<PCクエストノベル(1人)>


クレモナーラに響く歌声

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【整理番号 / 名前 / クラス】
【 1680 / ラカエル / 賢者 兼 フルート奏者】

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 クレモナーラ村は小さな村ではあるが、楽器の名産地としてよく知られている。
 賢者であり、フルート奏者でもあるラカエルは、愛用のフルートを調整してもらうためにクレモナーラ村を訪れていた。

ラカエル:ほう、なかなかいいところじゃのう。

 クレモナーラ村は楽器の名産地ということもあり、村の中はいつも音楽であふれている。
 人々の歌う声やさまざまな楽器の音色などがてんでばらばらに鳴り響いているというのに、なぜか調和したひとつの音楽を奏でているかのように聞こえるのだ。

ラカエル:彼女が一緒だったら……きっと喜んだであろうな……。

 クレモナーラ村の美しい風景を見て、ラカエルは故郷のことを思い出した。
 もともとはハイエルフであるラカエルは、もともとはエルフの森で暮らしていたのだ。
 もはや帰ろうとしても帰るに帰れない故郷に、ラカエルは思いを馳せた。

ラカエル:……もはや、遠い昔のこと、か。

 考えていても意味はないと、ラカエルはフルート職人の家へ向かう。

ラカエル:すまぬが、このフルートを調節してはいただけぬだろうか。近頃、めっきり音の冴えがなくのうてな……。
フルート職人:ああ、こりゃあ、随分と長く使ってらっしゃるんだねえ。
ラカエル:ただ見ただけだというのに、そのようなことまでわかるのじゃな。
フルート職人:ま、こっちもプロだしねぇ。……ネタばらしをするとね、これは随分と古い型の楽器なんだよ。フルートにも時代によって色々と違いがあるからね。
ラカエル:それは知らなんだ。して、調整はできるのかえ?
フルート職人:任しときなよ、クレモナーラの職人に直せない楽器はないさ。
ラカエル:では、任せよう。私はしばらく、あたりを散策してくるゆえ。いつ頃戻ればよかろうか?
フルート職人:そうだなあ……これだったら、大して時間はかからないね。
ラカエル:そうか。では、すぐに戻る。

 言い置いて、ラカエルはフルート職人の家から離れた。
 少し、ひとりになりたかったのだ。
 故郷のことを思い出すと、自然と、かつて袂をわかった弟のことも思い出してしまう。
 ラカエルが旅に出たのは、弟から呪いをかけられたことがきっかけだった。
 もともとは男だったラカエルだったが、弟に呪いをかけられたせいで、女性の姿になってしまったのだ。
 その呪いを解くために、ラカエルは弟を追いかけている。
 今では魔族の手先と成り果てた弟とは、何度か出会い、そして戦った。決着はついていない。

ラカエル:私は……いつか、弟を殺す。殺さねばならぬ。

 ラカエルのつぶやきとは裏腹に、クレモナーラ村の中は優しい音であふれている。
 ラカエルはそれから逃れるように、村外れへと足を向けた。
 村の外れで、村の中にいる間中ずっと聞こえている音楽が少し小さくなったのに安堵して、ラカエルはその場に座り込んだ。

ラカエル:どれだけ長く生きたとしても……わからぬものの方が多いものよの。

 遠くに聞こえる歌声の方が、すぐそばで聞こえる歌声より、ラカエルの耳には心地よかった。
 ラカエルはしばらくそのままそこにいた。
 どれだけそのままでいたのか、ふと気がつくと太陽の位置がずいぶんと変わっている。

ラカエル:……そろそろ戻らねばならぬな。

 ラカエルは気を取り直して、フルート職人の家へ戻った。

ラカエル:もう調整は終わっているかえ?
フルート職人:ああ、もう終わってるよ。
ラカエル:そうか。ありがたい。

 ラカエルはフルート職人に報酬を支払ってフルートを受け取ると、すぐにクレモナーラ村をあとにした。

ラカエル:楽器職人の村とは興味深いが……ちと、私にはあわなかったようだの。故郷を思い出させられる……。

 いつか、エルフの森に帰ることのできる日が来るのだろうか。
 そのとき、自分はもとの姿に戻ることができているのだろうか。
 そして、隣には誰がいるのだろうか。
 ラカエルはそんなことを思いながら、早足に歩いて行く。
 クレモナーラ村を少し離れても、優しい音楽はいつまでもラカエルの耳に残っていた。
 もしかしたら、それは本当に、クレモナーラ村から響いて来る音楽だったのかもしれない。
 それとも、ラカエルの中にある、弟や故郷に対する複雑な想いが、クレモナーラの音楽が聞こえたような気にさせているだけかもしれない。
 本当のところがどうなのかラカエルにはわからなかったが、クレモナーラ村への旅はラカエルにとっては、ずいぶんと得るものの多い旅だった。
 ラカエルの中では、新たな決意がかたまっていた。
 だが、その決意を知るものは――他には、誰ひとりとしていないのだった。

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【ライター通信】
 こんにちは、2度目の発注ありがとうございます。今回、執筆の方を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹です。
 クエストノベルの発注をいただくのは初めてなので、ドキドキしながら書かせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 冒険、というよりはちょっとした遠出、という感じの内容ですが、お楽しみいただけましたでしょうか。お楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。