<PCクエストノベル(1人)>
大地に沈んだ城へ 〜チルカカ洞窟〜
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【冒険者一覧】
■1649/アイラス・サーリアス/軽戦士
【助力探求者】
■キャビィ・エグゼイン/盗賊
【その他登場人物】
■謎の少年/亡霊
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【序】
『……王、ター・ラパ、其の言に曰く、
われらはチルカカの子、守り神ケアツァルトのもと、
夢見の人、夢見のパイザリオに、この憂き世界を明け渡し、
チルカカ、生まれし地、われらが母の胎内へ還らん、
われらに、安らかなる眠りを、平安を、母は与えたまわん。
かくてター・ラパ、祭司、執政官、耕すもの、造るもの、
老いも若きも種々(くさぐさ)集め、
ともに母の胎へ旅立ちぬ。 ……』
――ユニコーン地域歴史書全集、吟遊詩人かく歌えりの章より、北東部詩人の歌・抜粋
【1】はじまり―聖都エルザード
聖獣界ソーン。三十六の聖獣が守護する、夢と現実のはざまに立つ大地。
聖獣の一体、ユニコーンの守護するユニコーン地域。中心地のエルザード城下、あらゆる書物が収められているとも噂されるガルガンドの館で、ひとりの青年が本を積み上げ、熱心に頁を繰っていた。
アイラス:「ふむ…古代文明となると、もう少し古い資料が…」
彼が手に持つ本の背表紙には、この地域の北東の風物や、歴史についての表題が記されている。
アイラス・サーリアス。彼は、この地にやってくる他の来訪者と同様、冒険を求め、好奇心の赴くまま、北東の遺跡―チルカカ遺跡の調査に赴こうとしていた。
用意周到な彼は先ず、書物から情報を得、冒険の支度を整えようとしていたのだ。
アイラス:「…これか、忽然と消えた文明…先住の民の可能性…」
呟きながら、他の本をめくる。
興味深げに活字をたどって、思考をめぐらせた。
アイラス:「城…かな、ともに、としか書いていないけど、でも王なら……うーん、やっぱり実際に行ってみないと」
一人、調べるのは、件の遺跡が『地に沈んだ城である』という噂の真相であった。
しかし、あまりに古いのか、当たり障りのない歴史ばかりで、目立った収穫は、ない。ただ一つ、吟遊詩人の伝える歌に、チルカカ遺跡の記述をしたとおぼしきものがあった。王の話、チルカカを母とする、古語でうたわれた、詩。
アイラス:「…じゃあ、記録はどうかな?……何人か帰ってきた人もいるね、ふむ…罠に戦闘……」
次は書棚を変えて、これまで他の冒険者がしてきた冒険の記録を手にとる。
そこにはチルカカ遺跡に潜む、罠や敵対する者に関しての情報が掲載されていた。
彼はふむ、と顎に手をやり、考える。アイラスは冒険に関し、素人というわけではない。…が、この世界での冒険経験は浅く、彼がそれまでつちかってきた冒険の常識が通用するかどうか、少々こころもとなかった。
アイラス:「……やっぱり、誰かに同行を頼んだほうがいいかな」
彼は本を閉じ、協力してくれる探求者を求めて、館をあとにした。
キャビィ:「……で?どうしてあたし?」
アイラスの話を聞き、彼のおごりで出された料理を頬張りながら、探求者、キャビィ・エグゼインは言った。
アイラス:「城内には、多様な罠が仕掛けられているそうですから…盗賊のあなたなら、罠にはお詳しいかと思いまして」
青年は微笑みながら、その理由を告げる。
キャビィ:「ふーん、罠…ね、あんた冒険者?パっと見ぜんぜんそう見えないんだけど、きゃはは」
アイラス:「ええ、全くの素人…というわけではないのですが、この世界ではまだ経験が浅いもので…」
