<PCクエストノベル(2人)>


血吸いの剣(Bloodsucker) 〜巨石群・封印の搭〜

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【冒険者一覧】
【1753 / ヴァリカ/ 占い師】
【1754 / ニコラス・ジーニアン / 剣士】

【助力探求者】
【なし】

【その他登場人物】
【封印の搭の搭主 ケルノイエス・エーヴォ】
【黒衣(黒いマントの男)】

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◎序

 森の中にある巨石群、かつてはそこに王国があったと言う。獣道を辿っていった先に、忽然と広場が現れる。その昔そこに城があった事を主張するかのように、そこだけ木々が茂っていない。
 しかしそこにあるのは本当に巨石ばかり。他に何も無い。
 ただ、黒マントの男が時折そこにいると噂されるだけだ。

◎壱 《相棒》

 ニコラスは、吸血鬼、というキーワードを元に、文献と噂話をかき集めた。吸血鬼についての話はどうも特定の場所にかたまりがちだったが、その中でもいくつか一風変わった噂話を集める事が出来た。
 吸血鬼、というよりそれは剣の噂だった。だからこそニコラスは間違いない、と確信したのだが。
ヴァリカ:「なぁ、ニコラス、何のためにその麻袋まで持っていくんだ?」
ニコラス:「素手で持てば呪われないとも限らない。ならば最大の安全策をとるのが一番だろう」
ヴァリカ:「そうだなぁ。なんつぅか、そこまで構えなくても何とかなるんじゃないか? 俺もいるしな」
ニコラス:「頼もしい事だ」
 ニコラスはヴァリカの言葉に笑みを浮かべた。
ヴァリカ:「で、何でまた呪われた武器なんかの噂を集めてたんだ? しかも武器の呪いを解きたいとか」
ニコラス:「その剣に害意があるわけではないのだから、その呪いから解き放ってやりたい、とそう思っただけだ」
ヴァリカ:「そのついでに名刀だったら欲しいわけだろ?」
ニコラス:「まぁ、そうとも言う」
ヴァリカ:「他ならぬおまえの願いだ。俺が叶えないわけ無いだろ?」
 ヴァリカは胸を張って笑いながら、先に立って歩く。
 吸血鬼という二つ名を持つ呪われた剣、血吸いの剣(Bloodsucker)は、入手した噂によると、森の奥にあるという事だった。
ヴァリカ:「巨石群、なぁ」
 ニコラスの見ていたメモを取り上げると、ヴァリカは半信半疑、という感じで声を上げた。
ニコラス:「世界は広い、という事だろう」
ヴァリカ:「違いない」
 ヴァリカはメモを折りたたむと、ニコラスに投げて返した。
ヴァリカ:「やっぱり俺が一番頼りにするのは俺、だな」
 ニコラスはヴァリカの後を、笑みを浮かべて追った。

