<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


羽狼とぼく

「――誰か、一緒にこの子を返す、お手伝いをしてくれませんか?」
 少年は、ルディアにそう尋ねた。
 ルディアは、見せられた獣をまじまじとながめた。
 犬、いや、狼か。しかし、犬とも狼とも違っているところがひとつあった。
 それは。
(背中に羽があるわ……)
 真っ白な羽を背中につけていたのだ。獣は、まだ子供だった。目を細め、少年の腕の中で、くぅ
くぅと寝息を立てている。
「こまったなぁ、僕一人ではとても無理だし……」
 少年は、泣きそうな表情でぽりぽりと頭をかいた。

 ある日、少年は、山のふもとでこの獣を見つけた。その時、獣はケガをしていた。山から落ちて
しまったのだろう。彼は家へつれて帰り手当てをした。彼の必死の看病がよかったのか、獣はすっ
かり回復した。
 親元へ返してやりたい。情が移り、このまま飼うことも考えていたが、獣の幸せを思うとそれが
一番だと思ったのだ。
 しかし。
「羽狼は、岩山の一番高いところに巣を作るんです。しかし、とてつもない断崖絶壁で、登るなん
てとうてい無理なんです」
 少年は、さらに続けた。
「――しかも、最近その岩山に、フォルニスが現れるというんです」
 フォルニス。それは炎を吐く巨大な鳥。肉食で、好物は獣の肉だという。
「ぼく、この子に――リューに、幸せになってほしいんです。お願いします」
 少年は、ぺこりと頭を下げた。少年は、エルクと名乗った。


■山を登って


 複雑に入り組んだ登山道。
 木も草も、枯れ色の寂しい道。
 踏みしめる土の上にも、どっさりと枯葉が積もり、かさかさと乾いた音をたてる。
 しかし、今は、にぎやかな声が辺りに響き渡っていた。
「本当に、ありがとうございます。まさかこんなに多くの方のお手伝いをいただけるなんて……」
 エルクは、坂の途中で振り返るとにっこりと微笑んだ。
「いいの! リューちゃんのままが心配してると思うから、送っていくの♪」
 鼻をひくひくさせて、実に楽しそうに、にこにこと笑ったのはヴィー。フリーデスヴィーデ・???である。
ふさふさとしたエメラルドグリーンの羽毛が印象的なドラゴンパピィだ。その大きな体が揺れるたびに、首に下
げた小さな気付け用ブランデーの樽が、ゆらゆらと揺れる。
 しかし、マイペースなドラゴンは、背中に背負った小さなリュックから、ちゃっかりお菓子を取り出して食べ
ていた。
「リュー様を巣まで戻したいと思います。人助けは天使の基本のお仕事ですし、あたしも助けたいですから」
 純白の翼をぱたぱたとはためかせたのは、戦天使見習い、メイ。透き通るような白い肌に、輝くばかりの銀の
髪。それは白い羽の上に、もつれるようにたれ、彼女の豊かな背を飾っていた。
「ですが……フォルニス様もただ生きるために得物を狩っているのですから、殺したくはありません」
 メイは、手を組み合わせると、ふとうつむいた。優しい気遣いを見せる天使様は、あくまでも天使らしかった。
「まあ、困ってる人を放っておくわけにはいかないし、あたしで良かったら手伝うよ♪」
 金髪の少女は、白い歯を見せにっと笑った。少女の肩に留まっている奇妙なうさぎも、みゅうと鳴く。
 リース・エルーシア。
 職業、言霊師。そして、飛行するときのみに現れる、特殊な翼を持った幻翼人の少女。
 彼女の肩に乗っているのは、羽ウサギのみるく。蝶の羽を背に生やしたウサギである。みるくは、みゅう、と
もう一声鳴くと、ぱたぱたとその小さな羽根を震わせた。
 エルクは、三人を見ると、改めて小さくお辞儀をした。
「ありがとう……本当に、ありがとうございます……」
「あれ? エルク、目から水が出てるの。どうしたの?」
 ヴィーは、? といった様子で小首をかしげる。
「ヴィー様、あれは涙っていうんですよ」
 そんなヴィーに、メイがにっこりと微笑む。
「悲しいときや、嬉しいときに、人間は涙を流すんだってさ」
 リースは髪をかきあげ、にっと笑った。
「ふ〜ん、なんだかふしぎなの。今は、どっちなの? かなしいの? うれしいの?」
「さあ……どっちだろうね……?」
 リースは、改めてエルクを眺めた。
「たぶん、どっちも、だろうね」


