<PCクエストノベル(2人)>


野郎虫
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【冒険者一覧】
【 1117 / 多寡道(たかみち) / 鬼道士 】
【 1528 / 刀伯・塵(とうはく・じん) / 剣匠 】
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「人の地に 赤く咲くのは 味の花」
 今回のエピグラフ出典は、味○様inアニメ版ミ○ター味っ子、っときたもんだ。

●壱の事。楽隠居したい、と刀伯・塵はつぶやいた。
多寡道:「今すぐか?」
塵:「おぉ、できることならいますぐ」
多寡道:「すりゃあいいじゃねぇか」
塵:「それじゃあ遠慮なく。‥‥できるかああぁっ」

 キミは知っているかっ?!
 ノリツッコミと呼ばれる極意を。
 ツッコミとボケ、それらは相反する概念のように思われがちだが、どうして、ふたつでひとつの心とろかす協調和音。たとえるならばお月様とお日様みたいな、薔薇色の頬の少年と桜桃色の唇の少女みたいな。あなたとわたしのふたり、そろったときはひとりずつよりもっと素敵な音楽かなでられるはず。ノリツッコミ、それはツッコミにボケをおりまぜた進化形態の一種にて。
 ――いや、まぁできねぇ洒落っ気とかきどって、正直わるかった(しかも、びみょうでもなく世界観とか無視してた)。ボケは所詮ボケだし、ツッコミはやっぱりツッコミだ。

塵:「おめぇのいう楽隠居っつうのは、この世を離れてひとやすみ、だろうが」

 現状を端的に説明すると、ふたり。風を切って、狂奔疾走。理由は、とびきり生命の危機だから。

多寡道:「ちがうんかね?」
塵:「ぜんっぜん、ちがう。俺の理想の楽隠居っつうのはなぁ、日当たりのいい離れでな。南向きの縁側でほっこり昆布茶でも飲んで、することもなしにぼーっとしてると、そこへかわいい孫(たぶん、女の子。三つ編みおさげ)が訪ねてきてだな。
 孫:『ねー、おじいちゃん、肩たたいてあげよっか?』
 俺:『そんなこといって、お小遣いが欲しいだけだろ?』
 孫:『えへへー。ばれた? ねーいいでしょ?』
 俺:『しかたがないな。その代わり、しっかりやってもらうからな』」
 孫:『うんっ。がんばるよっ』
って、かわいい握り拳でタントン・タントンとやってくれてだな、裏の畑で文太がわふっと合いの手入れて(温泉ペンギンだけど←それは啼かない)」

 とりあえず、とっとと反っておいで。おぢちゃん、飴あげるから。

多寡道:「でねぇと、死ぬぞ」

 たぶん、な。

 走り続ける彼ら、森をさまよっていた。聖獣界ソーンの中心部である聖都エルザードより南西の方角には鬱蒼とおいしげる森があり、その深奥にはエルフ族の集落があるといわれている。エルフ族――ユニコーンと心通わすことができるとの言い伝えをもつ神秘の一族だ。しかし彼らに接するには、数数の危険と困難をのりこえてゆかねばならない。だからこそ、彼らの存在は創作と推測と伝聞型で語られている。
 ただし、危険と困難、このふたつにかぎっては現在進行形であるわけだが。
 多寡道と塵は、何故、こんな場所にいるのか? 彼らはどんなめに遭っているのか?((`・ω・´)(´・ω・`) こんな『目』。嘘、石投げないで) 彼らはなにをめざしているのか?
 疑問は尽きねど、そのまえに、恒例のやつ(そうでもない)いってみよっ。

 素数のうちもっとも小さなふたつ、2と3をかけあわせる、すなわち6、その6と6を乗じて得られる数字を36。36の聖獣に守護されし国、聖獣界ソーン、なかでもユニコーンの手厚い加護をえた土地の中心部・特異点は、聖都エルザードとなった。
 去る日々において、エルザードはアルファ通りのある料理屋、ひとつの卓をかこんでおぢさんふたりが、すまん多寡道は若かったので、おぢさんとおにいさんってことで、顔突き合わせて夕食をとっていた。これがたったの1日前。
 その時点に、草紙をすこし巻きもどそう。おそらくそのほうがわかりやすいからだ。

