<PCクエストノベル(2人)>


道と宝と……

------------------------------------------------------------
【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【 1528 / 刀伯・塵 / 剣匠 】
【 1117 / 多寡道 / 鬼道士 】

------------------------------------------------------------

 目の前に広がる自然が作り出した見事な景観は、今居る二人にはどうでも良かった。いや、気にしてる場合でもなかった。

塵「キリが無いな!」
多寡道「ったく!冗談じゃねぇぞ!!」

 苛立たしげでは有るが、どこか嬉々とした印象を受ける二人は今正に、襲われて居た。襲われた原因は、二人が上げた大声の所為なので誰を責められる訳でも無いのだが、その数が問題であった。あっちから出て来たかと思うとまたこっちから……そんなこんなで気付いて見れば、二人の周りは黒山の人だかり……いや、この場合は怪物だかりが出来ていた。

塵「おい多寡道!!道造るから援護しろ!」
多寡道「おっけー塵の旦那!!おぅりゃーーーーー!!!」

 塵の周りに群がる敵の只中に多寡道が踊り込むと、神速とも呼べる蹴りを繰り出し一気に駆逐する。その間に、塵が構えた愛刀『霊虎伯』に集中し、そして……
塵「氷結螺旋陣!!」
 振り下ろした刀より、凍てつく氷の波動が駆け抜け目前の怪物達をその場に釘付けにする。

多寡道「ヒュー♪やるねぇ旦那ぁ!!」
塵「馬鹿野郎!とっとと向こう側に行けよ!」
多寡道「へいへいっと!!」

 氷縛された怪物達を飛び越えた多寡道を確認すると、塵もまた多寡道の後に続く。周囲から襲い来る怪物達の攻撃を交わし、多寡道の傍に降り立つ。

多寡道「うっしゃ!鬼攻弾!!」

 塵が来ると同時に、多寡道は掌に溜め込んで居た気を天井目掛け打ち出した。直撃を受け崩れた天井が瓦礫となって二人と怪物達の間に壁を作る。

塵「無茶しすぎだ!!俺達まで埋まったらどうすんだ!!」
多寡道「逃げるに決まってんじゃん」

 崩れ落ちた状況を見ながら言い合う二人の背後から、ズルリズルリと音がする。振り向き見れば、またしても怪物の群れ。

塵「マジでキリねぇぞ……しゃーない!強行突破するぞ!」
多寡道「ったく!どくせぇんだよ!!」

 塵と多寡道は口の端に笑みを浮かべ、怪物の群れに突っ込んだ。


塵「多寡道!?多寡道じゃないか!!」
多寡道「はぁ?っ!?塵の旦那ぁ!?」

 その出会いは、数日前の事。塵が此方の世界、ソーンに迷い込んで来て情報収集を続けている最中の事だった。

塵「まさか、お前が居るとはなぁ」
多寡道「そりゃこっちの台詞だぜ。何であんたが此処に居るんだよ?」
塵「それが分りゃ、苦労はしねぇんだよ。今その原因と帰る方法を探してんだ」

 往来のど真ん中は流石に気が引けるのか、道の端に寄り話している二人の姿が奇妙といえば奇妙だ。 多寡道は、塵と同じく中つ国の出のサムライだ。頭に角が生えているのが、彼等ラセツと呼ばれる種族の特徴である。

多寡道「んで?その方法とやらは見付かったのか?」
塵「さっぱり分らん。そこでだ、噂に聞いたんだが……とある地下水脈は異界に繋がっていると言う話しだ。そこに行って見ようと思う」
多寡道「へぇ〜そうなのか、まっ頑張ってくれや」
塵「お前も行くんだよ!!」
多寡道「はぁ!?何で俺様が行かなきゃなんねぇんだよ」
塵「哀れなおっさんを助けようとは思わないのか!!」
多寡道「全然、おもわねぇ」

 だがこの時、多寡道の脳裏にとある事が思い浮かんだ。

多寡道「まっいいや。行ってやるよ、その地下水脈って奴に」
塵「どういう風の吹き回しだ?」
多寡道「別に。ただ、旦那一人じゃきついのは確かだしな、ちっと手を貸してやろうと思っただけだ」
塵「ほぅ〜」
多寡道「それに暇だかんな」

 スタスタと先を歩く多寡道に、塵は些か腑に落ちないと言う顔をして居るが、それでもこの申し出を受け、二人は地下水脈の場所を聞いて回るのだった。


 眼前に口を広げる洞穴の入口の前に、二人の姿がある。

多寡道「此処か?塵の旦那」
塵「ああ、間違いねぇ……此処だ」

 手元の地図に、此処!とデカデカと赤い染料で書かれた文字が見える。色々情報を集めて、場所を特定して来たようだ。何せ言葉は普通に通じるが、書かれている物は分らない。よって、こんな形に成ったようだ。