■日も暮れて

 
「エルクは、リューが怪我してるときに会ったんだぁ……」
 リースは、優しくリューの頭を撫でた。羽狼は、気持ちよさそうに目を細めると、またくうくうと可愛い寝息
をたてはじめた。
 日も暮れ、今日はテントを張って休むことにしたのだった。外は、いつのまにか雪がちらつき始め、風がうな
りをあげてびゅうびゅうと吹き渡っている。
 しかし、テントの中は暖かく、黄色いランプの明かりで満たされていた。
「ええ、僕が狩りに行ったときのことでした。きゅ〜ん、という声がして、なんだろうと思って行ってみたんで
す。すると、こいつがいて……」
 エルクは、いとおしそうにリューを見つめた。その眼差しは、とても温かかった。
「エルク様は、本当に、リュー様のことを大事に思ってらっしゃるんですね」
 メイも、そっとリューに触れる。リューは、ぴくん、と体をふるわせたが、やがて小さなあくびをした。
「……ええ。本当に、大事な存在です。僕にとって、初めての友達だから」
「そっかぁ。あたしも、みるくが怪我しているときに会ったから、なんか、親近感わいちゃうな……」
 リースがつぶやいた。みゅう、と横で、羽ウサギのみるくが嬉しそうに鳴いた。
「……でも、お別れしちゃうのは、悲しいね」
 リースは、そっとみるくの鼻先をなでる。みるくは、気持ちよさそうに、リースの肩で眠りだした。
「ええ。でも、それがリューのためになるなら……。僕は……」
「へっくしゅ!」
「?」
 突然のくしゃみに、皆きょろきょろと辺りを見回す。
「う〜ん、う〜ん、抱っこするとあったかい、の〜……」
 くしゃみの主は、ヴィーだった。テントの中で、ヴィーは、自分の羽毛を生かし皆の布団代わりになっていた
のだった。
 三人は、顔を見合すと、ふふ、と微笑んだ。


■天をつくほどの


 翌日。天気は昨日とうって変わって、抜けるような青空。そこに、きらきらと輝く陽光があたりを照らし出す。
 と。
「ここです」
 エルクは、ふと立ち止まると、おもむろに天を指した。
「ここぉ!?」
 三人は、上を見上げると、同時に声を上げた。
 それは、岩山であった。しかし、ただの岩山ではない。目もくらむような高さ。けして素手では登れない垂直
に切り立った崖。しかも、ごつごつとした岩場になっているので、登るのは並大抵ではない。
「……僕は、登はんなんてできないし、どうすればいいのか……」
 エルクは、ふう、と大きくため息をつく。
 胸に抱かれた羽狼は、相変わらずエルクの腕をかんだり、ひっぱったりして無邪気にじゃれている。
「……まあ、あたしは飛べるから、先にいって縄でも、たらそうか?」
 ひたいに手を当て、目を細めて岩山を眺めていたリースが、ふとつぶやいた。
「確かに、集まっている方々は、みんな空には強そうですものね」
 メイも、ぎゅっとこぶしをにぎりしめ、自らの羽をぱたぱたと震わせる。
「ヴィーもね、がんばるの! エルクが飛べないなら、ヴィー、エルクをひっぱるの」
 ドラゴンパピィは、相変わらずマイペースな調子で、少年に向かって、ばさばさと、力強くはばたいて見せた。
 そのあまりの風圧に、エルクは思わずよろける。
「……っとととぉ!?」
 さらに、バランスを崩して、エルクは後ろに倒れこんでしまった。瞬間、どこかぶつけたのか、エルクはぴく
りとも動かない。
「わあ! エルク、だいじょうぶなの?! 今、ヴィー、たすけるの!」
 ヴィーは、首からぶら下げていた樽の栓を、爪で器用に開けると、とくとくとエルクに飲ませた。
 すると、エルクはう〜んとうめき、意識を取り戻した。頭を振り、まだぼんやりした様子だったが、にっこり
と微笑んだ。
「……あ、ありがとう、ございます……」
「エルク、だいじょうぶ?」
 金髪の少女が、眉をひそめて笑いかける。羽ウサギも、楽しそうにぱたぱたと周りを飛び回った。すると、あ
たりに虹色の軌跡が描かれた。
「お手を貸しましょうか?」
 メイが、スカートのすそを押さえながら、すっと腰を下ろし、エルクに手を差し伸べる。
「あ……っは、はい……!」
 エルクは、動揺しつつも差し出された手をゆっくりと掴んだ。すると、顔が一気に真っ赤になる。
「わあ、エルク、かおがまっかなの! ねえ、ほんとに、だいじょうぶなの?」
「だ、だだだいじょうぶですよ!」
 こんな状況を招いたのは、自分のせい、だとは心にも思っていないドラゴンパピィ。
 ヴィーは、首からぶらさげた樽をまじまじと見つめ、ひくひくと匂いをかいだ。
「ねえ、かおが赤くなったのって、これのせいなの?」
「それもあるけど、今はちがうみたいだよ?」
 リースが、つんつんと、ひじでヴィーの羽をつつく。
「ふ〜ん。にんげんって、むずかしいの〜」
 ヴィーは、? といった様子で、かぷりと樽にかみついた。


