<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


■勇者を倒せ!
 
隣町はある男の噂で持ちきりだった。
 勇者。
 しかし勇者は、人々に望まれてはいなかった。
「……みなさん、大変困っているのです」
 ふう、とルディアがおおきなため息をつく。
この自称勇者、えらい勝手な男で、勇者であることを鼻にかけている。
そのため、何をしてもいいんだと、勝手に人の家にあがりこんだり、商品に金を払わなかったり、人の恋人に手
をつけたりと、やりたい放題なのだ。
 このままでは、町は勇者に滅ぼされてしまう。
しかもこの勇者、何気に勇者の証を持っているため、うかつに手は出せない。この証は、町の人々が無抵抗にな
ってしまう魔法がかけられているからである。
「誰かが、ドラゴン退治にでも連れてってくれれば話は違ってくるんですけど……」
 そんなドラゴン、とりあえず見当たらないが、しかし。
「あの勇者、自分の力を見せ付けたいだけなんです。だから、あなた達に、この自称勇者を満足させてもらえれ
ば……」
 その時に、隙を見て奴から勇者の証を奪ってもらいたい、と。
 ルディアは一人、こうごちた。


■2 そもそもなんでこんなことに?
 
 某弱無人な自称勇者を倒す、という呼びかけに答えたのは四人。
 彼らは、問題の町に到着すると、事前に待機していた秘書に案内され、町長室で事情を聞くことになった。
「……とにかく最悪なんです」
 隣町――もといオール町――の町長は沈痛な面持ちで、こうつぶやいた。
 昔と違って今は、勇者になるには、勇者選抜試験と呼ばれる試験を受けなければならない。その試験は大変困
難を極め、なかなか勇者になどなれるものではない。
 がしかし、勇者試験にはある落とし穴があった。
 勇者第一種と第二種。一種はもう世界を救うほどの大勇者を目指すものの試験。それは筆記から始まり、実技、
性格審査、神との面接……その他数々の試練をこなさなくてはなることができないものである。それをクリアし
た者達はまさに真の勇者と呼ばれるにふさわしい人々なのだ。
 しかし、この世はそんな勇者が求められるほどの大事件ばかり起こるとは限らない。むしろ、ちまちました事
件のほうが多いのだ。そこで設立されたのが、勇者試験第二種である。
 これは村の勇者、町の勇者といった程度の試験である。つまり、それぞれの町を守る勇者のための試験なのだ。
この自称勇者も第二種勇者であった。
 この第二種試験、一種とは違い、そんなに難しいというものではない。筆記と、実技くらいである。しかも、
その選抜方法がまたゆるく、『筆記がだめでも実技が○ならよし』といったものなのである。彼は、筆記がだめ
だったが実技が最高だったので晴れて勇者になれた、とそういったわけである。
 勇者には、その活動を最大限に生かすため、ある特権が認められている。それは、『全面協力』。第一種勇者
は、もうすべての市町村にこの特権を発動させることができ、宿屋もただで泊まることができる。第二種勇者も、
例外ではない。ただし。
 派遣された町のみでの権利発動。その権利を証明するものが、『勇者の証』だという。
 この勇者はあろうことか、その権利を濫用し好き勝手なことをしているというのだ。
「そんな奴、ぶっ倒しちまえばいいじゃねえか」
 その言葉を聞いたジェイ・オールは、固く握りしめた拳を己の手のひらにうちつけ、吐き捨てるように言った。
炎のような赤髪、ぴょんと飛び出た狼の耳が特徴的な獣人の少年である。ジェイは、野性的な輝きを放つ金の瞳
で、ぎり、と町長をにらむ。
 町長はその威圧感に、一瞬びくりとしたがこほん、と小さく咳払いをし話をする。
「できればとっくにやっています。だが、まあこちらとしてもいろいろ事情がありまして……」
 事情。それは『勇者の証』にあった。
 『勇者の証』には、勇者の権利を最大限に生かすためある魔法がかけられている。それは、町の人々が無抵抗
になるというものだった。緊急事態のときに、くだらない障害で何百万という人々が死んでしまっては元も子も