●弐の事。もう飽きた、と多寡道はなげく。
塵:「そっかね?」

 塵は桐の皿に盛られたパスタを樫のフォークで巻き取りながら、塵は気のないふうに応える。蕎麦や饂飩とはちがったおもむきの麺を、これまた異なる調味料や香草で味付けする。この種の食事にもそろそろなれてきた。
 エルザードはすべてのものの異国にして異夢と異人のふきだまり。その気になれば、中つ国でのそれによくにた食事を出す店も難なく発見でき、おまけに平均して良心的な値段ときている。だから塵としては、こと胃袋方面の問題に関しては、あまり心配していなかった。しかし、多寡道はそうもいかないらしい。

多寡道:「まずかぁねんだけどよ。なんかこう、ものたりねぇ」

 苛苛したおももちで、塵とおなじ品を、彼にしてはのろい速さで食す。じつは意外に料理巧者だったりする多寡道、どうも食物とは別のなにかが、腹の内にたまりはじめているようだ。やがて多寡道は、ぞんざいなあつかいでフォークを皿の上に放り出す。

多寡道:「よっしゃあ。塵の旦那、俺は決めたぜっ」
塵:「何を」
多寡道:「自分の食事は自分でつくるっ。まずは食材の調達だな」
塵:「ひとりで行ってこい」

 即答だった。

塵:「俺はここでおまえの無事を祈りながら、中つ国に戻る方法を探す。だから、ひ・と・り・で行ってこい。で、そっちに帰還の手がかりがあったときだけ、連絡しろ」

 ちぃぃっ、とわざとらしげな舌打ちを一回、だが多寡道、なにかを思いついた。塵に背中をむけてしゃがみこみ、『たっきーの荷物袋。勝手にさわったら、まほろ様にかわっておしおきよ♪』(塵:「おい」多寡道:「御利益ありそうで、いいだろ?」塵:「つか、誰がたっきーだ」)をあさる。

多寡道:「そんなら、ひとつ頼まれてくれねぇかい?」
塵:「なんだ? 借金と『娘さんのお父さんを僕にください』(←ものすごくまちがってるんだが、そうまちがっていないかもしれない)以外なら、聞かんこともないぞ」
多寡道:「この縄をおめぇさんの腹にくくりつけてくれねぇか?」
塵:「は?」

 いったいいつのまにそんなものを持ち歩いていたのか。多寡道が取り出した細めの麻縄は、かるく六尺半は超えている。塵はいぶかしみながらも、多寡道のいうがままにしたがう。

塵:「こうか?」
多寡道:「あぁ、そうじゃねぇ。もっと端のほうだ。それでいてしっかりと頑丈に、まったりとしてこくがある‥‥できたか?」
塵:「今度はどうだ?」

 多寡道、案配をたしかめる。縛った逆の側のはじをにぎり、すこしひっぱり、ほどけぬことを確認する。

多寡道:「じゅうぶんだ。さて」

 多寡道は大仰にうなずき、きり、と店の出入り口を見据え、縄のはじはあいもかわらず未来のごとく多寡道の手の中に、

多寡道:「いざ征かん、新たなる冒険へ!」

 疾駆する。
 店を出る(多寡道:「支払いは帰ってからだっ」)、アルマ通りの中心路、人も馬も鶏も、撥ねる跳ばす轢く倒す勢い。
 と、どうなるか?
 ソーンは不思議の世界だから、不思議なことがおこるんです〜。塵さんはふわふわ蝶のように空を飛びました〜♪ んなわけない。顛末は、誰もが予想したとおり。地球世界の結婚式を知ってるかい? ラストに、新郎と新婦が式場から退去するためのオープンカーが、空き缶をいっぱいひっさげてガラガラと騒音をたてる儀式がある。あれ、悪魔は金属のたてる音を嫌うからって理屈らしいんだけど、ちょうどあんなかんじになった。
 多寡道が車で、塵が空き缶。
 がらがら、ごごごご、ずっずっ、アルマ通りを土埃が舞い踊る。

塵:「でででででっ。腹がこすれていてぇっ」
多寡道:「あとで酒と酒の肴おごってやるから、がまんしろ」
塵:「んなもん、いらんわ。放せ、放さんかぁっ」
多寡道:「いいや。放さん。今ここで放したら、おめぇ逃げるだろ?」

 こうゆうことやってるから、逃げられるんじゃないかなー。と、神がなげいたか、仏がつぶやいたか。
 そして、そのままエルザードの境を越える。土煙ほそくたなびく青い空(三十一文字)