キャビィは、アイラスの物腰の柔らかさ、そして線の細い身体を一瞥して、屈託なく笑う。言葉だけ取ると馬鹿にしているようだが、決して悪気はない。アイラスもまた気分を害されることなく、笑みを崩さずに、言った。
アイラス:「だからこそ、『あなたの』力が必要なんです」
あなたの、にことさらアクセントを置き、ここでにっこり笑う。
キャビィは気を良くしたのか、胸を叩いて、言った。
キャビィ:「へえ、しょうがないなあ!そこまで言うなら行ってあげるよ!ま、あたしがイチからココでの冒険を教えてあげる、まっかせて!」
アイラス:「ありがとうございます」
座ったままゆっくりと礼をして、アイラスは謝辞を述べた。
【2】冒険へ―チルカカ遺跡〜チルカカ洞窟内部
青く広がる湖に、空の色が映し出される。
雲は白くたなびき、湖の色もそれに合わせて変化していた。
アイラス:「これが…チルカカ湖」
キャビィ:「そ、で、ここらがチルカカ遺跡っていわれてるトコで、ココの真下にチルカカ洞窟ってのがあるのね」
あたりを指すように手を広げ、キャビィは解説する。その言葉に、アイラスも頷いた。
アイラス:「洞窟…それが、昔は城だったと、そういうことでしたね」
キャビィ:「そ!あたしも何度か聞いたことがあるよ、えーとね、確かこっちにその入り口が…」
ぽっかりと口を開けた洞窟への入り口。
ふたりはカンテラに火をともし、それを掲げて奥へと進んでいった。
人の手で創られたらしい扉、天然の鍾乳石、入り組んだ道を抜けると、それまでとは明らかに風格の違う大きな扉が現れた。アイラスはそれまでと同じように扉を押したが、びくともしない。
アイラス:「……おや?このドアは開かないようですが」
キャビィ:「ふっふー、甘いわ、そ・こ・が冒険、ってヤツでしょ?ほら、そこのあからさまにアヤシイ燭台!」
キャビィは腰に手をあてて人差し指を左右させ、それからびし、とアイラスの背後を指した。彼が振り向くと、確かに明り取りに使うらしい燭台が、岩肌から突き出ている。ろうそくは刺されておらず、明かりはなかった。
アイラス:「…これのことでしょうか」
キャビィ:「そ!きっとソイツがこのドアを開けるヒントになるのよ。冒険の基本はまず!何かにブチ当たったら、まわりの状況をよく観察すること!ま、とにかくそれに火をつけてみなよ」
アイラスは頷いて、あらかじめ持ってきたろうそくを取り出し、そこに据え付けてカンテラの火を移した。
アイラス:「……!」
ごうん、と音を立て、扉が横にスライドする。
どうやら仕掛けが解除されたらしい。アイラスは成る程、と頭を掻いた。
キャビィ:「ほーらね、ビンゴ!さ、先行こ、罠にも気をつけて」
元気に扉の奥を指す彼女について、アイラスもまたその闇に足を踏み入れた。
湖が近いせいか、湿気が多い。
じめじめした床を踏みしめながら、アイラスは壁面や天井を見回し、感嘆のため息をついた。これは、天然の洞窟などではない。人の手で、それも精緻な彫刻が施された、まぎれもない建築物だった。
アイラス:「凄い…この建築様式は、ソーンのほかの場所にはないものです」
キャビィ:「あれ、あんたココ来たばっかじゃないの?なんでそんなこと」
アイラス:「記録に残っているんです。僕のほかにも何人か先にここを訪れた方々がいて、その方たちの冒険記録に」
ガルガンドの館で、調べたとおりだ。
それを告げると、キャビィは訝しげな顔をして、問った。
キャビィ:「何、書いてあるんならワザワザ調査なんて」
アイラス:「僕は、ここが噂されている通り本当に『城』であるのか、そしてできれば、その城の主はだれか、どうしてここに沈んだのか、ということを知りたいんです。だから」
