<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
天、翔る
(オープニング)
インフルという風の神が居た。風の宝玉を守護する神である。
有能だが病弱で、風邪の神と不名誉な呼び方をされる事も多いが、穏やかな風と心の彼を信仰する者は、それ以上に多かった。
そんなインフルが、今日は神殿を離れ、彼に似合わない、騒がしい工房に立ち寄っていた。
工房では、1隻の大きな船が製作中だった。だが、その船は少し様子がおかしかった。
まず、船だというのに帆が無い。風を受けて走る船では無いようだ。さらに、水面を漕ぐための設備も無い。風を受けず水面も漕がない。この船は一体どうやって走るのだろう?
インフルは、急がしそうに作業をしているコボルト…手先が器用な犬のような獣人…に声をかける。
「コホコホ。
コボリー君。やっぱり船の完成まで、私は持たないみたいだよ。
また、しばらく眠らないと…」
インフルの顔色は死人のように悪い。彼は、いつものように眠る必要があった。いつ目が覚めるのか、それともそのまま風に還ってしまうのかは本人にもわからない眠りである。それがインフルという神だった。
「うぅ、とても残念デス…」
コボルトは残念そうにしている。
「ウル君に話はしておいたから、船の試運転は任せるよ…」
親友の魔道士の事を、インフルは言った。コボリーは残念そうに頷く。
インフルは、もう一度だけ船の方を見て微笑んだ。
風を受けず、水面を漕がずに走る船。
それは、インフルがコボルトの一族の技術を借りて、数百年かけて研究した船だった。自ら風を生み出して走り、空を翔るその船は、文字通り風の神の船である。
数日後、インフルは神殿で眠りにつき、その数週間後、インフルの船は完成し、試運転を兼ねた船上パーティーが行われる事になった。
船を操縦するのはインフルの友人で、風の魔法と魔法道具に精通した魔道士ウルである。
船旅はインフルの神殿からエルザードまでの、テストを兼ねた一泊二日の空の旅だった。当日、インフルと古い付き合いの宝玉の神々や、大地を離れる事を怖がらない命知らずの物好き達が、出発点のインフルの神殿に集まってきた。飛竜の群生地が船の通り道にある事も知らずに…
(依頼内容)
・飛空船の完成を記念して、試運転&船上パーティが行われます。
・誰か乗ってあげて下さい。
・途中、飛竜の群れが襲ってくる可能性が極めて高そうです。
(乗船NPC)
・ウル、ルーザ、ニール、箱売り、ルキッド、ビッケ、マルコ、ミリー、コボリー。
・その他プレイングによって登場可能性有り
(本編)
1.みずね、シェアラ
魔道士ウルが操縦する飛空船の試運転&パーティーが行われるらしい。
風の神インフルが造った飛空船の事は噂を聞きつけた者の間で話題になった。
「興味深いな…」
と、織物師のシェアラウィーセ・オーキッドは呟いた。噂を聞いた多くの者の例に漏れず、彼女は飛空船に興味を持った。ただ、多くの者は興味は持つが、試運転に参加する事は敬遠がちだった。
…記念にタペストリーでも奉納するかな。と、気軽に飛空船乗り込む事を決めたシェアラは、やはり、ただの物好きではなかった。
また、今回の試運転には、船を造ったインフルの同僚の神族も乗船する事になっている。そういった者達との語らいを楽しみにする者も少数ながら居た。
風来の巫女のみずねは、この機会に、よその神様や関係者達と話をしたいと思った。何はともあれ、よその神様に会っても恥ずかしくないように、彼女は巫女の正装を準備する。
そうして、様々な目的で、船の乗組員達はインフルの神殿へと向かった。
2.風の神の船に乗ろう
飛空船が離陸する当日、インフルの神殿には乗船者達が集まってきた。
インフルの同僚の神2人とその司祭や、インフルと共に船を作ったコボルトの技師達、そして物好きな招待客達である。
