<PCクエストノベル(1人)>


呪われた剣 〜封印の搭〜

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【冒険者一覧】
【1754 / ニコラス・ジーニアン / 剣士】

【助力探求者】
【1040 / エィージャ・ペリドリアス / 紋章術士】

【その他登場人物】
【封印の搭の搭主 ケルノイエス・エーヴォ】

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◎ 序

 一言で呪いと言っても、その形、由来は様々である。怨恨であったり、果てまた魂そのものであったり。それが物に宿れば呪いのアイテムとなる。時に自己修復さえ行える物も存在する。そんな武器の呪いを解く事の出来る場所、その名を「封印の搭」という。
 今日もまた、一つの「呪い」が断末魔の声をあげ、天に消えていく。
 さて、と。何か一つ「呪いの剣」の話でもしようか。

◎ 壱 《契約》

エイージャ:「わたくしでよろしかったのかしら?」
ニコラス:「あぁ」
 抑揚少なく答えたニコラスに、エイージャは少しばかり口を尖らせた。
エイージャ:「つまらないわ」
 掛けられた言葉に、ニコラスは少し後ろをついて来る、エイージャへと視線を動かした。
 エィージャ・ペリドリアス。彼女に同行してもらおうと思った理由はいくつかある。何かあった時にサポートしてもらおうと思ったという事。こうやって誰かの旅に同行しているのなら、何か呪いの武器の封印について知識があるかもしれないと思った事。そして何より自分よりよくしゃべってくれるだろうという事。あいにくと呪いの武器についての知識はニコラスと同じ程度しか持ち合わせていなかった。
ニコラス:「つまらない、とは?」
エイージャ:「なんでもないわ。ところであんた、どうして呪いの搭になんて行こうと思ったの? 呪いなんてそんなに良い事は起きないと思うけれど」
ニコラス:「興味の半分は武器その物に、半分は封印というその行為に、という所だ」
 ニコラスは再び短く答える。エイージャは少しばかり考えてから、小さくため息をついた。
エイージャ:「どうしても、わたくし一人で話しているような気がしてしまうのだけれど?」
ニコラス:「それはすまない。エイージャさんを不快にさせるつもりは無かったのだが」
エイージャ:「まだ堅っ苦しいわね。まぁいいわ。あんまりお喋りじゃない人に強要しても仕方ないわよね」
 エイージャは諦めたように肩をすくめて見せた。
ニコラス:「すまない」
エイージャ:「それはともかくとして、どうしてわたくしを指名してくれたの?」
ニコラス:「俺はこの通り、どうも話を引き出したりするのが苦手だ。だからエイージャさんに面白い話の一つでもしてもらおうと思ったのだが。どうだろう」
エイージャ:「噂の搭守の事ね。分かったわ。わたくしの話で面白いと思って下さるかは別よ。そこで例えうまくいかなかったとしても、決して恨みっこなしよ」
ニコラス:「承知している」
 エイージャは確認のためニコラスを覗き込んでから、笑みを浮かべた。

◎弐 《提案》

 封印の搭までの道のりは、そう苦ではなく、多くは平坦な平原だった。エイージャの体力も考慮しながら、ニコラスは搭を目指した。
 道中、質問と応答のような会話を繰り返しながら。
 搭が近づくにつれ、自然と足が速くなった。未知の物に触れられるという期待と興味と好奇心。それに突き動かされていた。
エイージャ:「あれが封印の搭、かしら?」
 エイージャは搭の前で立ち止まったニコラスに後から追いついて、首をかしげた。しかしその疑問はすぐに断定へと変わった。二人の前に美貌の青年がゆったりと歩み寄ってきたのだ。
ケルノ:「私の名前はケルノイエス・エーヴォ」
 圧迫されるような空気の中、ニコラスは思わず握る日本刀に力を込めていた。青年のまとう独特な雰囲気は、余りに長くここにいたために作り上げられたもののようだった。
ケルノ:「気軽にケルノと呼んで下さい」
ニコラス:「は?」
 予想にしなかった青年の言葉に、ニコラスは思わず聞き返していた。
ケルノ:「あぁ、このような感じでも駄目ですか。気軽に何かお話していただけるように、と工夫してみてはいるのですが」
エイージャ:「ふふふ。面白い方ですのね」
ケルノ:「ところで、あなた方はどうしてここまで? 私と話に来た、というだけには見えませんが」
ニコラス:「少しばかり封印の話を聞きたいと思ってな。できる事なら呪いの武器の封印というのをやってみたいと思って来たんだ。もし良かったら何か聞かせて欲しいのだが」
ケルノ:「おや、今度は私が話す役という訳ですか?」
エイージャ:「もちろん、お望みでしたら何かお話致しますわ。お気に召していただけるかは別として、でよろしければ」
ケルノ:「うーん、そうですね。ではこういうのはいかがでしょう。もし何か珍しい話を聞かせていただけるのであれば、この搭で所有者を待つ、呪われた武器の一つを封印していただきましょう。珍しくなければ、ある呪いの武器の、呪いの由来を私がお話しする、というのは如何でしょう」
 青年は静かに微笑んで二人を交互に見つめた。エイージャはニコラスに判断を委ねるらしくニコラスに視線を注いでいる。
ニコラス:「分かった。ではケルノさんの仰るようにしよう」
 ニコラスはあっさりと承諾した。

