<PCクエストノベル(1人)>
UNICORN 〜一角獣の窟〜
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■冒険者一覧
■■番号 / 名前 / クラス
■■1170 / アンジェリカ / 便利屋お手伝い
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■序章
聖獣界ソーン。
それは36の聖獣によって守られた不思議な世界。どの世界に住んでいるどんな人でも、訪れることのできる不思議な世界。
その中でも特に発展を遂げているのは、聖獣ユニコーンによって守られているユニコーン地域だ。
その理由は、この世界において最も特異な都にして中心とも言える聖都エルザードが、そこに存在しているからである。
今回の舞台は、エルザードの遥か南西にある一角獣の窟。ユニコーンがいるらしいという噂のある自然窟だが、その姿を確認できた者はいない――はずだった。
■本章
■■1.破られた噂
その日アンジェリカは、いつものように白山羊亭の扉を開いた。
男1:「――マジ?! 今までそんなこと……」
男2:「本当らしいぜ? オレも今朝聞いたが……」
男1:「だとしたら一大事じゃねーかっ」
男2:「そうだな。もしかしたら狙うバカが出てくるかもしれねーしな」
目の前で2人の男性が深刻そうな話をしている。辺りを見回してみると、店の中全体がいつもの雰囲気とは少し違っていた。
(? 何かあったのかなぁ?)
マスター:「おや、お嬢ちゃん。いらっしゃい」
カウンターに近づいていくと、アンジェリカに気づいたマスターが声をかけてくる。
アンジェリカは周りの様子を気にしながら。
アンジェリカ:「こんにちはマスター。皆の様子が変だけど、何かあったの?」
すぐに気づいた違和感を訊いてみた。旅人が集まるこの店のマスターなら、当然そういう情報には詳しいはずだと思ったからだ。
するとマスターは何故か曖昧な表情をして、「ああ、うーん……」と唸った。
アンジェリカ:「……マスター?」
首を傾げるアンジェリカ。
マスター:「君の反応が大体予想つくから、できれば言いたくないのだが……」
アンジェリカ:「がっ?!」
その時にはすでに、アンジェリカの瞳が光り輝いていた。
マスターは小さく頭を抱える。
マスター:「ここにいたらどうせ耳に入ってしまうだろうから、教えよう。お嬢ちゃんは一角獣の窟を知っているかい?」
アンジェリカ:「えーっとぉ……確かエルフ族の集落と繋がっているって噂のある……」
マスター:「そうそう。位置的にも隣にある、ユニコーンの化身がいると言われている自然窟だ」
アンジェリカ:「でも確か、ユニコーンを見た人はいないって話だったような……」
マスター:「よく知ってるじゃないか」
マスターに褒められて、アンジェリカはにこにこと笑った。普段様々な所に足を運んでいるため、有名な場所の話なら結構知っているのだ。
マスター:「――しかしね」
不意にマスターの瞳が怪しく光る。
アンジェリカ:「?」
マスター:「ついにその噂が破られたんだよ」
アンジェリカ:「え?! じゃあまさか……」
マスター:「そう。地下深くにあるという湖で、ユニコーンを見たという者が現れたんだ」
その言葉に、アンジェリカは間髪入れず応えた。
アンジェリカ:「見たい!!」
マスター:「言うと思ったよ……」
アンジェリカ:「えへへ〜」
マスター:「自然窟はいつ崩壊するかわからないから、とても危険な場所なんだけどね。もっとも、とめてもお嬢ちゃんは行くだろうからせめて――」
トンと、アンジェリカの前にカップを置いた。中には温かいスープが入っている。
マスター:「エンジェルとユニコーンのご加護がありますように。これを飲んでから行きなさい」
アンジェリカ:「ありがとうマスター!」
■■2.ユニコーンを探して
手には懐中電灯。背には大きなリュックサック。準備万端でアンジェリカは、一角獣の窟へと挑んでいた。ちなみに頭の上には、マスターに無理やりかぶせられたヘルメットが。
(カッコ悪いんだけどなー)
命には代えられないので、おとなしくかぶっておくことにした。でもできれば、この姿で人に会いたくはない。アンジェリカとてお年頃の女の子なのだから。