「それじゃあ、そろそろ出発の時間デス。
もしかしたら、墜落しちゃうかもしれないデス。
そうしたら、皆さん、がんばって脱出して下さいネ」
船を作ったコボルトの技師の代表、コボリーが一同に向かって挨拶をした。コボルト族は嘘をつかない正直な種族らしい。
「いや、墜落したら困るぞ…」
招待客の1人、トレジャー・ハンターのラシェル・ノーティが言った。
基本的には、皆、ラシェルの意見に賛成である。特に魔法を使う必要も無く、自らの羽で飛べる、幻翼人のフィーリ・メンフィスだけは船が落ちることを気にして無かったが。
船を見渡すと、確かにしっかりとした造りをしている事は素人目にもわかる。海に浮かべるなら、簡単に沈みそうにもない雰囲気だ。だが、果たして空に浮かんでしっかり飛ぶのかは誰にもわからなかった。
「大丈夫だよ!乗っちゃおう!」
ほぼ何の根拠も無く、元気に言ったのは魔法戦士のフェイルーン・フラスカティである。まあ、いざ飛空船が墜落しても、自力で何とか出来るような者ばかり招待されたわけである。とりあえず、一同は飛空船に乗り込んだ。
「じゃあ、俺は操縦室に行くから。みんな、窓から落ちたりしないように気をつけてね」
操縦士役の魔道士ウルは、そういうと操縦装置のある部屋へ行った。
「それじゃあ、船が地上を離れたら、ひとまず乾杯するデス。
グラスを配るから、シャンパンを注いで下さいデス」
と、コボリーの指示でコボルト達が招待客にグラスとシャンパンを注いで回る。
「お酒は大量に持って来たから、何でも飲んでねー」
予め飛空船に酒を積み込んでおいたのは、酒と祭りの神ビッケだ。見た目は水商売の姉さんにしか見えないが、酒の神だ。
「二日酔いになったら、お水を召還しますよ〜」
水商売というか、ただのぼーっとした姉さんにしか見えないのは水神ルキッドだ。水を召還するのが得意らしい。
この2人のマイナーな神が、飛空船を作ったインフルの同僚の神である。それぞれ従者代わりに司祭を1人づつ連れている。
「おう!飲みきるまで船を降りないから、そのつもりでな!」
乾杯…飛空船が地面を離れる時を待ちきれない様子で、多腕族の戦士シグルマが言った。
一行は、ざわざわと窓の外を眺めながら、飛空船が飛ぶのを待っている。外にはインフルが眠る神殿が見えている。
「ちゃんと、飛ぶかな?」
落ちたら嫌だな。でも、飛んだら楽しそうだな。と、歌姫のロイラ・レイラ・ルウが、傍らの見習い魔道士に声をかける。
「飛んだらいいですね…」
やはり、落ちたら嫌だなー。と、思いながら、見習い魔道士のニールがロイラに答える。彼はロイラと違い、悪い方の心配ばかりしていた。
「でも、不安ですよねー、実際…」
軽戦士のアイラス・サーリアスも、やはり不安そうにしていた。
「フィーリ様、ちゃんと飛ぶと思いますか?」
契約魔獣のロイド・ハウンドがフィーリに声をかける。
「知らん。まあ、飛ばなかったら、俺たちだけ飛んでいけばいいさ」
フィーリは興味無さそうに、契約魔獣に答えた。
「みずねさん、みずねさん、コレ、ちゃんと飛ぶかしらね〜…」
ルキッドが不安そうに、風来の巫女みずねに声をかける。
「いえ、私に言われても…」
自分が作ったわけじゃないし…と、みずねは返事に困る。
「大丈夫。飛ぶよ…」
近くに居た織物師、シェアラウィーセ・オーキッドが2人に声をかけた。彼女にも確信があったわけでは無いが、船から感じる風の力は、それなりに信じても良いとシェアラは思っていた。
「…ん、少し揺れたか?」
医学生の日和佐・幸也が呟いた。何となく、体に振動が伝わってきた気がした。
「揺れたわね。そろそろ飛ぶんじゃないの?」
他人事のように、盗賊ルーザが言った。飛空船を操縦しているウルの相棒の盗賊娘だ。彼女の言葉は間違いでは無かった。
「あ、浮かびましたね。地面が少しづつ離れていくデス!」
コボリーが窓の下を見て言った。なるほど、飛空船は静かに地面を離れていくようだ。