◎参 《物語》

 あっさりと承諾したニコラスだったが、話すのはエイージャの方で、何度も考え込みながら話していた。遠い町の事、旅の事、そして雪の事。ニコラスにとってはとても珍しい話だった。
エイージャ:「――というので話は終わり、ですわ。わたくしがお話できるのはこのくらい。そんなに世間を渡り歩いているわけではありませんもの」
ケルノ:「えぇ、とても面白かったですよ。あなたの表情にどこか陰がある理由も分かったような気がしますし」
エイージャ:「陰? わたくしに?」
 ケルノはその問いに言葉では答えず、小さく微笑んだだけだった。
ニコラス:「で、どうだろう。封印か、それとも呪われた武器の話か」
ケルノ:「そうですね。お話としては面白かったですよ。とても興味深い。――でも、あともう一歩、という感じなのですよ」
ニコラス:「もう一歩、か」
エイージャ:「あんた、そこで納得しないでよ」
 エイージャは少しばかり口を尖らせて両手を腰に当て、軽くニコラスを睨んだ。
ケルノ:「なので今回は先日いらっしゃった方がお話してくださった、呪いの武器のお話をしてあげましょう」
 ケルノはもったいぶった調子で切り出した。
ニコラス:「今回は、とは?」
ケルノ:「おや、鋭いですね。もしあなたがその呪いの武器に出会える事が出来たら、またこの搭へおいで下さい。そうすればあなたの望む封印法も知る事が出来るでしょう」
エイージャ:「まぁ、手の込んだ演出ですこと」
ケルノ:「いえいえ、それほどでもありませんよ」
 ケルノは柔らかい空気をまとわり付かせて微笑んだ。息を呑むほどの美貌の青年、この搭にふさわしい男だ。改めてそう思う。
ケルノ:「人の血を欲するという、呪われた剣の話をしましょう。昔、この地を支配する国の一つに美しい女がいました。女は何より自分が一番である事を望んだといいます」
 ケルノは御伽噺を語るようにゆっくりと、そして淡々と語った。
ケルノ:「女は自らを護るための家来達や、身の回りの世話をするメイド達さえその手にかけたと。ある夜、唯一彼女の事を愛した伯爵は彼女の剣を手にして、彼女の首を一瞬ではねた。彼女が痛みで苦しまぬよう、そして彼女がもう二度と人を殺めぬよう。しかし彼女の首は伯爵を見て告げました。『これから幾千の年を生き、幾億の魂をその剣に捧げよ』と」
ニコラス:「では、その伯爵は」
ケルノ:「ここから先はあなたの領分ですよ。その剣は今も、血を求め続けていると。もっとも、私も伝え聞いた事なのでどこまでが真実か、など分かりませんが。闇を生きる者はよく聞く名前だとか。その国のあった場所、というのもそういう噂のある近くなのでしょうね」
 ケルノは再び微笑んだ。何かを企んだ様な、微笑み。ニコラスは口元だけで笑みを浮かべると、大きく息を吸いながら目を伏せた。
ニコラス:「なるほど」
エイージャ:「何が『なるほど』なのよ。分かんないわ」
ニコラス:「その血に飢えた剣を持って、またこの搭を訪れるのを待っていてくれ」
ケルノ:「えぇ。お待ちしてますよ」

◎終

 搭に入る事すら叶わなかったニコラスだったが、帰路の表情は行きよりもむしろさっぱりとしたものだった。
エイージャ:「何がなるほどなのよ。あんた達だけ納得してても面白く無いわよ」
ニコラス:「あぁ、ケルノの話がヒントさ」
エイージャ:「え? 話の内容なんて覚えていないわよ。普通に話していただけでしょう?」
ニコラス:「これからエイージャさんを送って帰るまでにはまだまだ時間があるから、ゆっくりと考えてみてはどうだ?」
エイージャ:「な、何よそれはっ! 教えてくれてもいいじゃないのよ」
 ニコラスはしつこく問いかけてくるエイージャを、笑みを浮かべてあしらいながら、まだ見ぬ呪われた剣とその国の跡の事を思い描いていた。

◎END◎