窟は最初土壁で始まっており、アンジェリカは分岐点に差し掛かるたびに、壁にスコップで印を彫っていた。新しい噂が広まりつつあることを考えれば、アンジェリカ以外にもこの窟を訪れている人がいるかもしれない。そうなると、石を置いたりしても他の冒険者に蹴られたりする可能性があるので危険だと思ったのだ。
しかしやがて、それでは済まなくなる。
アンジェリカ:「――きゃあっ」
短く悲鳴をあげたアンジェリカは、とっさに髪を振り払った。何かが落ちてきた気配がしたからだ。
アンジェリカ:「なにー?!」
しかし振り払っても、髪から落ちるものはない。その場から少し退いて、懐中電灯で上を照らした。
アンジェリカ:「あ……!」
思ったよりも高い天井は、既に土ではなくなっていた。落ちてきたのはとんがった石から垂れた水だ。
さらにこれから進むべき奥を、よく照らしてみる。すると先全体が、鍾乳洞のようになっていることがわかった。
(うわ〜、幻想的v)
だが喜んでばかりもいられなかった。何しろ対象が石では、土のようにそううまくは彫ることができない。
アンジェリカ:「……印、どうしようかなぁ……」
やってきた分岐点の前で、アンジェリカは困っていた。
その時。
???:「――お姉ちゃん、どこ行きたいの?」
アンジェリカ:「え?!」
突然アンジェリカの後ろで声がしたのだ。振り返ってみると、そこにはアンジェリカよりもずっと小さい子供――少年が立っていた。
アンジェリカ:「キミ……は?」
少年:「ロシだよ。お姉ちゃん、帰りたいならそっちじゃなくてこっち」
物怖じしない口調でハキハキと喋る少年は、来た道を指差した。
アンジェリカ:「あ、違うの。アンジェリカ、地下の湖を目指してるんだよ」
するとロシは、不思議そうに首を傾げた。
ロシ:「ユニコーンを探しに来たの? 1人で?」
アンジェリカ:「うん、そーだよ」
ロシ:「へぇ……珍しいね」
アンジェリカ:「そう?」
ロシ:「だって、イカツイ男が何人も連れ立って来たのは何回も見たけど、お姉ちゃんみたいな女の人が1人で来たの初めて見たよ」
その言葉に、アンジェリカは白山羊亭で聞いた会話を思い出した。
(そういえば……)
男1:「だとしたら一大事じゃねーかっ」
男2:「そうだな。もしかしたら狙うバカが出てくるかもしれねーしな」
あの言葉は、ユニコーンの”捕獲”に対しての言葉だったのだろう。
(だからイカツイ男の人ばっかりなのね)
それにマスターが言っていた。自然窟は危険なのだと。それを考えれば、アンジェリカのように好奇心だけでこんな場所に飛びこめる女性は少なくて当然だった。
アンジェリカ:「……だってアンジェリカ、ユニコーンさんに会ってみたかったんだもーん」
強すぎる好奇心が露出して、アンジェリカは恥ずかしそうに顔を赤らめた。するとロシは子供らしい笑い方をすると。
ロシ:「いいよ。僕が湖まで連れてってあげる。お姉ちゃんなら本当のこと言っても怒らなそうだし」
アンジェリカ:「え?」
ロシ:「ついてきて!」
訊き返したアンジェリカには答えず、ロシは走り出した。
アンジェリカ:「あっ、待って〜〜!」
滑って転ばないように気をつけながら、アンジェリカは懸命にロシのあとを追ったのだった。
■■3.真ん中
おそらくロシの案内がなければ、その湖には永遠にたどり着けなかっただろう。湖畔にぺたりと座り込んでいるアンジェリカは、そんなことを思っていた。
ロシ:「……大丈夫?」
アンジェリカ:「大丈夫じゃな〜いッ! 道入り組みすぎ走りすぎ疲れすぎ!」
ロシ:「あはは。そんだけ元気があれば大丈夫だね」
同じ距離を走ったはずのロシは、けろりとした顔で笑う。
ロシ:「立てる? 立った方が、湖がよく見えるよ。とってもキレイなんだ」
ロシが出してくれた小さな手に掴まって、アンジェリカは立ち上がった。それからゆっくりと、湖の方へ視線を滑らせる。
アンジェリカ:「わー……凄いわ。底が全部見えてる!」
それほど湖の水は透き通っていて、キレイだった。
アンジェリカ:「この中にユニコーンがいるの? あ、でもこんなに透き通ってたら、いたら見えちゃうよね。じゃあやっぱりいないのかなぁ……」
ロシ:「――嘘だよ」
アンジェリカ:「え?」
不意に発せられたロシの一言に、アンジェリカは振り返った。するとロシは、子供らしくない苦笑を見せていた。
アンジェリカ:「ロシ……?」
