<PCクエストノベル(2人)>


彷徨 〜ハルフ村〜

__冒険者一覧__________________________
【1256 /カイル・ヴィンドヘイム/魔法剣士】
【1244 /ユイス・クリューゲル/古代魔道士】
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 その光景は、子供が寝しなのベッドの中で母親や父親に語られて聞くおとぎ話の世界のように幻想的で、思わず息を呑んでしまうようなものだった。
 遠くに見える村全体がうっすらと靄のように霧がかっている。決して大きいとは言えない村の中心にある温泉の湯気が、天に向かって昇り立つ様子――温泉郷、ハルフ村に辿り着いた観光客がまず初めに目にする、うつくしい景色の1つである。
 ミルクとシナモンを煮たホットミルクに満たされたブリキのカップで両手のひらを温めながら、カイル――カイル・ヴィンドヘイムは小さな感嘆の声を漏らした。馬車はしっかりと踏み締められたなだらかな道を往き、目的地を間近に見た馬車馬の安堵の息が白く煙る。

カイル:「すご…い」
ユイス・クリューゲル:「そうか、あれが本当の温泉なのか! 朝靄くらいでいちいち感動して損したぞ、本物の方がずっといい」

 道が険しく、荒れた土くれを踏む度に車体が激しく揺れていた頃には珍妙な表情で黙りこくっていた怪我人――ユイス・クリューゲルも、ようやくその上体をもそもそと動かしては窓から身を乗り出す。ユイスの頓狂な声を聞いてびくついた馬が車体を揺らしたので、腰に響く鈍痛が彼をそれっきり黙らせた。
 都からほど良く離れた温泉郷・ハルフ村は、馬を使えば日帰りが叶う場所にある小さな村である。
 つい最近までこの村は、ごく少数の人たちが住むごく普通の村であったと言う。広大な森を背に築かれた簡素な小屋の集まりが、いつの間にか村と呼ばれるようになったというだけの話だ。人々は森に入っては小枝や木の実を広い、小さな罠を仕掛けては野うさぎや鳥を捕る。都と行き来して、小枝の篭や果実酒を売ってお金にする者もいたし、ごく稀に都へと仕事を求めて発っていく若者もいた。その程度の村である。
 それが、ある日突然――村の中心部にある小さな井戸から、湯が湧いた。
 始めにそれを知ったのは、村で1番年老いた小柄な女性であった。朝餉の仕度に水を汲んだが、いくら汲んでも水が濁っている。忙しいのにと腹を立ててやっきになって汲み上げ続けたが、終いには井戸からうっすらと立昇る湯気の気配に気が付いた。よくよく井戸を覗き込んでみると、うっすらと頬が暖かい。
 都からそう遠くない場所にある村で、温泉が湧いた――そんなニュースが瞬く間に伝わっていき、間もなくハルフ村は生まれ変わる事になった。貧しい田舎村ではない、人々のもてなし篤い温泉郷に、である。大地がくれた恵みの温泉だから、それで暴利を貪るような真似はすまいという老婆(今ではグラン・マと呼ばれ、村人を始め訪れる人々に愛され続けているらしい)の呼び掛けで村はますます急速に発展し、今では需要に供給が追いつかない程である。
 そんなハルフ村に、ユイスを連れて湯治に行こう。カイルが決心したのは数日前の事だった。
 先の『物見遊山』で(ユイスが何と言おうと、カイルはその呼び方を変える気はなかった)腹部に内臓を傷つける程の重傷を負ったユイスの、回復の助けになればと思い提案したのだ。
 もともと、奔放な男である。傷のせいで動けないとはいえ、数週間もベッドに縛りつけられていたユイスに取ってその言葉は神の言葉にも等しかった――勿論、人々の言う神の本質をユイスが理解する事は到底叶わないのだったが。
 死んでもおかしくないほどの深い傷を負いながらも驚異的な回復を見せていたユイスの身体はそれ以降、はたから見れば命を削って回復しているのでは無いかと疑ってしまうほどの治癒を見せ、今度は早く連れていけとカイルを急かす始末である。何よりも治療の知識のある自分が連れて行くのだし、形ばかりでも傷は塞がったのだし、まさか暴れて温泉の中で血を噴き出すような真似はしないだろうとカイルも納得し、今日の湯治への運びとなったのだった。

