<PCクエストノベル(1人)>


道を示すべし! 〜サンカの隠里〜

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【冒険者一覧】
【1753 / ヴァリカ/ 占い師】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【サンカの里の住人 他】

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◎序

 人気の無い神秘の里、サンカ。木々によって交流を断絶された土地。外界と切り離されたその里は、人の世界を知らない。そして人との交わりを知らない。ただそこにあるのは脈々と受け継がれてきた気高き古代民族。美しく神秘のユニコーンを髣髴とさせる民族。そして――変化を求める美しき青年、グアドルース・ロードの存在。
 その噂を耳にしたヴァリカは、聞いた言葉を連ねたメモを片手に、一歩ずつ踏みしめるように山を登っていた。神秘の存在を求めて。

◎壱 《理由》

 グアドルース・ロードの話でヴァリカが興味を引いたのは、その容姿だった。ヴァリカと同じく額には角があり、鍛え上げられたような立派な体躯と、作られたような美しく白い肌を併せ持つという話だ。似た容姿を持つ、というだけでやはり共感に似た感情を持つ。思わず酒場の噂話に耳を傾けていた。
男1:「そのグアドルースなんちゃら、というのがな」
男2:「グアドルース・ロード」
男1:「そう、ロード。そいつが長老の保守的な考えを打ち破り、俺達と交流したいと、そう思っているわけなんだな」
男2:「俺も知ってるよ。その話は。だが、噂なんだろ? 所詮は噂」
男1:「お前だって名前知ってたじゃねぇか。つまりそれほど噂があるって事は、少なくとも何かあるってことだろ? 火の無い所に煙は立たぬってな」
ヴァリカ:「面白そうじゃないか。俺も手伝ってやろう」
男1・2:「へ? 何だ? お前」
 突然口を挟んだヴァリカに、男達は驚き、口をそろえて声の主、ヴァリカを見上げた。男達の表情が、ヴァリカの体躯に息を呑む。
男1:「その角……。体格も良いし、あんた、もしかして『サンカ』って種族かよ」
ヴァリカ:「いや、そういうわけじゃないが。だが、その話、面白そうだから、そのグアドルースというやつの所に、俺が行ってやる」
男1:「俺が行くって。あんた、今、手伝おうって言ったじゃないか。それにそんな仕事なんて無いぞ」
ヴァリカ:「だから、そのグアドルース・ロードを俺が手伝ってやろうと言っているんだ」
 ヴァリカは勝ち誇ったように胸を張る。
男1:「――ま、まぁ、どうなるかは知らねぇが、行ってみるのはあんたの自由だからな」
 そんな訳でヴァリカは山を登っていた。

◎弐 《囲い》

 噂頼りの情報に拠れば、この山を登りきった辺りがサンカの里、という事だった。ただやはり噂は人の噂に過ぎず、ヴァリカはなんとなくは予想していたものの、空を見上げてうめいた。深い青味を帯びた空がヴァリカの頭上に重苦しく広がっている。噂から計算して町を出発したのは良かったが、自身の体力を計算に入れていなかった。日が差す明るい時間につく予定だったにもかかわらず、太陽もようやく顔を出したくらいの、まだ暗い時間に村のすぐ近くに到達してしまった。
ヴァリカ:「ふむ……。まぁ、こんな事もあるか」
 ヴァリカはひとりごちて、足元に転がる一本の細い枝に手をかけた。頭の中を予感めいた何かが走りぬける。それを動かしてはいけない。頭の中でそう呼びかけるものがあったが、ヴァリカの手はその制止よりも先にその枝を払ってしまっていた。
 直後、複数の気配がヴァリカを取り囲んだ。
サンカの男:「人? いや違うな。我々の仲間か?」
ヴァリカ:「そう見えるか?」
サンカの男:「だが、お前のような男、見た事が無い。外界の者だな?」
ヴァリカ:「いかにも。俺はグアドルース・ロードという男に会いに来た」
 ヴァリカの台詞に、周囲の空気が凍りつく。
サンカの男:「我らは何の変化も求めていない。あいつにそそのかされてきたというのなら、今すぐここから引き返せ。さもなくば」
ヴァリカ:「さもなくば?」
サンカの男:「我らの安住を妨げた事、悔いるが良い!」
 男の言葉に応じて、にやりと笑うヴァリカの眼前に幾本もの槍が突きつけられた。
ヴァリカ:「狭い。狭いとは思わないのか? 己の知識も何もかも、この一つの村のみが全てではないのだぞ。その生、その命、このような偏狭の地に散らしてそれで満足すると言うのか? もったいないとは思わないのか?」
サンカの男:「黙れ。我らを知らずして何を言う。この希少の血族を守るため、この里を守るため、我らの命はあるのだ」
 サンカの男は自らの理想を語る。しかしその言葉が教え込まれたもののようにしか聞こえない。ヴァリカはその言葉を聞いて息だけで笑った。サンカの男の表情は、目に見えて色を変えた。
サンカの男:「こいつを捕らえろ! 我らを害するつもりに違いない!」
ヴァリカ:「おいおい……」
 閉口するヴァリカの言葉をよそに、数人のサンカの男達はヴァリカの体を拘束した。ヴァリカにしてみれば全てを振り払う事も、逃げ出す事も出来た。だが、そこにとどまった理由は一つ。
 グアドルース・ロードに会ってみたかった。それだけだ。
 不敵に笑うヴァリカを両脇から抱え、サンカの男達は閉ざされた里へと進んで行った。

