<PCクエストノベル(1人)>
流れる雲のように 〜揺らぎの風〜
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■冒険者一覧■
□1125 / リース・エルーシア / 女 / 17 / 言霊師
■助力探検者■
□なし
■その他の登場人物■
□みるく / 羽ウサギ(ちいさな友人)
□レグ・サイモン / 鍵言葉の伝承者
□ネフシカ / アイテム屋「魔と謎」の店主
□トホリ/ルバス近海の漁師
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まだ、霧深い早朝。
船は沖を目指している。白波を蹴立て帆は風をはらみ、水面を滑るように白い船体が進む。
36の聖獣が司るユニコーン地方。その中でも豊かな漁場として知られるルバス海は、スレイプニール(神馬)の蹄が守る雄々しき潮の黒海だ。
海とも空とも区別のつかない真白い視界の先、わずかに赤く染まっている。太陽がもうすぐ昇るのだ。
手に漁師旗を持ち、少女リースはこれから始まる儀式に胸を高鳴らせていた。共にいるのは、レグ・サイモンと漁師のトホリ氏。網の用意をしていたところを急遽お願いして同船してもらっていた。
リース:「トホリさん、どの辺りに紋章が現われるの?」
トホリ:「ん? ああ、この先に潮が渦巻いてる場所があるんだが、
そこにボォっと光ってるって話さ」
レグ :「あ!! あれじゃないですか!?」
リース:「どっどこ!!」
乗り出したリースの体を慌てて二人の男が支えた。落ちんばかりに遠見したリースの目に、月の光を思わせる淡い輝きが映った。
近づくけば近づくほどに鮮明になっていく光。そして、間近で船を止めるとそれははっきりとした文様を描いていた。潮の作る渦が綺麗に螺旋の流れを形づくっている。
リースとレグは目を見合わせた。横でふわふわと遊んでいたみるくを抱き寄せて、瞼を閉じてそっと開いた。
リース:「あれ……だよね?」
レグ :「多分そうだよ。……リースは魔法を手に入れたらどこに
行くつもりなんだい?」
リース:「あたし? そうだな……。色んな場所に行きたい!!
あたしの知らない場所ならどこへでも」
レグ :「そうか。君の夢が叶う時がきたんだね。手伝うことが出来て
僕は嬉しいよ」
どこ寂しそうに笑ったレグ。リースは手にした旗を握り締めて不安がよぎった。レグは最初からリースを心よく手伝ってくれていた。たが、それは本当に自分のため――だったんだろうか?
もしかしたら、彼自身「揺らぎの風」を手に入れたかったのではないだろうか?
リースの胸をかすめていたのは、魔法を手にした途端、彼がどこかへ行ってしまうかもしれない不安だった。
リース:「そんなことないよ……」
レグ :「どうかした? さぁ、紋章の消えない内に旗を投げ込んで
みよう!」
リース:「う、うん!」
赤青に光る魚ジェラードを模した図柄の布。漁師旗をそっと水面に浮かべる。潮の流れに乗って、ゆっくりと渦の中心――紋章へと旗は誘われていく。
そして、紋章とそれが重なった瞬間!!
