<PCクエストノベル(1人)>


大地の詩

------------------------------------------------------------

【冒険者一覧】
【 1755 / ヴィーア・グレア / 秘書 】

【助力探求者】
【 なし 】

------------------------------------------------------------

▼0.

 様々な文化が入り乱れ、更に独自の文化を生み出している此処―――聖獣界ソーン。
 文化というものには、衣食住はもちろん技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治などが含まれる。そしてもちろん、音楽もだ。
 様々な場所からやって来たソーンの住人たちは、様々な音楽に触れる。音楽と人とは切っても切り離せない関係にあると云うように、ソーンの生活にも音楽は欠かせない。
 音楽はときに人を陽気にさせ、ときに慰め、ときに癒してくれる。優しく人を包みこむ音楽と云うものは、様々な文化が混在するこのソーンでも変わらずに人の心と共に居た。



▼1.

 半神の青年、ヴィーア・グレアは波打つ金髪を更に風に靡かせながら、クレモナーラ村への道を急いでいた。
 クレモナーラ村―――聖都エルザードからそう離れていない場所にあり、何よりも美しい自然に囲まれている穏やかな場所だ。そう深くもない森の中、明るい陽の光が差し込む木々の合間に位置し、近くには透き通った川が流れている。この村はその立地上の条件と、村人たちの類稀なる楽器づくりの腕前を生かし、楽器の生産地として広く知れ渡っていた。
 ヴィーアはそんな噂を聞きつけて、早速自分のための楽器を探しに行こうとクレモナーラ村へ向かうことを決めたのだった。
 ヴィーアの特技と云ったら、それはもちろん笛を吹いて人々の心を和ませることだ。おかげでいつも笛を持ち歩いてはいるが、木笛や石笛がほとんどで、他の笛を吹いてみたことがない。例えば、そう。土笛だ。
 土笛を吹いてみたい。クレモナーラの職人たちがつくりだすその楽器は、一つ一つが違った表情を見せるのだと云う。

 ヴィーア:「確かオカリナ……だったかな」

 そう、土製の笛は、確かオカリナと名付けられていた。多岐にわたる種類の楽器がつくられていると云うクレモナーラ村にならある筈だ。もしなくとも、きっと彼らはつくりだしてくれることだろう。
 近付くにつれて、穏やかな印象とは裏腹に賑やかな音楽が風に乗って流れてくる。その風にまた金色に棚引く髪を乗せながら、ヴィーアははやる気持ちを抑えられず歩を早めた。



▼2.

 ヴィーア:「うわぁ……。活気に溢れてるなぁ」

 音楽の都。
 煌びやかさには欠けるとしても、正にそう云ってしまって差し支えないクレモナーラは、村中が音楽と人々の笑顔で溢れかえっていた。
 あちらこちらに店が並び、そのどれもが当然のように楽器店。露店もあり、その中央では実演販売とでも云おうか、職人が木を削って何やら新しい楽器をつくっていたりもする。子供たちが様々な楽器を手に走り回り、ときどき立ち止まっては友達同士で小さな演奏会を開いていた。
 ヴィーアは旅人であるが、全くその村に溶け込んでいた。と云うのも、村は常に開放的な雰囲気に満ちていたし、恐らくはヴィーアと同じように楽器の発注に来たのであろう旅人が数多く見受けられたからだ。
 ヴィーアには何と云う楽器かは判らなかったが、丁度立ち止まったその横に、露店にしては立派な店の中央で鮮やかに木を削って形をつくりだしている職人が居た。周りには既に出来上がった楽器類が並べられている。
 その職人が鑿を置いて、うーんとのびをしたのでそのタイミングを見計らってヴィーアは声を掛けた。