「じゃあ、神殿で安らかに眠ってるインフル君に乾杯!」
飛空船が空に浮いたのを確認して、酒と祭りの神が音頭を取った。
『乾杯!』
異口同音に声が上がり、一同は手にしたグラスの杯を飲み干す。飛空船は静かに地面から遠ざかっていった…
3.パーティ(みずね編)
ひとまず、最初の乾杯をした後は自由行動となった。
とりあえずパーティに興じる者も多かったが、それよりも船が飛ぶ事自体に興味があり、船内を調査しようという者達も居た。特に、トレジャーハンターのラシェルと医学生の幸也は船の構造に興味を示し、早々にパーティ会場から姿を消し、コボルトの技師と一緒に船内の機械的構造を見て回っているようだ。
フィーリはパーティにはすぐに飽きて、甲板に上がって風を浴びている。船の飛行状態が落ち着いたら、ウルに話を聞くつもりらしい。彼の契約魔獣ロイドも、それに従っている。織物師のシェアラも、いつの間にか姿を消していた。
それでも、パーティに残っている者達も多い。
みずねは丁度良い機会なので、よその神様や信者達に苦労話でも聞いておこうと思っていた。
手始めに、水神ルキッドとその司祭を勤める娘、ミリーに声をかける。
「お水って、おいしいわよね〜」
「はい、まあ…」
とりあえず、乾杯する。傾けているグラスには酒ではなく水が注がれているのが、水神とその信者、人魚族ならではの乾杯だった。
「水杯で乾杯って…戦争にでも行くのかい?」
そこに、面白そうに声をかけたのはシェアラだった。四人はしばらく話す
「ところで、ルキッド様が側に居るのにこんな事を聞くのもどうかと思うのですが…
ミリーさん、司祭をやっていて辛い時ってどんな時ですか?」
みずねは、ミリーに尋ねる。巫女として、神様の世話をするコツなんかを聞いておきたいと思った。
「辛い事ですかぁ?
最近は…ルキッド様が目を離すと行方不明になる事ですかね…」
ミリーは遠い目で飛空船の外を眺めている。
「それは、困るよね…」
「居なくなられたら、あわてますよね…」
実際にルキッドの捜索に巻き込まれた、シェアラとみずねはため息をついた。
「あんまり優しくするとつけあがるんで、時には厳しくする事も必要じゃないかなー、なんて思います」
ミリーは神様の世話をするコツについて語った。まあ、神様にも色々居るので一概には言えないのだろうが…
「ん、んーとー、私は暇な事かしらねー…」
話を変えようと、ルキッドはしゃべり始めた。
「あんまり長生きしてもやる事無いし、司祭さんと仲良しになっても、みんな、すぐに年を取って死んじゃうから、悲しいし…
うぅ、早く水に還りたいわ…
…あ、そーいえば、ミリーちゃんのお婆ちゃんは良い人だったわよ」
ルキッドは、何となくしょぼんとしながら昔話を始めた。彼女は彼女なりに悩みがあるらしい。
「確かに…長生きしても暇だよね…」
シェアラは頷いている。
人間と積極的に関わるタイプの神族にとっては、明らかに人間と寿命が違う事は、確かに悩みなのかも知れない。と、みずねは思った。
さらに、近くにやってきた酒と祭りの神のビッケにも、みずねは尋ねたが、同様の事を言っていた。特に彼女の場合は、信者が酒の飲みすぎで体を壊す場合も少なく無いので、罪悪感を感じる事も多いそうだ。
「具合悪い時は飲むんじゃねーぞー!
って、いつも言ってるんだけどねー…」
いくら飲んでも平気な人間ばかりじゃないんだから…と、ビッケは言っている。
「あなたも、決して人々の人生を狂わせる為に酒を勧めてるわけじゃないんだよね…」
結構、酒と祭りの神も大変だなー。とシェアラは思った。
「そうだ、そういえば、記念に奉納しようと思ってタペストリーを織ってきたのだけど、誰に渡せば良いかな?
肝心のインフル様は眠りにつかれたようだし…」
シェアラは持参してきた織物を示しながら、ルキッドとビッケに尋ねる。
「うっわ〜、これは良いものね!
任せといて!
