<PCクエストノベル(2人)>
甘いお菓子にご用心?
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1348 / 螢惑の兇剣士・連十郎/ 狂剣士】
【1354 / 星祈師・叶 / 陰陽師】
【その他登場人物】
【野良犬/通りすがりの野良犬】
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●序章とかいうもの。
説明しよう!
聖獣界ソーンとは、36の聖獣が守護する世界である!
さらにこの世界は、ソーンと触れる必要があると聖獣が認めた他の世界の住人や、聖獣に招かれた存在である者達が訪れる事が出来る世界でもあるのである!
要するにぶっちゃけると聖獣に招かれた他の世界の者や物がしっちゃかめっちゃかに流れ込む摩訶不思議な世界である!
そもそも、この世界の成り立ちは‥‥
連十郎:「‥‥長くなるからやめろ」
失礼、話を始めよう。
●叶、攫われる。
叶:「遅いな、連十郎さん‥‥」
ある晴れた日の朝。
待ち合わせの基本、天使の広場の噴水の前で待ち合わせをする可愛らしい少年がいた。
その名は、星祈師・叶。ソーンを訪れた冒険者の一人である。
その彼の待ち人である、螢惑の兇剣士・連十郎は待ち合わせの時刻過ぎても全く来る気配はなく、叶はかなりの退屈を持て余していた。
一方でそんな彼を影から熱く見つめる女がいた。厳密に言うと人間ではなく、女性型のモンスターのネクロバンパイアであった。女性型バンパイアの一種で、一般的バンパイア達の様な能力が無い変わりに日中でも平気で外を歩ける、と言ったちょっと変わったバンパイアである。
実は彼女、エレガンスかつゴージャスで気が遠くなるほどクソ長い名前があるのだが、話の都合上分かりやすく『バンパイ子』と名を付けて話を進めて行こう。
バンパイ子:「ねぇ、ボウヤ? お姉さんと少しお話ししない?」
バンパイ子は叶にさりげなく近づき、髪をかき上げて艶っぽいしなを作る。見る人が見れば「もう! もう! おぢさん辛抱たまらんよっ!」と叫ばれそうなセクスィーショットだ。
叶:「いいですけど‥‥お姉さん、そんなにくねくねして‥‥腰悪いんですか?」
叶の色気のないちょっと失礼な言葉にバンパイ子は瞬間硬直する。
これが好みの子じゃなかったら『オドレは女の魅力もわからんのかゴルァ』とか言って問答無用でブチ殴る所なのだが、そこは我慢。バンパイ子はとっさに作戦を切り替える。
バンパイ子:「そ、そうなの‥‥持病の腰痛が急に酷くなって‥‥良ければ家まで送ってもらえないかしら?」
叶:「えー? ‥‥でも、僕は待ち合わせが‥‥」
バンパイ子:「あら? 勿論タダとは言わないわよ?」
バンパイ子は豊かな胸の谷間から小さな袋を取り出し、叶の手に乗せる。
叶:「なんですか? これ?」
バンパイ子:「うふふ‥‥イ・イ・モ・ノ☆ 開けてご覧なさい?」
袋から漏れる砂糖の甘い匂いに興味引かれて開けると、クルミの入ったココアクッキーが入っていた。
ココアの香りが叶の鼻と食欲を否応なくくすぐり――思わず、手に取ってまずは一口。
口の中に見かけ以上に甘くて優しい味が口の中に広がる。
そしてさらに二口目を食べようとした瞬間、後ろから来た通行人に叶の小さな身体が当たる。
瞬間、衝撃でクッキーは口から一気に地面へぽとんと落ちた。
叶:「‥‥あ」
叶は落ちたクッキーをしばし呆然と見つめた後、恐ろしく切なげな瞳でバンパイ子を見上げる。
まるで「雨に濡れた子犬の様な」と言う響きがまさに相応しい――そんな瞳だ。