多寡道「しっかし、相変わらず慎重すぎるぜ旦那は……」

 溜息が一つ多寡道の口から零れる。

塵「何言ってやがる!これでも、不十分な位だ!くっそ〜もっと調べる時間が欲しいぜ」

 口惜しげな塵を横目で見つつ、多寡道は再び溜息を吐いた。情報収集するだけでも半日は費やしたのだ、多寡道の疲労も多少頷ける。何せ元来行き当たりばったりな多寡道だけに、塵の慎重な行動は拷問に等しかった。

塵「よし!じゃあ、行くぞ!」
多寡道「へ〜い」

 塵が自分の周りに淡い光を放つ蛍を舞わせ明りとなし、二人は洞窟へと入って行くのだった……


多寡道「ちっ!これも大した事ねぇな……」

 多寡道がボソリと呟きながら、手に持った石を投げ捨て更に辺りを見回す。チラチラと淡い光を反射する物はあるのだが、大した物では無い事は先刻承知済みの為多寡道は見向きもしない。

塵「おい!多寡道!早く来いよ!」
多寡道「わーってるよ!」

 塵の一喝に、多寡道はその場を諦め渋々歩を進める。多寡道より多少先を行く塵は、迷わないようにだろう、壁に傷を付けたり地図を書いたりと余念が無い。この辺り、放浪生活が癖な分最早習慣と言えるかもしれない。
 不意に二人の眼前の視界が広くなったかと思うと、先程までとは違った大きな空間へと出る。中央には大きな台座が有り、その上には黄金の盃を掲げた像がある。

多寡道「おお!?金だぜ金金!!!」
塵「ばっ!?何やってんだ多寡道!」

 目を輝かせて像に飛び掛る多寡道を必死に押さえる塵。

多寡道「離せよ!!金目のもんが目の前にあんのに、何で黙ってなきゃなんねぇんだよ!!」
塵「俺達の目的は、中つ国に帰る事だろうが!!!」
多寡道「それは、旦那の目的だろうが!!俺には関係ねぇ!!!」
塵「何だとー!?お前それが本音か!!」
多寡道「当たり前だー!」

 像の目の前で言い争いを始める二人の声量は、激しく大きく辺り一帯に響き渡る。その声に、反応した者達が居た事に二人は気付いていなかった。

多寡道「大体なぁ〜来ちまったもんはしょうがねぇだろ!諦めて人生楽しめや!」
塵「お前みたいな御気楽極楽ならいいんだけどなぁ〜俺には可愛い息子や娘がいんだよ!!」
多寡道「あんだと!?俺にだってちゃんといらぁな!!だけど、何ともなんねぇだろうが!!」
?「ハァ……ハァ……」
塵「だからこうして探してんだろうが!!ちったぁ真剣に成りやがれ!」
?「ハァハァ……ハァハァ……」
多寡道「真剣じゃねぇか!!こんなに真面目に金目のもの探してんだぞ!!」
?「ハァハァハァハァ……ハァハァハァハァ……」
塵「そうじゃねぇだろうが!!」
?「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ……」
塵&多寡道「「ハァハァうっせぇんだよ!!!!!!!!」」

 耳障りな吐息のする方へ、振り向き様の鬼攻弾と氷柱衝が黙らせる……に至らない。何せ、周囲全てが吐息の元であったからだ。だらしなく開いた口からは涎と牙が見え、顔も体も魚に似ている。所謂、魚人と言うべき存在だろうか?だが、当然二人がそんな物である等と分る訳も無い。

塵「ちっ!?囲まれてんのか」
多寡道「旦那がうっせぇからだぞ!!」
塵「あんだと!!俺の所為だってか!!」
多寡道「そうだろうがよ!!」

 平然と口喧嘩を続ける二人だが、既に襲われている。だが、幾つ物死線を潜り抜けて来た経験が、体を勝手に動かして行く。そして、二人は何処か楽しげですらあった。

塵「キリが無いな!」
多寡道「ったく!冗談じゃねぇぞ!!」

 二人の口元が、ほんの少しだけ緩んだ気がした……


塵「結局……何も見付からず終いかよ……」

 夕暮れの街道を歩く塵の口からポツリと一言……そう、結局あの後は敵に追い掛け回され、当初の目的を完全に忘却の彼方へ追いやり暴れ回って洞穴を出たのだ。そして、気が付いたのはついさっき。

多寡道「しょーもねぇ。何しに行ったんだよ」

 呆れ半分を込めて言う多寡道だが、自分もそうだと言う事に気が付いて居ないようである。魚人達の返り血を浴びてヌメヌメする体が嫌に気持ち悪かった……

塵&多寡道「「ハァァァァァァ……」」

 二人が同時に吐いた溜息は、夕暮れの彼方に静かに消えて行った……