そう言いながら、あたりの建築を検分して回るアイラスの目は、メガネ越しに好奇心で輝いている。
キャビィ:「なるほどね、他の冒険者はみんな、宝やモンスターの話しかしてないわけだ」
アイラス:「ええ、まあ…そんなところです」
ここにはいない、「他の冒険者」たちにも失礼に当たらないよう、アイラスは丁寧な言葉を選んで話す。キャビィはその物腰に、好意的な苦笑で返した。
キャビィ:「ふーう、でも随分熱心に調べるんだねえ?」
入り口から、ひとつひとつの部屋を熱心に見てまわり、時折館でメモをとった紙とも照らし合わせながら、アイラスは調査を続けた。キャビィの声も、どこか上の空、といった風である。やがて彼はあるレリーフの前で立ち止まり、思わず声をあげた。
アイラス:「ええ…やっぱり、ここは王城の可能性が……あっ、このレリーフは!もしかしたらこの建物を作った民族の書いた、象形文字の…」
キャビィ:「……!」
そのレリーフに、何か違和感を覚え、キャビィは身構えた。盗賊としての経験上、これは…
アイラス:「ふむ……古文書とも一致する…」
キャビィ:「はなれてッ!そこ触っちゃダメッ!」
アイラス:「え?」
キャビィが叫んだ時には、遅かった。なにか絵文字をかたどったと思われるその石細工に、アイラスの手が触れられている。
アイラス:「な…レリーフが落ち窪んで…」
キャビィ:「上ッ!」
かち、と、スイッチの入るような音がしたのと、キャビィが武器を抜き、飛びのいたのはほぼ同時だった。がしゃん、と重い音がして、甲虫のような形の、ただし大きさは子羊ほどもある、木製の「もの」が現れた。それはきしきしと歯車のような音を立てながら、二人を捕捉し、ついで何か光る鋭いものを飛ばす。
アイラス:「ッ!!」
キャビィ:「アイラス!」
アイラスはとっさに武器、サイをかまえ、攻撃を避けながら飛んできたものを受け止めた。からん、と地に落ちたそれは、鋭利なナイフか、矢じりのようなものだった。再度それを飛ばそうとネジのような音を立てる甲虫を、キャビィが思い切り後ろから踏みつける。
がしゃり、とその形を崩した敵は、それっきり動かなくなった。
キャビィ:「…ふう…何コレ、…からくり人形?仕込みナイフとか、あっぶなー」
壊れたのを確認するように彼女はパーツを拾い上げ、それに内蔵されていた刃を見る。古代のものであるにも関わらず、その切っ先はまだ殺傷力を持っていた。
アイラス:「すみません、危ないところでした…」
キャビィ:「ま、冒険にはこんな罠もツキモノってこと。おわかり?」
アイラス:「…ええ、身にしみて」
しゅん、と肩を落とし、アイラスは詫びる。キャビィは笑って、言った。
キャビィ:「そうそう、素直でいいじゃん。でも結構さっきのかまえ、サマになってたよ?」
アイラス:「前にも言いましたように、全くの素人ではありませんから」
キャビィ:「あ、そうだったよね。…でも、あたしのこの盗賊としての経験と人生と…っと、まあいろんなものを込めて、ひとつ忠告しておくわ」
彼女はまた、人差し指を立てて、アイラスを指した。
アイラス:「?」
キャビィ:「いまのはたまたま弱い人形だったから良かったけど、この世界にはもっとでっかい、強いヤツがいっぱいいるの。人間でもモンスターでも、勿論コレみたいな罠のたぐいでもね。だからね、アイラス?人間アキラメが肝心なの。やばくなったら、即とんずら!コレも冒険で生き残る鉄則だからねっ」
大袈裟なくらい偉そうに言うキャビィに、アイラスは微笑んで、頷いた。
アイラス:「わかりました、勉強になります」
