<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
次元より来たりて……
0.依頼
そいつの姿は、正に異形と呼ぶに相応しく……口は耳元まで裂け、覗くのは鋭い牙。瞳は全てを威嚇し全てを破壊せんとした光を湛え、頭には……ねじくれた物が生えていた……
この話を聞いた時、誰もが馬鹿にし聞く耳持たなかった。話したのは、まだ幼い少年……子供が夢を見たに決まってる、誰もがそう決め付けた。だが、一人の男は違った。徐に少年に近付くと、頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「話してみろ。聞いてやる。何なら、力に成る。」
無気力に俯かれた少年の瞳から涙が零れ落ち、少年は泣いた。男は、黙って頭を撫でてやった……
「突然だったんだ……変な音がしたかと思うと、あいつ等は来たんだ。そう、一匹じゃなかった。怖くて全部は分らないけど、見ただけで3〜4匹くらいだったと思う……中には、人と同じ姿をしたのも居たよ。そいつ等は、彼方此方傷を負ってたみたいだったけど、皆を捕まえると……」
少年の言葉が詰まる。男は黙って、続きを待った。何時しか、その場にいる誰もが少年の言葉を待っていた。
「み……皆を……食べたんだ……」
カチカチと少年の歯がなる。また泣き出しそうなのを必死に堪えているのだ。男の表情にも苦渋が広がる。
「逃げようとしても、あいつ等が吼えると、動けなくなっちまうみたいで……一人一人少しずつ少しずつ食べられて行ったんだ……俺は……ずっと隠れてたから……何も出来なかった……」
涙がまた溢れてくる。唇を強く噛み、声を出さぬようにする様が痛々しかった。男は、少年の頭を再び撫でた。
「お前は良くやった。お前が此処に来なければ、この話は誰も知らないままだ」
少年は男にしがみ付く。
「怖かった!ただ見てるって事が!!でも、目が離せなかった!!皆の声も残ってる!!怖くて動けなくて!!!それしか出来なかった!!そうする事しか、出来なかった!!!」
泣き叫ぶ少年からは、憤りや怨恨の感情は無い……ただ、純粋な恐怖だけがあった。男は、少年を抱き頭を撫でてやる。
「ああ、大丈夫。もう心配は無い、きっと何とかしてやるからな」
優しい声音とは裏腹に、男の目は剣呑だった……そして、言う。
「誰か、行って来てくれ。マスターの俺からの頼みだ。報酬は弾む。必ず、無事な人達を助けてやってくれ」
静まり返った店内に、声が響き渡った……
1.始瞬
「頭にねじくれた物・・・・殲・・・・鬼でしょうか・・・・?」
星祈師 叶(ほしにいのりし かない)が呟いて少年を見詰めている。その表情は、今一疑心で有るが、一緒に居た男は確信とも言うべき表情を浮かべ、少年に近づいて行った。少年の頭を、無骨な手で優しく撫でる。
「俺は、ソレを知ってるよ・・・・報酬はいらねぇ。任せとけ」
螢惑の兇剣士 連十郎(けいこくのきょうけんし れんじゅうろう)は、優しい笑みを浮かべていた。
「連十郎、まだそうと決まった訳じゃない。取り合えず、行って見て判断する方が良いぞ」
刀伯 塵(とうはく じん)が、早々に相手を決めて掛かっている連十郎を諌める。それは、此処が異世界であると言う事から来ている。自分達の知らない敵など、腐るほど居ようとの判断だ。
「そぉかぁ?どう考えても、殲鬼だろ?耳蛸な話しだしな。となりゃぁ、俺らの仕事だよなぁ」
グラスを傾けながら、多寡道 (たかみち)はその顔に笑みを浮かべながら言う。その様を見ながら、塵は苦笑いを浮かべた。
他の客の視線が、四人に集まっている。それもその筈、聖都エルザードでは余り見ない格好だ。耳が尖った叶の容姿も目を引くし、連十郎と多寡道の角も、より一層目を引いた。取り立てて特長は無いが、ガタイのでかさで塵も注目の的だ。