■ファイト! ファイト!


「だーいじょーうぶぅー?」
 上から、声が降ってくる。
「だ、だいじょ、だいじょぶです!」
 エルクは、垂らされたロープを掴み、必死で岩山を登る。羽狼は、というと、エルクの頭の上にちゃっかり乗
っかって楽しそうである。
「もし、なにかあっても、あたしがなんとかしますから。ね?」
 メイは、ロープにしがみついているエルクの周りで、ゆっくりと飛んでいる。
 そして、手を組み合わせると、この世のものとは思えないほどの優しい微笑を浮かべた。
「それに、フォルニス様対策もばっちりですし!」
 メイは、どこからか謎の包みをとりだすと、ばちんとウインクをした。
「は……はい……!っておをっ!?」
「ああ!! あぶない!!」
 一瞬、エルクの手がすべる。しかし、どうにか持ちこたえ、再び岩山を登り始める。
「やれやれ……。あぶなっかしいなぁ、まったく」
 上のほうで、その様子を見ていたリースがつぶやく。このロープは、リースがたらしたものだったのだ。
「あたし一人でやってもいいんだけど、やっぱちゃんとお別れしたいだろうしね……」
 リースは、ふふ、と微笑んだ。どこか、しみじみとしたものを感じていた。が、それも突然の声援に、かき消
された。
「エルクーー!! がんばれなのーーー!!」
 ヴィーが、エルクに向かって叫んでいた。ちっちゃな前足を口元に近づけて、メガホンを形作っている。
ヴィーもまた、リースとともにロープをたらすため、先に上にあがっていた。そして、どっしりとした体重を活
かして、ロープを固定する役目を担っていた。
「ヴィーもがんばるから、エルクも頑張ってなのー!!」
 ヴィーはおもむろに、ロープをくわえると、ぐぃん! と勢いをつけて、一気に引っ張りあげた。
「わ、わ、わわわぁ!?」
 突然のことに、エルクはただただロープにしがみつくしかなかった。
「わーい、エルク! いらっしゃいなの〜〜〜♪」
「あ、ありがとう……」
 ヴィーに抱きつかれて、エルクはぽりぽりと頭をかいた。
「いいのかなぁ、こんなんで?」
「いいんでしょう? たぶん」
 リースとメイも、顔を見合わせたが、ぷっと吹き出した。


■フォルニス!!!