キャビィ:「あーもう、素直だなあー!」
その素直に忠告を受け容れる態度に、キャビィはあきれたような声を上げた。ただしそこに、悪意や嫌悪は全くなく、むしろ好意的でさえあった。
アイラス:「い、いけなかったでしょうか」
キャビィ:「ううん、あたしそういうの、キライじゃないよ」
アイラスはそう言われて、ありがとうございます、と礼をする。
キャビィがひとつ伸びをして、提案した。
キャビィ:「ところでさ、もうおなか空いちゃったし、きょうはココまでにしない?一日くらいの食料、持ってるでしょ」
アイラス:「ええ、それは…では、この部屋なら、安全そうですね」
レリーフのとなりにある部屋を開け、アイラスは頷いた。邪気も感じられないし、比較的湿気も少ない。二人はそこで、その夜の休憩を取ることにした。
【3】亡霊の願い―チルカカ洞窟・深部
アイラス:「チルカカ…生まれし…地、われらが…母の胎内へ還らん…」
この遺跡、それを作った民族のものとして伝わる詩に、即興で節をつけ、静かに低い声で、彼は歌っていた。少し離れたところでは、キャビィが安らかな寝息を立てている。ほんのわずか残ったカンテラの油にゆらめく、小さな炎を見つめ、アイラスは物思いにふけるように、旋律をたゆたわせる。
アイラス:「われらに、安らかなる眠りを…平安を…母は与えたまわん……」
???:「……夢見るものよ」
その、美しい声に引き寄せられるように、なにか、別のものの声がした。
アイラス:「ん…?……キャビィ、さん…?起こしてしまいましたか?」
???:「夢見るものよ。われらが胎に踏み込みし、パイザリオよ」
アイラスが顔をあげると、そこに一人の線の細い少年が立っていた。
どこから入ってきたのか、この湿っぽい遺跡には似つかわしくない、高級な絹の服を身にまとっている。その形はこの遺跡と同様、ソーンの他の場所では―少なくともアイラスは―見たことのないものだった。
アイラス:「あれ、君は…?こんなところで一人、どうしたのですか」
謎の少年:「キミは、なにしてるの」
少年は質問に答えず、かわりに訊いた。
アイラス:「僕?僕は…この洞窟を調べに来たんです…」
謎の少年:「調べる?なにを、調べるの?」
アイラス:「ここが、本当に城なのかどうか、それから、誰が住んでいたのか…いつの時代か…」
謎の少年:「お城だよ」
ひとこと、断言されて、アイラスは思わず聞き返す。
アイラス:「え?」
謎の少年:「ボクの、お城。…みんなで、いっしょに、沈んできたの」
暗がりにまぎれて、少年の表情はわからない。声の抑揚も薄く、そこに現実感はなかった。しかしアイラスは好奇心を抑えず、問い返す。
アイラス:「君の…?君は、いったい…?」
謎の少年:「あのさ、もっと調べるの?」
先刻と同じように、別の質問にすりかえられ、ペースにのせられて返事をしてしまう。
アイラス:「え…?あ、ああ、明日も調査はやりますが…」
謎の少年:「そう。……ねえ、どこを調べてもいいけど、玉座のうしろの扉には行かないでね。あんまり、見てほしくないものがあるんだ」
アイラス:「玉座…の、うし、ろ…?」
アイラスはその話を聞きたくてたまらないのに、何故かぼんやりした、眠気のようなものが襲ってくる。いま話をしている少年も、本当にいるのかどうか危うくなってきた。かろうじて返事をすると、念を押すように少年は言う。
謎の少年:「約束だよ。ね?」
アイラス:「え…え、わかり…ました」
少年は微笑んでいるようだった。
謎の少年:「ありがとう。キミ、いいひとみたいだから、おみやげ、あげるね。入り口の燭台、ひっぱって外してみて。きっと、気に入るよ」
アイラス:「燭台…ひっぱっ…て…」