●参の事。号泣は響くよ、森の中。
 なんとか解放された塵。
 しかし、もう逃亡をこころみようとはしなかった。回転舞台はすでに森の奥のまた奥、引き返そうにもどちらがどちらやら判然としない。ここはもう、自信満々余裕綽々唯我独尊な多寡道のあしどりを信用するしかなかった。

塵:「よくこんなとこまで、ひっぱってこれたもんだな」
多寡道:「(食材への)愛ゆえに」

 ふたりが歩く。さくさく、と下生えの草が小気味よく響く。

塵:「目的地は決めてあんのか?」
多寡道:「エルフの村だ」
塵:「ほぅ、ユニコーンと語らう一族か?」
多寡道:「おう。よく知ってんな? あの村にはなにかの食材がある。頭のここんとこ、雷みてぇにびびっときたんだ。まちがいねぇぜ」
塵:「‥‥おい、まさかユニコーンを食うつもりじゃないだろうな?」
多寡道:「はっはっは。なんだろなー?」

 もしかすると、本当にユニコーンだろうか。だったらまだマシかもしれない、と塵は思う。比較対象は、葱とか大根とかの鍋系具材だ。鍋はいいね、たくさんでつつけば身も心も芯からあたたまるだろう、鍋にするなら。けれども。中つ国、一部地方の流行を知るものにとっては、それは災禍・厄難以外のなにものでもないのだ。詳細は、ま、秘めておくほうが各自の幸いにちがいない。
 いや、よく考えると、ユニコーンだってどうかという気もする。ユニコーンは頭に真鍮色の尖端を一本もつ白馬ときいた。ということは、馬だ、桜肉だ、馬刺しだ。食えないことはないだろう。だが、エルフの一族がユニコーンを信奉しているような事態は、じゅうぶんに考えうる。

多寡道:「角くらいなら、俺にもあるぞ? は、もしかして俺様、エルフの村でチョーもて男くん?」
塵:「相手がおんなとはかぎらんだろ」
多寡道:「俺は禁欲的な(食材との)愛に生きる」

 そのことばと同時に、迷いなくすすんでいた多寡道の脚が止まる。うしろからついていった塵も、自然と立ち止まる恰好になった。

多寡道:「‥‥迷った」
塵:「なんだぁ?! おまえ、道を知ってんじゃなかったのか?!」
多寡道:「地図も磁石もねぇ異世界で分かるわけねぇだろうが。まぁおちつけ。今、訊いてみるから」
塵:「訊く?」

 中つ国、サムライがおさめるいくつもの奇跡のうち、自然の友、という術がある。動物との会話を可能にする能力である、塵は多寡道がそれをつかってキツネかウサギにでも道を尋ねるのだろう、と考えた。それは半分くらいはあたっていた、前半だけは。後半の対象が問題なのである。
 多寡道が樹木のあいまに消えて、数刻。塵がそろそろ心配をはじめよう、というころに、ようやっと多寡道はもどってきた。ひとりではない。人としてかなり大きい部類に属する塵や多寡道すらも軽く凌駕する、どころか、殲鬼の王に匹敵するのではないかというくらいの巨大な生き物をひきつれて。森が揺れる、震える。地響きが直接脳蓋をたたく、かのように。

多寡道:「こいつが道を教えてもいいけど、代わりに、俺たちのこと喰いたいって」
塵:「相手をえらばんかーーーーっ」

 それ、分類名を恐竜という。しかも、肉食。ヘレラサウルス・イスキガラステンシスという長ったらしい正式名称があるのだが、ここは略してへーちゃんでゆく。
 へーちゃんの流儀は、謝礼は先にもらっておけ、だったらしい。肉食動物特有の細長く水平につきだしたあぎとを開き、多寡道と塵の間近に消化液をしたたらせる。

塵:「ど、どうにかしろ。おい」
多寡道:「ほいよ。ここは鬼道士らしく、鬼攻弾でいくぜっ」

 腰だめした多寡道が力を光に変えて放つ、と。
 ペシリッ。紙をまるめるような軽めの、韻。

多寡道:「はっはっは。鬼道士の渾身の一撃が、ペシッ、っていなされちゃったよ。お兄さん、こんなの初めてだ。こりゃ参ったね。‥‥‥‥はー」
塵:「地面にのの字を書いていじけてる場合かっ。逃げるぞ!」