 ヴィーア:「こんにちは。精が出ますね」
 村人:「ああ、いらっしゃい。旅人さんかい?」
 ヴィーア:「はい。エルザードから……」
 村人:「そうかそうか。ゆっくり見ていくと良い。それとも何かお探しかね?」
 ヴィーア:「あ、ええ。すみません。僕はオカリナと云う……ええと、土笛を探しに来たんですけれど」
 村人:「笛か。それなら、この道真っ直ぐ行った一番奥の店が笛を扱ってる店だ。大体誰が何の楽器をつくるか決まっていてね、その職人が店主も兼ねているんだ。笛職人も何人か居るが、やっぱり一番なのはあそこの店主だな」
 ヴィーア:「そうですか。ご親切に、ありがとうございます」
 村人:「いやいや。用件を済ませたら、俺のこの店や他の楽器も見ていくと良いよ」
 ヴィーア:「はい! そうします。お邪魔してしまってすみませんでした」
 村人:「何てことはない。兄ちゃんにぴったりの笛が見つかると良いな」
 ヴィーア:「はい、ありがとうございます。それじゃあ」

 ヴィーアはぺこ、とお辞儀をしてその職人の元を離れた。
 お互いの職人のことを尊重しあっていて、本当にのんびりした、ほのぼのした村だなぁと思う。競争意識というものはないらしい。あるとしても、きっとお互いを高めあう良い意味での競争意識なのだろう。
 教えてもらった店の看板を視界に捉えながら、ヴィーアは帰りにもう一度さっきの店に寄って、どんな楽器なのか訊ねて行こうと考えていた。



▼3.

 その店の店先には笛の絵の描かれた小さな看板が置かれていて、一見あまり目立たない印象を受けた。
 店とは行っても森の中にある村のことだから、そんな街の中に建っているような立派さやお洒落さはない。それでもその古めかしい雰囲気が逆に良い味を出していて、ヴィーアはその蒼然とした馴染みやすい雰囲気が良い店だなぁ、と思った。

 ヴィーア:「御免くださーい……」

 外は明るいのに中までは光が届いていなくて、明るい場所に慣れていた目が眩んだヴィーアは恐る恐る声を掛けた。奥に人が居るかどうかまでは判らないが、様々な形状の笛が所狭しと飾られているのだけは判る。

 店主:「はいはい、いらっしゃいませ」

 奥の方から入店を促す声が聞こえてきたので、ヴィーアは気をつけながら中へと入る。
 少し経つと目もその暗さに慣れてきて、壁とは云わず天井にまでディスプレイされている笛に囲まれてヴィーアは軽く眩暈を覚えた。

 ヴィーア:「うわぁ……」
 店主:「すごいでしょう」

 ふふふ、と楽しげに笑う店主は(失礼だが)結構年の行った女性で、本当に笛を大切そうに見つめていた。

 ヴィーア:「びっくりしました。色々あるんですね」
 店主:「ええ、そうですよ。旅の人、あなたは何をお探しで?」
 ヴィーア:「あ、僕はヴィーア・グレアと申します。オカリナ、という土笛を探しに来たのですが……」

 ありますか? と目で問い掛けると、店主はまた笑みを深くして奥のカウンターからヴィーアの元へと近付いた。ヴィーアはぺこり、とお辞儀して握手を求めた。

 店主:「ご丁寧にどうも。オカリナね。ええ、もちろんありますよ。そこの、右側の棚です」
 
 握手をしながら、ああこの手がこの笛を生み出しているんだなぁ、と思うと何だか少し感慨深い。
 店主は握手をしているのとは逆の左手で、オカリナの置かれた棚を指差した。

 ヴィーア:「へえ、これがそうなんですか……大きさも色々とあるんですね」
 店主:「オカリナを見るのは初めて?」
 ヴィーア:「ええ。僕笛を吹くのが好きで、木笛とかなら結構持ってるんですが土笛はなくて。ここにならあるだろうと思って、探しに来たんです。さすが名高いクレモナーラ村ですね」
 店主:「そう云ってもらえると嬉しいわ。特にオカリナこそ、職人としての腕が唸るってものだからね」
 ヴィーア:「そうなんですか?」
 店主:「ええ、穴がいくつかあるでしょう? この大きさで音が決まるから、その人の指の長さや太さで変えられるの」
 ヴィーア:「へぇ……」
 店主:「きっとあるはずですよ。旅人さん……ヴィーアさん? に、良く合ったオカリナが。これでも仕事には自信を持っていますからね、もしなかったら合わせてつくってあげることも出来るけれど、吹き手のことを良く考えてつくっておくのも職人ってものです」
 ヴィーア:「なるほど」
 店主:「さて、どんなものをお好みで?」
 ヴィーア:「そうですね……綺麗な、高音が出るものが良いんですけど……」
 店主:「オカリナの音程っていうのは、吹く人によって変わって来るんですよ。息の強さを変えてみれば、音が変わってしまう。高音になれば膨張して音も高くなる。だからこそ、その微妙な表現を楽しむのが音楽家っていうもの。それで、その音楽家に合わせて微調整するのが職人です。さあ、この辺でどうでしょう? 私もなかなかオカリナは吹きこなせていないけれど、指の置き方くらいは判るから。ここをこう持つの」