◎弐 《黒衣》

 メモの情報とヴァリカの勘を頼りに、二人は獣道を辿るようにして森を進んで行った。うっそうとした木々をなぎ払いながら、長身の二人は軽く身を屈めて歩き続けた。――と、不意に視界が開ける。
ヴァリカ:「俺に間違いは無いな」
ニコラス:「と、同時に噂にもな」
 噂どおり、森の中にはすっぽりと開けた広場があった。その部分だけがくり抜かれたように円形に近い形で丈の低い草原になっていた。偏って巨石が幾つも転がっており、想像するに建物と庭園、といった感じだったのだろう。王国跡、と言われるに至っても不思議は無い。
 ヴァリカは背もたれになりそうな木を見つけると、それにもたれかかるように背を預けた。黒マントの男の目撃証言までもが証明されたわけではない。恐らく長期戦になるだろう。気長に待つか、とニコラスもヴァリカの近くで木に背を預けて腰を下ろした。
 それからどのくらい過ぎただろうか。日が傾き、多少肌寒さを感じ始め、ニコラスは体を動かした。
ヴァリカ:「ちょっと冷えてきたな。しかし、火を焚けば相手に避けられんとも限らん」
ニコラス:「あぁ。本当に……」
 ニコラスが言葉を続けようとした矢先、それを遮るようにヴァリカが目の前に手を広げた。ニコラスは言葉を飲み込み目だけでヴァリカを見た。への字になりがちなその口の両端が押し上げられていた。視線を辿ると、その先には巨石が横たわり、その前を黒っぽい影が揺れていた。
 長年の付き合いの彼らは、視線だけで呼吸を合わせると、勢いよく黒い影に向かって飛び掛って行った。黒い影は二人の気配を感じると、スラリと抜き身の剣を構えた。
黒衣:「我に血を、汝の魂を……」
ニコラス:「これか?」
ヴァリカ:「本当にあるんだな。呪いの剣」
 ヴァリカは楽しそうに声を上げた。
ヴァリカ:「ちょいとおまえに、というかおまえの剣に用があるんだが」
 黒い影――黒いマントを纏った男は、二人の言葉に構わず抜き身の剣を振り上げた。
ヴァリカ:「俺達の言葉はまるで無視か」
 ヴァリカは両手を合わせると、ハンマーを下ろすように振り下ろした。黒いマントの男が、上から押しつぶされたように片膝をつく。一緒に押しつぶされたらしい、曲がった抜き身の剣を支えにして重圧を振り払うように立ち上がろうとする。曲がってしまった刀身は男の重圧に耐えられず、その中央から真っ二つに折れ、先端が宙に跳ね飛んだ。男は支えを失ってその場に倒れこむ。
ニコラス:「壊れたか……」
 ニコラスは飛んだ先端を目で追いながら呟いた。しかし、ニコラスの見ている先で先端部分がピクピクと動き、蛇のようにすばやい動きで男の握る剣へと戻った。瞬く間に何事もなかったかのようにその姿を修復させる。
ニコラス:「封印にうってつけの素材、という事か」
ヴァリカ:「便利な剣だな」
 ヴァリカは別な所に感心する。
黒衣:「我に血を……」
 ニコラスは抜刀せずに、鞘に収めたままの状態で黒いマントの男の後頭部を強打した。
黒衣:「ぐぁぁぁ」
 耳に残るような声を上げ、黒いマントの男はその場に崩れ落ちる。ヴァリカはその手元から剣を蹴り飛ばすと、用心しながら男の側に腰を下ろした。顔は細く、やつれており、青ざめているように見えた。
 転がった剣は、刀身をどす黒いほどの赤に染め、不気味な風貌を見せていた。まるで誘うかのように少し日の翳った森の中で、ほんのり紅く光を放つ。
ニコラス:「我に血を、か」
 蹴り飛ばされた剣に触れぬよう、麻袋に入れながらニコラスが呟く。その目の前に見慣れたこぶしが突き出され、ニコラスは反射的にそれをかわした。
ニコラス:「おい……」
ヴァリカ:「紛らわしい事、呟くな。呪われたかと思っただろう?」
 その割には口元が笑っている。
ヴァリカ:「それよりどうするよ、この黒マント」
ニコラス:「そうだな。……元のなりは分からないが、恐らく盗賊か何かで財宝を盗もうとして呪いを受けてしまったのだろう。なら、ここに置いておいても問題は無いだろう」
ヴァリカ:「じゃぁ、捨てていくか?」
ニコラス:「まぁ、せめて雨にさらされない所に置いておいてやろう」
ヴァリカ:「次はケルノってヤツの所だな? とっておきの話だからよ、期待しておけよ」
 ヴァリカが言うと、ニコラスは小さく笑みを浮かべた。

 数時間後
黒衣:「ふぁぁぁ。っ! なんか痛ぇ」
 呟きながら後頭部をさする。そして着衣が見覚えの無いものであることに気付く。
黒衣:「なんじゃこりゃ」
 やがて体力の限界と極度の空腹に気付く。
黒衣:「腹減ったぁ」
 男はふらふらと立ち上がると食べ物を探して歩き出した。しかし彼は気付いていない。彼が呪いの剣を引き抜いた時に、すぐ側に白骨の死体があったことも、二人の男によって、その命が救われた事も。

◎参 《ケルノ》

 ニコラスは再び封印の塔の前にいた。今度は連れの方が先に入り口へと向かっていたが。
ケルノ:「あぁ、またいらっしゃいましたか。どうです? 剣の方は見つかりましたか? 今度はお連れ様が違うのですね。また一段と頼もしそうな方ですね」
ヴァリカ:「ふぅん。おまえがケルノってヤツか。なんと言うか、ニコラスに聞いていた通りだな」
ケルノ:「初めまして」
 ヴァリカの言葉に、ケルノは笑みを浮かべて一礼した。
ニコラス:「早速で悪いが、これがこの前言っていた呪いの武器だと思うのだが?」
 ニコラスは麻袋の口を開け、ケルノに見えるように差し出した。
ケルノ:「そのものかどうか、という真偽は分かりませんが、確かにこれは呪いの武器。よく見つかりましたね。そうそう見つかる物でもないのですが」
 ケルノは笑みを浮かべたままその麻袋に手をかざした。
ニコラス:「俺はこれを封印してみたいのだが?」
ケルノ:「分かりました。呪いを物質化しましよう。その物質化した物を弱らせて下さい。私が封印しましょう」
 ケルノは先導するように搭の扉を開いた。言葉にしがたい威圧感が二人を圧迫した。
ケルノ:「どうぞ、こちらです」
 場に似合わぬケルノの軽めの声に、二人は視線を合わせてから中へと進んで行った。