ない。それを防ぐためにと、この魔法がかけられているのだが、この勇者は自分の欲のためだけに使っているの
だ。
「……許せません!!」
 背中の羽をぱたぱたとふるわせ、少女が突然大声を上げる。
 メイ。ぬけるような白い肌に、細い銀の髪が美しい、戦天使見習い。正真正銘の天使様である。
メイは、ぐぐっと拳を握りしめると、力説した。
「勇者がそんなんだから、天使が悪役やったり、神様がゲームとかでラスボスになったりするんです!!
 元祖勇者様を導いたこと数百回という先輩天使の言葉を借りて、『へにゃちょこ』勇者を矯正したいと思いま
す!!」
 そして、どこからか、ぴかーんという効果音が聞こえてきそうな、荘厳、かつ、ぶあつい本を取り出した。
 そこには、金の箔押しで『勇者を導く100の方法』と書かれていた。
「まだ見習いのあたしでも、この学科と仮免くらいはありますから大丈夫です!!」
 メイは本をぎゅっと抱きしめ、自信満々に叫んだ。心なしか、後ろにめらめらと燃え立つ炎が見えるのは気の
せいだろうか。
「そ、それは心強い……」
 町長は、メイのそんな態度に気おされつつ、ややひきつった笑みを浮かべた。そしてちらり、と視線を移す。
そこには……。
「ゆうしゃさまって、そんなわるいやつなの?」
 大きな瞳をうるうるさせ、小首をかしげるドラゴン。正確には、ドラゴンパピィのヴィー。
フリーデスヴィーデ・???である。ふさふさしたエメラルドグリーンの羽毛につつまれている。
「悪いというか、まあ許せない存在ではありますね……」
 隣で腕を組み、ふう、と大きくため息をついたケトゥ・クォン・シールがヴィーの後に続く。
 学者先生というにふさわしい雰囲気の持ち主。真っ白なシャツに、茶色のベスト、ネクタイといったこざっぱ
りとした姿の男である。しかし正体は竜の末裔と呼ばれる亜人種のナーガだ。少しの間なら、エクリプスドラゴ
ンにも変身できるという。
「あなた達、本当によろしいのですか? 彼はドラゴンを退治したがっているのですよ? 自分の力を見せつけ
たい、ただそれだけのために」
 町長が不安そうに二人に尋ねる。 
 しかし、ヴィーはぷるぷると長い首を左右に振ってこう答えた。
「あのね、ゆうしゃさまにね、わかってもらいたいの」
 ヴィーは、知っているのだ。勇者がドラゴンを退治したがっているということを。それを承知であえてこの依
頼を受けたのだった。
「あなた達への迷惑行為も気になるところですし、なにより、なんでもかんでも、ドラゴンを退治するというの
はいただけませんからね」
 ケトゥもぽつりとつぶやいた。
 それを聞き、町長はほっとした表情を見せた。そして、四人にこういった。だめ勇者は、勇者派遣委員会に連
絡を入れれば、委員会からの派遣員がやってきて、勇者資格を剥奪することができるという。だが、それが通る
までには、なんと一ヶ月以上もかかるという。それではあまりにも遅すぎる。だから、あなた達のような冒険者
に依頼をしたのだと。
「私達が、彼を止めるのは無理です。だから、派遣員が来るまであなたたちが、彼を止めてください。でないと、
本当にこの町は滅びてしまいますから……」
 町長は改めて、お辞儀をした。
「まかせときなって! この俺が、そのバカ勇者をぶち倒してやるから!」
 ジェイは、片目をばちんとつぶって、にっと笑った。歯の隙間から犬歯がのぞいている。
「倒すとゆーか、改心させます!! 絶対です!!」
 あさっての方向を指差したメイが、力説する。
「っしゃ、とりあえず、その勇者に会いに行こうぜ!! そいつの強さも気になるとこだしな!」
「ちょっと待ってください」
 熱くなるジェイを、ケトゥが止める。
「俺達が行っても混乱を招くだけでしょう。どうです、ここはひとつ、分担してみては」
 くいくい、とヴィーがケトゥのシャツをくわえ、ひっぱる。何かいいたげな目だ。
「ぶんたん、ってなんなの?」
 その問いに、ケトゥは優しく答える。
「お互い、別々で行動するということですよ。うまく勇者を乗り気にさせて、おびきよせる。その時に彼を捕ま
えるんです。きっと油断もしていることでしょうしね」
 そういって、ケトゥはにこ、っと笑った。
「では、作戦開始です」