リース:「な、なに!?」
レグ :「さ、リース! あの上に立つんだ!!」
リース:「え!? ウソーー!!」
渦と同じに風が起こり、旗が浮かび上がった。レグの両手がリースの腰を掴んでそっと旗の上に乗せた。
リースは今、ゆらゆらと舞う旗に立っていた。それを確認したかのように、紋章が急速に光を失う。と同時に、光は風となりリースの体を包み込んだ。朝の光が輝き出す。
耳に――。
いや、頭に直接呪文が響く。高く低く、鳴動する言葉。
リースは叫んだ。思いのままに。
リース:「我は風となりて、熱に体を預けよう。
さりとて行かん希望の地へ!」
レグ :「ありがとう……リース」
リースの体は熱い風になった。太陽が放つ暖かな南風。初めての魔法に想う場所はただひとつ。
傍にいるだけで嬉しくて、彼がどう思っていようとも、傍に居続けると決めている人。黒い翼の幼馴染。
瞬時に、彼の姿を捉えた。木陰で朝寝を決め込んでいる姿。
リースはそっと傍に立った。見上げると太陽が雲を蹴散らして輝いている。彼の顔にかかっている長い黒髪を指で摘み、リースは満面の笑みを浮かべた。
そして思い、唱えた。元の場所へと。
お礼をせねばならない。「揺らぎの風」を得るために尽力してくれたレグに。
リース:「そう言えば、レグ…ありがとうって言ってた……」
この言葉を言うべきなのは自分のはずなのに――。
風となって飛ぶ少女。すべての風、空気が胸の中で弾けて輝く。
押し上がってくる不安に、船へと急いだ。
――そこにいたのは、トホリひとりだった。
トホリ:「あんたが魔法を使ってすぐ、ダンナが消えちまったんだぜ」
リース:「どんな風に!?」
トホリ:「さぁな……俺もあんたの魔法に見入ってたからな……」
リース:「レグ……どうして?」
霧はすっかり晴れ、太陽が柔らかな光を波に遊ばせている。取り残されてトホリの肩に止まっていたみるくが頬に寄りそう。
レグはどこに行ってしまったんだろう。
彼が行きたい場所にもつれて行ってあげたかったのに――。
声がした。
それは幻聴かと思うほど、おぼろげな声。
でも確かに鍵言葉の伝承者レグ・サイモンの声。ずっと協力してくれていた友人の声。
リース:「レグ!! レグなの!?」
レグ :「ありがとうリース。僕の望みは叶ったんだ」
リース:「ねぇ、どうして姿が見えないの! あたし、レグの望みが何か知らないよ」
レグ :「僕は君のすぐ傍にいるよ。ほら、君の周りに――」
少女の周りにあるのは、暖かく穏やかな風だけ――。
リース:「ま、まさか!?」
レグ :「僕は希望を失っていたんだ、長い間。想いを伝えられないままに、
恋しい人を失った。彼女はね風になったんだ……」
リース:「もしかして、『揺らぎの風』?」
レグ :「そう、禁忌を侵したんだ。僕は彼女に逢う方法を探した。
でも見つからなかった――これで鍵言葉の伝承者とは呆れるよね」
リース:「レグ……」
レグ :「本当は君を利用していたんだ。僕が風になるために」
リース:「そんな…そんなことないよ!! あたしはレグがいなかったら、
魔法の手がかりさえ、手に入れられなかったんだよ」
レグ :「ありがとう……リース。もう行かなくては、風は留まっていられない」
リース:「待って、レグ! また逢えるよね!?」
レグ :「もちろん、いつでも君の髪をなびかせるよ。大好きな彼にきっと
想いを伝えるんだよ。僕のように後悔しないで――」
レグの声は最後にネフシカにさよならを伝えてくれるよう伝言して、消えた。
トホリが肩を叩く。零れそうになる涙を押さえて、リースは空を見上げた。
ネフシカは寂しがるだろう。口では悪く言っているけれど、失いたくない古友だったに違いない。
胸に熱い風を抱いて、リースは帰路についた。
リース :レグの分も、あたしは色々な体験をしなくちゃ。
短い人生だもん、後悔はしたくないから……。
手にした魔法は心にある。
レグという大切な友人の記憶と共に。
リースはひとつ、人生の階段を上がった気がした――。
□END□
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ライターの杜野天音ですvv
4作にも及んだ「揺らぎの風探索」は今回で終了となりました。リースの胸に新しい光が生まれたのではないかと想っています。
レグというキャラは気に入っていたのですが、当初からの予定通り彼の希望も叶いました。
それもリースという、素直な少女のお陰です(*^-^*)
また、新しい冒険に参加して下さると嬉しいです。長い間ありがとうございました!
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