「お前ら、行ってくれのか?」
「ああ、気になるからな。もし、ソレが俺達の知ってる奴なら、俺達とは縁が深い・・・・」
マスターの言葉に答える塵の表情が苦渋に彩られていた。
「わかった。頼んだぞ」
「あの〜・・・・」
不意に背後から間延びした声がマスターに掛けられる。
「ん?何だ?」
「あの〜私も行って良いですかぁ〜?」
四人とマスターの目の前に居るのは、普通より少し小柄な男の子とも女の子とも見受けられる人物だ。寝惚け眼が、何とも愛らしくはある。
「正気か?戦いなんだぞ?」
「はい〜・・・・でも、以前お世話に成ったのでぇ〜ちょっとでも〜力に成れればと思いましてぇ〜・・・・それに〜あそこすっごく寝心地が良いんですよぉ〜・・・・勿体無いじゃないですかぁ〜?」
やたらと間延びした喋りの人物−オウリス−の言葉に、気力が殺がれて行くしその動機もまた気力を萎えさせるものではあるが、その瞳の中の意思が本物である事に、皆は気付いていた。
「僕も御一緒させて下さい」
声の方を向けば、眼鏡を掛けた軽装な鎧に身を包んだ青年が立っている。腰に下げた二本のサイはそれなりに使いこなされているのが見れば分る。
「困っている方々を放って置く訳には行きませんからね」
そう言うと、青年アイラス・サーリアスは微笑んだ。
「あんまり大所帯で行ってもしょうがねぇだろ。それに、時間が惜しい。早く行こうぜ」
「そうですね・・・・これだけ居れば・・・・何とかなるんじゃ無いでしょうか・・・・?」
連十郎と叶の言葉に、マスターも頷く。
「では、宜しく頼む。馬を用意する、半時程待っていてくれ」
ドアを開け往来に出て行くマスターを、六人は黙って見送った……
2.回顧
「すぅーすぅー……」
「こいつぁ、良くこんな状況で寝られんなぁ」
多寡道の呆れ声も意に介さず、オウリスは多寡道が駆る馬上で体を預け寝ている。器用……そんな言葉では言い表せない最早、特技以外の何者でもない。
「変わった方ですよね。あっいえ、彼女もそうですけど、貴方方も……」
アイラスの言葉が尻切れ蜻蛉に小さくなっていく。だが、叶の耳にはちゃんと聞こえた。
「そうですね・・・・確かに・・・・僕達はこの世界の住人では有りませんから・・・・変わって居ると言えば・・・・そうですね・・・・」
六人は馬上の人となった。その方が、時を無駄にせずに済むからだ。人の足で、二日の距離でも、馬の足なれば翌日の明け方には着けるだろうとのマスターの判断だ。駿馬では無いが駄馬でもない、極普通の馬だ。颯爽と乗り、現在夕刻。エルザードを出立して既に、六時間程は経っている。
「貴方方は、どちらから来られたんですか?敵についても、何か知って居られる御様子ですが?」
「中つ国は、地鎮の……って言ってもわかんねぇだろうな。敵に関しちゃ、ちと心当たりが有るくらいだ。見て見ねぇと何とも言えないってのが、現状って奴だ」
苦笑いを浮かべて答える塵を見やり、連十朗はアイラスに言う。
「俺達が何処から来たかなんてなぁ、今関係ないだろ?俺達は此処に居て、相手についても多少知ってるかも知れねぇ、それだけじゃ不満かい?」
ぶっきら棒だが、何処か温かみのある言葉に、アイラスは鼻の頭を掻く。
「仰るとおりですね。非礼をお詫びします」
軽い会釈をしたアイラスに、「よせや」とぶっきら棒に答える連十朗を見て、叶は少しだけ微笑む。
「だけどよぉ、どうやってあいつ等……殲鬼の奴等は来たんだぁ?そもそも、中つ国に居たのは、殲鬼神が倒れてから纏まってねぇし、てぇした力も無い筈だぜ?」
多寡道の疑問に、アイラスは塵や連十郎に視線を回す。連十朗と塵は、些か苦渋の表情を見せていた。恐らくはと言った、可能性でしか今は判断出来ないからだ。一刻も早い到着が望まれた。