■3B とりあえず作戦開始(ヴィー&ケトゥ)

 ヴィーとケトゥは山に来ていた。勇者をおびきよせるための、おとりの役目を果たすためであった。
「あのね、ゆうしゃさま、わかってくれるかなあ?」
 ヴィーは鼻先をひくひくさせながら、にこっとケトゥに微笑んだ。
「そう簡単にいく相手ではないと思いますけどね……」
 ケトゥは、ふうと大きくため息をつき苦笑する。ドラゴンを退治したがっている勇者の話を聞き、珍しく腹を
立てていたはずなのに。笑いなど、漏れるはずもない状況下であるはずなのに。
 目の前にいる無邪気なドラゴンパピィの姿を見ていると、ケトゥはなぜか、優しい気持ちを覚えるのであった。
 そんなケトゥの思惑を知ってか知らずか、あいかわらずマイペースなドラゴンパピィは、目の前をひらひらと
飛んでいる蝶に夢中であった。
「それにしても……ヴィー、いいのですか?」
 ケトゥは、沈痛な面持ちでヴィーを見やる。
 ぱくり、と蝶を口にくわえ、ご満悦のヴィーは、? といった感じで小首をかしげる。
「……ほら、勇者が退治したがっているドラゴンの役目を引き受けるという話ですよ」
 おとりの役は二つあった。
 ひとつは、町の上空で勇者の興味をひく役、そしてもうひとつが、それにつられておびき寄せられてきた勇者
と直接対峙する役。
 そしてそれは、こういう作戦展開の元に作られていた。
 まずメイとジェイ達が酒場に行き、勇者を油断させて外におびきよせる。そして、勇者が外に出てきたところ
で、ケトゥがエクリプスドラゴンに変身し、勇者の興味をひく。その後、人間の姿に戻り何食わぬ顔で勇者達と
合流、最終的にヴィーの待つ場所へ勇者を案内するというものだった。
 ドラゴン退治とは、勇者をおびきよせる名目。ヴィーは、その直接対決用のおとりドラゴンとして勇者を待つ
という。勇者がヴィーに刃を向けることは必死であろう。それなのに。
「なぜ、そんな危険な役目をあえてやるというのです」
 ケトゥはつぶやいた。自分もドラゴンの種族であるし、おとりなら代わることもできる。町の上空で飛び、勇
者の興味をひくおとり役の方が、ずっと簡単である。だが、ヴィーは、それはケトゥに託し、自分は一番危険な
役をやるといったのだった。
「うん、あのね、やっぱり、ヴィー、ゆうしゃさまと、おはなししたいの。おはなしすれば、どらごんはわるい
やつじゃないよ、ってわかってもらえるかもしれないの」
 ヴィーは尻尾をぱたぱたさせ、楽しそうに語った。
「ヴィーひとりなら、できないかもしれないの。でもね、みんなといっしょなら、ヴィーがんばるの」
「……わかりました」
 ケトゥは、肩をすくめた。このドラゴンパピィには何を言っても通用しまい。それほど、決意が固いのだから。
「じゃあ、俺は町へ行くとしましょうか。でも、ヴィー。けして無茶はしないでくださいよ」
「うん、ヴィーまってるの」
 そして、ケトゥは目をつぶり、なにやら口の中で呪文を唱える。と、次の瞬間、ケトゥの体は巨大なドラゴン
に変身していた。黒々とした肌は逞しい筋肉におおわれ、口にはずらりと鋭い牙が並ぶ、そして頭には二本の太
い角――ケトゥは、コウモリを思わせる巨大な翼をはためかせて、一気に空へと舞い上がった。

                 
■(3)-A ケトゥバージョン

 町に向かう途中、ケトゥはある考えをめぐらせていた。
 勇者は、きっとヴィーを攻撃してくるに違いない。そうしたら、そのときは……。
(俺が変身して、奴を取り押さえる)
 ケトゥは、強靭な翼をいっそう強くはためかせると、町へと急いだ。