カイル:「来る前に約束した事はきちんと覚えてる?」
ユイス・クリューゲル:「他のお客さんの迷惑になるから、湯槽では暴れない。のぼせたり、痛んだり、疼いたりしてきたらすぐに出る。帰る時にイヤだと暴れない」
カイル:「1つでも破ったら知らないからね」

 はーい、とユイスが元気良く返事をする。
 そんな返事の1割も信用しないままで、カイルは大きくこくりと頷く。
 冷たい空気に乗って、温かな湯気が鼻腔を擽り始める。蒸気に靄がかる村の上空では、快晴の日光が淡く大きな虹を造り始めていた。

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 早くも仕事納めをした人たちが、1年の疲れを癒そうと集まってくるのだろうか。決して多人数が集まる為には作られていない村の広場で笑いあう観光客たちの顔はどれも疲労に苦笑していて、それでいて幸せそうである。そんな人の波をかき分けながら、2人は村の案内板の前へと突き進んでいく。

カイル:「…檜風呂、露天風呂、ハーブ湯、泡風呂、打たせ湯…何でもあるんだね、今日1日じゃ回りきれないや」
ユイス・クリューゲル:「すごいな何だこれ、水風呂なんて誰が入るんだ?」
カイル:「熱いお湯と冷たいお水に交互に入ると、血行が良くなって健康になれるんだよ。あ、ユイスは今日は駄目だよ、刺激が強すぎて傷に悪いからね…‥・薬湯、がいいかな」
ユイス・クリューゲル:「電気風呂なんて言うのもあるぞ!」
カイル:「だから駄目だってば」

 そう言って歩き出した2人と擦れ違う女性の髪から、煎じた薬草で淹れた薬湯が香った。それにつられてふらりと踵を返したユイスのジャケットの裾をカイルがぐいっと引っ張る。

ユイス・クリューゲル:「どうしてかなあ、ホント意味わかんない。あんなに綺麗な女性がうなじを香らせて歩いてる所、聡明なカイルくんとしては何も思わない訳」
カイル:「思う思わない以前に、ユイスが犯罪に走っちゃいそうだから迷惑」

 ああ、そう…と。
 辿り着いた薬湯の脱衣所で、眼鏡を外すか外すまいか悩んだ後、結局上着のポケットにしまい込んだユイスが返す。何の躊躇いもなく白いシャツを脱ぎ捨てたカイルの脇腹から、赤く引き攣れた生々しい傷跡が覗いた。
 平素、纏った鎧の間から戦士たちが見せる逞しい肌以外に、人の裸体を覗く機会などはない。ついつい何げないふうを装って辺りを見回せば、2人の回りにはユイスの傷口に勝るとも劣らないほどの重傷を負った逞しい男、ひどい火傷に身体の半分を覆われた若者、腰の痛みを訴える老人などがひしめきあい、森で村人が採取してきた薬草の湯に漬かろうと衣服を脱ぎ着しているのであった。

カイル:「………」

 ごそごそと、カイルが鞄の中から小さな袋を取りそうとして――やめた。
 今日は彼もここに、仕事のためにやってきた訳ではないのだ。
 鞄の中には、普段から持ち歩いている治療用の袋が入っており、中には軟膏や煮草、熱湯で湯がいた端切れなどがきちんと整頓されてしまわれている。
 皆が皆一様に、それぞれの判断であったり、かかり付けの治療師であったりにその傷を任せた上でここにいるのだ。自分がでしゃばってはいけない。

ユイス・クリューゲル:「……ここまで来てお預けは酷すぎる。俺は1人でも行く、温泉で死ぬことになったって止められない」
カイル:「っあ、ちょっと待ってってば! 1人で行くと危ないから!」