インフル君が目を覚ますまで、責任をもって私の神殿に置いておくわよ!」
目を輝かせて答えたのはルキッドだった。
「何故、ルキッド様の神殿に…」
みずねが首を傾げている。そもそもルキッドは飛空船の建造に全く関わっていない。
「あの、この子の事は気にしないでいいわよ、シェアラさん…
とりあえず、ウル君にでも渡して、この船に飾っといて貰えば良いんじゃないかしら?」
「すいません、ルキッド様の言う事は、あんまり真に受けないで下さい…」
ビッケとミリーが言った。
「うん、そうだね。ウルに渡してくるとするよ」
少なくともルキッドに預けても仕方無い事は確かだ。シェアラはタペストリーを持って操縦室のウルの所へ向かった。
後には神様や司祭、巫女達が残った。それから、神族関係者達はしばらく話を続けた。
「ねーねー、みずねちゃんとルキッドちゃんも、こっちで遊ぼうよ!」
そのうち、フェイがみずね達を呼びに来たので、みずねは水杯のグラスを片手にフェイやビッケ達の方へ行った。
4.飛竜が来た(ロイラ、アイラス、みずね編)
船旅は続き、何人かの者は気分転換に甲板に上がっていた。吹き付ける風が酔った頭に心地よい。
「なんだ、みんな上がってきたのか」
「せっかく甲板があるのに、船内に篭ってる方が不思議ですよ、フィーリ様」
早々とパーティを離れ、甲板に出ていたのはフィーリとロイドである。結構高く飛んでるなー。と、地上を見下ろしている。
「天気も良いからな、甲板で飲もうってわけだ」
「まあ、そんな感じねー」
酒樽を抱えたシグルマと風俗嬢…ではなく、酒と祭りの神ビッケは甲板で酒を広げ始めた。
「シグルマさん、お酒好きですね…」
「おじさま、お酒が生きがいみたいな人なんで…」
みずねとロイラが、ひそひそと話している。
「まあ、無事に飛んだみたいで良かったですね」
のんびりと酒を飲んでいるシグルマにアイラスが声をかけた。
「全くだ」
シグルマは頷いている。
「無事に飛ばなかったら、俺は自分で飛んでくけどな」
と言いつつも、自分の翼を使わずに空を飛ぶのもたまには良いな。とフィーリは思った。
そうして、甲板でしばらく一行がくつろいでいると、
「みんな、気をつけた方が良いよ。この辺りは飛竜の縄張りみたい」
と、少しあわてた様子で、シェアラが甲板に上がってきた。
彼女は偵察用に鳥を召還して、船の周囲に展開していた。その鳥達が、先程から何匹かの飛竜を見たと言っている。
…念の為、私は船が壊されにくいように風の守りをかけて来るよ。
と、シェアラは再び船内に姿を消した。
やがて、彼女の言葉を裏付けるように、飛竜の姿が肉眼でも見えるようになってきた…
「何だ…面白い余興じゃねぇか」
不適に言ったのは、シグルマだ。
十数匹か、それ以上の飛竜が船の周りを飛んでいる。体長5メートル程と、竜にしては小柄な代わりに飛行能力に長けた種族の竜達だ。確かに、この空域は近所の飛竜達の縄張りらしい。
「ほんとに飛竜さんの縄張りみたいですね、この辺は…」
アイラスが言った。
「飛竜さん達、何となく機嫌悪そうに見えるんですけど…」
若そうな飛竜が飛空船の脇に火を吐いているのを見ながら、ロイラが言った。
「遊びたいんだろ?
…遊んでやろうぜ!」
好戦的なフィーリは、さっさと飛び立った。
「飛竜さん達も生きているのですし、出来れば穏便に…」
逆にみずねは平和を主張した。
それから、船内に居た者も様子を伺いに甲板に上がってきて、とりあえず飛竜の縄張りを通り過ぎるまで、船をガードする方向で話はまとまった。
「これ、いざって時に空を飛べる個人用のアイテムだってさ。
船から落ちたりすると危ないから、みんな持ってた方が良いわよ。人数分は余裕であるから」
と、一度船内に帰ったルーザが肩にかける翼のような物を持ってきた。
「おお、良い物があるじゃねーか」
早速、シグルマは翼を肩からかけると、船から飛び立った。
「いや、だから、それは非常用の…」
積極的に使うような物では無いとルーザは言ったが、
「なーんだ、こういうのがあるなら、早く言ってよルーザちゃん!」
フェイも翼を肩からかけると、大剣を持って船から飛び降りた。
「はい、僕は非常時に使う事にします。ほんとに」
と、2人の戦士を見送りながら、軽戦士のアイラスは翼を受け取っただけだった。
そうして、元々翼を持つフィーリ、非常用の翼で無理矢理飛ぶ、シグルマとフェイの三人の戦士達は船の周りに展開した。
「こらー、お前らチョロチョロするな!