 似たようで微妙に違っているオカリナを店主が持っているのを見ながら、ヴィーアは見立ててくれたオカリナを持とうとする。

 ヴィーア:「なかなか難しいんですね」
 店主:「やっぱり、指の感じは合ってるようね。それじゃあ、息吹き込んでみて」
 ヴィーア:「口つけちゃって良いんですか?」
 店主:「指がそんなにぴったりはまってるんだから、そのオカリナはもうヴィーアさんのものですよ。後はこちらでちょっと削ったりするから、とにかく吹いてみてくださいな」

 横笛とも縦笛とも分類できないかたちのオカリナだから、なかなかに勝手が違う。始めに息を吹き込んだときは想像していたのと全く違う、ちょっとがっかりするような音が出たが、もう一度息の強さを変えてみたら今度は伸びの良い、深く綺麗な音が出た。

 ヴィーア:「む、難しいですね……」
 店主:「だから云ったでしょう。吹く人次第で色々と変わる楽器なんですよ。余韻が残るようなつくりはしてないのに、どうしてか余韻が響いているような気がするんです。土の、大地の音ですからね」

 ヴィーアから一度オカリナを受取った店主が、ヴィーアには何をしているのか判らない細かい作業をしている。
 その店主が発した、“大地の音”という言葉にヴィーアは少なからず感動した。

 ヴィーア:「大地の音……」
 店主:「でも、うん。ヴィーアさんは、なかなか筋が良い。そのうち、吹きたいように吹けるようになりますよ」
 ヴィーア:「色々と教わろうかと思ってたんですが、あまり必要ないみたいですね」
 店主:「職人の吹く癖が出る楽器だから、職人に訊くのは間違ってはいないですよ。ただ、自分で試行錯誤を重ねた方が良い曲が吹けるでしょうから」
 ヴィーア:「そうですか……静かで良く響く、良い練習場所があるんです」
 店主:「それは良い。そしたらまた、ここにも聞かせにきてくださいな。ただ楽器をつくるだけの村じゃ、こんなに活気には溢れていなかったでしょうからね」
 ヴィーア:「本当ですね。僕もそう思います。今度はまた違う笛を探しにも来たいです」
 店主:「それは嬉しい。待っていますよ」
 ヴィーア:「はい。有難うございました」

 お金を払い、最後にまた二つ三つアドバイスを受けて店を出る。
 買ったものはそのオカリナ一つなのに、何だかもっとたくさん買い物をしたような気になるくらい、充実した良い買い物をしたと思う。
 帰り道、「良いものは見つかったかい?」と訊いてきた露店の主人に、店を教えてくれたお礼を云いつつ店に置かれた楽器に関して色々教えてもらう。子供たちが寄ってきたので、ヴィーアはさすがにオカリナはまだ無理だと断って、予め持っていた木笛で一緒に演奏した。
 本当に、音楽と密接した村だ。笛に限らず、音楽は人を笑顔にしてくれる。
 ヴィーアは村を出て、そのまま一角獣の窟へと向かった。
 エルザードに帰るには遠回りだが、近いと云えば近いので折角だからあの一角獣にオカリナの音を聴いてもらいたいと考えたのだ。
 腕前はこの前の木笛に比べればまだまだだし、練習場所にするなんて少し失礼かも知れないが、何しろ大地の奏でる音楽だ。きっと、姿を現してくれるだろうという予感がしていた。



END.