                 * * *

 ケトゥが町の上空に姿を現すと、たちまちあたりが騒がしくなった。事前にこういう作戦をすると教えていて
も、知らない人々はいるものだ。
 ケトゥは上空から、勇者の姿を探した。そして、酒場の前でその姿を見つけると、いったん山へと引き返す。
 人間の姿に戻ったケトゥは、小さくまとめた着替えを取り出すと服を身につけ、何食わぬ顔で町へと歩を向け
た。
 勇者に会い、ヴィーの待つ場所へと案内するために。

                 * * *

 例の酒場は、もうすぐそこだった。ケトゥは銀の髪をかきあげると、勇者の前でおもむろにこういった。
「いや〜、びっくりしましたよ〜。いやね、さっきドラゴンを偶然見かけたんですよ。しかも、すぐ目の前で、
ですよ?」
「な、なに!?」
 勇者は、ケトゥの肩をがっと掴む。
「それは本当か!! ぜひその場所へ案内しろ!!」
 ケトゥはにっこりと微笑むと、こういった。
「ええ。もちろんですよ。勇者様」
 ぱち、とケトゥは片目をつぶった。ジェイとメイも、同じく片目をつぶる。
 作戦成功の合図だ。


■4 ヴィーと勇者と結末と

(おい、まだつかねえのかよ)
 山道を歩いている途中で、ジェイが小さくつぶやく。あきらかに勇者の機嫌が悪くなっているのだ。
(このあたりのはずなんですけど……)
 ケトゥがきょろきょろと辺りを見回す。一度、自分達がヴィーを見つけて勇者を案内する。そうしないと、勇
者が突然ヴィーに襲い掛かるかもしれない。それはなんとしても避けたかった。
 だが、なぜか指定の場所に、ヴィーがいないのだ。
(大丈夫なの?)
 メイは心配そうだ。
(ええ、いざとなったらなんとかします)
 真剣な表情で、ケトゥはメイを見つめた。
 と、その時。
「……ドラゴンだ!!」
 突然、勇者が叫び声をあげた。そしてあっという間に駆けていく。
「?!」
 その予想外の行動に、ジェイはしばらくぼうっとしていたが、はっと気づくと即座に駆け出していた。
「おい、やべぇぞ!!」
 メイとケトゥもお互いの顔を見合わせ、慌てて後を追った。