 何やら思案に暮れて立ち止っているカイルの背中をしばらくは大人しく見つめていたが、ユイスはとうとう痺れを切らしてそう宣告し、1人浴場へと歩いていこうとする。その背中を慌てて追いかけて、カイルはタオルと治療用具を握り締めた。

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 漂う湯気を大きく吸い込むと、蒸されて香気を増した薬草の香りが肺を満たす。
 適当に掛け湯をしてから、熱い浴槽に爪先からそっと身を浸していった。
 大きな湯槽の半分が屋根の外にせり出していて、冷気に嬲られる湯面は白く煙っている。

ユイス・クリューゲル:「足を入れた時、こんなに熱いんじゃ絶対染みると思ったけれど。でも実際はそうでもないな、この変な匂いのするお湯のせいなのか」
カイル:「変な匂いって言わないでよ。この薬草、都に出回ってるものは少し成分が薄い種類のものが多いんだけど、ここのは野生のものを使ってるからすごく身体に良いんだよ。傷の治りが早くなるし、身体が温まるから良く眠れるようにもなる。ゆっくり漬かってね、のぼせる前に半身浴に切り替えて」
ユイス・クリューゲル:「何か今日のカイルは饒舌だな。面白いからもっと喋ってくれ」

 きちんと話しを聞いているのかいないのか、浴槽の縁に両手と背中を預けてユイスが言う。その楽しげな様子にカイルはむっと口を噤み、ぴん、と指先で湯を弾いてユイスにぶつけてやった。
 カイル自身、ユイスに言われなくても饒舌になっている自覚がある。それはユイス――怪我人を伴っての湯治である事にも関わりがあったが、右を見ても左をみても、どこもかしこも病人ばかりなのが原因であった。
 心が休まらないとか、落ち着かないとかいう次元の話しではない。
 つい、構いたくなってしまうのである。
 腕に怪我をした人が掛け湯しているのを見れば、思わず駆けよって手伝いたくなる。老人が湯槽から上がろうとしている所を見れば、思わず手を差しだしてしまいたくなる。傷が染みるのを我慢して浴槽に足を踏み入れようとする戦士肌の男を見れば、無理して湯に漬かるのは良くないとアドバイスしてやりたくなる――
 世話焼き、なのである。
 そんな自分のそわそわとした心を落ち着かせる為、大仰に息を吐きだしてからカイルがユイスに言葉を投げる。

カイル:「本当――良いね、温泉って」
ユイス・クリューゲル:「ああ…‥・そうだなあ・・・」
カイル:「その怪我が完全に治ったら、今度は泊まりで来ようよ」
ユイス・クリューゲル:「ああ…‥・そうだなあ・・・」
カイル:「その時は、電気風呂でも滑り台でも、ユイスの好きに入って良いよ」
ユイス・クリューゲル:「ああ…‥・そうだなあ・・・」
カイル:「―――聞いてる?」
ユイス・クリューゲル:「ああ…‥・そうだなあ・・・」

 まるで上の空なユイスの相槌に、カイルが不審に思って目を瞬かせる。
 と、そこには、湯槽の上で奇妙な形にねじ曲げられた湯気が白い澱のような塊となって――
 高い垣根の向こうにある女湯を、ひっそりと映し出していたのだった。

カイル:「――!?」

 顔色を変えたのはカイルである。
 煙のように白濁する姿に形を変えているとは言え、湯気も水分であり、液体である。
 大気中で薄く圧縮し、鏡の要領で屈折率を操ってユイスは隣の女湯を1人覗いていたのである。
 しかも、カイルの手が届かない、頭のずっと上の方で。

