<PCクエストノベル(1人)>
目指せ、エヴォリューション!!
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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】
【1190 /トール・ウッド /雑貨店シェリルの店員(奴隷?)】
【助力探求者】
【サクラ・アルオレ / 精霊戦士】
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☆序章
憧れの人のように自分も強くなりたい。
それは永遠の願いであろう。
聖獣界ソーンの中、エルザード城はあらゆる人種、冒険者が集う。
そんな中に憧れを抱く者が何人いると言うのか、数えたらきりが無い。
ふつふつと湧き上がる思いを抱いた少年が今日も街の中を歩いていた。
憧れの人、もとい、生贄を求めて……
☆本章
+ 1・師を探して +
サクラ・アルオレはのんびりと街中を歩いていた。戦士の休日は短い。そんな彼女の休日を教育に使おうとは本人も気が考えても見なかった。
そこ行く少年が近づいてくると、サクラに声を掛けてくる。
トール:「サクラお姉ちゃんのように、ボクも守護聖獣の加護を得たいんですけどぉ……」
サクラ:「はァ?」
二人の出会いはこんな言葉からだった。
どうやら彼は新米ヴィジョンコーラーらしく、もじもじしながらこっちを見ている。
サクラ:「なんでボクの事知ってるのかな?」
サクラは少年を見遣った。
どう見ても雑貨店の店員にしか見えない。
金色の髪がさらさらと風に靡くのを見て、サクラはヴィジョンコーラーらしからぬ子だなと思ったが言わなかった。
トール:「守護聖獣の加護を得たいんです。その方法を聞いて実践したいなと思ってたら、サクラお姉ちゃんがいたから」
どうやら、巷で有名な冒険者に指南してもらおうと探していたようだ。
トール:「ボクはトール・ウッド。雑貨店シェリルの店員です」
ニコニコ笑って少年が言う。
サクラはポンッと手を打った。
サクラ:「あー、知ってる。シェリルの可愛がってる子っていうか、セクハラ三昧受けてる子だよね? えらいねー、キミ」
トール:「はぁ……」
言われるとは分かっているが、こうもはっきり言われると流石に辛い。
サクラ:「んで、ボクに教えて欲しいってこと?」
トール:「はい! でも、お暇じゃないんなら……」
トールは箒を握り締めて項垂れた。
サクラ:「んー、今日は夜になるまで買い物ツアー中だしなぁ。夜なら空いてるかも」
トール:「本当ですか!?」
サクラ:「うん」
トール:「今、仕事中だから丁度いいです。お願いできますか?」
サクラ:「いいよー」
トール:「ありがとうございます!」
二人は約束を交わすと別れた。
サクラは買い物に。トールは扱き使われに。どちらの足取りも軽かった。
+ 2・スポ根ですか? +
ウキウキ気分で仕事を終えたトールは約束の場所へと走っていった。
はた迷惑ないつものお客も何のその。さっさと仕事を終えて急ぐ足取りの軽さ、高揚する気分は久しぶりだった。
トール:「お待たせしました!」
サクラ:「遅いよー」
塀の上に座っていたサクラはひょいとそこから降りる。
足元には紙袋に入った可愛らしい洋服が見えた。
トール:「洋服の買い物ツアーだったんですね?」
サクラ:「それもあるけどね」
トール:「それ『も』ってどういう……」
サクラ:「はいはい、時間が無いんだから、これ着てよ」
トール:「え?」
なんと、サクラは紙袋の中から、ひらひらの洋服を出してトールに渡した。
どう見ても『ゴスロリ服』にしか見えない。
トール:「なんで……」
サクラ:「フツーにヴィジョン呼んだって強くなんないし」
トール:「そ、それとこれとは……」
サクラ:「うるさいの! 襲われて窮地に陥れば、多少は本気になるよ」
トール:「いつでも本気です!」
サクラ:「つべこべいわない!!」
トール:「はい……」
仕方なくトールは服を着る事にした。
レースのストッキングにバラ飾りのヘッドドレス。ビロードのワンピース、大きなリボンつきのドロワーズ、レースだらけの別珍のマント………
目眩を感じたが、トールはしぶしぶ着替えた。
茂みの影で着替え終わると、サクラの前に現れる。
トール:「終わりました……」
サクラ:「可愛いッ!!!!!」
ガッツポーズで言うサクラを見遣り、トールは溜息をついた。
トール:「趣味…ですか……」
サクラ:「そんなわけないよ〜☆」
サクラはひらひらと手を振って言う。
サクラ:「わぁー、これでしっかり襲われるね!」
トール:「それって……」
それ以上聞いたら悲しくなりそうでトールは何も言わなかった。
サクラ:「えーっと、キミの守護聖獣は……エンジェル?」
トール:「あ……はい」
サクラ:「ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
まともな質問をしたかと思うと、意味ありげにサクラは言う。そして、なにやら可愛らしいピンクの紙袋をトールに手渡した。
トール:「これって何ですか?」
サクラ:「パンツ」
トール:「パンツぅ!!」
サクラ:「そーだよ」
トール:「な、なんで」
サクラ:「そのカッコで、中にブリーフなんてカッコ悪すぎ」
サクッと強烈な事を言って、サクラはそれをトールに握らせた。
実は、とある所から入手したものだが、トールは知る由も無い。
背を丸めてまた茂みに歩いていく。そして、それを履いて出てきた。