 ドラゴン――もとい、ヴィーは、木の実を拾っているところだった。お腹がすいたので、木の実拾いに夢中に
なってしまい、いつのまにか指定の場所を離れてしまっていたのだった。しかし、ヴィーはそれに気づかず、ふ
んふんと鼻歌まで歌っていた。
 と。
「おい」
 突然誰かに呼び止められた。ゆらり、と背後に気配を感じ、ヴィーはゆっくりと振り返る。
 すると、そこには黒鎧に身を包んだ、凶悪な面構えの男が立っていた。
 ばちん。
 思わず、男と目があう。その燃えるような視線に射すくめられ、ヴィーの瞳はいつのまにか、うるうるしてい
た。
「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「あ、おいっ!?」
 後ろから声が追うのにもかかわらず、その巨体からは考えられないほどの速さでヴィーは逃げ出した。
(み〜〜……やっぱり、こわいの〜〜〜!!)
 そして茂みに頭だけを突っ込み、ぷるぷると震えている。
 だが、頭隠して尻隠さずとはこのことである。おっきなヴィーの体がそんなちっぽけな茂みに収まるはずもな
く。やがて、その男に尻尾をつかまれ、ずりずりと引きずり出された。
「とうとう捕まえたぞ、ドラゴンめ!! おとなしく俺に成敗されろ!!」
 男――勇者は邪悪な笑みを浮かべた。
(ふぇ……)
 その表情に、ヴィーはさらにおびえる。しかし。
(ヴィー、が、がんばるの……)
 ぎゅ、と前足を握りしめ、大きな瞳で上目遣いに勇者を見る。ドラゴンは悪い奴ばかりじゃない。ヴィーはそ
のことを伝えるために、必死で勇者に語る。
「あのね、ヴィーよりおっきなドラゴンさんも退治しちゃだめなの。ドラゴンさんはわるいやつばかりじゃない
の。ゆうしゃさま、おねがいなの」
 意外にも、しばらくのあいだ、勇者はヴィーの言葉をおとなしく聞いていた。
「……おめーのいいたいことは、よーくわかった」
「え? ゆうしゃさま、ほんとなの?」
 ヴィーは自分の言葉が勇者に通じたと思った。
 だがしかし。
 勇者は突然、ヴィーを見下した態度をとり、ふっと鼻で笑う。
「……てめぇみたいな弱いドラゴンで、ほんとよかったよ!! これで簡単にハクがつくぜ!! ドラゴンを倒
した勇者様ってな!!」
 そう吐き捨てると、勇者は剣の柄に手をかけ、一気に剣を抜き放った!! ぎらり、と刀身がにぶい輝きを見
せる。
「みぃ〜〜〜〜〜!?」
 ヴィーの叫び声がこだまする。
「おとなしく、俺の経験値となれ!!」
 勇者は、狂った笑い声をあげながら、剣を振りかざすと、ヴィーに向かって一気に打ち下ろす!
「!!」
 もうだめだ。ヴィーは、ぎゅっと目をつぶった。
 と、その時。
 ごめすっ!!
「うぼっ!?」
 突如、高速で飛んできた本が、勇者の後頭部に見事に炸裂した。それでバランスを崩したか、ずっしゃあぁ
あ!と派手に転倒する。
「んな……!」
 勇者は、血走った目つきで後ろを振り返った。そこには、後光の差した純白の翼の天使が、びしぃっと勇者を
指さしていた。
「天知る、地知る、人が知る!! 勇者! このあたしの教育の目を逃れようとしても、許しません!! 弱い
ものいじめは恥と知りなさい!!(勇者を導く100の方法第22章引用)」
「んだと、このアマ!! ゲボクのくせに邪魔するんじゃねぇええ!!」
 そういって、勇者は剣を構えなおすと、突如、空に向かって剣をかざした。
「――真空風刃斬!」
 びゅごうっ!!
「んきゃぁぁああ!!?」
 次の瞬間、猛烈な突風がメイを襲った。メイはそのまま、はるか後方へと飛ばされてしまった。
「……っち、とんだ邪魔が入ったぜ。だが、それもここまでだ。死ねーーーー!!!」
 勇者はふたたび、ヴィーに向かって剣を打ち下ろした!
「みーーーー!!」
 ヴィーは、ぎゅっと目をつむり頭を抱えた。
 がきぃん!!
「!?」
 勇者は、確かに剣を打ち下ろした。だが、刃はヴィーに届かなかった。剣は、アイアンクローによって見事に
受け止められていた。
「……勇者さんよぉ。少々、おいたが過ぎるんじゃねーか?」
 にやり、とその人物が笑う。うつむいていた顔が、ゆっくりと上がる。それは、ジェイ。一瞬の隙を突いて、
ジェイは攻撃を受け止めたのだった。
「……て、てめぇ!! なんのつもりだ!!」
 勇者はつばをとばしつつ叫ぶ。
「ヴィー、にげろ」
 ジェイは冷静に、ヴィーに語りかける。ヴィーは、あたふたとその場から離れる。そして、ジェイは金色の瞳
で勇者をにらんだ。
「なんのつもりだ? 見れば、わかるだろーが! てめぇをぶち倒すんだよ!! 今まで、我慢してたけどな、
もう我慢できねぇ!!」
「ほーう、俺を倒すというのか!? おもしろい!! 来い!!」
「言われなくても、こっちからいってやらーーー!!」
 次の瞬間、ジェイは強烈な回し蹴りを勇者の腹に叩き込んだ。だがしかし。
「甘い!!」
 勇者は、それを腕でガードした。と同時に、勇者の体が光に包まれた。呪文が完成したのだ。次の瞬間、もの
すごい衝撃波がジェイを襲い、ジェイの体は後方に吹っ飛んだ。 
「うぐっ!」
 木にしたたかに体を打ちつけ、ジェイは倒れた。
 勇者は平然とした表情で近づき、ジェイを見下ろす。そして、ぐぃと首元を掴みこうつぶやいた。
「なんだ? その程度なのか? ……しょせんは、ゲボク。つまらない、い・ぬ・だな」
「……ンだと?」
 ジェイは、小さく体をふるわせた。
「今、なんつった?」
 勇者は、歪んだ笑いを見せた。 
「何度でもいってやるさ。犬。負け犬め。わんわん、っていってみな! ほらうぐぅ!?」
 勇者の言葉は、最後まで続かなかった。勇者の体は、きれいな軌跡を描いて後方へ吹っ飛んでいた。ジェイが
放った鉄拳が決まったのだ。勇者が落ちた瞬間、ずざぁっ!と大きな砂煙が上がった。
「……俺は、犬じゃねえ――狼だ!」
 ジェイは固く拳を握りしめると、苦々しげにつぶやいた。


