。
そんなシグルマにアズールは不思議そうな顔で首を傾げた。

アズール:「何笑ってんだ?」
シグルマ:「あ?何でもねーよ」
アズール:「何でもないのに笑ってるのかよ。うわー気持ちわりー」
シグルマ:「なんだと〜生意気な口はこれかー?」

口を掴もうと伸ばしたシグルマの手をかわし、アズールは声を上げて笑った。
シグルマも今度は声を上げて笑う。
いつのまにか孤児院の中は笑い声で満たされていた。
これなら冬も乗り切れるだろう。
シグルマは子供たちの笑顔を見ながら、そう思った。


窓の外は白い。
窓の中は暖かく、明るい笑い声。
いつまでもこの時が続きますように――