叶:「あのー‥‥」
バンパイ子:「あら、私を家まで送ってくれればお礼としていくらでも作ってあげるわよ?」
叶:「送ります。送らせて下さい」
脳裏に待ち合わせをしている相方の顔がよぎる暇もなく叶は即答した。
バンパイ子:「じゃあ決まりね! 早く私を送ってってちょうだい?」
叶:「お、おねーさん腰悪いんじゃないんですかっ?! そんなに引っ張らないでっ!」
その時、連十郎は――。
連十郎:「だぁ〜っ! 遅刻だ遅刻っ!」
赤いリボンを結わえたプレゼントの包みを抱えた連十郎がエルザード城下を疾走する。
中には叶のために買った、見た瞬間に呪われそうな不気味な外見の人形が入っている。
――もっとも、これを渡して叶が喜ぶかどうかはかなり不明だが。
しかし、数分後、息を切らして広場に着いた連十郎には叶の姿は見つける事が出来なかった。
連十郎:「ったく、何処いるんだよ‥‥って‥‥あれ? なんでここに落ちてるんだよ」
連十郎がため息をついて足下に目を落とすと、食べかけクッキーと見慣れた桜色の綺麗な蜻蛉玉が付いてる紐飾りが落ちていた。――自分が叶に贈った物だからよく覚えている。
連十郎はちょっと考える。
――辺りに叶の姿は無い。しかし飾り紐は落ちている。しかもクッキー付き。
――置きメッセージだとしてもこんな所に置かない。
――落としたとしても蜻蛉玉の感触や重さで落ちたらすぐ解るはずだ。
――広場は混雑もしてないし、落としたらすぐ見つけて拾える。
それらを加味して連十郎の中の第六感(独断と偏見とか野生のカンとかとも言う)が結論を叩き出した。
連十郎:「‥‥ひょっとして誘拐?」
●救出大作戦!
広場の周りで聞き込んでみると、叶はえらいセクシーな女に付いていった、と言う話が出てきた。だが、何処に行ったのかまでは解らなかった。
しかし、叶に色仕掛けは通用しそうにないからおそらく食べ物で釣っていたのであろう、と、連十郎的に納得した。(大正解)
連十郎:「うーむ、やはりあの手で行くか」
連十郎は叶の飾り紐と、近くに落ちていたチョコチップクッキー(おそらく叶の食べかけ)を手近にいた野良犬の鼻先に差し出した。
連十郎:「なぁ、この匂い嗅いで、行方を調べてくれないか」
野良犬:「‥‥ばう(そっぽを向く)」
連十郎:「‥‥こんの犬畜生め! ラセツ様なめんじゃねぇぞ!」
野良犬:「がるるるる‥‥」
そして数分後、己の拳と牙で語り合って分かり合った男と雄は早速友情を結んでいた。
――そこ、早すぎるとか言ってはいけない。
再び連十郎は飾り紐から叶の匂いを嗅いで貰う。
野良犬(和解後):「ばうばう!(解った模様)」
連十郎:「ふっ、俺の灰色の頭脳に判らない物は無いぜ! 行け、ワン公!」
野良犬:「ばう!」
頭を使っているか自体怪しいのはさておき、連十郎は野良犬に叶の匂いを辿らせ、叶の元に急ぐのであった。
一方の叶は――。
叶:「うわーんっ! 助けて下さぁーい!」
バンパイ子:「お礼以上のお菓子作ってあげたんだから当たり前でしょーが! ギブアンドテイクよ!」
叶:「でも血を吸われてしおしおのぷーはなりたくないですぅー!」
両手にマフィンを持ち、口の周りにたっぷりのクリームやジャムを付けた叶は必死で屋敷の中を逃げ回る。
バンパイ子:「‥‥わかんない子には血を吸う前にお仕置きが必要!」
叶:「いやー! たすけてぇー!」
あれよあれよと部屋の隅に追いつめられた叶は、バンパイ子にむんずと捕まれてお尻をペンペンされる。
この年でされれば恥ずかしさはさらに倍。そして意外な怪力に痛さも倍だ。
哀れ、叶はこのまま若い何かを散らしてしまうのか――?