ユイス・クリューゲル:「―――っヴぁ…っ」

 きっ、とユイスを睨み付けたカイルは、かき消すことの出来ない水蒸気の鏡の代わりに、ユイスの脇腹を小さな拳で打つ。湯仁ふやけ始めた柔らかい傷口をクリティカルヒットした鋭い痛みにユイスは小さくうめき、ぶくり、と湯槽の中に沈んでいった。
 空中で冷たい雨粒の形に変化した水滴が湯槽を打ち、湯治客の何人かが不思議そうに空を見上げたが――構いはしない。そしてユイスを助け上げる事も、カイルはもうしない。
 荷物の中から薬の詰まった袋を取りに、カイルはざばりと湯槽から立ち上がり、去って行った。

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 冗談の通じない奴だ――ユイスは潤む太陽を見上げながら思う。
 こんなに透き通った真っ青な空の下、1つ塀を隔てた風呂にまぶしく輝く女の裸体がひしめき合っている事を知れば、どんな男だって自分と同じ事をするだろう。
 殴られた傷口があまり痛まないのは、やはりカイルの言う通りこの熱い湯の成分が効いているからなのだろうか――そんな事を考えながらユイスは、見上げた空と太陽があまりにも綺麗に歪んで見えたのでしばらく湯底に漂ってみる事にする。
 少し前に、カイルが湯槽から出て行く音を聞いた。さしずめ、脱衣所で悩んだ様子を見せていた「あれ」を取りに行ったのだろう。過ぎる程の自制――カイルのそんな言動を目の当たりにする度、ユイスは思う。

カイル:「不摂生は新陳代謝を緩慢にしますから、きちんとした生活に切り替えないと治るものも治りませんよ…夜遅くまで起きてお酒を呑んでいるなんて、持ってのほかです」

 ぶくり、と湯槽から首だけを出してユイスが辺りを伺う。脱衣所を出た辺りで、カイルが何やら湯治客の傷口に白い塗り薬を塗ってやっていた。

カイル:「腰は、冷やすと気持ち良くて治った気になりがちなんですけれど、実は温めた方が後々つらくなくなって良いんですよ…今日はゆっくりとお湯に漬かって、痛い所をさすってあげてくださいね」

 かと思えば、腰の曲がった老人が湯槽に入るのを手伝ってやりながら親しげに声を掛けている。ありがとう、と言われると、照れたように顔を赤くしながら、それでもにこにこと笑っていた。
 自分の「友達」が、人から礼を言われ、素直に喜んで嬉しがっている。
 そういうのをこうして見ているのも、悪くない。

カイル:「きちんとお父さんの言う事を聞いて、薬を塗る事を嫌がらないでいれば治るからね――気にして傷口を触ったり、かさぶたになった所をはがしたりすると、」

 足に大きな怪我を負った少年の前に屈んで、カイルがその怪我の具合を見てやりながらこちらを見た。ひらひらと能天気そうに手を振って返してやると、再び少年に向き返り、

カイル:「あそこにいるお兄さんみたいに、なかなか傷が治らなくて痛い思いをする事になっちゃうからね」

 湯舟ごしにも見留める事ができるほどの、大きな脇腹の傷である。
 痛々しそうなそれをじっと見ていた少年が顔を顰めると慌てて目を背け、こくこくとカイルに首を縦に振って見せていた。
 ひどすぎる。
 おかげで少年は浴槽の縁でまじまじとユイスを見つめた後、2度と目を合わせてくれなくなってしまった。
 カイル本人は素知らぬ顔で、手持ちの薬草が尽きてしまうまでそうした事を続けるつもりに違いない。いつまで自分を1人にさせておくつもりなんだ――そう思うと、カイルはどことなく詰まらない気分になった。
 仕返しを、してやろうと思う。

カイル:「魔法の力で一気に傷を癒そうとするよりも、やっぱり時間をかけて少しずつ…自分の治癒力に任せてあげた方がずっ」

 自らも湯治客の1人である事を忘れ、すっかり治療師の顔になって老人や戦士の傷を診てやっているカイルの後頭部に。
 あんぐりと大きな口を開けた大蛇が狙いを定め、勢い良く突進して行く。
 カイルと向かい合っている膝の悪い老人がぎゃああ、と蛙の潰れたような悲鳴を挙げて目を瞠る前で、カイルがその蛇に頭から呑み込まれ、ざばりと湯舟の中に沈んでいった。