 そんな感じで、何回か同じ事を繰り返して、一行は岩山を登っていった。最初は危なっかしかったエルクも、
慣れてきたのか、だんだん要領を得るようになり、すいすいと岩山を登れるまでになった。
 そして、あんなに高かった岩山も、もうすぐ頂上が見え始めていた。
「もうすぐですよ! エルク様! ふぁいと!」
 メイが、ぐっと拳を握りしめ、エルクを励ます。
「がんばれなのー! あとちょっとなのー!」
 ロープをしっかり腰に巻きつけたヴィーも、ぶんぶんと前足を振る。
「うんうん、がんばれぇ!」
 リースも、しゃがんで頬杖をつき、にこにこと様子を伺っている。羽ウサギのみるくも、みゅうと一声なくと、
ふわりと周りを飛び始めた。
「よ、よしっ!! が、頑張るぞ!!」
 エルクは、ぐっとロープを握りしめると、再び岩山を登り始めた。
 と、その時。
 ――ふぉぉぉぉぉぉぉん。
 奇妙な、うなり声。
「な、なに?」
 リースが、叫ぶ。と、その正体に、エルクはいち早く気づいた。
「――フォルニス!」
 真っ赤な羽毛に包まれた巨大な鳥。ずらりと生えた太い鍵爪は、獲物を捕らえようと油断なく構えられている。
鋭利なくちばしは、開閉するたびに、口中にちろちろと赤いものが見えた。
 ――炎。別名、火鳥の異名を持つフォルニス。
 それが、エルクのすぐ近くに迫っていた。  
 ばさっ、ばさっ、ばさっ。
 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 怪鳥は、耳をつんざくような叫びを一声あげると、一気に急降下してエルクに襲い掛かった。
「う、うわぁぁぁぁあl!!?」
 ――奴の狙いは、羽狼。
 エルクは、頭の上で眠っている羽狼を掴もうとした。
 が。
(しまった!)
 岩山を登っている途中なので、手が離せない。
 そうこうしているうちに、もうフォルニスは目前に迫ってきていた。
 その鍵爪は、しっかり羽狼に狙いが定まっていた。
(もう、だめだ)
 エルクは、ぎゅっと目をつむった。その時、ふわり、と一瞬宙に浮いたような気がした。
 そして。
 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「?」
 襲い掛かってこない。襲われない。
 ――それに、何だか、あたたかい。
 エルクは、おそるおそる目を開けた。
 すると。
 やわらかな羽毛。緑色の、あたたかい羽毛。エルクとリューは、それに包まれていた。
 外で、声がする。あれは。
「うう〜〜、がおがおなの〜〜!!」
 ヴィー。ヴィーが、必死でエルク達を守ってくれていたのだった。
 とっさにロープを引き上げ、自分の羽毛で隠してくれたのだ。
 フォルニスに向かって、せいいっぱいの威嚇をしながら。
「ち、ちかづくと、ヴィー、ゆるさないの! がおーなの!」
 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 フォルニスは、近づかない。近づけない。
 なぜなら。
「えい! えい! フォルニス様、ごめんなさい! あとで生肉を差し上げます!」
 いいつつ、謎の包みをフォルニスに向かって投げつけているのは、メイ。
 その包みがフォルニスにあたるたびに、ぱぁっとはじけて赤い粉が舞った。
 げっげげっげっげっげげ!!
 フォルニスは、たまらないといった感じで、羽で目を押さえる。
 謎の包み。フォルニス対策。その中身は、粉とうがらしと胡椒、タバスコの混合品である。
ルディアに事前に頼んで、特別に作ってもらったのだった。
(やっぱりフォルニス様とはいえ、生き物です! 無益な殺生は天使として許せません!)
 だからとはいえ、とうがらしの粉を投げつけるのも、結構つらいような気がするのだが。
 しかし、メイはあくまでも、自分の信じた道を進むのみであった。
 だがフォルニスは、あきらめてはいなかった。メイの粉攻撃がつきると、再び体制を立て直し、エルクの隠れ
ているほうへとやってきた。
「うう〜〜〜、わんわんなのーー!! こないでなのーーー!!」
 必死でヴィーが威嚇する。だが、あまりにも迫力がない。
「んきゃぁぁぁぁ!? フォルニス様!! 生肉をさしあげますからぁぁ!!!」
 メイが生肉をちらつかせる。だが、フォルニスの目には入っていないようだ。
 フォルニスの目標は、たったひとつ。
 ――羽狼。
 それだけだった。
 フォルニスは、甲高い叫び声を上げ、炎を吐きながらヴィーに向かって急降下した。
「みぃぃーーーーー!!」
 ヴィーは、ぎゅっと目をつむった。
 と。
「!!?」
 フォルニスの動きが止まる。フォルニスはゆっくり振り返る。
 そこにいたのは、少女。
 ふわり、と空中に浮かぶ、少女。
 白い光を放つ少女の背には、純白の翼。
 少女は目をつむり、なにかをつぶやく。
 光はさらに強くなり、少女のまわりに立ち上る風が、金の髪を逆立たせる。
 そしてリースは、力強く目を開いた。同時に呼びかけが完成する。
「冬の女神よ、冷たき神よ、あたしの願いを聞きいれよ、雪の精霊、召喚!」
 まばゆい光とともに、水色の女性が現れる。
 雪の結晶を模した額飾りをつけ、氷の衣装に身を包んだ女性。
 雪の精霊。
「精霊よ、その冷たき息を見せよ!」
 リースが叫ぶ。すると、精霊は、ひゅううううううと、まるで口笛を吹くかのようなそぶりを見せる。
 凍てつく氷と雪が混じった息は、フォルニスの羽を凍りつかせる。
 ぴきぃぃぃぃぃぃん!!
 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
 恐ろしい叫び声とともに、フォルニスはバランスを崩し、遥か下方へと落ちていった。
「……ふぅ」
 リースは、ぐいと額の汗をぬぐった。いつのまにか、雪の精霊は消えていた。
「よかったのー。たすかったのー」
 ヴィーが、ほっとため息をつく。
 しかし、ただ一人寂しそうな表情を浮かべるものがいた。
「……フォルニス様……」
 メイ。殺生を好まない天使にとっては、自分の力が及ばなかったことに深い憤りを感じていた。
 天使は、印を切ると、目を閉じ、フォルニスの冥福を祈った。
「でも、エルク様、リュー様の身にお怪我がなくて、本当に……よかったです」
 メイは、にっこりと微笑んだ。