しかし、そこに救いの神は現れた。
饕餮で扉を勢いよくブッた切り、轟音と共に連十郎がなだれ込んできたのだ。
連十郎:「待てぃ、そこなオバハン! 叶をいぢめるのは俺の特権だっ!」
連十郎は登場と共にバックにベタフラッシュを背負いポーズを決め、叫ぶ。
叶:「‥‥はぁ? いきなりなんですか‥‥?」
突然の乱入者(連十郎)に思わず唖然とする叶とバンパイ子。
その隙に駆け寄った野良犬がバンパイ子の形の良いお尻に噛みついた。
バンバイ子「いったぁ〜いっ! 何すんのよ!」
突然の痛さに思わず叶を抱えていた手を離すバンパイ子。
そして、追い打ちとばかりに背後から連十郎の饕餮が唸る。
連十郎:「喰らいやがれぇ! 最終奥義一撃必殺ホームラぁン!」
バンパイ子:「いやぁぁぁぁぁぁ〜っ!! ヤな感じぃぃぃぃぃっ〜!!!」
連十郎の渾身の一撃を受けたその身体は、壁に見事な人型の穴を作るだけに留まらず、夕焼けの向こうへ吹き飛ぶ。
そして、バンパイ子は夕方の一番星になった――。
●アップルパイと星空。
バンパイ子の屋敷を出た時にはすでに日も山の奥に沈み、赤い残光が谷間に吸い込まれてゆく所であった。
そして藍の空にはうっすらと星が浮かび、世界の全てに夜を知らせる。
連十郎:「やれやれ、とんだ一日だったぜ‥‥ったく、ほいほい知らん奴に付いていっちゃダメだろ」
叶:「はぁ〜い。でも僕をいぢめるのは連十郎さんの特権でもないよーな‥‥」
連十郎:「何か言ったか?」
叶:「‥‥何も」
ほんの少し気まずい雰囲気の中、突如連十郎の腹の虫が鳴いた。
連十郎:「‥‥あー、そういや朝から何も喰ってなかったっけ‥‥」
叶:「それなら良いものがありますよ、ほら」
叶はまだ暖かさの残るアッパルパイを連十郎と野良犬に一切れずつ差し出す。
どうやら屋敷を去る前に、オーブンの中で丁度良い感じに焼き上がっていたアップルパイをお土産に包んで持って来たらしい。他にもマフィンやクッキー各種も持ってきたようだ。
転んでもタダでは起きないよい子(?)、と言った所であろうか。
連十郎:「お前なぁ‥‥変な物が入ってるかも知れないんだぞ?」
叶:「僕食べたけど大丈夫でしたよ」
野良犬:「ばうわう☆(アップルパイにご満悦)」
叶「ほら、犬さんだって何ともなって無いじゃないですか? ね?」
連十郎:「お前なぁ‥‥まぁいいか」
結局アップルパイ腹の中に納める連十郎。
そして、再び歩き出す。
連十郎:「こうやってお前と星空見ながら歩いてると、昔を思い出すな」
叶:「そうなんですか?」
連十郎:「‥‥ああ、まぁな‥‥そういや、飾り紐落としてたぞ。もう落とすんじゃないぞ」
叶:「はい‥‥」
連十郎は昔を懐かしむ目で星を見上げる。
いつか叶が俺を思い出してくれれば良いんだがな、と、心で呟いて。
柔らかな星光の下、二人と一匹はゆっくりとエルザードの町への帰途につくのであった。
連十郎:「ところで、贈るはずだった人形何処に行ったんだろ?」
――それは――多分贈っても嫌われるだけだから思い出さない方が良いと思う。
●ライター通信
はじめまして、沢邑ぽん助と申します。
この度は発注頂きありがとうございました。(平伏)
初めての受注でまさかおサムライさんに逢えるとは思いませんでした。楽しかったです。
ドタバタコメディ系、とのご注文だったので頑張ってみたのですが‥‥いかがでしょうか?
それでは、またいつかどこかで。
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