「殲鬼ですか……僕にとっては初めての敵に成りますね……」
ぼそりと呟いたアイラスの表情は些か硬い。戦いに緊張する事、それは未知なる敵と戦う時だ。今正に、アイラスは未知なる敵との戦いに向かっている。ふと、オウリスの方を見やる。
「すぅーすぅー……」
相変わらず寝息を立てているオウリスに、アイラスは少しだけ表情が緩み余計な力が抜けて行く。少しだけ微笑み、正面を見詰め少しだけずれた眼鏡を直す。
「さぁ、飛ばそう。村人達が待ってるぞ」
塵の言葉に、オウリス以外の全員が頷き、手綱を繰る手が更に力を増した……
3.邂逅
『酷いですぅ〜……』
空を飛びながら見詰める眼窩の光景に、オウリスは心の中で呟いた。元来の姿、梟に戻っている為人語は発する事が出来ないのだが、その意思は紛れもなく人であるが故にその光景は余りに無残であった。
「ちっ!やってくれやがるぜ奴等!」
時を同じくして、多寡道は吐き捨てる様に呟いた。護衛に当たっていた、アイラスが訝しげに多寡道の顔を覗き込む。眉根を寄せ、忌々しげな表情だ。
「見えたか?多寡道」
連十朗がそんな多寡道に声を掛ける。
「あぁ、しっかりとな。こんなとこに来てまで、シビトを見る羽目になるたぁ、ついてねぇぜ」
目を開いた多寡道の傍に、偵察を終えて戻って来たオウリスが舞い降りる。表情は暗く、目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「あれはぁ〜何なんですかぁ?」
目にした光景は、正に地獄か?腕をもがれ、顔を削られ、腹を抉られた人々の成れの果てが、そこらを闊歩している。そして、中央の広場と思しき場所には……ねじくれた角を生やした敵の姿だ。
「間違いねぇ……俺から見ればどう見たって殲鬼だぜ」
吐き捨てて言う多寡道の言葉に、連十朗はほんの少しだけ口元に笑みを浮かべた……
村に着いた時分は、未だ闇が支配する時分であった。六人は馬を適度な場所に留めて置くと、夜陰に紛れ村の入口へと向かった。少しだけ小高い丘を下った辺りが村の入口であった為、この場で偵察をする事にした。オウリスは、元来の姿へ。多寡道は、持てる力−思念投射−を使い己が思念を村へと飛ばしたのだ。
「敵の配置状況はどうなってる?」
塵がオウリスから聞いた村の状況を手早く地図に纏め上げ、多寡道とオウリスに問う。
「中央に、雑魚だろうな適当な奴等が七〜八って感じで居やがった。後は、家の中とかなんだが、そこまでは見えねぇ悪ぃな」
暗闇の中では、視覚の上でしか感知出来ない状況は殆ど無意味である。月明かりのある外ならば話しは別だが、家の中までとなるとはっきりとした事は分らない。多寡道の力では、それが限界だった。
「塵さんの方は・・・・どうだったんですか・・・・?」
叶の質問に、塵はちょいちょいと地図に印をつけ始める。概、家の中に印を付けている様だ。
「流石だな塵。伊達に歳食ってねぇ」
「うるせぇぞ連十郎。その内お前も歳食うんだよ」
言いながらも手は休めない。少し考えたりもしながらだが、どうやら全部の印をつけ終えたのだろう塵の手が止まった。
「これは?」
覗きこんだアイラスを見ながら、説明を始める。
「このでっかいのが、なんだかわかんねぇけど一番気配がでかい奴だ。後は、ばらばらだが、恐らく村人と何匹かの敵って感じだな。厄介な事に、本気で点在してやがるからな。下手に打って出ると、村人がやられちまう恐れがある」
「なるほど・・・・では・・・・点在して居る人々を纏めながら・・・・護って行くしか無いですよね・・・・?」
叶の言葉に、塵は頭を撫でる。
「その通り。二人は遊撃、残りは村人って感じが良いと思うが?」