■羽狼とままと


「えぇぇぇ!?」
 その状況に、4人は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ちょっと、これ、どういうこと!?」
 リースが叫ぶ。
「だれもいないのー。からっぽなのー」
 ヴィーがひくひくと鼻をひくつかせる。
「な、なんで……」
 エルクは、がくりと膝をついた。
 頂上に上った一行だったが、巣はすでにもぬけの殻であった。
 その時、今まで黙っていたメイが、静かに口を開いた。
「……まさかとは思うのですが、あたし、聞いたことがあります。羽狼は、人間の匂いにひどく敏感だと。だか
ら……」
「だから、ままたちは別の場所に行っちゃったの?」
 ヴィーが小首をかしげる。
 メイは、無言でうなずく。
「そ、そんな……。僕は、僕はいったいなんのために……?」
 エルクは、頭を抱えた。そこへ、リューが登ってきて、ぺろぺろとエルクの頬をなめた。
「リュー……」
「リューは、もうすっかりエルクになついてるみたいだね」
 リースは、かがむとリューを撫でた。そして、エルクの目をみすえた。
「本当の親と育ての親。どちらが良いとは言えないけれど、だけど……リューはエルクのことが大好きみたいだ
よ?」
 リースは、にっこりと微笑んだ。みるくもその通りだと言いたげに、みゅうと鳴いた。
「エルクがままになるの〜? ままというのはよくわからないけど、やっぱりままなの!」
 ヴィーも、楽しそうに叫んだ。
「それに、肝心な問題ですが、リュー様にエルク様の匂いが染み付いている以上、もう親御様は育てない可能性
が高いと思いますが……」
 メイが、心配そうにつぶやく。
 それぞれの意見を聞き、エルクはちいさくうなづいた。
 事実を受け止めるかのように。
「そう、そうですよね……」
「それに、リューとは離れたくなかったんでしょ? 本当は」
 リースは、いたずらっぽい笑みを浮かべると、つんとエルクの額をつつく。
「え、ええ……まあ……」
「じゃあ、やっぱりエルクがままなの! きまりなのー!」
 ヴィーは、ぎゅっとエルクに抱きついた。
「は、はい……。はい……! リュー!」
 嬉しそうに羽狼を抱きしめる少年。羽狼は、相変わらずだったが、わん、と一声鳴いた。その鳴き声は、一緒
にいれることを喜んでいるようだった。
 天使は静かにそれを見守っていた。