 で、ようやく最初の一景にもどるわけだ。
 塵と多寡道は逃げた。右へ左へまた右へ、逃げまくった。負けじと、へーちゃんもうしろから追っかけてくる。なかなかはやい。サムライの脚力をもってしても、へーちゃんを突き放すことはかなわなかった。
 やがて、彼らがたどりついた場所は、いや、正確には追いつめられた場所からは、水の豊かな匂いがただよってくる。
 滝だ。
 囂々とうなる大河、それはすぐ遠大なる瀑布につながっていた。遠くからみたわけではないのであくまでも想像の範囲だろうが、おそらく高さは四半里はあろう。いくら『殺しても殺しきれねぇ(あれ?)』サムライといえど、ここから落ちれば命の保証はない。かといって、うしろには食い気バリバリの迫るへーちゃん(恐竜)
 絵に描いたような絶体絶命。

塵:「しゃあねぇ、こうなったら二人がかりでやれば、倒すのは無理でも気絶させるくらいは。‥‥多寡道?」
多寡道:「旦那。さっきはひきずったりして、わるかったな?」

 いきなり神妙な多寡道に、塵はどうしていいかわからない。声がすこしわずった。

塵:「お、おい」
多寡道:「俺がこんなとこまで連れてこなきゃ、こんなことにはならなかったんだ」
塵:「‥‥多寡道‥‥おまえ‥‥」
多寡道:「あぁ。俺ぁ覚悟きめたぜ」

 多寡道、決志をたたえた瞳はうるんでいるようにみえる、彼の雄々しき態度に塵も不覚ながらもくらりと涙ぐみ、その隙をねらわれた。
 多寡道に。
 気がつくと、塵は多寡道のまえにいた。突き出されたのだ、とはすぐに分かった。つか、分からいでか。

多寡道:「俺のために死んでくれ」

 世界の中心で「やっぱりか」と叫んだケモノ。

塵:「死ねるかーーーーーーっ」
多寡道:「ここはっ若者にっ後進をゆずるのがっ当然だろうがっ」
塵:「俺だって孫の顔をみるまでは、死んでも死にきれねぇ!」

 仲間割れのかつての盟友、さて、もうここまで来ればオチは見え見えであろう。もみあうふたりは、いっしょに脚を滑らした。上昇する風景は、自分たちの降下の証。ひゅるん。濡れた感覚が、全身にひろがる。
 ふたりは落ちた。滝壺へ。

 早瀬の響きが、やけにはげしい。

●肆の事。オチ。オチてくれ。
 冷たく、同時に、温かい、流動体、すこしとろみのある、と思ったらこんどはさらりとして、それもすぐになくなった、ひらひらとまぶたをさす針、光、それとも、ちらちら、か、いや、こういうのは『ちくちく』というべきなんだろうか。

?:「おーい、起きろー」

 塵は覚醒する。遠い空をいっきょに手許へ引き寄せる、そうゆう感覚。

塵:「‥‥あ?」
多寡道:「おはようさん。なんとか助かったみたいだぜ。俺たち。おまけに、目的まで達成できたとくらぁ」
塵:「‥‥ここはエルフの村なのか?」
多寡道:「そうゆうこと」

 ゆっくりと起き上がれば、視界がひろがる。ここは滝の下の河のほとり。どうやら自分たちを遠巻きにして、何人かの女性がつどっているようだ。警戒されたかと思いきや、彼女たちのたおやかな花顔からはほのかな笑みらしきものが確認できる。塵もおもわずやにさがる。多寡道の顔があかるいのも、きっとそれが理由なのだろう。と思いきや、そうでもないらしい。

多寡道:「言ったろ、目的を達成できたって」

 つかつかとしっかりした歩調で、どこかへ歩いてゆく。そう遠くない場所に大きい、とひとことではいいあらわせないくらいに大きな布が、小山のごときもりあがりをみせていた。

多寡道:「ほれ、見ろ。食材だぁ!」

 ワン・ツー・スリーで布をとりさる多寡道。そこからあらわれたのは、なんと芯まで冷たくなったへーちゃんだった。享年5歳(推定)、じつはまだまだ小僧っこのへーちゃんであった。

多寡道:「こいつ、この集落もときどきおそってたみたいだぜ。だから、俺たち、村の恩人なんだよ」

 終わりよければすべてよし。そう言いたいらしい、多寡道。塵はいっしゅん、生きてたのだからそれもいいか、とうなずきかけ、はた、と気付く。どうして多寡道はこんなに元気なのだろう。滝から落ちた、流された、溺れ死にかけた、条件はおそらくいっしょだったはずなのに。自分はまだ頭がぼーっと、違う、ガンガンする。こうやって座り込むのがせいいっぱいで、当分はまともに歩き出せそうにない。

 って、ガンガン?