「その案で行きましょう。僕は、村人達を守りたいと思うのですが如何ですか?」
「私もぉ〜村人を守りますぅ〜」
未知の敵との戦いでは、敵の力を知る必要がある、そう感じた部分も有るだろうが、何よりも村人を護る事を二人は優先させた様だ。
「僕も・・・・村人を護ります・・・・」
「ちっと前線が心許ないな。俺も、村人へ回ろう」
叶と塵が村人を護る方へ。
「俺は、人型のをやる。多寡道、残りは任せたぜ」
「ちぇ、しゃーねぇ。譲ってやんよ」
拳と拳をぶつけ合う、多寡道と連十朗は互いにニヤリと笑みを見せた。
「では・・・・僕が護りの力を・・・・」
そう言うと、叶は全員の額にそっと口付けをする。淡く纏われた光の幕が、全員の体を包んだのを確認し、全員頷く。
「行くぞ!」
「はぃ〜」
「はい!」
「・・・・はい」
「うっしゃ!」
「うらぁ!」
それぞれの想いと共に、六人は一斉に駆け出した……夜は未だ明けない闇の中を……
4.戦陣
「何だ貴様等!?ギャウォォォ!?」
駆け抜け様に、多寡道の拳が異形の腹に突き刺さりそのまま背を抜ける。引き抜くのももどかしく、右手に異形をぶら下げたまま体を回転させ、近付いて来た異形に回し蹴りを浴びせる。
「やるじゃねぇか、多寡道!褌だけがお前じゃなかったんだな!」
「うっせぇよ。ちゃっちゃと行きやがれ!」
「わかったよ!」
多寡道の作り出した小さな蛍の援護を受け、連十朗が塵の指し示した一番大きな気配へと駆け抜ける。その顔は、笑みを浮かべていた。
「てやぁぁぁぁ!」
気合一閃、アイラスの両手のサイが異形の腕を切断する。叫び喚く異形へ、オウリスが放った矢が次々突き刺さり遂には絶命する。
「強いって言うかぁ〜しぶといですぅ〜」
「そうですね……随分と耐久性のある敵のようです。油断なく、一匹ずつ仕留めましょう」
アイラスとオウリスは、遠距離と近距離と言う攻撃方法を使い巧みに異形達と戦っていた。見慣れない敵ではあるが、各個撃破するなら勝てない敵では無い、アイラスとオウリスは次の異形へと向かった。だが、その前に立ち塞がるのは死して尚動く村人達……
「くっ!?なんともなら無いんですか!?」
アイラスは油断なくサイを構える。
「酷すぎるですぅ〜……」
困惑しながらも弓を構え矢を番えるオウリス……一瞬だけ悲しみに目を閉じたが、開いた瞬間矢を放つ。
「もう〜これ以上は犠牲になる人を出さないですよ〜!」
「そうですね!頑張りましょう!」
アイラスのサイが、シビトを切り裂いた……
「大丈夫です・・・・もう大丈夫ですから・・・・」
優しく微笑み叶は怯え震える人々を落ち着かせる。だが、ゆっくりもしていられない、出来るだけ早く迅速に移動を開始しなければ、敵に悟られる。怯え震える人々を一箇所に集める為、気力萎えた村人達を励まし、先へと進ませる。
「叶!急げ、集まって来てやがるぞ!」
塵の声の方を見やれば、確かに集まり始めたシビトの群れ。心は焦る。だが、此処で平静を失う訳には行かない、叶は努めて笑顔で村人と接した。
「ちっ!?叶ー!一体抜けやがったぞー!」
声に振り向けば、半面を失ったシビトが眼前へ。叶は、すぐさま力を練る。手に現れた一枚の符が、まばゆい光を発したかと思うと、一直線にシビトへと向かい切り裂いた。
「護って見せます・・・・絶対に・・・・」
強い意志の瞳と共に、言葉もまた力強かった。
風が血臭を運ぶ中、連十郎は立っていた。武器は持って居らず、素手のままだ。
「てめぇが親玉か?その首貰い受けるぜ!よもや、サムライの事を忘れちゃいめぇよ!」
自虐的な笑みと共に、人型の異形へと吐き捨てる連十郎。だが、異形は訝しげな顔で連十朗を見詰め言う。
「サムライ?知らないな、そんなもんは。俺達は気が付いたら此処に居たんだからな。丁度良い感じで村が有ったから、俺達のもんにしようと思っただけだがな」