ロシ:「ユニコーンを見たって、噂流したの僕だから。でも僕、本当は見ていない。だから嘘だよ」
アンジェリカ:「どうして……?」
問いかけたものの、アンジェリカは既に答えを知っていた。
(子供、だもんね)
注目されたい、自分を見てほしい、そんな気持ちは誰でも持っている。ただ子供は、それに自制がきかないだけ。
ロシ:「だって誰も、僕の存在に気づかないからさ」
案の定ロシは、そう答えた。
アンジェリカ:「ロシ……」
アンジェリカはそれ以上何も言うことができない。
(皆に本当のことを話した方がいい)
そう思うけれど、そうしたらロシは……。
そんなアンジェリカの心を読むように、ロシは満面の笑顔で告げた。
ロシ:「本当は――これが”ホントのこと”だよ?」
アンジェリカ:「……どういう意味?」
ロシ:「だって本当に、ユニコーンはいるんだから。”真ん中”にね」
アンジェリカ:「真ん中? 湖の? ロシはそれを見たの?」
その問いには、ロシは答えなかった。ただ微笑を浮かべているだけ。
アンジェリカ:「ロシ」
ロシ:「アンジェリカ。僕の名前、どう書くかわかる?」
アンジェリカ:「!」
先ほどまでは「お姉ちゃん」としか呼ばなかったロシが、突然名を呼んだ。そしてその声は、それまでの陽気なものとは違っていた。
アンジェリカ:「どう……書くの?」
一瞬の無表情を隠して、ロシは笑う。これまででいちばん、子供らしい笑顔だった。
ロシ:「アール・オー・シー・アイ。”真ん中”のROCIだよ」
アンジェリカ:「!?」
不意に――アンジェリカの意識は遠くなっていった。
■終章
マスター:「――ちゃん、お嬢ちゃんっ!」
アンジェリカ:「ん……、……マスター?」
「はっ」と、アンジェリカは気がついた。目の前に白山羊亭・マスターの顔がある。
アンジェリカ:「マスター……よくこの湖まで来れたね」
まだボーっとしている頭で告げると、マスターは不思議そうな顔をして。
マスター:「何言ってんだ。ここは窟の入り口じゃないか」
アンジェリカ:「――えぇ?!」
がばっと飛び起きて辺りを見回した。確かにここはアンジェリカが勇んで入っていったはずの洞窟の入口だった。
マスター:「心配になって様子を見に来てみたらお嬢ちゃんが倒れてるもんだから、驚いたよ。一体どうしたんだい?」
アンジェリカ:「どうしたって……」
(そんなの、アンジェリカが訊きたいよ!)
アンジェリカはこの洞窟に入り、地下の湖へとたどり着いたはずだった。ロシの案内で……
(あっそうだ!)
アンジェリカ:「マスター! 近くにロシっていう子供がいなかった?」
マスター:「ロシ? 聞いたことないなぁ」
アンジェリカ:「そうじゃなくて、今っ」
マスター:「一緒に倒れてなかったかってことかい?」
アンジェリカ:「そう!」
マスター:「私が来た時は、君だけだったが……」
アンジェリカ:「そっか……」
一体どこへ行ってしまったんだろう。アンジェリカが湖で倒れたとすれば、アンジェリカをこの出口まで運んでくれたのはそのロシであるはずだった。あの小さな手で……。
マスター:「お嬢ちゃん、身体がすっかり冷えてしまっているよ。エルザードに戻って何か温かい飲み物をご馳走してあげよう」
残念そうな表情をしたアンジェリカを見て、マスターはそう言ってくれた。
アンジェリカ:「わ、ホントですか?」
マスター:「これは噂ではないからね」
アンジェリカ:「あはは」
(今度ロシに会えたら、ちゃんとお礼言おうっと)
そんなことを考えながら、アンジェリカはマスターとともに帰途へとついたのだった。
■終
■ライター通信
こんにちは、伊塚和水です。
発注ありがとうございました^^ そしてギリギリになってしまって申し訳ありません_(_^_)_
ユニコーンに会えるか会えないかはお任せ……ということで、実は会えていたけれどアンジェリカちゃんが気づいていないというシチュエーションにチャレンジしてみました(笑)。ロシの名前になんのひねりもなくてアレですが……少しでも気に入っていただけたら嬉しく思います。(もし、意味がわからなかったらタイトルを眺めて下さいませ/笑)
それでは、またお会いできることを願って……。
伊塚和水 拝
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