 数年後。少年は立派に成長し、旅をしていた。そして、隣には白い羽を生やした凛々しい狼を連れて。
後に彼らは、こう呼ばれる。疾風の翼、ビーストテイマーのエルクと、リュー。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0631/フリーデスヴィーデ・???/男/10歳/ドラゴンパピィ】
【1063/メイ/女/13歳/戦天使見習い】
【1125/リース・エルーシア/女/17歳/言霊師】

*NPC*

エルク:/男/15歳/人間/狩人/ 

茶色の髪に、青の瞳が印象的な、幼い顔立ちの少年。優しすぎて、誰かが狩った獲物を介抱する始末。
自分でも、狩人には向いてないとわかっているらしい。特技は、とりあえず弓。

羽狼のリュー:黒と白の毛が入り混じったふあふあの狼。背中に羽が生えている。まだ子供で甘えん坊。

フォルニス:炎を吐く巨大な鳥。肉食。弱点は、水。


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■         ライター通信          ■
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どうもはじめまして。依頼のご参加どうもありがとうございます。雅 香月と申します。
以降おみしりおきを。

今回は、個別文章はありません。皆様すべてこのタイプの文章になっております。
また参加者一覧は、受注順に掲載いたしました。

@まず初めに、最初に頼んでくださった方には納品が遅れたことをお詫び申し上げます。大変申し訳ありません
でした。次回からは、このようなことがないように気をつけます。本当にすみません。

さて、今回はいつもの雅と趣向が違います。ギャグがありません。少し、エッセンス程度にあるくらいでしょう
か。ほのぼの、シリアスを狙っていったのですが、さてどうでしょうか。

また、新たな試みとして、NPCとPCの絡みをいろいろ入れてみたりもしました。以前にもNPCはだしてい
たのですが、ちゃんとしたキャラクターはこのエルク君とリューだけです。だから、PCより目立たず、しかし
地味すぎず……といった点で結構悩んでしまいました。

もし、この物語を読んで、ぽちっと、あなたの心に何かを感じることができたのなら。雅はしあわせです。
大変ずうずうしいお願いではありますが、もし感想、ストーリーのツッコミ、雅への文句など、ありましたらテ
ラコン、もしくはHPのほうから、お聞かせ願いたいと思います。(感想は……頂けると嬉しいですv)
それでは、今回はどうもありがとうございました。また機会がありましたら、いつかどこかでお会いしましょう。


ヴィー様>二回目のご参加ありがとうございました。またヴィー君に会えて、とっても嬉しかったです。プレイ
ングに書かれた行動がすべて可愛らしくて、最大限に活かそう! とあれもこれもと欲張りすぎています。(笑)
イメージを損なっていなければよいのですが。ああ、でも本当に、書いているときは「可愛い……♪」とつぶや
いていました。(変なライターです;)それでは今回はどうもありがとうございました。

メイ様>ヴィー様と同じく、またお会いすることができましたね。普段はまじめなんだけど、ちょっと一途な天
使様、といったイメージが雅の中では定着しつつあります。(笑) けれど、メイ様のプレイングを拝見している
と、ああ、本当にこの子は優しい子なんだな、と感じました。結果的には、ああいうことになってしまいました
けど、でもメイ様の心遣いは大変身にしみました。これからも、その純粋さを忘れないでいてもらいたいです。
今回は、どうもありがとうございました。

リース様>はじめまして。依頼のご参加ありがとうございました。本来、雅はギャグ系を得意としているのです
が、今回はちょっとまじめです。(笑) だから、このイメージで、雅の依頼を受けると「なんじゃこりゃ!」と
驚かれるかもしれませんね。
リース様とみるくちゃんの関係は、エルクとリューの関係となにか通じるものがあって、驚きました。また、同
時にお会いすることができて、本当に嬉しく思います。リース様から、元気を頂きました。ありがとうございま
した。みるくちゃん……ラブリー♪ またお会いできるといいですね。それでは今回はどうもありがとうござい
ました。