◎参 《名は》

 ヴァリカは昼にも陽のあたることの無い牢獄で、自分の腹が食物を求めるのを聞きいていた。早朝に捕まってからというもの、何故来たのか、という事を散々問いかけられていた。しかし淡々と。
ヴァリカ:「さすがに腹減ったなぁ」
 ヴァリカは天井を見ながら漏らす。その間も腹の呼び声は止まらなかった。
 不意に砂利を踏むような音が聞こえて、何者かが気配を見せた。
ヴァリカ:「ん? 誰だ?」
男:「グアドルース・ロードを探しているとか。……何故ですか?」
ヴァリカ:「今朝から何度も答えてるんだが。やはり、外界を知り、他を知り、己を知る。それが生という物だ。答えとは常に、求めても見つからない物。それゆえ探そうと努力する物」
男:「えぇ。私もそう思います。そしてこの地も住む者もそうなって欲しいと」
 ヴァリカは予想外の反応に影だけで形作られた男を見た。男は格子の隙間から皿に乗せられたこぶしほどの大きさの塊を差し出してきた。臭いからパンのようなものらしいと感じる。
ヴァリカ:「おまえは……」
男:「さぁ、それを早く食べてしまって下さいね。あなたをここから逃がします」
ヴァリカ:「あ? あぁ。ところで、何故俺を助ける?」
男:「何故か、なんて聞くんですか? あなたは分かってらっしゃるでしょうに」
ヴァリカ:「答えるなら聞いてみようかと思っただけだ」
 ヴァリカが笑うと男は小声で声を抑えるように注意した。多少の光があればヴァリカにはその姿を捉える事はそう難い事ではなかった。今朝出会った男達とは違う、色白の美しい肌。噂も彼の印象の強さにそうそう違える事は無かったようだ。
 グアドルース・ロード。容姿も考えも他の者と異なる男。
 ヴァリカは彼の導くままに、サンカの里を後にした。

◎終

ヴァリカ:「で、里には帰るのか?」
男:「そうですね。変化を求めない方達には、私のことを理解してもらうのはとても難しいことでしょうけれど。共感いただけないのならば、私一人でも構わないと思っていますから」
ヴァリカ:「それで良いんじゃないか? 人は人」
男:「えぇ。そう思います。いつか、あなたとまた出会えると良いですね」
ヴァリカ:「そうしろよ。折角ここまで出向いたんだからな」
 ヴァリカの言葉に声を上げて笑う。ヴァリカはその肩を何度も励ますように叩いた。
ヴァリカ:「じゃあな。また、どこか出会おう」
男:「いつか必ず。……広い世界のどこかで」
 ヴァリカは彼に背を向けた。そのままひらひらと手を振って歩みを進めていく。
ヴァリカ:「面白くなりそうだ」
 これからも何かを導いていく事が出来れば、またそれも楽しいだろう。ヴァリカはそんな事を思いながら麓への道を下って行った。

◎END◎