アイラスは言葉を繰り返し、どうにか意味を理解しようとした。
しかし正体不明の眠気は、彼を会話から引き離そうとする。そして話し相手の少年もまた、この場所から離れようとしているようだった。
謎の少年:「じゃあね、ボク行かなくちゃ。調べるの、がんばって」
アイラス:「ま…待って…君…はッ」
そこで、アイラスの意識は途切れ、深い眠りへ落ちていった。
カンテラが消え、あたりには湿った闇だけが残った。
翌朝。
朝、といっても、地下だから暗いことに変わりはない。しかし時計どおりに二人は目覚め、カンテラに火をともして、探求を再開した。
アイラスは昨夜の不思議な出来事を、キャビィに話してみる。
キャビィ:「何ソレ、調査しすぎて夢でも見たんじゃないの?」
アイラス:「うーん…夢にしては、やけにはっきりしていた気がするのですが」
アイラスは腕組みをして、首をかしげる。
そんな彼に、キャビィは別の話題をふった。
キャビィ:「それよりさ、そろそろ終わりなんでしょ?もうだいたい調べたじゃない」
アイラス:「ええ、おおかたは…しかし、まだ他に部屋がある気がするんです」
キャビィ:「だって、ドアのあるとこには全部入ったよ?」
彼女の言うとおり、昨日、そして今日のこれまでで、目に入った部屋はすべて調査を終えている。しかしアイラスはその言葉に、別の意味を思いついた。
アイラス:「ドアの…ある…そうか!」
彼は昨日、罠にかかったレリーフの正面にある、壁画のもとへ走った。
キャビィがあとを追うと、アイラスはドアの絵が描かれた壁の前に立っている。
キャビィ:「何それ、ただの絵じゃない」
アイラス:「いえ、これは壁画ではなくきっと、謎解きのパズルです。ほら、扉の絵の横に、火のついていないろうそくの絵があります。ここの窪みに、火を入れると…」
彼は昨日、入り口のドアにしたように、カンテラの火を移す。
すると、「絵」であったはずの扉が、ギィ、と音を立てて開いた。
キャビィ:「……!!絵に描かれたドアが、開いた!?」
アイラス:「キャビィさんの仰ったとおり、ですね」
キャビィ:「…へっ?あ、ああ、そうそう、あんたも冒険をわかってきたじゃない」
アイラスはにっこり笑って、先へ進む。
その部屋には、今までにない荘厳な雰囲気と気品が漂っていた。さらに緻密な彫刻を施された両壁の一番奥に、大きな、そして美しい大理石の椅子がある。そこにはめ込まれた数々の美しい石、彫刻。アイラスは確信を持った声で、言った。
アイラス:「これは…凄い、やはりここは王の謁見の間らしい!間違いなくここは城の、それも古代文明の遺跡だ!そして王は、伝説にあるとおりのター・ラパ…」
言いながらアイラスは子供のようにはしゃぎ、早速隅から彫刻の形式や、絵文字を探してまわる。キャビィはその間、そっと玉座に近づき、その装飾を鑑定した。…金になるならば一つ二つ貰おうという、盗賊の魂胆である。しかし宝石がはめ込まれていると見えたものは、磨き上げた石に塗料をつけたものだった。それはそれで古代の技術を思わせる貴重なものなのだが、金になるものではない。
キャビィ:「うーん…お宝はない、か…」
アイラス:「キャビィさん、ありがとうございます!ここまで詳しくわかったのもあなたのおかげです、本当に…キャビィさん?」
目をきらきらさせてアイラスが礼を言おうと振り向くと、キャビィは玉座の後ろにまわり、なにやら床板をはがそうとしていた。
キャビィ:「あーそう、ココ、ココが怪しいわ、ほらビンゴ!隠し扉よ、見て!このでっかい椅子のうしろ、隠し通路があるわ…お宝のにおいがする!ほら、行こう!」
アイラス:「椅子、の……」