その言葉に、連十朗の体が焔に包まれる。
「ふかしこいてんじゃねぇ。その角が、殲鬼の証だ!きっちり引導渡してやるぜ!」
掌に、集まった焔の中から一本の柄が現れる。柄を握り、一気に引き抜けば、連十朗の愛刀五尺二寸の兇刀『饕餮』……その刀を構え連十朗は間合いを一気に詰める。
「言ってる事は分らないが、どうやらやるしかない様だな」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
異形の構えた剣と刀が、激しい火花を散らした……
「おい!塵の旦那、気付いてるか!?」
「ああ……お前も気付いたか多寡道」
村人達を全て確保した一行は、敵戦力から村人達を護る戦いを強いられていた。
「殲鬼・・・・じゃない・・・・?」
叶の言葉に塵も多寡道も頷いた。角はある、ねじくれた物だ。容姿は、殲鬼のそれに酷似している。シビトを使うのを見ても、殲鬼の力の様に思う。だが、決定的に違う事があった。
「何がぁ〜違うって言うんですかぁ〜?」
必死に矢で牽制しながら、オウリスが問う。
「根源的な力の問題だ。俺達に武神力……つまり、この戦う力が有る様に、あいつ等もそれを持ってるが、使ってこねぇ」
「使って来ないのではなく、使えないという事は考えられませんか?」
向かい来た、シビトをサイで切り裂きアイラスが言う。だが、その言葉に塵は首を横に振る。
「俺達が使えてる、奴等が使えない道理は無い。似た能力もあるが、こいつ等は根本的に違う」
一刀の元に、異形を切り伏せ塵は言う。
「それに、さっきから使ってくるこの変な技は、俺たちゃしらねぇ!」
延びた腕の攻撃を何とかいなし、多寡道は間合いを詰め連撃を見舞う。
「兎に角、今はこの状況を切り抜けましょう!」
「そうですぅ〜詮索は後にしましょう〜」
怯え慄く村人達を背に、オウリス・叶が立ち、その前面にアイラス・多寡道・塵が立つ。二重の防御陣である。
「今は・・・・護り切る事だけを・・・・!」
叶の手に、力が集中した……
「おらおらおら!!どうしたどうした!?てめぇはそんなもんかぁ!?」
焔を纏った刀と体が異形を圧倒している。異形は受けるのが精一杯なのか、大降りの剣を必死に防御へと回すが、連十郎の攻撃は止まらない。更に、重く早く……火剣の連撃は遂に異形を追い詰めた。
「てんで話しにならねぇな。もうちっと楽しめるかと思ったのによ」
「貴様は、一体なんなのだ!?」
異形の言葉に、口の端に笑みを浮かべ言い放つ。
「ただの、戦い好きなお節介野郎さ。つまんねぇことしなきゃ、長生き出来たのにな」
腰溜めに饕餮を構える。
「くっそーーーーーーーーーーー!!!!!!」
異形が振りかぶり一気に間合いを詰めようとした刹那、その腹には深々と饕餮が刺さっていた。柄には鎖が巻きついており、連十朗は一気に引っ張る。刀ごと異形の体が引っ張られ宙に舞い、そして……
「あばよ」
剣閃一閃、切られた異形は、燃え盛る焔に血と肉を焼かれた……
5.終幕
「ここか、奴等が出て来たってのは」
「らしいな……」
塵と連十郎は、村の一角にある場所を訪れていた。その場所は、あの異形達が現れ出でた場所だ。
「特に何もねぇな。ちっとは期待したんだがな」
「何をだ、連十郎?」
「まっ一応、帰り道って奴さ。向こうが恋しくなった時によ」
その言葉に、塵も微かに微笑む。
「だが、お前も気付いてただろ。あいつ等は殲鬼じゃねぇもっと別のなんかだ」
「ああ……似てんだけど、やっぱ違った。だが、またこれからも出て来るかもな」
最早何も無い空間を、塵と連十朗は複雑な想いでただ黙って見詰めていた。
「すぅ〜すぅ〜……」
「ったく、こいつぁ、まじで良く寝やがるやろうだな」
