<東京怪談ノベル(シングル)>


哀しき魔性の棘

髪は夜の黎闇に艶めき
瞳は月の琥金に煌めく

肌は土の赤鉄に染めて
胸は魔の黒曜を抱いた

彼の者の名はサリエル
死を経て蘇りし魅惑の魔性

不死の証を胸に抱く
切ないまでの妖かしの忌児

遥か砂に戻せし時に
彼の者の宿命は産声を上げた

闇魔に使える種の雄に
陵辱の限りを受けた人の雌

残像は母を苦しめ
生まれた男児を憎悪に晒した

魂の目覚めぬ幼き頃に
欲望の館にて囚われの身となる

半の血に同じ人の兄に
清き術の教えを受ける後に

己の身の異なる血を知り
兄の手を拒み魔に堕ちてゆき

師たる兄の記憶は風化し
主に添う喜びに哀しき魂を満たす

飢えた如く愛を求める彼の者は
主にとっては数多の愛玩の駒に過ぎず

気紛れで残酷な慈しみを
失うを恐れた孤独な魂

それは自滅を望みて
主の敵を道連れに己を殺した

主は御身の驚きに
戯れの如く興味を抱き

魔族の宝珠の黒曜を与え
彼の者の生命の核とし蘇らせた

主に先んじて死を選ぶは如何と
その怒りに触れてさらなる思慕を深め

彼の者は悲哀の道を選ぶ
残酷なまでに戯れな主との契約を

時より永く佇む彼の者は
主への思慕と忠誠の棘に囚われた