当たっても知らないぞ!」
「フィーリ様!無茶苦茶飛び回らないで下さい!」
ラシェルとロイドは文句を言いながら、魔道銃や重力波で援護している。
「空に響くは夢の歌。
風に乗るのは安らぎの声…」
歌姫のロイラは眠りをもたらす歌、心を静まらせる歌を歌い始めた。
アイラスとみずね、ニール達はロイラの護衛をするように側に居る。幸也とビッケは甲板の入り口付近で怪我人の治療に備えていた。
そうして飛竜達の襲撃を受けながら、船は進んでいく。飛空船の外では空中戦が延々と続いていた。
中でも、元々飛べるフィーリの動きは良い。彼は飛竜の炎の息をかわしながら、飛竜達に近づく。
「ジーク、倒す必要は無いぞ。飛空船が通り過ぎるまでの間、遊んでやれば良いからな!」
と、連れの竜に声をかけつつも、フィーリは嬉々としていた。彼は軽い氷の魔法を放ちながら、隙を見て飛竜に肉薄して剣を振っている。
「フィーリ様ー!
調子に乗って、船からはぐれないようにしてくださいねー!」
ロイドが声援を送った。
ただ、元々飛べるフィーリはともかく、作り物の翼で飛んでいるフェイやシグルマは苦労していた。
フェイは、
「こらー!
パーティで楽しんでるんだから、邪魔するなー!」
と、飛竜に向かって飛びながら愛用の大剣を振り上げ…
「ありゃ?」
バランスを崩して、ぐらぐらと揺れた。地面が無い所で、作り物の翼を頼りに体のバランスを保つのは難しいようだ。
あいつが墜落するのも時間の問題だな……
と、幸也は甲板に怪我人が居ないか注意しつつ、フェイの様子も見ている。
一方、シグルマも不器用に空を舞っていた。
しかも、彼は剣を抜いていない。代わりに酒の樽を抱えていた。
…酒の味を教えてやれば、こいつらもおとなしくなるさ。
酔っているせいもあるのだろう。シグルマは不適に笑って、飛竜の中でも特に威勢の良いのに向かって飛んでいく。
「あの人、頭大丈夫なの?」
ルーザが呆れている。
「おじさま、お酒が入ると何するかわからないんで…」
一瞬だけ、ロイラが歌を止めて呟いた。
飛竜は、まだ襲ってくる。彼らと直接触れる事の無い船内でも、地味に戦いは続いている。
「それほど強い結界では無いけど、飛竜の炎程度で簡単には焦げないように処理をしてきたよ。ルキッド様も手伝ってくれた」
操縦室で、シェアラがウルに言った。
「ありがとう。
飛空船の操縦と風の守りを船にかけるのは、一緒には出来ないからね…助かります」
ウルは言う。
飛竜達が飛び回っている影響で風の流れも乱れているのか、特に攻撃を受けなくても飛空船の軌道が不安定になってしまう。ウルは操縦室から離れられなかった。
「うん、もう少しだと思うから、がんばろうね」
シェアラは、それから飛竜が去るまでの間、操縦室でウルと船の様子を見ていた。いざと言う時に船の操縦をサポート出来るのは、多分、自分だけだったからだ。
外では、相変わらず飛竜の襲撃が続いている。
「いやー、フィーリさん達、がんばってますね」
「そうですね」
暇な事は良い事だ。と、甲板でニールとアイラスが話している。実際、フィーリやシグルマ、フェイ達のおかげで、飛竜はなかなか船に近づけなかった。
「でも、フェイやシグルマの翼って、あくまで非常自体用の翼よ?
