<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
金色の雨、降る
■□■オープニング□■□
白山羊亭。
そこには様々な依頼が張り出されているが、中には
招待状…もとい、案内チラシのようなものも掲示されていたりする。
今回は紅葉狩り。
だが少しばかり違うとすれば。
「……誰かへの想いを書いた手紙を持参の事?」
「そう、それとそのことに対して自分が10年後どうなってるかと言う
想いも一緒にね?」
「……この手紙って何処かに置いて来るの?」
「勿論! 想いを忘れないためにするものだから近くの神殿にしまって来るのよ」
「へえ……10年後に対してと大事な誰か、への手紙か……」
書いてみようかな?
ティアはそう呟きながら、ノエラをじっと見つめていた
■□■一枚の、チラシ□■□
「ふむ……」
夕刻の白山羊亭にて、思案深げにチラシを見る女性が一人。
彼女の名は「シェアラウィーセ・オーキッド」
あまりに長いのと諸事情にて、自己紹介の時には「シェアラ・オーキッド」と名乗っている人物である。
そんな、彼女が目にしているチラシは。
ティアやノエラが言っていた「紅葉狩り」のもので。
白山羊亭のマスターも珍しそうに、その光景を見ていた。
「おや、シェアラ……アンタがそんなもんに興味を示すとはな」
「…ご主人、私だって時にはこう言うものに興味を示すことがある……面白そうではあるし、な」
頬にかかる髪をかきあげるとシェアラは白山羊亭のマスターへと笑いかける。
そして。
「…これに書いてある"手紙"とやらは不特定多数にあてた物でもよいのかな」
疑問を、このチラシを貼ることを許可したマスター本人へと問う。
何処かびっくりしたような顔をしつつ、彼は頷く。
「本当に行く気なんだな…ああ、確かこのチラシを持ってきたノエラ曰く手紙はそう言うものでも大丈夫だそうだが……」
でもなあ…と呟くマスターの声を遮り、
「よし、決まりだ。この行事とやら参加させてもらう…ああ、弁当も宜しくな?」
シェアラは残っていた一枚のチラシを丸めた。
暇なのだから、こう言う時間つぶしもたまにはいい。
秋…。
そうだ、そう言う毛織物を織るのもたまには良いのかも知れない。
(暖かい日だといい………)
何故かそのようなことを、考えながら。
■□■消えない、想い□■□
「……なあ、此処の道は獣道なのか?」
葉を踏みしめる音がやたらと耳にうるさく響く。
希望した筈の紅葉狩りは、何と言うか……凄まじいまでの「森」だった。
樹木は鬱蒼とした影を作り、これがもし緑の季節であったのならば、かなりの深い緑が森全体を覆っていただろうと思うほどに。
ただ違ったのは。
森には緑の樹はなく、全てが全て金や赤の葉の色をしていることだったが。
(金色の雨、か……上手いことを言う人物もいたものだ)
そんな事を不意に考えてしまう。
すると、其処にシェアラの考えを遮るような声。
「違うよ、獣道じゃなくて……神殿へ行く近道なんだ」
シェアラの言葉がが漸く届いたように振りかえるのは明るい空色の髪を映した少年。
ユーリ、と。
確か少年は告げた。
道先案内人見習いですと、言いながら。
が。
シェアラは何故か、綺麗に整えられた眉を怪訝そうに顰める。
どうしてもユーリの言葉に納得いかない部分があったからだ。
「……何故、近道をしたいのか聞いても良いかな?」
「え? だってお弁当持ってきたんでしょう?」
「まあそうだが……それが、どうした?」
「神殿にお昼までに着くのなら絶対にこっちの方が早いんだ。えっと…だから、ごめんなさい。少しの間、我慢して?」
「…それなら、仕方ないが……っと! 何だ、いきなり凄い風が……」
吹くな、と言いたかったのに言葉にならなかった。
人が、葉の中に見えたから?
――いいや、違う。
そんなものならば「疲れているのかな」で済ませてしまう。
………葉の影に見える、その幻は。
かつて――シェアラが愛した人、そのものだった。
■□■金色の雨、降る□■□
一緒に居ようって、何度も言葉にした。
時が移ろうことも知らずに、ただこの日々だけが過ぎてゆくのだと。
だが。
全ては移ろい、生命は土へと還る。
大好きだった想いだけが、こうして己の中で何度でも繰り返されていくだけの、日々。
(……幻でも逢いたかったんだろうか)
誰が?
他ならぬ自分が?
想いに名をつけられずに、こうして過ごして来た中に、あったのだろうか……その願いが。
シェアラは風に抵抗することさえ忘れ、ただ持っている荷物を強く握り締めた。
髪が、風に一筋、二筋…と舞う。
手紙に書いたのは皆へのお礼の言葉。
今まで出逢えた人々に感謝の言葉を綴って奉納するつもりだった。
なのに。
(そうやって、優しく笑われているのを見ると貴方への言葉に変換したくなってしまうじゃないか)
今でも、好き。
きっと変わることなんて、無いほどに。
風は、シェアラの思いを感じたようにぴたりと、止まった。
葉がくるくると地面へたどり着くまでに、何度も舞う。
「凄い風でしたね……大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫。それに…いいものも見れたからね」
「そうでしたか……此処の風は時折、色々なものを見せてくれるようですから」
「…ユーリは見たことがないの?」
「残念ながら、案内人には此処の風は見せてくれないんです…ちょっと残念ですけどね」
笑いながら、ふたりで歩をすすめる。
獣道も、もうすぐ終了するらしく目に見える範囲に神殿だろうか、建物が見えてきた。
こじんまりとした白い概観の神殿は、見ているだけでシェアラの心を和ませた。
「綺麗な…って言うか雰囲気がいい、神殿だね」
「ええ、何故か見てると顔が綻ぶんですよね……着いたら、ゆっくりと食事をして帰りは正規の道から帰りましょうか」
「……言われなくても帰りはそうしてくれって頼むつもりだけどね」
横目でちらりとシェアラはユーリを見る。
シェアラの表情に焦ったような顔をするユーリが妙におかしいけれど、とりあえずそれは言わないでおくのが花というものだろう。
神殿へ、着いたら。
少しだけ、今は居ない人のことを想って。
そして感謝を捧げながら手紙を納めてこよう。
十年後のその後の年月も、自分や自分の周りの全ての人々が幸福であるように願いながら。
かさり、と。
神殿へと入る一歩をシェアラは踏みしめる。
ひらひらと舞う、金色の葉。
柔らかく、ただ柔らかく――金色の雨、降る。
―END―
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■ 登場人物 ■
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【1514 / シェアラウィーセ・オーキッド / 女 / 184 /織物師】
【NPC / ユーリ / 男 / 18 /道先案内人見習い】
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■ 庭 園 通 信 ■
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こんにちは、秋月です。
今回はこちらのシナリオにご参加くださり誠に有難うございます!
今回はオープニングのみ同じで個別ファイルとして二名の
受注でしたが……本当に楽しく描かせていただきました。
そして、お礼を言うべきことはお二人のお嬢さんの参加があったこと、です。
秋月のNPCは少し、奇妙な感じの子達が多いのですが……(汗)
シェアラさんには道先案内人の見習いとして、初登場のNPCであるユーリを同行させました。
少しばかり感情で行動している彼ですが、彼と共に見た紅葉が
シェアラさんにとって、少しでも良い暇つぶしの時間となりましたら
とっても嬉しいのですが(^^)
では、また何処かにて逢えますことを祈りつつ……。
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