トール:「これで…いいですか?」
サクラ:「OK、OK!」
トール:「ぅうッ……」
サクラ:「男の子でしょー、一々泣かない! さて、移動するからねー☆」
サクラはトールを無視して大きな紙袋を持つと、公園の方へと歩き始めた。
公園の前まで行くとトールは凍りついた。
なんと、暴漢が出るとの噂がある公園だったからだ。それでもサクラは中に入ってゆく。
奥まで行くと、サクラは紙袋を茂みに隠す。
トール:「一緒にいてくれるんで……えぇッ!」
サクラはずっと傍にいてくれるのかと思いきや、なんとお菓子片手に茂みに入っていく。
トール:「何でッ!」
サクラ:「一人で戦わなかったら、いつまでたっても強くなんないよ」
トール:「そんなぁ……」
サクラ:「ボクがちゃんと助けてあげるからさ」
トール:「とほほ……」
仕方なく、トールは茂み近くのベンチに座って暴漢が来るのを待つ事となった。
+ 3・狼さんいらっしゃぁ〜〜〜い +
ベンチに座ってひたすら暴漢が来るのを待つ。
何層にも重ねて着る服でなかったら、たちまち凍えていたかもしれないとトールは思った。
小一時間が過ぎた頃、何やら妙な匂いがしてきた。
腐ったバターと卵の中に烏賊と酒をぶち込んだような悪臭が漂っている。
そして、それはどんどん酷くなっていった。
トール:「うえぇえええ……」
サクラ:「静かにー!」
トール:「だって……」
ふと振り返ると小山のようにデカイ物がそこにあった。
悪臭はそこから漂ってくる。良く見れば、てろんと光る二つの目があった。
ハーフオークという人種を思い出すのに暫く時間がかかった。
ふしゅーふしゅーと言う、呼吸音が聞こえて顔を背けた。臭くて堪らない。
ハーフオーク:「おじょーちゃん、おれと遊ばない〜?」
げっふげっふと妖しい笑い声を立てて近づいてくる。どうやら酷く酔っているらしい。
ハーフオーク:「ぉおおおお〜ちっちゃくて可愛いなぁああ?」
トール:「ど…どうも」
ハーフオーク:「うぉおおおおお、おすましちゃんかぁ〜。可愛いなああああ。ちょっとこっちおいでよお〜」
そう言うとハーフオークはトールに手を伸ばし、肩を掴んだ。
トール:「離してください!」
ハーフオーク:「お〜萌えるねぇええええええええ」
ハーフオークは鼻の下を伸ばして顔を近づける。
吐きそうになってトールは顔を背けた。
あまりの苦しさに、思わずシルフィードを召喚する。
トール:「いけぇッ!」
ハーフオーク:「うぉおおおおおッ!」
切り裂かれたハーフオークはものともせづに近づく。
ハーフオーク:「お転婆さんだなああ〜、ちょっとお仕置きしちゃうぞお」
そう言うなり、ハーフオークはトールのドロワーズに手をかける。
トールは必死で抵抗した。
無論、腕力では敵わない。しかし、男と生まれたのなら、暴漢に服をひん剥かれるのだけは勘弁だった。
トール:「もう……許してください!!!!!!」
羞恥心がMAXになった時、トールは絶叫していた。
…と、同時に白い光が放たれる。
あまりの眩しさにハーフオークはよろめく。
トール:「エヴォリューション!!!」
凄まじい閃光とカマイタチが辺りのものを切り裂いていく。
当然、トールの着ていた服も千切れて風に飛ばされていった。代わりに白い羽根を身に纏う。
裸体を夜気に晒して天使が降臨した。
ハーフオーク:「天使……俺の天使……」
呆然とハーフオークは見つめる。
目には涙を浮かべていた。
ハーフオーク:「俺の天使様ぁああああああああ!!!!」
そう叫ぶなり、突進してくる。
抱きすくめようとブッ太い腕を広げ、涙と鼻水を滝のように垂らして走ってきた。
ハーフオーク:「マイ・エンジぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ル!!」
トール:「どっか行ってくださーい!」
言うと、トールはイーグルを召喚する。
イーグルの羽ばたきに飛ばされ、ハーフオークは宙に舞い、反対側にあった噴水に叩きつけられて水の中に落ちた。
派手な音を立ててハーフオークが水に落ちたのを確認すると、サクラが笑いながら歩いてきた。しっかり、オークの悪臭除けマスクを付けたまま。
+ 4・終わり良ければ +
窮地に追い込まれたトールは羞恥心MAXによって、エヴォリューションする事が出来るようになった。
ふと、我が身を思い起こせば裸ん坊。
思わず内股にして大事な部分を隠そうとすれば、なぜかパンツを履いている。
不思議そうに見ていれば、サクラが得意そうに説明を始めた。
サクラ:「それねー、自己修復能力があるパンツなの。いわゆる、女性の対暴漢用必須アイテムってわけ。役に立ったでしょ?」
トール:「役に立ったけど……」
サクラ:「エンジェルにエヴォリューションするって思ったから持ってきたの」
ここは先輩冒険者の先見の目と言おうか、トールは黙って頷いた。
サクラ:「本当は服なんか切れないようにエヴォリューション出来るはずなんだけど。キミは新米さんだから、ボクはまだまただと思うんだ」
トール:「まだまだ……」
サクラ:「だから、慣れるまではこのパンツ履いてたほうが良いよ。毎回破けるのに困るでしょ?」
トール:「こッ、困ります」
サクラ:「ま……そーゆーことだね」
サクラはニッコリと笑った。
だから、服を着替えさせられたんだと思ったトールは複雑な顔をした。毎回これでは困ってしまう。
早くレベルを上げたいと、トールは心から切に思った。
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