木陰の下、酒を飲んでいる多寡道の横で、オウリスが幸せそうな寝息を立てている。普段余り動かないからだろう、余程疲れたのか爆睡だ。
「今朝は随分と激しい戦いでしたから、ゆっくりと休ませて上げましょう」
微笑みながら、その様子を見てアイラスは言う。初めての敵との戦いで、アイラスも疲れてはいたがまだやるべき事は残っている。多少成りとも、村が早く復興する様にと尽力していた。だが、ふと多寡道の方を見詰める。
「ん?なんだよ?俺ぁそう言う趣味はねぇぞ」
「御心配なく、僕もありません。貴方方に会えて良かったなと思いましてね。色々勉強に成りました」
深々と頭を下げるアイラスを見て、多寡道は鼻で笑った。
「はん。馬鹿か?おめぇも戦ったんだよ。しっかり誇りやがれ」
それだけ言うと、再び酒を煽る。その傍で眠るオウリスが少しだけ寝返りを打った。
「はい・・・・次の人・・・・」
叶は、怪我した人々の治療に当たった。失った物を取り戻す事はできないが、未だ癒せる傷なら少しでも治したいと思ったからだ。目の前にいる少女は、傷を負いぐずっている。
「あっ・・・・此処が痛いんだね・・・・?大丈夫・・・・すぐ良くなるからね・・・・」
そう微笑みながら言うと、一枚の符を怪我した場所に貼り付ける。痛みで泣いていた少女が、不思議そうに怪我した箇所を触ってみる。
「ね・・・・?もう痛く無いだろ・・・・?」
「うん!有難う、お兄ちゃん!」
そう言って、元気良く走って行く少女を見詰めながら、叶は微笑んだ。
数日後、村を後にする一行に、村人達は深々と頭を下げ見送った。恐怖は、未だに薄れては居ないだろうが、生きている以上やらねばならない事もある。そんな印象を受けた。
「大丈夫でしょうか、あの人達は……」
アイラスが心配気に、後ろを振り返る。
「やるしかねぇのさ、やるしかな。忘れる事は出来ねぇけど、それを引き摺る訳にゃいかねぇだろ?」
多寡道の言葉に、叶と塵そして連十朗が頷く。
「きっと大丈夫ですよぉ〜また、寝心地が良い場所に成りますぅ〜」
笑顔で言い切ったオウリスに、アイラスが苦笑いを浮かべた。優しい風が吹き行く山路に、一瞬の後……笑い声が木霊した……
了
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1528 / 刀伯 塵 / 男 / 30歳 / 剣匠
1348 / 螢惑の兇剣士 連十郎 / 男 / 25歳 / 狂剣士
1354 / 星祈師 叶 / 男 / 17歳 / 陰陽師
1117 / 多寡道 / 男 / 20歳 / 鬼道士
1543 / オウリス / 女 / 165歳 / 個人配達業
1649 / アイラス・サーリアス / 男 / 19歳 / 軽戦士
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■ ライター通信 ■
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ソーンでは初めまして、凪 蒼真です。
お久し振りな方はお久し振り、初めましてな方は初めましてです♪
それ関係の皆様には、とても興味を惹かれる依頼であったかと思います。まあ、おいら自身がそれ関係にはまっていたので、ちょっと出して見たくなった依頼な訳ですが、如何だったでしょうか?微妙に描写をどうするか悩んで遅くなってしまった事を、此処にてお詫び申し上げます。(深々)
今後も、こういった形の依頼を出して行くかとは思いますが、何卒宜しくお願い致します。
それでは、時節ありましたらまたお会いしましょう。メリークリスマス♪
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