キャビィもまた宝の匂いに目を輝かせ、アイラスを呼ぶ。
しかし彼は、昨日のできごとを思い出した。玉座の、うしろには、入るな……
キャビィ:「何してんのよ、行かないならあたし一人でお宝…」
アイラス:「行ってはいけません!そこはッ………――ッ!!?」
アイラスが止めかけると、キャビィの背後にぼんやり光る霧のようなものが沸き立ち、すぐさま大きくなって、人のかたちをとった。気づいていないキャビィに、うしろ、と言うと、彼女は振り向く。
キャビィ:「なによそれ、なんか……って」
???:「夢見るものよ。我らが安息を乱すものよ」
光る霧は亡霊のように、いまは人間の形をとって、そこからまるで雷雲がいかづちを出すように、電流を伸ばす。それは一直線に、キャビィのほうへ向かった。
キャビィ:「きゃああああ!」
アイラス:「キャビィさん!あぶない!」
すんでのところでかわした彼女のもとへ駆け寄り、アイラスはその霧と対峙した。
小柄な人間の形…いや、少年、ともいえるだろう。それが昨日の少年と同一人物だということを、彼は既に悟っていた。怒り、悲しむような顔をした少年の亡霊は、なおも電流を発し続ける。部屋中を駆け回り、逃げながら、その電気が着弾した場所が黒焦げになっているのを見、キャビィは叫ぶ。
キャビィ:「ち、ちょっとこれ、何よ…うわっと!」
アイラス:「さっき話した昨日の子です、ッ………!?」
しゃべるためにいったん動きを止めたアイラスに向かって、稲妻は火花を上げながら飛んでくる。避ける暇もなく、青年は電流の餌食になった…ように見えた。
キャビィ:「アイラス!」
アイラス:「『ミラーイメージ』!」
当たったと思われたアイラスは霞のようにかき消え、本物のアイラスが少し離れた場所に立っている。幻を使い攻撃をかわす魔法、ミラーイメージだ。キャビィは安心したように、彼のもとへ駆け寄る。
キャビィ:「大丈夫!?」
アイラス:「この部屋から出ましょう!早く!」
なおも迫りくる亡霊から逃げながら、アイラスは入り口の扉に走った。しかしキャビィは後ろ髪をひかれる、とでも言うように、玉座を振り返る。
キャビィ:「でも、お宝が…」
アイラス:「やばくなったら、即とんずら、が冒険で生き残る鉄則、でしょう!」
教えたことを反復されて、キャビィも心を決めたらしい。
キャビィ:「う〜…しかたないなああああ!」
二人はドアを出、そのまま遺跡の入り口まで一目散に駆けていった。
【3】探求の終わり―遺跡入り口〜帰り道
キャビィ:「ふううう…思いっきり走っちゃった…」
ぜいぜいと肩で息をしながら、キャビィは座り込んだ。
追ってくる亡霊から、この遺跡の入り口、燭台をつけて扉を開けた場所まで、全速力で走ってきたのだ。アイラスもまた大きく息をしながら、膝に手を置き息を整える。
アイラス:「はあ、はあ…さ、さっきのが、この城の主…最後の主だった王、なのでしょうか……」
キャビィ:「……そう…かもね…はああ…」
二人は暫く、息を吸うことに専念し、ようやく落ち着いて、額の汗を拭った。
キャビィ:「…そうだ、こんな慌しく出てきちゃったけど、調査とかもういいの?」
アイラス:「ええ、…最初の目的は果たしましたし、これからの研究の資料も増えましたしね」
アイラスの手には、メモで埋め尽くされたノートがあった。ガルガンドの館で調べたことに、ここで実際見たものを記してある。キャビィは良かったじゃん、と言いはしたものの、天を仰いでため息をついた。
キャビィ:「あーあ、結局お宝はおあずけ、かあ…」
残念そうに言う彼女、やはり盗賊である。
アイラスはふと、昨日の少年との、最後の会話を思い出した。
アイラス:「お宝……そうだ、そういえば」
