<PCクエストノベル(1人)>


埃の中で輝く 〜揺らぎの風〜

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■冒険者一覧■
□1125 / リース・エルーシア / 女 / 17 / 言霊師

■助力探検者■
□なし

■その他の登場人物■
□みるく / 羽ウサギ(ちいさな友人)
□レグ・サイモン / 鍵言葉の伝承者
□ネフシカ / アイテム屋「魔と謎」の店主
□トホリ/ルバスの近海漁師

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 明日は、幻なる魔法の姿を追い求めて、夜明けの海に向かうのだ。
 ユニコーン地方を司る36の聖獣。それは海上でさえも、力と伝説を継承している。来る者皆に、祝福と新たな冒険へと誘う風を与えてくれた。
 リースは胸を熱くした。
 ルバスの海に眠っているとされる魔法。手に入れた者はあるのに、場所や必要なアイテムすらまともに伝わっていない。その不明瞭な伝承のために、近年誰見つけようとはしなかった魔法の発見者になれるかもしれない。
 歴史上の人物で『揺らぎの風』を使いこなせたのは数名と聞く。そのひとりに名を連ね、風になって移動する日が現実のものになる可能性はどのくらいあるのだろう。
 ただの伝承でしかなかった事を、「本当に手に入れられるかもしれない」と思わせてくれたのは彼。鍵言葉の伝承者は今日もリースの傍で海岸線を歩いている。

 リース:「海はひろいけど、どこか怪しい場所って知ってる?」
 レグ :「そうだね……。漁師に聞いてみるのもいいかな。何せ、毎日海に出ているんだから」
 リース:「日の出が近づいたら探してみよう。ってこんな夜中に漁師は海岸にいる?」
 レグ :「僕が出会った漁師は明け方の潮がいいんだ――とか言ってたけど、実際に見たことはないよ」
 リース:「うーん、わかないなぁ……これから行ってみるか」

 まだ夜が深い。それでも網や餌の準備などで灯かりの点いている家もあるようだ。リースは漁師の船が停泊してある区域に足を伸ばした。
 夜 女の子が歩き回っているのは感心しない――と黒髪の幼馴染に呆れられそうだけど、冒険者としての心が我慢できるはずもない。それが例え、片思いしている人物からの苦言であっても。
 海岸で目と鼻の先の家から、糸だの針だの籠だのを持ち出しては整理している漁師達。4人目の男に話しかけた。

 トホリ:「ああん? 嬢ちゃんがこんな夜更けに何用だい?」
 リース:「ルバス海の水面が光るってことない? えっと、明け方に」
 トホリ:「明け方ねぇ……」
 レグ :「紋章が現われる時に光ると思うんです。大概の魔法陣は出現時に光を放つものなんです」
 トホリ:「そう言われてもなぁ。長年漁師をやってるが、明け方近くにそんな光をみたヤツなんか聞かねぇけどよ」

 さして興味がない様子で、トホリは網の準備に余念がない。細い網糸は絡みやすいらしく、それをていねいに開き美しく整った形に揃えている。網糸のひとつひとつには、赤と青い粒が多数貼り付いていた。大きさは小指の先ほど。
 リースは首を傾げた。
 こんなものがあったら、魚は驚いて逃げてしまうんじゃないだろうか?

 リース:「この白いツブツブには、どんな意味があるの?」
 トホリ:「これか? お嬢ちゃん、魚でもとるつもりかい。知らないだろうが、これはジュラードってぇ魚をとるための必需品さね」
 レグ :「これが……ですか?」
 トホリ:「餌じゃねぇぞ、ウネって名の木の実で、ジェラードは何故かこれに惹かれるんだ」
 リース:「どうして?」
 トホリ:「なんでも知りたがるヤツだなぁ……。まあ、いい。この魚の鱗はメスは青く光り、オスは赤く光るんだ。つまりだ、産卵時期の魚が女房やら仲間を探して網にかかるって寸法さね」
 リース:「今がその時期なの?」
 トホリ:「ああ、一年に2回しかない、子持ちジェラードの捕獲時期さ」

 リースは漁師の言葉を最初、世間話として耳を傾けていた。が、次第にこれは「ヒント」なのではないかと感じ始めた。遠くわずかに白んでいる水平線を見つめているレグを小突いた。

 「風渡る時、水面金輝き銀に沈む。憂いなき紋章の描かれし、青く赤く実りの果実」

 伝承されていた言葉の中に、青と赤色という文字列があったことを思い出した。それを彼に伝える。
 まずは魔法陣を見た人を探してみよう。必要なアイテムは今から手に入る予定だ。

 リース:「ねぇ、この実を譲ってくれない?」
 トホリ:「やっぱり魚をとるつもりなのか……素人が簡単にとれるもんじゃねぇが、実ならいくらでもやる。せいぜい頑張ることだ」
 レグ :「ありがとうございます」
 トホリ:「あまり手に入らねぇモンなんだぜ。へっ、お嬢ちゃんのかわいさに負けちまったなぁ」

 中年にさしかかろうとしている海の男が豪快に笑った。
 日焼けして黒い肌から白い歯が零れる。リースとレグは手にいっぱいの木の実をもらいながら、つられて満面の笑みを浮かべたのだった。

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 ネフシカ:「また来たのか……。今度は何をねだるつもりだ」
 リース :「やだな、そんな言い方しないでよね」
 レグ  :「魔法陣を見た漁師がいたんだ。明け方近くにボァッと光ってすぐに消えたらしいんだけど」
 リース :「現われた文様に意味があると思って、聞いたみたら……案の定ヒントが隠されていたの!!」
 ネフシカ:「ほぉ。なかなかやるなぁ、アンタも」
 リース:「へへへ」

 鼻の下をこすって、リースはネフシカの店内を物色し始めた。
 ネフシカが不思議そうに首を捻った。

 ネフシカ:「俺の店にはないって言っただろうが」
 リース :「知ってるよ。でも、それは『揺らぎの風』を得るためと言い伝えられた品物でしょ」
 ネフシカ:「ああ? それを探してるんじゃねぇのか?」
 レグ  :「魔法を得るためのものではあるんだ……けど」
 ネフシカ:「けど?」
 リース :「一般的には別の使い道があるモノってことなの」

 ガサガサと埃まみれの店内を上へ下へと探しまわっている。ネフシカの店は古くて様々な物を取り扱っているのだから、あるに違いない。それに船の模型を飾る趣味を持つ彼。手に入れていない確率は低いと思われるのだ。

 リース :「あーーーっ! あった!!」
 ネフシカ:「はぁ〜!? あったてか」
 レグ  :「確かにこれだよ。模様に魚があしらってある――これはジェラードだよ」

 リースとレグが広げたモノ。
 それは色の変色した漁師旗だった。叩くと埃が射し込んだ陽射しに舞って輝く。
 明日はルバス海。
 現われた紋章に旗を翻させるために――。


□END□

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 いよいよ、魔法を手に入れるためのアイテムを手にしました。
 ライターの杜野天音です。
 リースは『揺らぎの風』を手に入れたら、何をするつもりなのでしょうね。一番に行く場所を知りたいですvv
 それではありがとうございました!