 二人の前には大きな蛇のような生物が鎌首をもたげていた。
ニコラス:「ほぉ、これが呪いの正体、という事か」
ケルノ:「正体、と言うわけでもありませんが、似たようなものですね」
ヴァリカ:「この際何でも良いじゃないか。腕がなるってもんだ」
ニコラス:「何でも、なぁ……」
 ニコラスは苦笑を浮かべ、剣を抜いた。
ケルノ:「呪いの武器が再生する、という事はつまり呪いも再生するという事」
ニコラス:「要は、この怪物は死にはしない、という事だな」
ケルノ:「そういう事です」
 ケルノが答えるのと同時に怪物はシャーッと威嚇する。ニコラスとヴァリカは同時に怪物の方を向いた。
ヴァリカ:「うらぁ!」
 ヴァリカは掛け声と共に両手を組んで振り下ろす。重力波が届かない位置でニコラスは抜いた剣を中断に構え、それが放たれると同時に勢い良く駆け出した。すぐに再生してしまうのは剣を奪い取る時に知った。ならばどうすれば弱らせた状態を保てるか。ニコラスは頭の中に幾つものシュミレーションを描いた。
 封印を施すまでの時間、致命的なダメージとなり、それが持続するもの。
 ニコラスは何かを思いついたかのようにヴァリカを振り返った。
ニコラス:「俺が切った後に魔法を。頼んだ」
ヴァリカ:「あ? 何をだ?」
 ヴァリカは言った後にぴんと来たようで、その表情を笑みに変えた。ニコラスはそれを確認し、怪物の正面から、側面へと飛ぶように移動し、大きく跳び上がると頭部を切断するように剣を振り下ろした。断末魔の声と共に頭部が切り離され、少しばかり転がる。ニコラスは後ろに数歩下がると剣を構えたまま床と怪物を注意深く観察する。床に広がった血液が押しつぶされるように広がり、繋がろうとする頭と胴体は見えぬ壁に阻まれていた。ヴァリカの魔法の一つ、大気の壁である。
ニコラス:「ケルノさん、封印を」
ケルノ:「はい、終了しました」
 振り返ると、ケルノはニコラスに笑みを返した。
ニコラス:「あ……」
 怪物の方に視線を戻す。その姿は一滴の血液も残さずに消えていた。
ケルノ:「ご苦労様です。おかげでまた一つ呪いが消えましたよ」
 ケルノは呪いの解かれたぼろぼろの剣を抱き、にっこりと微笑む。
ニコラス:「あ、いや、その……。封印の仕方、というのも知りたかったのだが」
ケルノ:「残念です。もう封印してしまいましたから。封印、解きますか? 別な封印が解けて大変な事になってしまうかもしれませんよ」
 口調とは裏腹に少し楽しそうですらある。
ニコラス:「いや、遠慮する」
ヴァリカ:「これが呪われた剣の成れの果てか。もうボロボロだな。さっきとは大違いだな。どう見てももう使えそうにないな」
ケルノ:「そうですね。この剣はやがて朽ち果てるのを待つだけです。私がお預かりしていて良いでしょう?」
ニコラス:「そうした方がいいだろう。ところで、封印の仕方というのは、教えて頂けるのか?」
ケルノ:「そうですね。もしあなたがここから永遠に出られない、という束縛を受け入れられるとおっしゃるなら、お教えすることも出来るかもしれませんが」
ニコラス:「そうか。またいずれ会う事もあるだろう」
ケルノ:「えぇ。お待ちしていますよ。いつでも」
 ニコラスは小さく笑って搭守に背を向ける。
ヴァリカ:「封印方法ってのは門外不出って事か」
ニコラス:「そうだろうな。まぁいい、貴重な経験をした」
 追って来たヴァリカに答えると、いつものようにヴァリカが少し前を歩き始め、ニコラスがそれに続いた。

◎終

ヴァリカ:「あ!」
ニコラス:「どうした?」
ヴァリカ:「折角あいつに面白い話をしてやろうと思っていたのに、すっかり忘れていた」
 ヴァリカは舌打ちする。
ニコラス:「まぁ、いいじゃないか。今度行く時に話してやればいい」
ヴァリカ:「はははっ! 今度、か。そりゃいい」
 ヴァリカは大きく笑い声を上げてニコラスの肩を叩いた。
ニコラス:「その時にはその『面白い話』というのを聞かせてやったらいい」
ヴァリカ:「おぅ、俺に任せておけ」
 目的を果たしたニコラス以上に、喜び勇むヴァリカの姿がそこにあった。

◎END◎