キャビィ:「?」
アイラスは立ち上がり、昨日火をともしたろうそくがすっかり溶けて小さくなっている燭台に近づく。そしてそれを、今度は思い切り、引っ張った。
がくん、と力が空回りして、手ごたえがなくなる。燭台が壁から外れたのだ。そしてぽっかりと空いた空間には、きらきら光る黄金色の塊があった。
アイラス:「これは…!」
キャビィ:「ウソ!これ金塊じゃない!ちょっとちっちゃいけど、これくらいあれば…」
大きさは大人の握りこぶしほどだが、純度によっては良い値が付くだろう。
キャビィはそれを手にとって、やったあ、山分けね、と言った。
アイラス:「おみやげ、か…なるほど」
二人は金塊を取り出し、注意深く燭台を元に戻す。
上機嫌のキャビィを先に、アイラスもまた微笑みながら、帰途についた。
キャビィ:「まっ、お給料がわりにはなるくらいのものは手に入ったし、あんたも冒険のコツ、わかってきたでしょ?上出来だったじゃん!」
ようやく地上に出ると、湖は赤く、夕焼けに染まっていた。
湖に背を向けて帰りながら、キャビィはアイラスの肩を叩く。
アイラス:「ふふ…そうですね。調査も…最初に調べたいと思ったことはわかりましたし…」
いつもの笑みは絶やさないながら、その顔には精彩がない。
キャビィはそれを覗き込んで、訊いた。
キャビィ:「なーによう、浮かない顔して」
アイラス:「謎がひとつ解けると、次の謎が出てくるんですよ。あの王はどうして自分の城を地下に沈めるようなことをしたのか、城なのに罠があるのはどうしてか、そして…」
キャビィ:「あの部屋にはなにがあったのか…?」
アイラス:「そういうことです」
アイラスの好奇心は、とどまるところを知らないようだった。
キャビィは笑い、さばさばと言ってのける。
キャビィ:「ま、あんたもう冒険できるようになったんだからさ、また行ってみればいいじゃん!不安だったら、あたしも付き合ったげるし!」
アイラス:「……また…か。そう、そうですね!キャビィさん、今回は本当に、ありがとうございました」
歩きながらも、丁寧な礼をするアイラスに、キャビィは言う。
キャビィ:「いーのいーの、そんなさ、最後まで堅苦しくしなくたって。ま、それがあんたのいいとこなのかもね」
アイラス:「ありがとうございます」
褒められると、素直に微笑み、また礼を言う。
その姿がキャビィには面白いらしく、ころころと今度は声を上げて笑う。
キャビィ:「あはははは、素直!面白い!よっし決めた、今夜はオールで、トコトン飲みよ!」
アイラス:「え、僕は…調査結果の、分析を」
キャビィ:「そんなん明日でもできるでしょ!ほらほら、早く来なよったら!」
尻込みするアイラスの腕を掴み、キャビィは早足で歩き出した。半ば強引に引っ張られるようにして、アイラスは歩調を崩し、転びそうになる。
アイラス:「うわ、とと、キャビィさ〜ん!」
二人は夕闇忍び寄るなか、ほのかに光る町の明かりを目指し、元気に歩いていった。
―了―
【ライターより】
発注ありがとうございました。SABASTYです。
遺跡調査、そして冒険の手ほどきということで、こんな感じにしてみました。
アイラスさん、素敵なキャラさんで、書いていてとても楽しかったですw
ちなみに、チルカカ関連の固有名詞は、「チルカカ」の語感から連想したとある古代文明の名詞をアナグラムにして作りました。世界観や建築様式も(ライターの中では)そんな感じです。想像してみるのも楽しいかも…
では、またの冒険をお待ちしております。
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