 多寡道が塵から目をそらし、ふっと哀しい吐息をつく。

多寡道:「いや、ね。なんか、こー、気がついたら激流じゃねえか。したら、俺たち追いかけてきたらしく、あのでっかいケモノみたいなんも流れてくるじゃねえか。応戦しようにも、水中戦はちょっと限度があるし。ここは武神力にたよらず、身ひとつでなんとかしようとしたわけよ、頭突きとか。でも、ラセツの角ってけっこう繊細だし。痛めつけたくないし。そしたら目の前に、塵の旦那のいかにも頑丈そうな、切っても貼っても問題なさそうな頭が流れてきたじゃないか。あるものはつかわねぇと、もったいないだろ? そう思ったとたん、俺のてのひらは勝手に、塵の頭をつかんで、ガンガンと相手に打ち付けて」
塵:「また、おまえかぁぁあああ」

 もう本日何度目かも定かではない絶叫を、塵は身全部を管にして咆哮する。それは肉食の獣の遠吠えに似ている。守護聖獣ホワイトタイガーの天佑が今ここに来臨したのだろうか、だとしたらはげしく役に立たない守護聖獣である。とっととでてこんかい。

多寡道:「悪かったと思ってるって。ほれ、約束どおり、酒と肴もってきたからこれで勘弁してくれ」

 ハエ叩き連打の気力もなくした塵は、多寡道のさしだす小皿と銚子をおとなしく受け取る。反撃は回復してからでも、おそくない。それよりまずは体力をとりもどすことだ。多寡道は塵の気絶しているあいまに、箸までつくっていた。
 中つ国ではあたりまえのようにつかっていたなつかしい食器に、塵の調子がいくぶんもどる。いただきます、と、口にはこびかけ、でもなんだか本能がすぐには喰うな、と警告するから。
 塵は多寡道を呼び寄せる。なぁ、この肴、いったいなんなんだ?
 多寡道は親指をたて、ほがらかに答えた。

多寡道:「もっちろん! あの巨大ケモノだぜ!」

 なぜ、そう、いつでも無邪気な自信家さんなのだ。多寡道さん。

多寡道:「なに、気にいらね? そうか、悪かったな。調理したの、けっこうまえだもんな。悪くなってるかもしれねぇし。ちょっと待て、今、新しいの喰わせてやる!」

 多寡道はまたずかずかとへーちゃんのほうに近寄る。塵もおもわずそちらを見る。強大な敵だったなぁ、と少々感慨深く、その閉じた瞳にわずかながらでも憐憫をささげようと思い。
 けど挫折。理由は単純、瞳は閉じていなかった。
 だけでなく、ギロリ、呪詛の光が表面で輝いている。これはあきらかに、骸からはみられないもの。――塵は、知って、しまった。

「まだ生きてるじゃねえかあ!」
多寡道:「おう。殺しちまわないように捌くのは、けっこう苦労したぜ。精がつくぜ、巨大ケモノの活け作り!」

 それはつくかもしれない。なんせあんな巨大な体であんなにすばやく動いたへーちゃんなのだから。多寡道に料理されてなお、塵をにらむことのできるへーちゃんなのだから。
 多寡道はうれしそうに、へーちゃんを切り刻む。多寡道の腕はたしかで、それでもまだ、へーちゃんの瞳に死がやどることはない。代わりに、塵を見る。ひたすらに、見つめる。呪い殺さんばかりの眼力。さすがの塵の背にも冷や汗がつたわんばかり。だが、頭痛は治らず、塵はまともに立ち上がることもできず、多寡道が「完成〜♪」と皿をはこぶのも止めることができず。

 そして、塵は。は?

塵:「イヤだ。俺はそんなんぜっったいに喰わねぇええ!」

 たぶん、無理。

 ところで、ふたり、滝の下からどうやってエルザードに帰るのでしょう?

※ライターより
 納品が遅くなってしまい、まことに申し訳ございません。おひさしぶりになります。紺です、一詠です。なんというか、プレイングを解体しまくりました。
 きれいな体での帰還をご所望のようでしたので、とりあえず水の中に突き落としてみました。うまくいけば、往きより綺麗な身体で帰れるはずです。‥‥いや、上手くいったのかどうかは、とってもこざっぱり不明ですが。<こら
 ところで‥‥多寡道さんはほんとうに、こうゆう性格だったのでしょうか?(爆)

P.S
 肉食の恐竜は、たぶん、食用にはむきません(って)