<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


金色の雨、降る

■□■オープニング□■□

白山羊亭。
そこには様々な依頼が張り出されているが、中には
招待状…もとい、案内チラシのようなものも掲示されていたりする。

今回は紅葉狩り。
だが少しばかり違うとすれば。

「……誰かへの想いを書いた手紙を持参の事?」
「そう、それとそのことに対して自分が10年後どうなってるかと言う想いも一緒にね?」
「……この手紙って何処かに置いて来るの?」
「勿論! 想いを忘れないためにするものだから近くの神殿にしまって来るのよ」
「へえ……10年後に対してと大事な誰か、への手紙か……」

書いてみようかな?
ティアはそう呟きながら、ノエラをじっと見つめていた



■□■辿る道□■□


『――明日なろう、明日こそなろう』

思い描く道。

明日こそは、何時かはと願い、夢を見る。

はらはらと音を立てる葉を、踏みしめて歩きながら鬼灯は様々な色を映す木々を見上げていた。

「疲れた?」

頭上から降りる声に、緩く首を振り瞳を向ける。

「いいえ、疲れたのではありません…一つとして同じ木々なのに色合いが違うものですから」

見惚れて、しまっていたのだ。
緑の方が木々は綺麗だと思っていた……だけれど、金に赤、赤から金へと色合い変える葉は。

(……木々がまるで幸福な夢を見ているよう……)

そう、思えて。
ふと瞳をあげると柔らかい微笑とぶつかり鬼灯も笑顔につられるように笑みを返す。
鬼灯の隣に立つ青年の名は「ラウル」。
この一緒に見上げている木々たちの、道先案内人、である。
黒髪と、少しばかり灰色の光よりやや強い照り返す銀の瞳が不可思議な印象を見る人によっては与えるが鬼灯はと言うと、まるで人形のような色合いの彼に何処か似たものを感じて安堵していた。
もし、奇妙な人と一緒に出歩くことになったらどうしようかとも思っていたから。

――きっかけは、一枚のチラシだった。

『誰かへの想いを綴った手紙を持参の事』

そんな奇妙な一文が記された紅葉狩りへの案内のチラシ。
行きたいと強く願った。
そうして無事に来ることが出来、道先の案内人としてラウルが来てくれて――この場所に居る。


ザァッ……。


強い風が一瞬吹き、鬼灯の綺麗に整えられた艶やかな黒髪を揺らす。


(私の、想いは……)


金色に彩られた葉が、舞う。
まるで頼りないのに存在感のある葉。


そこに鬼灯は大好きな人の姿を垣間見た。
自分とは決して違う、人の姿を。



■□■葉のかたち□■□


『何時の日か、なれたら』

そうだねって目の前の人は穏やかに微笑う。

『大きく、なれることが叶うならば』

きっと美人になるよ、鬼灯なら。――今だってそんなに可愛いんだから。

呟きの言葉は笑顔と同じ。穏やかな言葉に何故か涙が溢れそうになる。

(――嘘ばっかり)

絶対に、大きくなんかなれないって知ってる。
私の中にあるのは発条ばかりで、とくんとくんと脈打つ鼓動は機械仕掛けの時計と同じ。
なのに、人と同じだから。
――人と同じ姿をしてるから、何度も何度も夢を言霊にのせる。

『何時か』

『約束しよう、鬼灯が綺麗なお嬢さんになったらその時は鬼灯の髪に良く似合う櫛を』

人に夢と書いて「はかない」と読む。
人に夢を見るのは愚かしくも儚いこと。


だけど。


『この想いは私だけのものだから』


そっと、そっと鬼灯は持ってきた手紙を胸に抱く。
大事な陰陽師への想いを綴った手紙を。


「よほど大事な手紙なんだね」
「―――え?」

どれだけの時が経っていたのか。
ラウルの声に鬼灯は、はっと我に返った。
先ほど吹いていた風ももう、止んでいる。
かさりかさりと、葉を踏みしめる音だけが耳に、響いた。

「手紙だよ。さっきから、あたためるように優しい表情をしてるから。小さくても、女の子だね」
「……そう言う物言いはそれ以外の女性には失礼じゃないですか?」

首をかしげながら鬼灯はラウルに問う。

「はは、別に失礼を言おうと思って言った訳じゃなくて。大事だと思うことに小さいも大きいもないってことを言いたかったんだよ」

……生まれてから六年。
完璧にはラウルの言っている言葉の意味を理解出来ないけれど。
けれど、言われていることは悪いことではないような気がした。

「…ありがとう」
「? 何でお礼を言うの?」
「……何となく、お礼を言いたくなって」

何故かは、解らないけれど。

「そう……ああ、見えてきた……手紙を奉納する、神殿が。…君は、何を願うのだろうね…その――想いに」
「――――え?」

手紙を奉納する神殿へ辿り付いたその時。
先ほど、吹いただろう気まぐれな風がまた一陣の風を起こす。
ラウルの銀色の瞳があたたかな光に照り返されるが如く――鈍く、光った。



■□■金色の雨、降る□■□


あたたかな、血の通う肌。
とくん、とくん……。
柔らかな音が自分の中で響く。


十年と言う時。


瞬くほど早いと言う人も居れば長い年数だと言う人も居る、そんな年月。


長い、艶やかな髪が翻り、微笑む少女の姿に鬼灯は瞳を見開く。
これ以上は開けないと言うほど、大きく。


(見えるかい?)


それは希望。
これが望み。


成長している自分を見れること、大好きな人と時を過ごすこと。

誰かの声が聞こえる。
『見えるか?』と。

人形なのに夢が見れる。
現実の狭間で見る夢と、夢の中で見る夢の夢。


『ええ、よく見えます……私が、私自身が』


成長した自分は素晴らしく幸せそうに微笑んでいた。

もし、これが夢だとしても何時の日か叶う夢だと言うのならば。


明日なろう、明日こそなろう。
樹ですら、何時の日かと願う夢。


森の中に、はらりはらりと歌うように。
金色の雨――降り積もる。



―END―


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■   登場人物                  ■
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【1091 / 鬼灯 / 女 / 6 / 護鬼】
【NPC / ラウル / 男 / 20 / 道先案内人】
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■       庭 園 通 信           ■
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こんにちは、初めまして。ライターの秋月 奏です。
今回はこちらのシナリオにご参加くださり誠に有難うございます!

今回はオープニングのみ同じで個別ファイルとして二名の
受注でしたが……本当に楽しく描かせていただきました。
そして、お礼を言うべきことはお二人のお嬢さんの参加があったこと、です。
秋月のNPCは少し、奇妙な感じの子達が多いのですが……(汗)
鬼灯さんには道先案内人として、やはり初登場のNPCであるラウルを同行させました。
小さな女の子と歩く青年と言うのもまた良いかと想いまして♪
彼と共に見た紅葉が鬼灯さんにとっても色よいものだと嬉しいのですが(^^)

では、また何処かにて逢えますことを祈りつつ……。