 おもわぬジェイのカウンターを食らった勇者は、その場から逃げようとしていた。
 だがしかし、それは叶わなかった。
 突然、勇者の目の前に巨大な壁が立ちふさがったからだ。
「どこへ行くつもりだ」
「……?」
 勇者は、ゆっくりと顔を上げる。
「!!!」
 強靭な筋肉に包まれた体、黒光する肌。口中にはするどい牙がずらりと並び、岩をも切り裂きそうな鍵爪が前
足から覗いている。そして頭には巨大な二本の角――エクリプスドラゴン。
 それが、勇者の目の前にいた。
「貴様を逃がすわけには、いかぬ!!」
 ドラゴンは咆哮すると、その前足で勇者に掴みかかった。
「いへぁああああ?!!」
 勇者の叫び声が、あたりにこだました――。


■めでたしめでたし

 彼ら四人の活躍によって、ひっとらえられた勇者は、その後『勇者の証』を剥奪された。そして、勇者派遣委
員会からの派遣員によって引き取られると、すぐに裁判にかけられ、彼は永遠に勇者資格を失うこととなった。
 このような勇者が再び現れることがないよう、委員会では勇者監察制度を設け、さらに試験内容を厳しくした
ということである。

 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1563/ジェイ・オール/男/14歳/武闘家】
【1063/メイ/女/13歳/戦天使見習い】
【0631/フリーデスヴィーデ・???/男/10歳/ドラゴンパピィ】
【0036/ケトゥ・クォン・シール/男/88歳/ドラゴンホーラー】

*NPC*

勇者:第二種勇者。史上最悪。本名は、ゴルガメス。(ムダ知識) 彼の行いを
みた吟遊詩人の歌が町に残っているという。その内容は、魔王の降臨の様だといわれている。

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■         ライター通信          ■
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どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

 各タイトルの後ろの数字は、時間の流れを、英字が同時間帯別場面を意味しております。
人によっては、この英字が違っている場合がありますが、それは個別文章です。
また()書きの数字は、同時間帯個別文章です。

この文章は全9場面で構成されています。今回は、大きくジェイ&メイ様、ヴィー&ケトゥ様で分けさせて頂
きました。もし機会がありましたら、他の参加者の方の文章も目を通していただけるとより深く内容がわかるか
と思います。また参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。


@大変おまたせいたしました! 最初に頼んでくださった方、申し訳ありません。
 無駄に描写も多いので、かなり長くなっております。
 ただ、お時間を頂いた分、頑張らせていただきました。皆様が楽しんでいただければ、幸いです。
 雅のポリシーは、キャラクターメイン、プレイングを最大限に生かす、というものなので、皆様のOMCはでき
る限り拝見させていただいております。そこから、イメージをふくらませて文章を書いています。けれども、雅
アレンジで暴走してしまうことも……。(汗)

 雅は、ギャグが大好きです!こんなノリでよければ、ぜひまたよろしくお願いします。
もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテラコンのほうから、お聞かせ願いたいと思
います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
 それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょ
う。

ケトゥ様>まさかドラゴン族の方に依頼を受けてもらえるとは、思っても見ませんでした。
なにせ内容がドラゴン退治を含んでいましたので。そのこともあってか、プレイングも大変お怒りの様子でした
ね。勇者を誘い出す、ということが書いてありましたので、そちらをメインに採用させていただきました。
 エクリプスドラゴンへの変身時の描写は、OMCを参考にさせていただきました。どのように表現しようか、い
ろいろ悩みましたが、最終的にはあのような形に仕上げさせていただきました。
 バストアップからお見受けしたところでは、物静かな方なのかなと思っていましたが、なかなか芯のある強さ
をお持ちのようですね。
それでは、またご縁がありましたら、お会いしましょう。今回は発注どうもありがとうございました。