あんなに激しく飛んで大丈夫かしら…」
そのうち、翼が壊れるんじゃないかと、ルーザが言った。
「落ちたら、大変ですよね…」
みずねも心配そうに見ている。
やがて、不安は現実になった。
フェイが突然、急降下を始めた。
あわてたのは、 甲板でサポートに回っていた者達だ。
「うわ!落ちちゃいましたよ!」
大変だ!大変だ!と、アギルとグリン…姿を現したロイラの召還獣達も騒ぎ始めた。
「まあ、いざとなればビッケ様も居るから治療役は足りてるよな…」
フェイの相棒で、甲板で治療役に回っていた幸也は、非常用の翼を肩にかけて迷わず飛び降りる。フィーリとシグルマも、フェイの後を追った。
「こら!ちょっと待て!
フェイの事が心配なのはわかるけど、みんなで行ってどーすんだ!」
ふと気づくと、船の周りで飛竜を迎撃していた者達が全員居なくなってしまった。ついでに治療役の幸也も行ってしまった。
フゴー!
と、10匹以上の飛竜達が甲板に殺到した。
「やってられるかー!」
「フィーリ様!いきなりいなくならないで下さい!」
と、ラシェルとロイドは文句を言いながら飛竜の炎を避けて逃げ回る。一応、隙を見て反撃しているが、さすがに魔道銃と重力波の遠距離攻撃で牽制しきれるもので無い。ロイラの歌で一時的に混乱&沈静化している飛竜も居たが、それでも多くの飛竜達は甲板に肉薄した。
アイラスは、そんな飛竜達を見ている。
「体を張って護衛するのって、僕なんかよりも重戦士の人の方が向いてると思うんですけど…」
その重戦士が、墜落したフェイを追って戦列を離れてしまったのだ。ロイラやみずね達を放っておくわけにいかず、アイラスは2人をかばうように戦う。
飛びかかって来る飛竜を、しかし、下手に避ければロイラやみずね達が危険である。アイラスは正面から飛竜に向かう。ロイラのイーグルと黒狼、ニールが放つ風の魔法がそれをサポートした。
「アイラスさん、あんまり無理しないで下さいね!」
黙々と回復役に徹していたみずねが、口を開いた。
そうして、飛空船が飛竜達の縄張りを離れ、飛竜達が帰るまで戦いは続いた…
5.到着
飛竜が去ってしばらく後、一人、フィーリが自力で船に追いついて帰ってきた。彼の話によると、フェイ達はそのまま地上に降りたらしい。ひとまず、一行は戦いが終わった事を安心した。
「出来れば、争わずに済めば良かったのですが…」
と、みずねは少し残念そうにしている。
「まあ、仕方ないわよ。飛竜達も縄張りに入られたら起こるだろうし、私たちも飛竜の縄張りとか、知らなかったわけだし」
みずねと一緒に怪我人の手当てをして回ってた、ビッケが言った。
確かに、ある程度は仕方ない面もあるのかもしれない。と、みずねは思った。
突然出会った異種族の者達と、何のトラブルも無く交流する事は簡単な事では無い。一方が他者の縄張りに入ったとすれば尚更だ。
「落っこちちゃった人達も無事だったし、まー、こんなもんじゃない?」
ビッケの言葉に、そうですね。と、みずねは答えた。
その後は、特に大きなトラブルも無く、飛空船はエルザードまで飛び続けたそうだ。
(完)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0812/シグルマ/男/35才/戦士】
【1194/ロイラ・レイラ・ルウ/女/15才/歌姫】
【0401/フェイルーン・フラスカティ/女/15才/魔法戦士】
【1649/アイラス・サーリアス/男/19才/軽戦士】
【1112/フィーリ・メンフィス/男/18才/魔導剣士】
【1505/ロイド・ハウンド/男/666才/契約魔獣】
【1645/ラシェル・ノーティ/男/15才/トレジャーハンター】
【0402/日和佐幸也/男/20才/医学生】
【0925/みずね/女/24才/風来の巫女】
【1514/シェアラウィーセ・オーキッド/女/184才/織物師】
(PC名は参加順です)
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■ ライター通信 ■
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毎度ありがとうございます、MTSです。
今回はNPCまで含めた登場人物が多すぎて、わかりにくい話になってしまった気もしますが、いかがでしたでしょうか?
神様を世話するコツについてミリー達に聞いてみたみずねなのですが、ただ、ミリー達が世話している神族が多少特殊なので、どの程度参考になったかはちょっとわかりませんが…
ともかく、おつかれさまでした。また、気が向いたら遊びに来てくださいです。
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