ユイス・クリューゲル:「どうだ、俺をないがしろにしすぎるから、こういう目にあうんだ!」

 前のめりに湯に突っ伏しているカイルの背後で仁王立ちになり、ユイスが高らかな笑い声を青空に響かせている。カイルが湯に沈むと同時に水泡と化した大蛇は、ユイスがこしらえた温泉の湯でできたフェイクだったのだ。
 我に返ったカイルに、ユイスが湯責めの刑に遭った事は言うまでもない。

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 辺りを夕闇が包み始めた頃、若い湯治客は殆どが夕餉の匂いにつられて浴場を後にしていった。
 山で捕った獣の肉を薫製にする煙の匂いである。ハルフ村近くに群生している大木の枝を使って燻す薫製は他の樹木を用いたものよりも香りが高く、また肉の旨味を最大限に引きだすと言って都でも珍味として重宝されているものだ。
 皆、燻したての肉をこの村で食べて帰りたいと思うから、日帰りが可能である事が売りであるにも関わらずこの村で夜を送ってから帰って行く。

カイル:「泊まって行きたいなら、今からでも宿は取れると思うよ…どうする、ユイス?」
ユイス・クリューゲル:「いや、…帰ろう。楽しかったならまた来ればいいさ」

 2人で湯槽の縁に腰を下ろし、沈み行く夕日を見ている。
 湯が匂い立つ濃密な香りと、周囲を取り巻いている樹木の香り。
 そして、胃袋の収縮を促す肉の燻される香り。
 自分たちがそれぞれの理由で体験しえなかった、宿っている筈もない太古の記憶が呼び戻されそうな。
 うつくしく、そして懐かしい――そんな風景がここにはあった。

カイル:「もしも、この世界のどこかに…神様、って呼ばれる人がいるんだとしたら、お疲れさま、って伝えたいな…こんなに綺麗な景色や、心の綺麗な人たちと巡り合わせてくれて、本当にありがとうって」
ユイス・クリューゲル:「まったくだ。都合の悪い時だけ『神様お願いします』だの『神様に見放された』とか言いたい放題言いやがって、運良く立ち回れてる時は思い出してすら貰えやしない。もう少しだけで良いから労ってくれ、自業自得なのはもうずっと前から判ってるんだからさ」
カイル:「え?」
ユイス・クリューゲル:「神の言葉を代弁してみた」
カイル:「あ、そうなの?」
ユイス・クリューゲル:「良い湯だなー」
カイル:「うん、そうだね」

 両足をばたつかせながら、ユイスが湯をばしゃばしゃと弾く。
 カイルがそれを窘めて、また遠い夕焼けを仰ぎ見た。

 楽しかったなら、また来れば良い。
 そんなユイスの言葉の意味を、うっすらとながらも――カイルは理解する事ができていた。
 自分たちには、帰る場所があるのだ。
 この村に訪れた殆どの湯治客と同じように、自分にも、そしてユイスにも、帰る場所がある。だからこそ、この夕日を心の底からうつくしいと感じる事ができるし、燻し煙の香りに生唾を呑む事もできる。

 帰る場所があるからこそ、旅人と呼ばれる人たちがいる。
 たださすらい、過去も未来も持たぬ人たちと比べ、それは何と幸せなことなのだろうか。

カイル:「…また、来ようね」
ユイス・クリューゲル:「そうだな。…また大怪我をしたら、意外に早く連れて来て貰えるだろうか」
カイル:「そんな事になったら、連れてきてあげる前に物凄く痛い治療が待ってるからね」
ユイス・クリューゲル:「それはいただけない」

 もう1度肩まで湯に漬かって、のぼせる前に浴場から出よう。
 そう決心して、カイルはゆっくりと湯槽の中へと身を浸していった。